一時休戦
無になってしまったアイク様とは逆に、お兄様の表情は久しぶりに晴れ晴れとしたものに。
「よくぞ言った、クリス。言うべきことを言うその心意気、素晴らしいぞ」
ぎゅっとボクを抱きしめてご満悦です。
ボクもぎゅっと抱きしめ返します。
「だってボクの一番はお兄様ですから!
ボク、お兄様に新しい婚約者が決まりまでしっかりと見届けると決めているのです。
それまでは自分のことは考えられません。
だからアイク様と噂になるのはダメなのです。『元婚約者と噂になるような弟』としてお兄様のご婚約の足を引っ張っては困りますから」
「は?」
ふ、とお兄様の腕の力が緩みました。
「え?どうかされましたか?」
見上げれば、なぜかお兄様まで無になってしまっております。
「え?ええ?!」
なにかあったのでしょうか?
イクシス様、ウエイン様ならお兄様がどうされたのか分かるでしょうか?
慌ててお二人を見れば……「驚愕」の表情で固まっております。
え?お二人も⁈
「ふ………ふふふふ……あははははは!」
アイク様が突然笑いだしました。
何が?!本当にいったい何があったというのですか?!
あわあわしているボクをよそに、復活したアイク様がご機嫌でお兄様の肩をポンポンと叩きます。
「ふ、ふふ……っいやあ、ジルの気持ちは伝わっていないようだよ?
これは待てば私にもチャンスはありそうだね?」
そしてニコニコしながらボクの頭を撫でました。すかさずお兄様に払いのけられましたが……。
「クリス、クリスはジルのことが大好きなんだな?」
「はい!当然です!ボクの推し!ボクの全てですから!」
「私とのデートを拒むのはジルのことがあるからなのかな?」
デート!
やはりあれらのお誘いはデートのおつもりだったのですね。下手に受けては面倒に巻き込まれるところでした。
お断りしてきて良かった。
「アイク様と出かけるのは楽しそうですが、2人で出かけてあらぬ噂となるのは困りますからね。お兄様のご迷惑になります」
「つまりまとめると、私はジルの婚約者にはふさわしくないが、でも私個人に悪印象があるというわけではない。
クリスはジルへの配慮から噂になりたくない。そしてジルが誰かと婚約すること自体には否定的ではない。
そういうことだろうか?
クリスは私と過ごすのは嫌ではないのかな?それと、他にジルにふさわしい婚約者が見つかったならば弟として祝福すると?」
「?アイク様は昔のお兄様のことはお好みでいらしたかもしれませんが、お兄様をそういう意味でお好きではないですよね?なのでおふたりは婚約者よりも友人である方が良いと思います。婚約したままだと、いつかお兄様を裏切るかもしれないでしょう?そんなの許せません!
今のアイク様は、普通にいい方だと思っていますよ?
アイク様と過ごすのは嫌ではありません。でも、お兄様かアイク様かとなれば比べるまでもありませんよね?というか比べる余地もない?
ボクの時間はお兄様のために使いたいし、お兄様といることを許される時間はお兄様と共に過ごしたい、それだけなのです」
あ。アイク様、また「すん」です。
「それで、えっと、お兄様のご婚約、ですか?
お兄様にお好きな方がいればその方とのご婚約を祝福したいと思っております。
そりゃあお兄様を取られてしまうようで寂しいですけれど……それでもボクにはお兄様のお幸せが一番ですので!」
言い切りましたが、なぜかズキンと胸が痛みます。
ボクはふるりと頭を振って、そっと胸を押さえました。
痛みの理由なんて考えちゃダメです。ボクは弟ですから。お兄様の幸せだけ考えなきゃ。
アイク様のお顔が晴れ晴れとしていくのとは反対に、今度はお兄様のお顔がみるみる曇っていきました。
ええ?お兄様、ボクの気持ちを疑っていらっしゃるのでしょうか。まさか、お兄様が好きすぎるあまり嫉妬して嫌がらせする系だとでも?
慌ててこう言い足します。
「ボク、お兄様にはお兄様が愛する方で、それでお兄様のことを一番に愛してくれるお相手がふさわしいと思っているのです、大好きだから幸せになっていただきたいのです。
お相手に嫌がらせなどしません!」
「ぶふうっ!」とウエイン様が噴き出しました。失礼ですね。
本気で言っているのに!
「クリス」
真剣なお顔のお兄様にガシっと肩を掴まれました。
「ひゃ、ひゃいっ!」
そのままどんどん壁際に追い込まれます。
こ、これは……壁ドン?!壁ドンです!
ボク今推しに壁ドンされておりますっ!!ひゃああ!
「まず、ひとつ。
私には《《クリス以上に想う相手などいない。私の一番大切な人はクリスだ》》。いいか?」
!まだ想う方はいらっしゃらない!
ボクが一番!
ちょっとほっとしてしまいました。
「だったら、もうしばらくはボクがお兄様の一番で居られるのですね!えへへ。こんなことを言ってはいけないのかもしれませんが、嬉しいです」
我慢しようと思っても勝手にお顔がにこにこしてしまいます。
だって「祝福する」という気持ちに嘘はないのですが、本当はずっとボクが一番で居られたら、なんて図々しいことを願ってしまうのです。
分かっています。ボクがそのお相手になりたい、だなんて、そんなこと考えたらダメだって。
だから、もうしばらくだけでもお兄様の一番で居られるのが本当に嬉しいのです。
「あの、お兄様?弟とはいえ、そんな言い方をされてはおかしな誤解をしてしまいますよ?
えと。ボクも照れてしまうというか……
お兄様はただでさえおモテになるのですから、言動には気を付けてくださいね?
ボク以外に言ってはダメですからね?」
「くくっ!それをクリスが言うか……っおもしれえ……っ」
「あー……ジルも大変そうだね……」
「私にはチャンスだがな?」
そこの方々、少しうるさいですよ?
「お兄様、分かってくださいましたか?」
「………十分気を付けて発言している。私がこのようなことをいうのはクリスにだけだ」
「えへへ!だったらいいです!ありがとうございます!お兄様、大好きです!」
ぎゅむっと抱き着けば、お兄様はしばらくじいっと上を向いた後、ふうっと大きく息を吐きました。
「私もクリスが大好きだぞ?……クリスが思う以上に、な」
「ええ?ボクの方が大好きですっ。お兄様を思う気持ちだけは誰にも負けませんからっ!!」
頬を膨らませて主張すれば、「そ、そうか」とお兄様が真っ赤になってしまわれました。
ようやく分かってくださったようです。
顔を赤らめるお兄様はレアです。なんてお可愛らしいのでしょう!
しっかりとこの目に焼き付けなければ!
「……く、クリス……少し……見ないで欲しい……」
「ええーっ?!無理ですっ!だってそんな可愛らしいお顔、レアですもん!目に焼き付けなきゃ!」
もっとよく見ようと背伸びをすれば、遂にお兄様、お顔を片手で覆って天を仰いでしまわれました。残念!
「お兄様、お顔を見せてくださいっ。それではよく見えませんっ。お兄様あっ」
ぴょんぴょんと飛んでいると…
「ふっふふっあははは!も、もうダメだっ!あっはっはっは!」
ウエイン様がゲラゲラと腹を抱えて笑い出しました。
なんて失礼な!
「あはははは!ご、ごめんっクリス。睨むな、ジル!だって……だって……面白過ぎんだろお……っ!」
「うーん……クリスの言っていた婚約者の条件にぴったり当てはまってるよねえ……」
「イクシス?君は誰の味方だ?」
「え?私は中立ですよ?アイク様の側近で友ではありますが、ジルとクリスの友でもありますので」
とりあえず、すったもんだの末、アイク様が引き下がってくださいました。
アイク様の「姫」はお役御免。
本当に良かったです。
「そのかわり、友人のひとりとして私ともっと仲良くしてくれると嬉しい。それなら一緒に出かけてくれるか?」
ええ!それならば!
幼なじみですしね。
皆さんでまたスイーツを食べに行きたいです!
攻略対象たちとはお友達になりました。
ゲーム開始まであと2年。
このメンバーなら、たとえピンク頭が登場しようと、負ける気がしません。
お兄様、ご安心ください。
ボクが付いている限り、ゲームのような未来にはいたしませんので!
モブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!
第一部 完
これにてひとまず第一部完結となります。
ここまでお付き合いくださりありがとうございます♡
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宜しくお願いいたしますううう!
第二部、ピンク頭編以後は、アルファポリス様にて公開させていただいております。
よろしければ……




