第376話 影響力
設置された門の一つは魔法研究所に有り、誰でも簡単に出入りが出来る。
研究所で働いている者達も居るが、今は働いておらず、マリアの案内で門をくぐって行く・・・。
袋の中に入ると、以前よりも広くなったような気がする。
カラーやキラービーも棲んでいるので無駄に賑やかな場所がある。
そっちに用はないので、とりあえずみんなが集まるのを待っていると、ここに住むトレントが現れて、マナとは比べられないくらい丁寧なあいさつで出迎えられた。
「ちょっと前に来た時と、なんか雰囲気変わったね?」
「はい。アレからいろいろ勉強しまして、マリア様のお力もお借りしまして、巨大な山と川を創りました。ただの溜め池も小さな湖になりました。」
周囲を見ると、確かに畑が多いし、小高い丘のような山も見える。
流れる川は緩やかで、ササガキが元気に泳いでいた。
泉のように水が湧き出ているが、これは循環させているだけらしい。
何時だったか、マリアに水の濾過について尋ねられたことが有った気がする。
農地ではワイバーンが働いていて、器用に鍬を持っている。
器用過ぎるだろ。
「これが人の能力だけで創った世界なのかねぇ。」
メイリーンは一度来ているが、それでも口を開けて周囲を見回している。
「ほぉ。確かにこれは凄いな。」
青い空と疑似太陽。
最近は雲も流れていて、雨も降るとのこと。
そこへガッパードが現れると、同じようにトレントがあいさつをする。
そこから奇妙な事が起きた。
「・・・なんでポニスだけが?」
後ろに荷台を曳いていない首なしのポニスが現れた。
・・・なんかどんどん集まって来るんだが。
「私の周りに集まってるみたいなんだけど。」
確かにファリスの周りに集まってくる。
荷台が無いのでぎゅうぎゅうに詰めてくる。
当然の様にデュラハーン達も集まってきた。
彼らのポニスが勝手に移動したので追いかけてきたらしい。
「なにが、どうなっているんだ?」
「助けて欲しいみたいですね。」
と、太郎が首の無いポニスの頭を撫でている。
今度は俺に寄って来た。
なんで。
「お主、ポニスが何を言っているのか分かるのか?」
「え、いや・・・なんとなく、そんな感じが。」
「そうか、お主が言うなら間違いは無いな。」
トレントが不思議そうに見ている。
見ている相手はガッパードだった。
「・・・もしかして、ですけど・・・ドラゴンですか?」
「そうだが、以前に娘が来ているから知っているだろう?」
『どらごんがきましたあああああああああああああああああああ!!』
なんで急に?!
『うるさあああああああああああああああああああああいいいい!!』
マナが対抗するから頭がグワングワンする。
「とてつもない念波だな。」
「ばーちゃんでもちょっと辛い。」
ドラゴンでもこのありさまだ。
「ま、まあ耐えられないことも無いですけど。」
「何とも規格外な者よの。」
「神様だからな!」
フィフスは目がグルグルしたままで余計なこと言わないで。
マリナもふらふらしてる。
集まってきたデュラハーン達は殆どが倒れた。
「100人くらいは集まって来たな。」
そんだけ居るんならいいかナ。
「フィフス、出来る?」
「いいよー。」
フィフスはガッパードの頭の上に立つと、両腕を広げた。
ビックリしているメイリーンは父親に対してである。
普通に受け入れているけど、重くは無いんだよね。
暫く見ていると、何やらどす黒いマナが集まっているのが肉眼でも見える。
「すごいねぇ・・・。」
「ああ・・・。」
フィフスの身体の周りに黒い靄が漂うと、その身体に吸い込まれていく。
ガッパードの周りにも集まってるけど気にならないのかな。
「ねぇ、ポニスに頭が有るわよ!」
珍しくマナがビックリしている。
今度はガッパードの周りに集まってきて、ガッパードの上に立つ少女を見詰めているようだ。
「感謝してるみたい。」
「これなら解るぞ。」
ガッパードがポニスの頭を撫でると小さな声で鳴いた。
倒れていたデュラハーン達も、やっと起き上がり始めると、自分達の身体の異変に気が付く。
ちょっと自分で首引っ張るのやめてくれないかな。
嬉しそうに頭を叩きあってるんだけど、なんだこれ。
いつの間にか顔にアザが有るんだけど大丈夫かな。
後続で控えていたスー達は、遅れて入った事で被害はなく、目の前の状況に頭の上に「?」を何個も浮かべていた。
ちなみにマリアは逸早く避難していて、今はスー達と一緒にいる。
「ポニス達が凄い居ますねー・・・。」
デュラハーン達は再び現れたマリアの方に集まり、ポニスはガッパードの肩に座るフィフスの方に集まっている。
「ファリスはいますかー?」
「あ、はい。」
「説明してもらっても?」
ファリスが起きた事をそのまま話し、スーもポチも納得するしかなかった。
マリアは理解はできたが、次々と現れるデュラハーン達に戸惑っている様子だ。
赤子を抱いたデュラハーンもぞろぞろとやってくる。
いや、もう凄い人数なんだけど。
「とりあえず、広い場所に行きませんか?」
「じゃあ、完成した城の前に広場が有りますのでそちらに。」
誰が言ったのか分からなかったが、その人の声でみんなが移動を始める。
きっとこの国の代表者だろうな、振り返ってはガッパードを何度も見ている。
完成した城はほぼ木造で、洋風だが和風っぽくも見える。
その城門の前に、何もないただの広場が有った。
「ここには公園を作る予定だったんですけど、まだ手も付けていません。」
完成したら噴水と花畑と、果樹園が出来るらしい。
キラービー大喜びだな。
以前に太郎が用意した風呂場はただの溜め池になっていた。
お風呂の施設は水が不足するので諦めたらしい。
「なんで私を見るのー・・・。」
「いや、別に。」
続々と集まって来るのだが、仕事をしている者達も居るので、これで半分くらいらしい。で、何人いるの・・・。
「500人近くは集まりましたが、なんというか、同族なのに近寄りがたい雰囲気が有りますね。」
ファリスが太郎にそう言うと、呪いの解けた者達も同意していた。
子供達はポニスの背に乗せられたり荷台に乗ったりしているが、見ていると落ちそうで怖い。
フィフスがガッパードの肩に座ったまま太郎に話しかけた。
「というか、集める必要ないんだけど。」
近づいてくるデュラハーンの誰かがボソッと呟く。
「近い方が呪いが解けやすいかと思って。」
「あ、あと・・・そちらのドラゴン・・・もしかして・・・。」
「まだ覚えておったとは感心だな。」
デュラハーン達が一斉に跪いた。
なんだこれ。
「昔の事だ、気を楽にしろ。」
昔って何年前だ・・・?
「我々にとって神に等しいですから・・・。」
デュラハーンにとっての神って何人いるんだ?
マリアだって神扱いだろうに。
フィフスも崇められそうだな。
「お風呂の神様!」
期待の眼差しで俺を見るのをやめてくれないかな。
わかったから、ね。
後でね。
「呪いと言っても魔力に違いは無いから、抜き取る事さえ出来れば消えるのよ。」
「そこから負の魔素だけを抜き取るなんて高等技術を知らないのだけどー?」
「まー、見てなさい。」
何かをやっているフィフスは、そのままふわりと浮かんで城の一番高いところまで移動している。
いつの間にかうどんともりそばも居て、フィフスに付いて行った。
「あの魔法技術と制御法を覚えたいらしいわ。」
「へーっ。」
「お主はもうちょっと興味を持っても良いのだぞ?」
「餅は餅屋、適材適所。」
「お父様相手でもさらっと言い切るわねぇ。」
自称ばーちゃんの視線が熱い。
やめて、お父様の視線が熱線になっちゃう。
「だいじょーぶ、子供は好きだけどねぇ、自分の子供が欲しい訳じゃないから。」
なんでガッカリしてるの。
子供が欲しいなら自分で造れるでしょ・・・。
マナが呆れて二人の頭をぺちんぺちんする。
その光景にデュラハーン達が驚いてるけど、違うから、変な誤解しないでね。
そんなこんなでフィフスが豆粒ぐらい遠くまで飛んで行ったところで止まった。
大きな木の上だ。
「あれ、あの木って・・・。」
「トレントだねぇ。」
「私の身体ですね。」
いつの間にか居るんだけど。
「さっきから居たわよ。」
「はい、居ました。挨拶したじゃないですか。」
「その後どっかに行ってたじゃないか。」
「皆にドラゴンが来た事を伝えに回ってたんです。」
「良く覚えてたな。」
「そういえばファリスがガッパードの事を知っていたみたいなんですけど。」
「デュラハーンがデュラハムと呼ばれていた頃から知っているからな。」
なんか優しい目をしているし、遠い目をしているし、ファリスの頭を撫でているんですけど。
ほら、娘さんがむくれてますよ。
それを無視した訳ではないが、ガッパードが語り始めた・・・。




