第382話 鈴木太郎という人物
この世界に現れ、行動し、殺された。
生き返る事は出来たが、それが鈴木太郎を大きく変えてしまった事は本人も気が付いていなかった。
だが、今は知っている。
寿命の無い身体に成ったという事を・・・。
「本人の話ですがね、太郎君は死んでいるのですよ。」
「それを信じろと?」
自国の国王の言葉に、ジェームスは無言だった。
それは知っている事を意味する。
寿命について迄はマナ以外に誰も知らないが。
「そうすると、勇者なのか?」
「いや・・・鈴木太郎は、只の普人だ。」
「頑張れば少し強い剣士くらいには成れたかもしれないけどな。」
「それにしたって強すぎだろう・・・。国境の戦争に参加し、魔女と勇者を相手に戦って生き残り、グリフォンを手懐け、ドラゴンを撃退し、天使とエルフと仲が良く、ゴリテアを破壊。そして、俺の国も脅威から救った・・・。英雄と呼ぶには十分な条件が揃い過ぎている。」
話を聞けば聞くほど、考えれば考えるほど、鈴木太郎という人物がとても恐ろしく感じる。だが、それが一般的に受ける感覚だと思うのは一同が同意する。
ガッパードですら否定しない。
「それだけではないですよ。ワンゴを捕まえたのも、ギデオンを捕まえたのも、あの太郎君なんですから。」
「で、逃げられたんだろ。」
冷たく言い放ったが相手は動じない。
「直ぐに処刑するとどうなるか分からなかったモノでしてね。今もギデオンを持て余しているんですよ。」
ギデオンが捕まった事は各地の冒険者に衝撃を与えた。
あの男をどうやって捕まえたのか、生かして捕らえるのは殺すより困難だというのに・・・。
「ハンハルトも助けられているしな。」
「どうやってボルドルトの戦意を削いで戦争を止めたのか、気に成るところだが。」
「そうやって見てこられても、俺は知らないぞ。」
「というか、今回は戦歴も重要なんですけど、魔王国としては太郎君に何かしてあげたい。しかし、国が出来るような事でも太郎君は単独でやってしまう。」
「主に太郎君の仲間がな。」
食に拘らなければ、穀物類はこの村一つで国を支える事が可能だ。
家畜も牛とニワトリがいて、カエルも養殖している。
「人気がある肉ならレッドボアだが・・・海産物を欲しがっているから、それならなんとかなるな。って言ってもなー・・・・」
欲しがるモノの中には名称が分からないモノが多く、絵を見せられて同じモノが欲しいと言われても、漁師ではない自分では詳しくわからない。
キンダース商会から一応の報告は受けているが、国王としては蚊帳の外である。
「それほど価値があるとは思えませんね。」
「高級食材が有っても気に入るかどうかわからんしな。」
「太郎君の欲しい物って・・・。」
キンダース商会が纏めたリストは、直接太郎から訊いたのではなく、色々な所からの情報提供によって集められたものだ。それをジェームスから受け取り、テーブルに置いた。こればかりは独り占めしても意味がない。
何しろ解らないモノが多過ぎるからだ。
「良く集めたな。」
「借りを作ると碌な事が無いのは良く理解しているつもりだ。」
既に十分経験していて、ジェームスからも注意されている。
「・・・どう見てもモンスターが居るんだが、太郎君はこれを食べるつもりなのか?」
「そうなんだよ、それなんだよ。大きくても顔と同じぐらいとか言っているのに、漁師から訊いたらただの魔物なんだって事がいくつもある。」
「お前にしては良く調べたな。」
「ジェームスも手伝えよ。依頼に出しとくからな。」
中途半端に褒めた事を後悔しても遅かった。
その所為で仕事が増えたのだ。
「あんなのでも一応は国王なのだから注意して。」
と、フレアリスに言われていたのを思い出して、苦汁の様な唾を飲み込んでいる。
リファエルはワクワクとして、その隣のミシェルはドキドキして、そのリストを二人で見ている。
天使がこんなに近くにいることで興奮している自分が居るのだ。
エッセン親娘も場違い感に悩まされつつ、どうにか溶け込もうと必死だ。
小声で父親に耳元で呟く。
「あの国王がなかなか図太くて凄いわ。」
「見習えとは言わない。だがあの魔女なら見習っても良いな。」
「うーん・・・。」
参加している魔女はマチルダで、一応はガーデンブルクの将軍である。
将軍だが、今は私服で、一般的な町娘と変わらない服を着ているから、人混みで擦れ違ったら全く気が付かないだろう。
「なんにしても、このリストは写しを作っても良いわよね?」
「構わんが、直ぐに作れるのか?」
「この村には書記が得意な種族が居るのよ。頼られたら大喜びするから明日の朝までに用意出来るんじゃないかしら。」
「明日の朝ってもう時間は無いぞ?そんな奴らが居るのか?」
「あー、デュラハーンか。」
「そう。」
長く引き籠り生活のおかげもあって字も綺麗だし、仕事と報酬が有れば彼らにも生きる道を見付けられるだろう。もう殺戮は目的に無いのだ。
夜でも明るいところに寄ってくるカラーを餌で釣って捕まえると、呼んでくるように頼む。数分後に現れたのは何時もの彼女だ。
「はい、お任せください。夜明けまでには同じモノを10冊作っておきます。」
「紙は気にしないで高級なモノを使ってね。報酬はキンダース商会から出しておくわ。結構な量だけど材料は足りる?」
「大丈夫です、紙は以前より良いモノを作って保管してあります。」
一冊しかないリストなので、ファリスに渡す事でこの話は打ち切りになったので、次は食べ物以外で鈴木太郎を満足させられるモノを考える。
「貴族階級に興味が無いのは本当なのか?」
「全く無いと言うワケでもないが、欲しいかと聞けばイラナイと答える。」
「エルフも貴族階級の意味は殆ど無いので理解はデキますな。」
「ミカエルが侯爵とか呼ばれるの見たら笑っちゃうわね。」
「お母様の方が侯爵では?」
「いらなーい。」
ジェームスが苦笑いする。
「こんな感覚だぞ、諦めろ。」
「うむむむ・・・。」
「何しろ欲がない。物欲と性欲は有るんだけどな。」
「女か?」
「・・・すまん、訂正する。性欲は有るが、もう満足していると思うぞ。」
「九尾が嫁だもんな、そりゃそーか。」
リファエルが無言で青筋を立てている。
自分ほどの美貌が有っても断られるなんて考えたことはなく、落とせない事を思い出しのだから。
「九尾以上ならドラゴンクラスになるよねぇ。わた・・・。」
「お前は駄目だ。」
本気で言っているのが分かるのでメイリーンは笑ってごまかす。
駄目と言われてもいつかは有っても良いかな。
と思っているのは言えない。
「そもそも、天使もエルフもあの男の味方なんだろ、貴族である必要性も無いよな。」
「我々にとっては神様だ。」
「敵対するやつなんているか?」
ジェームズがにやりと笑う。
「俺も太郎君の方が良いな。敵対するつもりならココに住むぞ。」
「あー、悪かった。止めてくれ、頼むから。」
「我々が全力で戦っても勝てる気がしないからこそ、神に等しい。」
「天使の全力なんて国が幾つあっても足らないぞ。」
「ゴリテアの時の神様の戦いを見たら戦おうなんて微塵も起きないわ。」
「オリビアに言われたわね、敵対するような発言だけはしないで欲しいって。」
「ばーちゃんも戦う気はせんねェ。」
「本当にどういう男なんだよ。」
「そこまで何も求めないのでしたら、何も与えなければ良いのではないですか?」
コンラットの発言はマチルダも驚いた。
「凄いコトを言うわね。」
「こっちにも情報源は有るんだ。ツクモ様が正式に九尾に成長したのも太郎殿のおかげという話だし。トレントが成長して人型に変身できるようになったし。」
「なんで他人の成長にまで関わってくるんだ・・・。」
もう驚けない自分に、疲れの所為もあってゲッソリとした表情になる。
「そうすると、あとは何が残ってるんだ?」
議題に困るとドンドン突っ込んでくる男に、最初は不快感もあったが、今は逆に頼りになると考えを改めている。なにしろ、このメンバーの中で一番お喋りなのだ。
「最大級のモノが一つある。」
「えぇ、魔素溜まりが。」
魔素溜まりは今も世界のどこかで発生し、魔物を生み出している。
今までは不明だった部分の一部が解き明かされた事も有って、脅威度は少し下がった。それでも、世界最大の謎と脅威の根源なのは過言ではない。
「魔素溜まりが無くなる事は無い。全ての負の魔素が一ヶ所に集まらない様になっているのは努力の結果だと思っている。そうでなければ昔の聖女の様に身を亡ぼすだけだ。」
「あの時、世界樹を燃やしたのも、世界が滅びないようにする為だったと?」
「当然だ。そこの魔女に騙されはしたが、結果だけいうと半分は間違っていない。」
「世界樹の波動による影響は限定的だったのよね。」
「あのまま成長を続けても世界を覆いつくすことは無かっただろうな。それを考慮してなのか、あの男は世界各地に世界樹を植えるらしい。上手く配置すれば負の魔素の発生源を何ヶ所かに分ける事でより安全に監視できるだろう。」
「あー・・・太郎君って、そこまで考えていたのか・・・。」
「いや、今は適当に配置している。というよりも、良く忘れるとも言っていたな。」
イイカゲンな奴だなー。
と思ったが、おしゃべりな国王は言うのを止めた。
「やる気を出したら数日で配置は終わるんじゃないかしら。」
「そうだな、ではどこに配置するか調べて助言するとしようか。」
「情報が足りないわ。」
「それはお前達の方で集めてくれ。ワシはもう少しのんびりしたら帰る。」
僅かに綻ぶ笑顔に、娘がその小さな変化に気が付く。
「お父様、もしかして少し元気になりました・・・?」
「ん?あぁ、カレーはイイゾ、元気が出る。」
メイリーンは満足気に笑顔になった。
ただ、その会話は二人だけのもので、マチルダはしっかりと話の続きをする。
「でも、世界樹の苗木を作るのは凄い疲れるって聞いたけど、今はどのくらいあるのかしらね?」
「まぁ、足りないって事は無いだろうな。」
「それもそうね。」
その後に鈴木太郎だからと同じ事を想起している。
「それにしてもなぁ・・・。」
「どうした?」
「鈴木太郎って結局何がしたいんだ?」
全員の頭の上にクエスチョンの花が咲いた。
・・・咲き誇った。
「世界樹を育てる事じゃないの?」
「それにしては強くなり過ぎだろう?」
「強くなるという事は悪い事ではないと思うが・・・確かに強いというダケで敵を増やす事にはなるな。」
「それにこの・・・村だっけか、こんな規模の村なんて聞いた事ないぞ。孤児院だけで数百人の子供が居るんだ。」
「畑だけでも種類が豊富で羨ましい。」
「そーよね、家畜だって育ててるって言うし、あの料理長みたいな子が作った料理は何でもおいしくて凄いのよね。」
「レシピが公開されてるみたいだし、持って帰りましょう。」
うんうんと向き合って笑顔で頷くエルフ国の二人。
お付きが恥ずかしくて困った表情でおでこに手を当てている。
「まぁ、食べ慣れた私だって驚く事ばかりだしね。」
「ばーちゃんものんびりしようかなー。」
「薬草の類も育ててるんなら、なんでもアリじゃないか。ただの回復薬じゃなくて霊薬レベルのモノだって・・・。」
「それなら売ってるぞ。」
「売ってるだと?!」
ジェームスに掴みかかっている。
グラグラと揺らされて気持ち悪そうだ。
なので答えたのはドーゴルである。
「城下町の外れの方でエルフの店が有りましてね、評判の良い店です。ここで作った調理用の道具も人気が高いですし。」
「ここでは売ってないのか?」
「売ってますよ。ミスリル製の道具が。」
「そんな事にミスリルを・・・?!」
「ドラゴンでも使える道具だと良いねぇ。」
「ああ、鉄製でも壊れやすいですもんね。」
「ちがうよー、ばーちゃんのブレスに耐えられれば料理が少し楽になるから。」
食材の方が耐えられないのでは?
という疑問は疑問のままにしておく。
「なんか、すぐ飯の話になっちゃうなあ・・・。」
「あはは、ごめんねー、ばーちゃん作りたくても作れなかったからついつい。」
ドラゴンが謝ったという事実に気が付いた者を無視して、話題を変える。
「魔王国の兵士だろ、エルフだろ、天使だって見回ってて、ケルベロスにキラービーに、ワイバーン・・・、伝説とも云われたカラーがこんなにたくさん見かけるんだぞ、しかも人懐っこいし。」
「カラーなら私の土地でも見かけたが、ココまで懐いているのはいなかったな。」
「極めつけは大木だ。それがあの世界樹だぞ、この村が野盗に狙われたって不思議じゃない。」
「この村が出来始めた頃は、誰も寄せ付けないような枯れはてた土地でしたが、それを住める土地に変えたんですから、太郎君が建国しても誰も文句は言わないでしょう。」
「するつもりなのか?」
「そんな面倒な事はしないでしょう。」
何故か魔王が得意満面で答えた。
ダンダイルが苦笑いしてから溜息をついた。
「問題は幾つも有ったが、基本的には解決済みだ。まぁ、問題を起こした原因の大半が貴族なんだが。」
自分で言いつつも耳の痛い話である。
これはドーゴルの統治能力の問題ではなく、この村の存在を隠蔽し事が逆に狙われやすくなった原因の一つでもあるからだ。
「街道の整備に、あの何とか列車、夜でも明るい村の灯り、旅人の為の道中にある宿泊施設、それに鉱山・・・かなり儲けてるよな?」
「我々の儲けではないぞ、税金だってこの村には無い。そもそも逆に助けてもらっている立場で税金をヨコセなどと言えるはずもない。」
「・・・金貸しってないのか、この村?」
ジェームスが睨んだ。
僅かに殺気も混じっていて、流石に腰が引けた。
「あのな、魔女と繋がっているのにココで借りてもキンダース商会が取り立てに来るぞ。」
「ああ、そういえばまだ返してもらってないモノね。」
今度は魔女に睨まれて脂汗が出る。
余計な事を言わなければ忘れていたかもしれないのに。
「りょ、漁が再開しているからいずれは返せる。」
「何10年・・・いや、100年は掛かるんじゃないの、それ。」
「理由は知らんが、シードラゴンが邪魔をする事は無いという話だ。それに今は国費を投じて漁をさせている、安心して良いぞ。」
ドヤ顔の国王様に対して、ジェームスが重すぎる溜息を吐いた。
「それも、太郎君のおかげだからな。」
「えっ・・・なんで・・・いや、もう、無理。参った・・・。」
両手を上げて降参宣言をすると、魔女が柔らかい声で笑った。
くすくすと笑われる我らの国王様は情けない限りだが、こんな場所でなければ普通に国王をしている。やはりこの場がおかしいのだ。
俺も笑っとこ。
「笑われたし、プライドも無い俺はワイバーンを貰って行こうかな。」
「それはイイが子供の仕事を横取りするなよ。」
ワイバーンは主に手紙を配達している。
子供達の貴重な収入源も配達である。
「ああ、そのくらいは分かっている。」
「なら、解散でよいな?」
ガッパードがそう言うと総意を得た。
やる事は決まったし、出来る事も限られているが、各々が太郎の為に活動するという事に満足しない者を無視して、それぞれに宛がわれた寝室へ向かって行く。
ちなみに、彼らは全員朝寝坊する事となる。




