ダンス
「………クリスの私の印象はどうなっているのかな?」
すうっとアイク様の目が細められた。
え……?言っていいのかなあ……?
「お兄様の迷惑な婚約者?」
ぶっ、とお兄様の方からおかしな音がしました。
お兄様が口もとを押さえて顔を背けております。大丈夫ですか?
「あ、ああ。私のことは気にするな。正直な気持ちを言うといい」
顔を背けたまま片手を上げてそう仰るお兄様。
そうなのですか?
では続きを。
「あとは……なんだかんだ常識人だし、面倒見がいいですよね」
「!それは褒めているのだよね?」
「ええ。一応褒めております。アイク様とイクシス坂とウエイン様が三人で居るときの、アイク様、お母さまっぽいなあ、って」
「…………お母さま…………」
「……ふ……ふふ…っ…、あ、あきらめろ、アイク。お母さまなのだから」
何故か震えながらお兄様がアイク様に声をかけました。
「煩いよ、ジル。これからもっと知ってもらえばいいだけだ」
珍しくアイク様がブスっとされております。そういうお顔、初めて見ました。
「ちなみにクリス。私はどうだ?」
「え?お兄様ですか?!
お兄様はとてもカッコよくてお優しくて、賢くてお強くて完璧です!お兄様と共に居られることを神に感謝しない日はありません!大好きです!」
「……だそうだぞ?」
ふふん、という擬音が聞こえてきそうなお顔でアイク様にドヤるお兄様。
何をはり合っていらっしゃるのですか。
「………だが君たちは兄弟だ」
「義理の、な。血の繋がりは無いのだ。どうにでもできる」
「え?!ボク、どうなるのですか?!」
家族じゃなくなっちゃうのでしょうか?
嫌われるようなことをしてしまいましたか?
仲良し兄弟だと思っていただけに、ダメージが………
あ。だめ。涙が出そう。
慌ててぎゅっと唇を結んで下を向けば、お兄様が焦ったような声を出しました。
「クリス?!何か誤解をしていないか?
決して悪い意味ではないぞ?……父上と、ではなく私と直接の縁を結び直すこともできる、という話だ」
「??どう違うのですか?
……ボク、お兄様と縁を切られてしまうのではないということでしょうか?
「無論!そのようなことをするはずがない!クリスは私の宝なのだからな!」
よ、よかったああ!
ほっとしたら涙がひとつぶポロリと出てしまいました。
それをお兄様が優しくぬぐってくださいます。
「あり得ぬ心配はしないように。私はクリスが大好きなのだからな?」
「えへへ。ごめんなさい、お兄様。もう心配しません!」
「……ちょっと君たち、仲が良すぎやしないか?
クリスは本当にジルが大好きなのだな」
「はい!」
「クリス。これからは私とももっと仲良くなって欲しい。いいかな?」
婚約解消しても友達でいてね、ってことですね!
「はい!お兄様とボクは、婚約解消してもアイク様の御友達のつもりでおりますので!ご安心くださいね!」
それが言いたくて一緒にエスコートなんて言い出したのですね。ちょっと可愛い。
王族だから、イクシス様たちとボクたち以外に信頼できるお友達がいないのでしょう。
「大丈夫ですよ。ボクたちは、ずっとお友達ですから!」
ニコッとほほ笑んで請け負えば。
アイク様は苦笑いしながら「……そ、そうか。まあ、これから、だな」と仰ったのでした。
入場が終わると、褒章授与まではフリータイムです。
会場に用意されたお食事を楽しむもよし、ダンスをするもよし。
できればリオやティムたちと合流したい。
特にティム!
死んだ目をしてぐったりしていたので、心配です。
大丈夫でしょうか?
ところで……
「あのう………アイク様、いつまでボクたちといらっしゃるのですか?
婚約解消するのにお兄様とくっついていらしたら、解消になりません。
それに、申し訳ないのですが、アイク様と居ると目立っちゃいますので、イクシス様とウエイン様の所に行って頂けると……」
あっちも兄弟同士、臨時ペアなので。「恋人たちの邪魔」にはなりませんし。
「ほんと、君、遠慮しなくなったな?!
……そんなに私は邪魔かい?」
寂しそうに上目遣い。
ボクより身長が上の癖に、どうやっているのですか、それ。
「いまさらです。だって、ボク、お兄様と二人で入場するはずだったのに……。
光栄すぎるとか、お兄様に釣り合わないということを除けば、すっごくすっごくすっごおおおく!
貴重な機会だったのですよ?
もう二度とないかもしれないのに……。
アイク様は嫌いではありませんが、そういう意味では……邪魔かな、なんて……」
はっきり「邪魔です」って言いたかったけれど、ちょっとだけ遠慮するボク。
でもお兄様の辞書には遠慮という文字が無かったようです。
「邪魔だな。私とクリスの間の割り込もうなど、邪魔以外のなにものでもない」
二度も「邪魔」って断言しました!




