推しとダンスを踊りたい
ハッキリきっぱり。忖度ゼロのお兄様の「邪魔」には、さすがのアイク様も言葉を失っております。
「クリス!なんだか……すごいことになっているね?」
「アイク様が……すまなかったね?」
リオとイクシス様!
ああ、なんだか二人が救いの神に見えます!
ナイスタイミングです!
リオとイクシス様もお揃い、というよりこれはいわゆる「家門の色」なのでしょう。
宰相様の家系には代々紫色の瞳が引き継がれております。
優勢遺伝らしく、夫婦どちらかがアーシェントなら必ず子供は紫の瞳となるのだそう。
なんだかロマンチックですね。
なので、お二人とも菫のような紫を基調とした衣装となっております。
髪色だけが、イクシス様は銀、リオは金。
真面目で穏やかなイクシス様と、陽気でちょっとチャラい雰囲気のリオ。
こうして同じような衣装を身に纏えば、兄弟なのになんだか対照的な二人です。
今もリオがなんだか「面白そう」という表情なのに対して、イクシス様は「申し訳ない」という表情。
側近なので、「アイク様のしでかしは私の責任」だと思っていらっしゃるようす。
しきりにジル兄様をちらちら見ながらボクに気を遣ってくださいます。
「大丈夫ですよ。
でも、ボク、お兄様とダンスを踊るのを楽しみにしていたのです。なのでイクシス様、アイク様をお願いできますか?」
リオには申し訳ないのだけれど、この際なので押し付けてしまいましょう。
だって、お兄様とダンスだなんて、この機会を逃せばもう二度とないかもしれませんもの!
「え?クリス、私とは踊ってくれないのか?君は私の『姫』でもあるのだぞ?」
「無理やり割り込んでおきながら、図々しいですよ」
お兄様がピシャリ!
リオとイクシス様が「あー……」と何とも言えない表情でスッと目をそらした。
不敬だけれど、見ていませんし聞いておりませんよ、というアピール?
「そうは言うが……私の立場も考えてみろ。軽々しく誰かをエスコートできると思うか?
派閥などを考慮すると、そもそもジル以外釣り合う相手がいないのだ。これでなかなか不自由な立場なんだぞ?」
ああ。アイク様、しょんぼりしてしまいました。
うーん。ちょっと言い過ぎたのかも。
お兄様の断罪の芽を生やすわけにはいきませんので、ボクがしっかりとフォローしておきましょう。
「大丈夫ですよ、アイク様。
えっと…あと数年くらいで、あざとい自称『姫』が嫌というほどいアイク様に絡んでくれるのではないかと思います。あくまでもボクの予想ですけれど。
見た目だけはアイク様のお好みのタイプなのです。たぶん。
余り望ましい出会いではないかもしれませんが、とにかくその外見が好みすぎて、つり合いとはどうでもよくなってコロリと騙されるのです。
あざと姫にくらべたら、どんなお相手だろうとマシです!」
「ピンク頭」と言いたいところですが、そこまで言うと「どうして知っているのか」と聞かれてしまいますので、曖昧にボカシて。
「ね?釣り合うとか釣り合わないとかはどうとでもなります。大丈夫ですよ!」
にこっと微笑めば、全員がおバカな子を見るような目に。
「ものすごく嫌な予感しかしない未来なんだけど……。どういう予言?」
希望を与えるつもりだったのに、どうして眉を顰めるのですかアイク様!
「曖昧な割に妙なところに具体性があるよね。割と酷いことを言ってるけど。
あざといご令嬢とか、私なら勘弁願いたいなあ。しかも絡まれるなんて、最悪だよね……」
あ!リオ、安心してください!そこはたぶん『ご令息』です!
「アイク様はあざとい方お好みだったのですか?私としてはあまりお勧めできませんが……」
「そんなわけないだろう!私の好みは、可愛らしいタイプだ!昔のジルとか、クリスのような……」
「ですよね。幼いお兄様はさぞかしお可愛らしかったことでしょう。それには完全に同意致します!」
「いや、クリスの…
「アイク様が出会う予定のあざと姫も、外見だけは可愛らしいタイプですので。
みんなそれに騙されるんですよね……ちょろいというか……。
あ、見た目だけは、間違いなく可愛いと思います!」
婚約解消さえしてしまえば、お兄様は安全なはず。むしろ、あざと姫をしっかりとつかまえて、またお兄様と、なんてならないようにして欲しい。
アイク様とあざと姫ルートは、
なのにボクが口を開けば開くほど、アイク様はスンっ。
「………ジル、君の弟が私に会ったこともないゴミを押し付けようとしているぞ?」
お兄様は神妙はお顔でボクに向かってこくりと頷きます。ボクに協力して下さるのですか?
ありがとうございます。
ほら、お兄様も解消予定の婚約者として、一押し!
「……クリスはなんとかアイクを慰めようとしているのだ。つまり、クリスが言いたかったのは……どんな相手だろうと、良いところは顔だけのゴミよりマシ、いうことだろう」
お、お兄様、それ、フォローになっておりません……。
でもまあ、はい、そういうことです。
アイク様は沈痛な表情になってしまいました。
「私はそんな顔だけの奴に騙されるような男だと思われているのだな……」
思われている、ではなく、ゲームでは実際に騙されておりましたけど?
でもこのアイク様は、ゲームのアイク様を「悪いアイク様」とすると、ボクとお兄様と仲良しになった「良いアイク様」なので。ボクは何も言わず曖昧に微笑むだけにしておきました。
「アイク様。私がそのような相手は必ず排除致しますから。近づけませんのでご安心ください!」
イクシス様も騙されておりましたけれどもね?
でも、こっちのイクシス様にはリオも付いているから大丈夫でしょう。
リオは意外と頼りになるし、面倒見もいい気遣いやさんなので。
でも、幸か不幸か、皆さんの心に「可愛いだけのあざとい奴が近づいて来たら排除!」と刷り込むことに成功いたしました。
これでピンク頭が来ても安心、かもしれません。




