第384話 動くのは世界か、太郎か
ダンダイルの行動の後、注目された太郎の行動は何もなかった。
眉間にしわを寄せ、苦渋の表情で固まったのだ。
望んでいないのは知っているが、元魔王として膝を折るのと同義になる行動を、太郎もダンダイルも理解しているからだ。
だからダンダイルも動かなかった。
そのまま多くの視線を集め、太郎が深呼吸すると、食堂で働く者達の手が止まる。
誰もが返答を待っているのだ。
「ダンダイルさん・・・狡いです。」
「だが・・・いや。ですが、我々には太郎殿が必要なのです。」
「世界樹よりも?」
「世界樹様も必要なお方です。」
太郎はもう一度、ゆっくり深呼吸した。
「俺は誰も部下にしたくありませんし、征服を狙っているワケでもないです。この世界で安全で平和な状態を維持するのはとても大変な事だと思うけど、少なくとも人同士が争うようなことは無くしたい。もちろん、可能な範囲で。」
最後の一言が、太郎らしい。
「無理に力でねじ伏せて一国が世界を支配しても、どうせ内乱が起きるだけだし。」
「それでは領土を争うような戦いをした事ですら無駄だという事になりますが。」
「無駄だよ。」
恐ろしいほど冷淡な声だった。
「でも、そういう意味なら領土を持とうとしない天使は賢いのかも。」
褒めたら邪な視線を感じた。
変なポーズで誘う踊りでもしてるのかな?
睨み返しておこう。
天使が視線を逸らしたので俺の勝ち。
「俺の計画が順調に進めば、各地で世界樹があの波動を放ち、負の魔素から守ってもらえる。だけど、そのやり方だと負の魔素が集まり過ぎてしまう。その代わりにピンポイントで対処が可能になるから、準備もし易い。・・・そこまでは考えたんだけど、面倒だから魔素溜まりの出現ポイントをガッパードさんの所みたいに洞窟作ってソコに発生させようかって思ってるんだ。封印は出来ないけど定期的に入ればもっと楽に攻略できるんじゃないかなーって。」
考えるだけなら誰でもたどり着く答えだろう、
ただし、実行すると成ればかなりの労力である。
あの規模の洞窟を掘るのだから・・・。
そう考え、それを指摘しようとする前に太郎が口を開いた。
「この辺りは幸いにも山が多い。穴を開けるくらそんなに大変じゃないからね。」
普通に考えなくとも穴を開けるというのはとんでもない労力で、もしも行うのであれば国家規模で実行するのが当たり前だ。
それを、簡単だと言った。
いや、言ってはいない。
そんなに大変じゃない・・・?
鉄道のトンネルもあっという間に貫通させていた・・・。
「太郎殿は何日程度で完成するとお考えですか?」
太郎の声は冷静で、冷たい視線だが、熱意は感じる。
「言葉遣いはいつも通りにしてください。」
「いや・・・しかし・・・。」
太郎は明らかに睨んだ。
あのダンダイルが、それだけで冷や汗を垂れ流す。
これが格の違いだという事をまざまざと見せつけるように・・・?
世界樹様も太郎君の頭の上で仁王立ちしているとは?!
「アンタねぇ、知ってるんならやめなさいよ。」
「じゃー、アレだ。厳命。」
ガッパードが大笑いしている。
従うと決めたモノに言われたら断れる筈がないのだ。
「厳命とは言うたもんじゃねぇ。断ったらどんな罰則があるか・・・。」
「一ヶ月カレー抜き。」
ガッバートが苦悶し、メイリーンが苦笑いする。
そこへいつも通りに仕事をしているエカテリーナは、テキパキと指示を与えて給仕を動かす。見事な管理能力だ。
そして、ダンダイルにそっと近づき・・・・・。
「太郎様の命令でしたら、例えダンダイル様にお願いされても断りますので。」
美しい営業スマイルだ。
やっぱり一番強いのはエカテリーナなんじゃないか???
「・・・太郎君が本気なのは知っているが、これでは纏まらない。」
「人は競わないと発展しないし、争わないと意見が通せない。」
「太郎君?」
「より良い世界を作ろうとすれば、そんなものは必要ないという人だっている。」
「古き良き時代だな?」
「ガッパードさんの言う事は、あの頃は良かったが今は気に入らないってだけです。受け入れられない人、他人の意見を認めない人は必ず存在します。特に、あいつが嫌いだから同じ事をしたくないって言われてしまえば、どうしようもありません。」
「では全てが無駄か?」
「そんな事は無いです。平和な時代に行った事は、必ず未来の平和に繋がります。その間にどんなに凄惨な時代があったとしても。」
「人の歴史は争いの歴史とも言うからのう。」
ナナハルが太郎の後ろに立った。
なんでニヤニヤしながら俺の首筋撫でるの・・・。
「太郎はこういう男じゃ。従わなくても問題はない。だが、邪魔をするのなら太郎が出るまでも無い、わらわ達が相手になる。それだけじゃ。」
太郎が頭の上のマナを掴んで膝に座らせる。
「俺は君臨したい訳じゃないって事だけは理解して欲しいかな。」
「そして強さを求めているワケでもないか。」
「自分を守る為の強さは必要だと思うよ。残念だけどこの世界じゃ生き残れないと何も言えないから。」
ダンダイルが諦めて姿勢を崩すと、フィフスとマリナが寄って来た。
二人とも守るべき存在ではあるけど・・・強いよね?
普通に戦闘能力が弾けるほど強いよね?
そのマリナがスカートの中から本を取り出す。
マナの悪いところを真似して欲しくないんだけど・・・なにこれ?
「怖くて入れないからって、代わりに受け取ったの。」
「確かにココにさらっと入れるようになるにはちょっと辛いかの。」
トコトコっと駆け、太郎にズイッと渡す。
受け取った太郎が本のページをめくると、綺麗な絵と説明が書きこまれていて、どの絵も太郎が欲しいモノばかりでだ。
「この本って、わざわざ作ってくれたんだ?」
「デュラハーン達の目が真っ赤だったから回復魔法かけといたよ。」
どうやら徹夜で写しを書き上げたらしく、ふらふらしていたらしい。
「・・・回復魔法使えたんだね。」
「うどんに教えて貰った!」
「回復魔法は低回復でもかなり高等技術なんじゃが・・・まあ、こやつなら不思議でもないか。」
「えへへー。」
嬉しそうにスカートの中から次々と本を出す。
その本一冊で100ページくらい。
それなりの厚みが有るのは製紙技術の問題だが、それにしたって、どんどん出てくるから代わりにナナハルに受け取ってもらう。
「予備も含めて10冊作ったって。」
「凄いな、コピーしたみたいだ。」
「こぴぃ?」
「あ、寸分の狂いも無く綺麗だなって事。」
頑張らない言語加護。
「この本も一つの歴史になりそうじゃな。」
「叡智も強者の証か。」
「ガッパードさんは、あんまり煽らないでください。」
知識でもナカナカ負ける事の無い最年長のドラゴンが、太郎には勝てない事が多い。だが、だからこそ生きている実感が湧き、今は少し楽しい。
本はいつの間にかあっちこっちに行き渡り、マリアとマチルダが、その本の中身を見て目を血走らせている。
怖いんだけど。
「海の底に棲息している生き物の資料なんてどうやって作れるのよ。」
「こんな鳥f見た事がないけど?」
「正確かどうか知らないよ、以前の知識だし。」
「以前の・・・?」
以前に住んでいた世界の事を詳しく話す事はあまり無いが、特に隠すような事もしなくなった太郎である。
「生物図鑑とか何冊かあるけど、役に立てばいいかなって程度だったから。あの時は何でもいいから詰め込んだし。」
「あー、出発前の日の事ね。太郎ったら変な物いっぱい乗せるんだもん。」
「まあ、一番役に立ったのはキャンプセットだけどね。電子機器は持ち込む意味ないし・・・。」
そして今更ながら思い付く。
「発電機も買えばよかったかな・・・そうすれば。」
「それが有ったら何が出来たの?」
「電子レンジとか使えたかも。」
「チーンてするやつね。」
「そうそう。」
またパパとママが不思議な話をしています。
狡い。
ムスー!!
「わらわも何を言ってるのか分からんのだ、拗ねるな。」
「私もお話ししたーい。」
うどんが困惑して立ち尽くすダンダイルを後ろから抱きしめてナデナデしていて、もりそばがガッパードの肩に座る。
なんでみんなマナの影響受けてるのさ。
「強い者はより強い者に惹かれる。」
「そして強さを競う・・・か。」
二人が変な事を言うので太郎が槍のように言葉を刺す。
「過ぎたる力は破滅を招く・・・ってね。」
「何故その言葉を知っておるのだ?」
古の偉人の言葉らしいが、そんな事ぐらい誰が言っても不思議は無い。
「制御しきれないほどの力なんて滅亡への道しかないでしょ、負の魔素だってそうなるんだから。」
「そうかもしれんが、お主が言うとまるで経験したみたいじゃないか。」
太郎は自分の国の歴史を知っている。
日本では過去に戦争に負けた。
その負けを決定づけたと言われる禁断の兵器。
負の遺産ともいえるし、この世界なら負の魔素にもなるだろう。
「たった一回の爆発で10万人の人が死んだって信じる?」
「爆発・・・とはどんな魔法なのよ。」
マリアとマチルダの目が怖い。
本はがっしりと握ったままだから、その目でこっち見ないで。
「俺の世界では核兵器って言ってたけどね。もっとすごい兵器も開発されてるらしいけど、威力までは知らない。」
「核兵器って兵器って言うからにはなんかしらの武器なのよね?」
「そうだね、核爆弾。」
「爆弾って、どんなに頑張って火薬を詰めても城を吹き飛ばすのにどれだけの火薬が必要だと思ってるのよ。それが10万人って。」
「火薬って見た事ないけど、ちゃんとあるんだ?」
うどんに撫でられているダンダイルが答える。
「有る事はあるが、とても高価で、戦闘で消耗品にするような物ではないな。同じ重さで金より高い。まあ、キラービーの蜂蜜には負けるが。」
「火薬じゃないからなあ。」
「・・・もうちょっと詳しく!」
「・・・めんどくさいし、詳しくは知らないよ。」
ちょっ、その目やめてー、目から赤い涙出てるよ。
「た、多分、本が有るから見せても良いけど、絵しかないよ。」
「絵でもいいわ、約束だからねっ!!」
知識欲が凄くて怖い。
「それって簡単に作れるモノなの?」
「そもそも素材が手に入らないから無理だと思うけど、魔女なら魔法で代用しそう。」
「では、封印じゃな。」
「もちろん、絵を見ただけじゃ解らないと思うよ。説明は日本語だし。」
「・・・わらわも見たいぞ。」
耳をさわさわしないでっ。
ふにゃっている太郎を見詰め、溜息を吐いたもりそばが、笑顔でダンダイルにきつい一言をとばす。
「これが絶対強者に見える?」
マリナとフィフスに脇をコチョコチョされて遊ばれている者を見て、ダンダイルはうどんのヨシヨシを受け入れる事しかできなかった。




