書籍④巻発売記念SS『オランジュ色に、想いをのせて。』
4巻で王都に帰った後のアレクのお話です。
王都に戻って二日目の朝。
いつも通りの時間に目が覚め、カーテンを開ける。
見慣れた街の風景に、少しだけため息が漏れた。
「あぁ~…、腹減った……」
護衛の報酬は結構な額だったが、リーダーは体がなまると言って、依頼を受けてダンジョンに潜ろうとしていた。けれど、さすがに疲れたのか、ステラに猛抗議されて今日と明日は休み。
朝食をとろうと宿屋の階段を下りていくと、馴染みの顔と目が合った。
「……どこ行こっかな……」
よくパーティで世話になっているこの宿屋。
どうやらコンロが故障したらしく、朝食が準備出来ないらしい。
ブラブラと歩いていると、一軒の店が目に入る。
(……そういえば、この店入ったことなかったな……)
存在は知っていたが、普段は気にも留めなかった。
今まではそんなこと、考えたこともなかったのに。
「~~~~……ッ!!!」
「……ステラ、笑い過ぎだよ」
朝食を終えて宿に帰ると、ちょうどステラとエレノアが部屋から出てきたところだった。
……けど、オレが持つソレを見た途端、信じられないものを見るようにエレノアが目を見開き、ステラはその場で声も出さずに笑い転げていた。
「……まぁ、今回だけは自分でも信じられないから……、許す……」
「……そうか。よかった……」
オレの手には、小さなブーケ状のオランジュ色の花。
今までは入ろうとも思わなかったその店先に、気付けば自然と足が向いていた。
「……でさぁ、コレ。どうすればいいと思う……?」
花なんて墓参り用にしか買った事なかったから、それ以外に贈る事もないし、ましてや貰った事さえない。
冒険者なんだから、花瓶なんて持っていないのが普通だろ。
エレノアと二人で花を見つめていると、息も絶え絶えのステラがようやく立ち上がった。
「……ハァ、それなら、……フフッ! 押し花にしたらいいんじゃないですかぁ……?」
「押し花?」
「この花を?」
キレイに咲いているのに、わざわざ?
「きっと、手紙と一緒にユイトくんに贈ったら、喜んでくれると思いますよ~?」
そのステラの一言で、どうしようかと悩んでいたこの花が、一気に輝いて見えた。
「でも、押し花ってそんな簡単に出来んのか?」
「花びらを丁寧に分けて……。ん~、水分を飛ばすのに、三日か四日は欲しいですねぇ」
「へぇ~……。なら今日と明日は休みだし、作るのにちょうどいいじゃないか」
「ですです~! 重しになる物を載せておけば、放っておいても大丈夫ですし~」
「……」
すると、オレの思っていることが筒抜けだったのか、ステラがにんまりと笑みを浮かべる。
「心配しなくても~、わたしが作り方、ちゃ~んと教えてあげますからねぇ~!」
「……お願いします」
「うわぁ……! アレクさんが素直……!」
軽く肩を小突くと、ステラは笑いながら「おなかペコペコなんで、アレクさんの奢りですね~!」と楽しそうに階段を下りていく。
教えてもらうし仕方がないかと、オレは部屋にソレをそっと置き、ステラとエレノアの後を追った。
優しくてあたたかいその色合いに、自然と浮かんだその笑顔。
今頃どうしてるだろうなと、少しだけ寂しくもあり、
早く逢いたいなと、焦がれる気持ちが募っていった。




