2-14:異世界の教会が亜人に優しくない件について
教授コメント
『亜人調査の過程でいつか衝突しそうな問題ですね。あまり関わらないように心がけるべきかもしれませんね』
目を覚まし、一つ伸びをすると、僕の上から布団がずれ落ちた。
あれ、僕、布団なんか被ってたっけ?
「おはよう」
「あ、おはよう、ナディア」
先に起きていたナディアは窓際の椅子に腰掛けていた。
「なにしてたの?」
「陽に当たってた」
「陽に?」
「私たちは大地のマナに嫌われてるから。こうして、太陽からマナを取り込む」
「なるほど」
それは自虐でもなくダークエルフの特性なんだろう。
大地のマナが駄目だから太陽からマナを貰う。
そうすることで、一日の活力を得ているみたいな?
「朝ご飯、運んでくれてる」
「あ、これか」
目の前のテーブルには一人分の朝食が用意されていた。
パンにサラダに、スープはちょっと冷めちゃってるけど、朝から豪華な食事だね。
「ナディアは?」
「もう食べた」
「そっかー」
あれ、もしかして、寝坊した?
いや、起きる時間を決めてなかったから寝坊とは言わないけどさ。
どうやら皆との朝食には乗り遅れたみたいだ。
「食べたら町に出るって」
「アルメルたちが言ってたの?」
「そう」
「なるほど」
そういうことなら早く食べないとね。
僕は朝から食べられるタイプの人間だから、この程度の量は朝飯前だよ。
いや、朝飯だけどね。
「ご馳走様でした」
そうして食器を片付けようとすると、タイミングよくノックの音がした。
「はい」
「給仕の者です。食器を片付けに参りました」
「あ、どうも」
入ってきたメイドさんが手際よく片付けてくれる。
あれ、なんで僕が食べ終わったのが分かったんだろう。
「メイド力です」
「メイド力ですか」
「さようです」
何か有無を言わさぬ圧力に僕は納得するしかなかった。
「あ、もう出ようと思うんで、アルヴェルさんに挨拶をしたいんですけど」
「申し訳ありません。アルヴェル様はお務めに外出しています。わたくしからお伝えしておきますので、どうぞご自由に外出ください」
「あ、分かりました。じゃあ、お世話になりました」
「ええ。では、失礼します」
そう言ってメイドさんは行ってしまう。
仕事ができそうな人だったね。
「それじゃあ、用意して出ようか」
「分かった」
僕らは荷物を整え、部屋を出る。
すると廊下には既にアルメルとユニコーンが待ってくれていた。
「やっぱり寝坊したわね、セカイ」
「いやあ、申し訳ない」
「私は起こそうと思ったんだが、アルメルが君の寝顔に見とれてしまって」
「ちょ、ちょっと、エルさん、それは言わなくても!」
「エル?」
「ああ、それは私の名だよ。ユニコーンだと、言いにくいだろう?」
「まあ」
確かに往来で呼ぶのは躊躇われるよね。
「そ、それで、これからどうするのよ?」
「ああ、まずは教会に行こうと思うんだ」
「教会?」
「うん。魔法じゃないとナディアの首輪が外せないでしょ? だから、教会に行けば外せるのかなって」
「あー、確かに。でも……うーん」
アルメルはなんだか歯切れ悪く言い淀む。
あれ?
名案だと思ってたのに、何か駄目だったのかな?
「私はお勧めしないな」
「ユニ……エルまで?」
「君は知らないだろうけど、教会は人間至上主義の教えを説いているんだ」
「人間至上主義?」
「私たち、亜人を同格に扱わないって教えよ」
「そうなの?」
それを聞かされると、町の人がアルメルやナディルのことを奴隷扱いしてきたことに合点がいくね。
教会がそういう教えを広めているのか。
「私たちエルフは比較的友好な関係だけど、他は酷いものよ」
「え、エルフでいい方なの?」
「だって、まだ連絡が来るもの。セカイの案内だって人間が文書を送ってきたから私に命じられたのよ?」
「ああ、なるほど」
人間が嫌いなエルフが人間に命じられて人間の案内をする。
当然、歓迎なんかされないよね。
「だから、教会に行っても門前払いというわけだね?」
「そうなる可能性は高いわ。下手したら、異端審問で洗脳されちゃうかも」
「そ、そこまで行くんだ……」
とりあえずナディアの首輪は保留かな。
誰か魔法の使える亜人を探すしかないのかも。
「あ、そう言えば、エルは外せないの?」
「難しいな。人間の束縛魔法は弱いから私がやると、首まで飛んでしまうかもしれない」
「あ、じゃあ、いいです」
大は小を兼ねないんですね。
「そうなると、次は服屋かな」
「服屋?」
ナディアが首を傾げた。
「ドラゴン討伐に服が必要?」
「必要はないけど、その格好はねえ」
「不都合はない」
「可愛くないじゃん」
「かわっ……」
ナディアは動揺を浮かべる。
昨日の夜からナディアの表情が柔らかくなってる気がする。
「折角、可愛いのにもったいないよ。もっと着飾らなきゃ!」
「可愛くないのか可愛いのか……どっち?」
「ナディアは可愛いけど、服は可愛くない。これでファイナルアンサーです」
「わ、分からない……」
そんなこと言いつつナディアは顔を赤くしながら目を逸らす。
「……セカイ。昨日、ナディアに何したのよ」
「へ?」
何故か怒った顔でアルメルが僕を睨む。
あ、アルメルさん?
今のどこに怒る場所があったの?
「……ナニモナイヨ」
「なにもなかったら、ナディアがこんな風になるわけないじゃない!」
いや、でも押し倒したなんて言えない空気だしなあ。
「ほう。押し倒したのか」
「心を読まないで!」
「セカイっ⁉」
「あ、いや、違う。事故だから、事故だよね、ナディア?」
「どいてって言っても、どいてくれなかった」
「確かにそうだったね!」
「セカイっ⁉」
アルメルの誤解を解くのにしばらくかかったのだった。
エディルメモ
『キリスト教などの聖書にも人間中心主義の一端が書かれています』
今日の更新はここまでです。
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