1-10:湖に咲き誇る花々よりエルフの少女が可愛い件について
教授コメント
『とても興味深いエルフの美的価値観でした。長寿であるが故に生命力に重きを置いた価値観が根強いのでしょうか。引き続き調査してください』
歩いていると、アルメルが何かを思い出したように手を叩く。
「どうかしたの?」
「ええ。セカイに見せたいとっておきの場所があるのを思い出したのよ」
「僕に見せたい?」
「だって、このままだとエルフの森は木しかありませんでしたって思われそうじゃない?」
「実際そう思ってるよ」
だって、見渡す限り大木だらけで先が見えないくらいだからね。
後は全体的に暗いから苔がよく育ってるって印象くらいかな。
おかげで地面が滑りやすいんだよね。
その点でもあるメルに手を繋いでもらっているのは助かってるかも。
「それじゃ、勿体ないのよ。エルフの森にはもっと綺麗な所がいっぱいあるんだから!」
「そうなの?」
「ええ、もちろんよ。ただ、侵入者が立ち入らないようにわざと見通しが悪くなってるから見えないだけなのよ」
「ああ、これは侵入者対策だったのか」
確かに道らしい道もないし、立ち入り難い印象を与えることができるね。
「そのおかげでエルフですら道に迷うと」
「だ、だから、あれはたまたまなの! たまたま!」
「偶々かあ」
「そうよ」
「……もう一回言って」
「なんか企んでそうだから嫌よ」
「そっかー」
ばれてるなら仕方ないね。
強くは言わないでおこう。
引き際が肝心なのです。
こういうのはシーソーゲームだって、敬称付きの子供が歌ってたし。
こーいなんてー、……まだ恋じゃないけどね。
「ちなみに何を見せてくれるの?」
「ふっふー。それは秘密よ。着いてからのお楽しみ」
「勿体ぶるなぁ。期待しちゃうよ?」
「期待してくれていいわよ」
そう言ってアルメルは胸を張る。
ふふんと鼻まで鳴らして、よほど自信があるらしい。
よし、最初は驚かないでおこう。
それで、戸惑うアルメルを見て楽しもう。
「あっ、ここ! この先よ!」
アルメルが強く手を引く。
この木々の先に見せたいものがあるらしい。
しかし、この愛沢瀬海。
どんな光景が広がっていようとも驚かないことを固く誓っているのである。
「どれどれ」
評論家を気取って顎に手を当てながら進む。
「おぉ……」
木々の隙間を通り抜けた僕の視界に飛び込んできた光景に僕は思わず本気の感嘆をこぼしてしまう。
そこにあったのは大きな湖であった。
木々の茂る鬱蒼とした森の中の暗さとは対照的に、空を遮るものがないそこでは燦々と照る太陽の光がこれでもかと湖面に反射し、宝石のような光芒を辺りにまき散らす。
それに目が眩んでいたら、湖畔には光を求めた花々が密集しており、人の手が加わっているのかと疑うほど綺麗な花畑が湖を囲んでいたのだ。
「これは……参ったなあ」
思わず笑ってしまう。
こんなきれいな場所を見せられたら堪えようにも声が漏れてしまうよ。
「どう?」
「期待以上だよ。これは確かに、知らなきゃ損だよね」
「でしょ? でしょ!」
アルメルは自分のことのように喜んでいた。
「私の一番のお気に入りなのよ。皆は花なんて小さくて生命力が劣るなんて言って見向きもしないけど、私はこうやって咲き誇ってる花々が大好きなの。だって、こんなに綺麗な花を咲かせるのに、生命力が劣ってるわけないもの」
エルフは花を好まない?
劣っているというのは多分、この森の大樹に比べてということだろう。
確かに花は木々のように長い年月を生きたりはしない。
それをエルフは劣っていると感じているんだね。
「あっ、見て! ユニコーンよ!」
「え、どこ?」
「あそこよ、あそこ!」
ぐいぐいと腕を引っ張られながらアルメルの指さす方を見る。
そこには湖の向こう岸で水を飲んでいるユニコーンの姿があった。
「おおっ! 本当だ!」
一角獣とも呼ばれるユニコーンはその名の通り額にらせん状に渦巻く角を持った白馬だった。
その角には水を浄化させる作用があるとされていて、この湖はそれもあってこんなに綺麗なんだろう。
「すごいじゃない、セカイ!」
「え、なにが?」
「ユニコーンはね、心が綺麗な者の前にしか姿を現さないのよ。それも、水を飲んでる姿を見せるなんて、私だってないのよ」
「そうなんだね」
え、僕の心が綺麗だって?
ユニコーンさん、それはちょっとどうなんでしょうか?
腕のいい眼科紹介しようか?
それとも動物病院の方が良いかな?
「あ、行っちゃった」
「おっと、心を読まれちゃったのかな?」
「何を考えてたのよ」
「ちょっとユニコーンさんの身を案じてただけなんだけどね」
「? それでどうして逃げるのかしら」
「多分、病院の予約の時間だったんじゃないかな」
「何言ってるのか全然分からないわ」
アルメルが呆れ顔で見つめてくる。
いや、心が汚くてごめんなさい。
そんな風にしてユニコーンの去った後、アルメルは微笑むように目を細めて花畑を見つめていた。
「アルメルは花が好きなんだね」
「ええ。やっぱり変かしら」
「やっぱり?」
「エルフらしくないでしょ?」
「らしくない?」
そう言って肩を竦めるアルメル。
僕はこの異世界特区のエルフらしさをまだ完全に理解していないから何とも言えない。
花を劣ったものとする価値観がエルフらしさなら、確かにらしくないんだろうけど。
「そんなことないよ」
「そうかしら」
でも、それを変だっていうのは違うような気がするんだよね。
「僕は女の子らしくて可愛いと思うよ」
「かわっ、ま、またそんなこと言う!」
何度言ってもアルメルは可愛いという言葉に過剰に反応する。
言われ慣れてないのかな?
こんな美少女が?
こんな子がクラスに居たら挨拶よりも多く可愛いって言われそうだけどな。
「けど、花が好きでよかった」
「? どうして?」
「いや、プレゼント気に入らなかったらどうしようかと思ってたからさ」
「えっ!」
僕は手に持っていたビニール袋からプレゼントを取り出す。
「これは……?」
「サボテンって言う植物だよ」
「さぼてん?」
「そう。水がなくても大丈夫なんだけど、毎日ちゃんと水を上げて、大切に育てると花を付けるんだよ」
「花を……へえ」
アルメルは小さな鉢植えを眺める。
ぱちぱちと興味深そうにしばらく見つめ、嬉しそうに頬を緩ませ笑みを浮かべた。
「えへへ、えへへ」
「おー、喜んでくれてる」
「あ、当たり前じゃない! だって、いいって言ったのに、こんな素敵なさぼてんを貰って、う、嬉しくないわけないでしょ!」
怒られた、というよりは照れ隠しなんだろう。
花々に囲まれて笑顔を浮かべるアルメルは、それに負けないくらいに綺麗に咲き誇っていた。
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