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1-11:お昼のエルフ汁がどす黒い件について

教授コメント

『異世界の人間と意思疎通が異世界特区の外でも可能であるということは確認できているのでぜひエルフについても検証してみてください』


「えへへ」


「そんなに喜んでくれるなんて、こっちまで嬉しくなるね」


「だって、贈り物なんて初めてなのよ? それもこんな素敵な贈り物、喜ばなきゃ嘘じゃない?」


「そうかもね」


 アルメルの家に付いた僕らはエルフ茶を飲みながらまったりとした時間を過ごしていた。

 呑むなって言われたけど、一回も二回も変わらないでしょ。


「えへへへへ」


 そんな楽観的な考えでお茶を啜りながら、僕はにへらと頬を緩めるアルメルを眺める。


「あ、そうだ!」


「ん?」


「セカイ、まだお昼食べてないわよね?」


「あ、うん。そうだね」


「そうよね! なら私が作ってあげるわ!」


「え、ほんと?」


「ええ、もちろんよ!」


 いやあ、嬉しいな。

 女の子の手料理なんてお袋の味しか食べたことないからね。


「楽しみだなぁ……。あっ!」


 いや、食べちゃダメじゃん!


「ど、どうしたのよ、いきなり」


「えーと、何でもないよ」


「なんでもないの?」


「うん。なんでもないね」


「ならいいわ。私、ちょっと作ってくるから、ゆっくりしててね!」


 張り切った様子でアルメルがキッチンの方へ向かう。

 うん、腹を括るしかない。

 いかなる危険があったとして、美少女が笑顔で差し出したものを完食しないわけにはいかないのだ!


 ……流石に、ゲテモノとかは出てこないよね?

 実は料理の腕が壊滅的で、どんな調理をしても劇物を生成してしまうような等価交換を無視した錬金術師だったりしないよね?


 あ、でも、いい匂いが漂ってきてる。

 ちょっと安心かな。


“ダンッ!”


「っ⁉」


“ダンダンダンッ!”


 な、なんかすごい音が聞こえてくるんだけど、何の音⁉


「だ、大丈夫なの⁉」


「大丈夫よ。ただ鹿をさばいてるだけだから」


 絶賛解体ショー中ですか⁉


 しかし、シカ肉って食べたことないなあ。

 美味しいらしいよね、ジビエ。

 調理の仕方次第ではクソまずいらしいけど。


 お、なにやらぐつぐつと煮込む音が聞こえてくる。

 一瞬不安になったけど、知ってる食材だから普通に楽しみになってきたよ。


「できたわ!」


「おおっ! 待ってました!」


 それから数十分ほどすると、鍋を持ったアルメルが姿を現す。


「待ってて、今器を持ってくるわ」


 そう言う間に僕はお腹が空いていたので鍋を覗き込む。


「おっ! ……お?」


 匂いはいい。

 匂いは良いんだけど、なんだか色が凄くどす黒い。


「あっ。もう、少しくらい待ちなさいよ」


「いや、アルメル。これはなに?」


「これ? これは鹿のお肉と森で取れる香草を煮込んで作ったスープよ」


「この色は?」


「色って、別に食べるのに色は関係ないじゃない?」


 なるほど、エルフは本質を突くのが上手だね。


 確かに食べるだけなら色なんてどうでもいいさ。

 けど、口に運ぶまでの判断基準は目と鼻なんだ。

 だから、外国の蛍光色のお菓子は何となくおいしそうに見えないんだよね。


「さ、どうぞ食べて。自信作よ」


 そう言ってエプロン姿のアルメルが胸を張るもんだから僕に食べる以外の選択肢はなくなったのである。

 女の子のエプロン姿って、クルものがあるよね。


「い、頂きます」


「はい、どうぞ」


 器を受け取り、口元に運ぶ。

 アルメルが笑顔でこっちを見つめているんだけど、その笑顔にフォーカスできない程、目の前のエルフ汁の色彩に目を奪われていた。


「食べないの?」


 僕が躊躇っていると、アルメルが不安そうな顔をした。

 首を傾げて窺うような瞳。


 うん、これでご飯三杯はいける。

 ご飯三杯食えるなら、これも食えるだろう! 

 よーし、セカイ、逝きまーす!


「んんっ⁉」


「ど、どう?」


 こ、これはっ!


「う、うまい。え、うまい⁉」


「なんで不思議そうなのよ!」


「アルメル、美味しいよ!」


「でしょう?」


「このエルフ汁」


「なんか、その名前嫌なんだけど」


「なんで? エルフの名物スープでしょ?」


「そうだけど、それならエルフスープでいいじゃない」


「んん?」


「な、なによ」


 今のアルメルの発言、なんだか違和感がなかった?


「ええと、汁物ってあるよね」


「あるわね」


「スープって言葉もあるよね?」


「あるわね」


「意味は一緒だよね?」


「? そうよ。いきなりどうしたのよ」


 言語が異なるはずのアルメルがどうして僕らの外来語と母国語を同時に理解して、しかもそこにある微妙なニュアンスの違いまで感じ取れるのかな。


「エルフ汁ってさ、なんだかちょっといやらしいよね」


「わ、分かってて言ってたのね!」


「あはは、ごめんごめん、冗談だよ」


 顔を赤くして怒るアルメル。

 やっぱりそう捉えていたんだ。


 勝手に変換されるだけならスープも汁も意味は同じはず。

 けど、アルメルにはその言葉には本来ないはずの『いやらしさ』まで伝わっている。


 もしかすると、この世界には翻訳機があるわけなんかじゃなくて、そもそも言葉の壁と言う概念がないのかもしれないね。


 伝えたいことは口に出せば伝わる。

 それが、多種族の共存を許容する異世界の理なんだろう。


「アルメル」


「なによ」


「美味しいよ、ありがとう」


「べ、別に感謝されることじゃないわよ! こんなの普通よ、普通!」


「そっかー」


 照れ隠しをして見せるアルメル。

 言葉にするだけで気持ちが伝わるなら、僕はきちんと感謝を伝えたいと思うのだった。


読んでくださりありがとうございます。

よかったら感想、ブクマ、評価などよろしくお願いします。

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