第5章:卒業式、ヤンデレ台風の目撃者たち 〜ハッピーエンドのその裏で〜
激動の学院生活から二年が経ち、私たちは一五歳になった。
数々の事件、陰謀、そして何より「我が世の春」を謳歌する最強のヤンデレ台風に振り回され続けた日々を乗り越え、私たちはついに、アルビオン王立学院の卒業式を迎えていた。
厳かな式典が終わり、夜の帳が下りた学院の広大な中庭。
きらびやかなランタンの光が灯り、あちこちで卒業パーティーの歓声が響く中、私たちは喧騒を少し離れた並木道に集まっていた。
ズズズズズズン……ッ!!!
その時、突如として夜空が割れるような凄まじい地鳴りが響き渡った。
見上げれば、アルビオン王宮の最高部にあるバルコニーから、天を突くほどの巨大な、そして不気味なほど緻密で美しい魔方陣が何百重にも展開されている。
――ドォォォォォォン!!!
夜空に炸裂したのは、世界の理を塗り替えるほどの質量を持った魔力の塊。それは世界を三回は物理的に滅ぼせる規模の、超絶オーバーキルな『愛の魔法(大輪の花の模様)』だった。お互いの魔力を限界突破で循環させてイチャついているアルティナお嬢様と、そのお利口な狂犬ニケによる、文字通り世界一物騒な「卒業の祝砲」である。
そんな世紀末のような光景を、はるか遠くの中庭から見上げる四人の影があった。
「……はは、やっぱり最後もこれか。あの二人に比べたら、僕の受けてきた胃痛や、僕たちの身分差の悩みなんて、本当にちっぽけで可愛いものだったよね……」
名門四の漆黒の礼服をまとい、目の下のクマをすっかり解消したカイルは、遠い目をしながらぽつりと言った。その隣では、清楚なドレスに身を包んだハナが、カイルの手をしっかりと握りしめ、ひまわりのような無邪気な笑顔で夜空を仰いでいる。
「本当ですね、カイル先輩! すっごく綺麗な花火です! あ、でも、私はどんなに派手な魔法の花火より、カイル先輩が私のために作ってくれる小さな影の蝶々のほうが、ずうっと優しくて大好きですよ?」
「ハナちゃん……っ! もう、僕の一生のオアシスは君だけだよ……!」
感極まってハナの手を胸元でギュッと包み込むカイル。すっかり恋人同士になった二人の間には、本編の狂気とは一線を画す、等身大で温かい、極上の純愛空気が流れていた。
そんな二人から少し離れた場所では、名門三アークライト家の華麗な正装を身にまとったレオンが、呆れたように肩をすくめていた。
「……フン。あの二人、最後の最後まで相変わらずおかしな規模の魔法を使いおって。王家の連中が泡を吹いて卒倒している様が目に浮かぶようだ」
文句を言いながらも、レオンの左腕は、隣に立つ少女の肩を優しく、だが独占欲を隠さずにしっかりと抱き寄せている。
抱き寄せられているのは、ステラ家の最高級のローブを着崩し、黒髪のおさげ髪に眼鏡を光らせたセレナだ。彼女はレオンの胸元に小さく体を預けながら、いつもの眠たげなジト目を細めてクスクスと笑った。
「本当にね、レオン君。……でもね、私の未来視をもってしても、あの二人の結婚式の未来だけは、光が眩すぎて何一つ視えないの。きっと、今以上の世界崩壊規模になるわよ?」
「な、何だと!? これ以上の規模など溜まったものではない! ……だが、セレナ。お前のその眼は、あの二人ではなく、一生私だけの未来を視ていればいいのだ」
「ふふ、予知的中。レオン君、相変わらず私の大好きなツンデレね……」
耳まで真っ赤にしながら堂々と独占欲を口にするレオンと、愛おしそうに彼を見つめるセレナ。じれったい青春を駆け抜けた二人の絆もまた、何者にも壊せないほど深く結ばれていた。
空を焦がす物騒な愛の光に照らされながら、二組の恋人たちは、それぞれの手をさらに強く握り直す。
ヤンデレ台風の目撃者であり、その被害者でもあった苦労人たちは、お互いに最高のオアシスを見つけ出し、甘酸っぱくも確かなハッピーエンドを迎えたのだった。
### 【結び】幻獣アッシュの最終総括
そんな二組の尊すぎる背中を、アルティナお嬢様の影の底から(サングラスをかけながら)見届けていた白いモフモフの最上位幻獣アッシュは、大満足の念話を脳内に響かせた。
『……はいはい、ごちそうさま! 一生勝手に二人ずつの世界でイチャついてろ!!!
カイルとハナちゃんのおにぎり格差純愛も最高だし、レオン君とセレナの「予知惚気」も糖度が高くてごちそうさまでした!
上空では俺の主たちが、相変わらず国を脅迫するレベルの最終兵器(愛の魔法)を打ち上げてるけど……この4人の等身大で健気な姿を見てたら、俺のこれまでの苦労も全て報われた気がするわ。
あの狂犬がお嬢様に一生首輪を握られてるのが世界の一番の平和なら、この4人がこうして幸せに笑い合っているのが、この学院の「一番正しい青春の形」ってやつだな!
よし、スピンオフもこれにて文句なしの完全大団円ハッピーエンド! 読者の諸君、これまで胃痛持ちの凡人・常識人たちの裏舞台を応援してくれて本当にありがとうな! 爆発しろクソバカップルどもーーー!!!』
影の中のツッコミ役が祝福の絶叫をあげる中、夜空に咲く神話級の「愛の花」は、裏舞台の主役たちの未来をも祝福するように、どこまでも温かく、眩く輝き続けるのであった。




