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2-15:ダークエルフの服を買おうとして試着した件について

教授コメント

『章題に主語が抜けています。どうしてそこでホットパンツという選択をしたのかが甚だ疑問です。君の趣味ですか?』


 アルヴェルさんの屋敷から出て町の服屋にやってくる。

 まだ午前中だからか、店に入ると僕ら以外のお客はいなく静かな店内だった。


「いらっしゃいませ。おや、昨日の旅人さんじゃないかい」

「あ、どうも。お邪魔してます」


 奥から気立てのよさそうな女性が出てくる。


「何でも異世界から来たそうじゃないか」

「ええ、まあ」

「すごいねえ。ああ、それでどんな服を探しているんだい?」

「この子に合う服が欲しいんですけど、動きやすくて可愛いやつを……」


 ん?

 なんだか店員さんの様子がおかしい。

 僕がナディルの服が欲しいと言った瞬間、すごく嫌そうな顔をし始めたんだけど……。


「馬鹿にしてるのかい?」

「馬鹿にしたんですか?」

「ああ、馬鹿にしたよ。旅人さん、あんたは今、うちの服が奴隷に着せる程度の粗悪品だって馬鹿にしたんだよ」

「ええ……」


 いや、全くその気はないんだけど、そんなに悪いことなの?

 そういえば、あの商人さんも『好きものだ』とか言ってたっけ。


「分かったら帰ってくんな」

「あ、ええと、じゃあ、奴隷じゃなきゃいいんですよね?」

「そりゃ、そうさ」

「な、なら!」


 打開するには一つしか策はない。


「僕に似合う可愛い女物の服を下さい!」

「ええっ⁉」


 僕は自分の身を投げ売り、ナディアの服を購入したのだった。


◇   ◇   ◇


 いやー、僕の機転によって無事、服は購入できたわけだけど、一つ失念していたことがあった。

 それは、服の購入には試着が必要だったということだ。


「僕は大事な物を失った」

「に、似合ってたわよ?」

「ありがとう、アルメル。それが疑問形じゃなかったらもっと救われてたよ」

「あああ、そういうわけじゃないのよ。ただ、似合ってるって言われてセカイが喜ぶか分からなかっただけで……」

 まあ、確かに女装が似合うって言うのが褒め言葉になるかは怪しいね。

 僕は変身願望を持っていないからあんまりうれしくはないけど。


 それはそれとして、僕は隣で新しい服に身を包んだナディアを見る。

 スカートは僕が試着したくないから避けたんだけど、その代わりに可愛いものということでホットパンツにしたんだ。


 え?

 もちろん試着したよ。

 思い出したくもないね。


 ナディアはホットパンツに大きめの上着を合わせた少しカジュアルな格好になっていた。

 首輪が凄く浮いてるけど、何とも快活そうな美少女になったね。


「似合ってるよ、ナディア」

「あ、ありがとう……」


 ナディアは恥ずかしそうに視線を泳がせる。

 うーん、恥じらう姿はいとおかしだね。


「では、火山へ向かうとしようか」

「え、まだ早くない?」


 お昼も食べてないよ?


「ここからピュイ=ド=ムーア火山までは距離があるわ。それに山を登るとなると、休憩も必要でしょ? 暗くなる前に帰るなら、早く出るに越したことはないわ」

「それもそうだね」


 ドラゴン討伐に時間がかかるだろうし、最悪野宿になっちゃうもんね。


「流石アルメル。頼りになるね」

「ふふん、もっと褒めてくれてもいいのよ?」

「偉い! 可愛い!」

「い、今、可愛いは関係ないでしょ⁉」


 え、可愛いは時間に囚われないから関係なくはないよね?


「と、とにかく、もう町を出て火山を目指す。それでいいわね?」

「うん。じゃあ、出発しようか」


 そうして僕らは町を出る。

 道中は何事もなく、僕らは火山の麓に広がる森までやって来た。

 この森を抜けた先に火山があるそうなんだけど、その前に湿原が広がっているらしい。


「どうして湿原?」

「地下水がある。それが火山の熱で地表に湧き出て湿原になってる」

「へー」


 ナディルの話に感心しながら森を進む。

 確かに火山に近くなるにつれて湿気が多くなってきてるような気がするね。

 肌に張り付くような熱気がちょっと気持ち悪いや。


 そんな熱気が漂う茂みをかき分け、進んでいくと突然視界が開ける。


 そこは蒸気の立ち込める湿原であった。

 湿った足元はぬかるんでいて歩きにくく、視界も悪い。


「気を付けて進んだ方がよさそうだね」

「そうね。転んだりしたら大変よ」

「それだけじゃない」


 ナディアは何かに気づいたように蒸気に遮られた湿原の奥を見据える。

 目を凝らすと、何やら大きな影がそこに見えた。

 それは体長10メートルくらいあるんだろうか。

 ゆっくりと緩慢な動きに、ぬかるみをものともしない地響きが鳴る。


「まさか、あれがドラゴン……」


 全貌は見えない。

 けれど、シルエットからその大きさと重量感だけは伝わってくる。


「すごく、大きいです」

「そうだな。あれはおそらくエンシェントドラゴンの子供だろうな」

「あれで子供なのか」


 成長したらどうなっちゃうのか、想像もつかないね。


「どうする」

「足場は悪いけど、ここで戦うしかないよね」


 僕は鞄から機械的なマスク、祝福の息吹を取り出した。

 頭の後ろで固定すると、プシュっと排気音がして僕の輪郭にフィットする。


「皆、戦闘準備だ」

『バトルオペレーションサポートモードへ移行』


 おっと、どうやらこのマスクのシステムはエディルが制御してくれるみたい。

 ありがたいね。


「アルメル」

「準備できたわ」


 答えるアルメルは弓矢を構え、ドラゴンの影を見据えている。


「ナディア」

「大丈夫」


 姿勢を低くし、ナディアは短剣を右手に構える。


「エル」

「整っている」


 あ、エルは何かを構えたりしないんだね。


「エディル、この蒸気を晴らしたいんだけど」

『了解。音域、低。倍音成分、高。属性付与、風。ミストディスペル、起動』

「行くよ、皆!」

「ええ!」「はい」「いこうか」


 思い切り息を吸い込む。

 パチリと電流が走り、喉が強張る。

 熱が喉に溜まり出し、その熱量に嗚咽が漏れれば、それが吐きだす合図。


“Mist Dispel”


 僕の美声が湿原に響き、視界を一気に鮮明にする。


 蒸気の晴れた先でドラゴンの全貌が明らかになる。

 その姿は思わず畏敬の意すら覚えるような高貴さを有していた。


 眩しいほどに輝く鱗には斑の一つもなく一様な白さであり、鱗の折り重りは芸術品かと思えるくらいに整然と連なる。

 頭部には2本の角が伸びており、二股に別れた先端には焔が宿る。


 エイはこれをエンシェントドラゴンの子供だと言った。

 けれど、僕にはそれが疑わしかった。


 だって、僕は魔法に関する知識も何もないのに、それでもそこに存在するドラゴンの膨大な魔力量の鼓動に肌が引き裂かれるような錯覚を覚えたんだ。

 その圧倒的な存在感が、子供であるとどうして納得できるのか。


 視界が晴れたのはドラゴンも同じ。

 こちらの存在に気が付いたドラゴンは燃えるような瞳をぎらつかせる。

 そして、大きく息を吸い込むと、大地を震わせるかのような咆哮を放つのだった。


エディルメモ

『倍音成分とは、ある高さの音に対して整数倍の周波数を持つ音のことです。これの分布によって、音の柔らかさが決まります』


今日の更新も四回です!

今週中には第二節が終わるんじゃないかと思っています!

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