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第381話 これからの事

 豪勢な料理をたらふく食べ終えた彼らは、別室で話し合いをする予定になっている。

別室・・・と思っていたのだが、東屋のような建物だ。


「東屋だよね?」

「そういう名称は知らんな。」

「八角形の屋根で、柱は有るけど壁が無くて、ベンチが有って野外にある休憩所みたいな。」

「ガゼボというのなら昔からありますけど。」


 なにそれ知らない。

 何語?

 ワルジャウ語じゃないよね?


「ガゼボガゼボガゼボ・・・。」

「何をしておる?」

「言語がたくさん有るのは知ってるけど、知らない言葉ってどうなるのかなって。」

「言語加護かの?」

「うん。」

「庭園を造って観賞するなんて貴族でも極めて一部の話ですよ。広くて美しい庭園は平和と権力の誇示になりますし。」


 説明してくれるのはサマヨエルだ。

 何故か俺にベッタベタに惚れてしまっていて、まるで初恋を知った女の子のように頬を染めて見つめてくる。

 タスケテナナハル。


「天使を孕ませる男など自慢にしかならんわ。」

「そーゆー考えだけはついてイケナイ。」

「良いんですよー、神様なんですから。」

「マナやフィフスはどうなるんだよ。」

「ミカエル様がお決めになる事なので。」

「リファエルは?」


 その名前を口にした直後、サマヨエルが真横に吹き飛んで、代わるように現れた。


「呼びましたか?」

「呼んでないけど、扱いが酷いな。」


 トレントの木に激突・・・してない。

 枝に引っかかっている。


「太郎が困るような事にはならんよ。トレントも誰がこの土地の支配者か解っているからの。」

「そうですねー。」


 リファエルは最初から俺に惚れている感じがしていたけど、息は遠慮がある。

 神様が嫌がるのなら認めてもらえるまで待つとの事だ。

 俺が悪いみたいな言い方はやめて欲しいんだけど。

 ナナハルに相談すれば、やってしまえば良いと軽く言う。


「神様は参加しないのですね?」

「しません。」

「させんぞ。」


 ナナハルが天使相手でも鋭い眼で尻尾を太郎に巻き付けた。


「神様の一言で決まるんですけど。」

「それがイヤだから参加しないんだよ。」


 不思議そうに見詰め返された。

 




 トレントの木々と流れの緩やかな小川に囲まれた中に在る休憩施設で、太郎はそれを東屋と呼んでいる。

 虫の鳴き声が響く静寂さと、月が映るその小川には橋が掛かっていて、その橋を渡らないと中に入れない。深夜に集まった者達は、腰を下ろせる場所に適当に座って、あらかじめ用意されていた温かい紅茶を飲んでいた。

 ここに序列なんてものは無いのだ。

 多少の遅れがありながらも、揃ったメンバーは―――



 ハンハルト国王、ジョニス・ド・ハンハルト。

 お付きの冒険者ジェームス。

 ガーデンブルク国王、コンラット・ドゥ・ガーデンブルク。

 お付きの魔女マチルダ。

 魔王国の国王、ドーゴル。

 お付きのダンダイル。

 聖天使リファエルとお付きのミカエル。

 エルフ国からはるばるやってきたミシェル・ボビンズ。

 お付きはアルベルト・エッセン。

 ・・・と娘のリア・ロッテ・エッセン。

 そしてドラゴンのガッパードと娘のメイリーン。



 フーリンとエンカは参加せず、ファングールと一緒に酒を飲んでいる。

 ブロッグーンとバロッグーン、スフィアの三人はガゼボと呼ばれる東屋の周囲で控えている。ピュールは拒否する事が出来ないまま強制参加として連れて行かれていた。

 そこで最初の話題になったのはハンハルトの事だった。


「お前の仕業か!!」

「私はそこまで指示してないのよ。でも、なかなか知恵が回っていたのは意外だったわね。」


 ハンハルトで起きたドラゴン襲来事件の真相を全て知る事になったことで、国王としては巻き込まれたダケなのだから、怒って当然だ。

 それに殺された将軍と被害も無視できないほど甚大で、キンダース商会には国の権利をいくつか認めさせられている。 

 自分の国でなくてよかったと、ホッと胸をなでおろしている国王が一人いる事には気が付かなかい。


「その代わりにコルドーでの優先権を譲ったんです。」

「魔王国も知ってたのか・・・。」

「個人的に教えた。当時は国の方針としての変化はない。」


 ダンダイルがいつもにも増して低い声で答えた。

 威圧ではなく、その低音で黙らせたのだから、ガッパードが感心している。


「そもそも負ける方が悪い。」


 ピュールがそう言った事でハンハルトの国王は黙るしかなかった。

 何しろ街には被害を出さなかったのだから、当時のピュールの行動の方が称賛されている。もちろんドラゴンの称賛だ。

 魔女は褒めていないし、他の国王も納得しないだろう。

 解決したのはフーリンで、マチルダは邪魔をされた事も知ったが、文句は無い。


「なら、コレは情報を交換したという事でいいな?」

「・・・。」


 異論なし。

 逃げようとしたピュールは出て行く事が出来ず、そのままガッパードの後ろに立たされる事になった。ここに居るドラゴンでは、メイリーンも褒めはしなかったが、頑張っているのだと認めたらしい。

 ちなみにピュールの両親は万年雪の積もる山奥に引きこもっていて、何も知らない。

 いずれ知る事になるだろうが、今はまだ教える必要も無いと思っている。

 話を聞いた結果、彼らが思った事と言えば・・・。


「あの鈴木太郎がどうやって成長したのかという話にもなっているな。」

「まさか魔女と勇者を相手に戦っていたなんて知らなかった。」

「それについては後で教えますので。」

「ここで秘密は無しだぞ。」


 ジョニスがコンラットを睨む。

 怖い訳では無く、知りたいという事と、隠す事は良い方向に向かう事は無いと思い、同意を示すと、マチルダは小さな息を吐き出してから説明した。

 そもそもの発端である、ガーデンブルクによる魔王国への侵攻から始まると、それ以降は殆どが鈴木太郎についてに変わっていく。最後に砦を破壊された事で終わったが、グリフォンの存在も明らかになった。

 とは言っても、そのグリフォンはこの村で大人しくしているのだから、とんでもない話である。今は一緒に居るベヒモスについては話していないし、今回は関係がない。

 話を聞いた後にため息を吐き出して、ジロリと睨んだ。


「世界樹が原因と言いたいのか。」

「当時は間違っていないと信じていたので。」

「そうやって我々をも騙したのだな。」

「結果的にはそうなりますね。」


 ガッパードとマチルダの会話は、苛烈なモノは無く、冷静に、淡々と綴られる物語のようであった。それだからこそ、じわじわと恐怖感が漂って行き、耐えられない者がガタガタと震えだした。


「ストップ!」


 静止の声は意外な者からだった。

 この席で最も一般人に近い男からであった事に、ダンダイルからの評価が上がった。

 以前からこの男を気に入っており、部下にしたいと考えた事も有ったくらいだ。


「ウチのモンが耐えられん、やめてくれないか。」

「なんでお前、平気なんだよ・・・。」

「慣れた。」

「それより、お前・・・知ってただろ?」

「・・・あの当時に全て話しても、どうせ混乱するだけで俺に丸投げしただろ。」

「う゛っ゛・・・。」


 それが容易に想像できるジョニスが否定できずに口をへの字にしたので、いったんは静かになった。


「まあ良い。許すワケではないが我々の落ち度を認める事にもなる。」

「良いんですか、お父様?」

「駄目と言うからには鈴木太郎と全面的に敵対するか?」


 父親らしい厳しい声で窘めると娘は大人しく引き下がった。

 父親の父親らしい威厳は娘の心を冷えさせたのだ。


「こんな事を我々だけが話し合っても意味は無いと思うのだが。」

「太郎k・・・太郎殿の考えでは話し合う事こそ必要だと考えているようです。」

「ほう、魔王として君臨していたお前がそう言うか。」

「ガッパード様もそう思ったからこそココに居るのでしょう?」

「・・・暇つぶしだ。」


 ゆっくりと視線が自分に集まるのを感じて、もう一度言った。


「暇なのだ。だから遊びに来ただけだ。」


 エルフ国から来た3人は暇つぶしではないし、運んでもらった身なので文句も言えないが、瞬間移動は恐ろしいし、それが扱えるダンダイルもすごいと思っている。

 そのダンダイルが鈴木太郎を無視できないのだから、一体どういうことなのだろう。

 暇つぶしで来たドラゴンもそうだ。

 最強最悪の凶悪なドラゴンといわれていたと思ったが、実際はちょっと優しいおオジサンに見える。

 いや、見えては困るのだけど。

 この雰囲気だからこそ、意を決した。


「よろしいですか?」


 席を立とうとする途中の動作で止め、右手を小さく上げる。

 返答は無いが、頷きが有ったので直立する。


「この会議の真意ってなんでしょう?」


 ガッパードが応じた。


「九尾が言うには、こんな機会でないと顔を合わせることは無いだろう。という事だったのでな。」


 ダンダイルが続く。


「本来はただの太郎君の家の完成記念パーティだからな。」


 リファエルが付け加えた。


「神様の真意を知る事じゃないかしらね。」

「あの、太郎殿の事を神様って呼んでいるのは何度か聞きましたけど、本当に神様なのですか?」

「神を見た事が無いから知らないな。」


 ジェームスの回答は至極当たり前だったが、納得するには十分である。


「ただ、神から使わされたのが世界樹で、その世界樹と一緒に異世界からやってきたのが太郎君だ。存在しないという事は無いんだろう。」


 知らない者は素直に驚き、知っている者は深く考え込む。

 黙っているつもりでいた男は、この席で一番きっちりとした服装で、姿勢も正しく、微動だにしない。だが、彼はあの鈴木太郎の為人をずっと考えていて、明確な答えは出ないが、一つの方向性を見出していた。


「我々が彼に役立てるにはどうすればよいでしょう?」


 それは何よりも受け入れやすい提案であったかもしれず、一同は再び深い思考の海に沈むコトとなる。






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