第377話 完全呪解
その昔、狂った戦闘狂の一族がいた。
その名はデュラハム。
愛馬に乗り、各地を回り、魔物も亜人も関係なく挑み、戦いに明け暮れる。
もちろん、それだけで生きていけるはずもなく、街以上、国以下の拠点を持っていた。基本は戦利品、畑は殆ど無く、肉と酒が主食の、戦闘集団。
そこに文明は殆ど無く、その拠点も戦利であり、戦えない者は奴隷以下となって働くことしかできなかった。
全ての戦いに勝利を収めていたワケではなかったので、時には大敗北によって滅亡寸前にまで追い込まれた事もある。
そんな彼らは生き抜くために戦うのか、戦う為に生き抜くのか、理由を失っていた頃、最後の戦いに挑むべく、準備をしていた。
そこに逆に攻め込まれた。
彼らは過去に倒した敵国の連合軍で、種族はバラバラだったが、デュラハムを倒す為だけに入念な準備をして強力な魔法を放った。
呪詛を籠めて放たれた魔法は広範囲に広がり、デュラハムを苦しめ、彼らの愛する馬にも降り注いだ。
「首が・・・落ちる?!」
「俺の馬の首が無いぞ・・・。」
それがどんな呪いだったのか、今でも分からないが、自分の首を探して右往左往するデュラハムに連合軍が襲い掛かった。
個々でも強かったデュラハムだったが、転がる自分の身体を見詰める生首があちこちで転がり、絶望の悲鳴が広がった。
「助けてくれ!」
その声に冷ややかな声で応じる。
「助けを乞う者を何人殺した?」
「逃げる者を追い詰めて笑って刺した奴らに慈悲などいらぬ。」
こうして、恨みを持って虐殺は続き、どうにか逃げ切ったデュラハムはたった十数名。その全てが負傷し、重症の子供が3人。
たった3人の子供。
逃げる為に向かった先は、幾つもの森と山を越えた極寒の地・・・。
水と魔物の生肉を食べて生き残ったのは、10名。
ついに力尽きて滅亡するかと思った時に辿り着いた洞窟には、見た事も無い巨大な魔物が住んでいた。
「デュラハムがこんな土地に何の用だ?」
我々を知っていたが、戦いにならなかった。
その上、食べ物をくれた。
重傷者を治療する薬もくれた。
この時初めて、死を前に怯えた自分を知ったのだった。
その魔物は首が転がった時に流石に驚いたが、直ぐに呪いだと気が付いた。
「・・・強い呪いだな、ワシには解けぬ、諦めろ。」
特に驚いたのは我々の言語を話す事だった。
一族の言語は各地を回る所為で他国の言語も混ざっており、特にややこしいはずだったのに、流暢に話すのだ。
「散々暴れまわって滅びるか?」
その声には冷笑半分、慈悲半分。
充分に心に染み渡った。
「・・・子供達だけでも助けて欲しい。お願いします・・・。」
その者は我々全てを助けてくれた。
人数は少ないが、生活するだけに十分な食糧を与えてくれた。
跪き、仕える事を誓った。
それから我々は武器を捨てた。
代わりに鍬を持ち、凍る大地を耕し、僅かに生える実を手にした。
その間も、ずっと、見守ってくれた。
なぜソコまでしてくれるのか、ずっと謎だったが訊く事は出来なかった。
それから10年が経過し、洞窟を広げ、生活環境を作った。
料理を覚えたが、酒は手に入らなかった。
子供達が成長し、大人に成り、子供を産んだ。
生まれた子供はこれからの希望だったが、大人と同じ呪いが降りかかった。
新たに生まれた馬にも・・・。
この呪いは子々孫々続くのだと、彼に教えられた。
多くの者を殺し、奪い、滅ぼしてきた罪の証として、受け入れるしかなかった。
そして、我々を救ってくれた彼を王と呼んだ。
その王は我々とは全く違う種族で、亜人の姿の時も有れば、巨大な魔物の姿の時もあり、空を飛んで王の仲間が訪れる事も有ったが、我々には干渉しなかった。
その巨大な魔物に問われた。
「聖女と戦ったか?」
「・・・大敗しました。」
「ふむ、お主らでも無理か。」
「あれは化物です。殺しても死なない生き物なんて恐怖以外ありえません。」
珍しく笑った。
大声で。
「何かご存じなのですか?」
「仲間がやられてな。たかが亜人と思って油断しておったようだ。」
それ以上は語らず、そのまま洞窟の奥に姿を消した。
そして数百年が経過し、我々の前に、王は二度と姿を現さなかった。
大地に根を張るトレントのようにいつまでもひっそりと暮らしていくつもりだった土地を捨てる事になるとは考えもしなかった。
話しが終わった頃、フィフスが戻ってきた。
思ったよりも待たされた気はしなかったので小一時間くらいだろう。
意外と早い。
デュラハーン達は・・・いや、見た目だけじゃ判らないけど、楽しそうに喜んでいる姿を見れば解る。
だから笑顔で殴りあうのやめてくれないかな。
うどんが範囲回復魔法を使ってるから平気みたいだけど、絶対気が付いてないよな。
「拡散型の呪いみたいね、それもあいつらにしか感染つらないっていうねっとりとした呪いよ。」
「勇者とは違うようだな。」
「そうね。だから解けたのよ。継承したり覚醒するのとは違うもの。」
「なるほどねー。」
マリアがそれを聞いて感心している。
うどんもにも、もりそばにも、フィフスのやった事は出来なかったらしい。
マナもマリナもウニウニと頭を動かして悩んでいるようだ。
その動きは俺には無理だぞ。
「・・・世界が変わった気がします。」
「トレントでも分かるんだ?」
今更だけど、このトレントには名前が無い。
以前はこの袋の中の世界のみで世界樹を名乗っていたが、ただのトレントだと分かったし、人の姿に成れてからはあちこちをうろうろしているらしい。
「あっという間に変わっていくので結構大変なんですよ。」
「太郎の村も変化が凄いからねっ。」
「ばーちゃんもビックリだよぉー。」
「私の神様だもん!」
「えーっ、私のパパだよぉー!!」
いつの間にかうどんともりそばにも抱きつかれた。
いや、うどんは分かるけど、なんでもりそばまで。
「お困りの様なので。」
「うどんに巻き込まれたのよ。」
「お主は人気者だな。」
「そう言うガッパードさんも抱きつかれてますよ?」
「む?」
娘のメイリーンがニコニコしながら父親の背中に抱き着いている。
まるで子供のように。
「子供だぞ。」
「心を読まないでくださいよ。」
「そういう目をしていたからな。」
「・・・デュラハムって、結局なんだったんですか?」
「急に話を戻すではないか。」
「気になったんです。俺は鈴木太郎でスズキタ一族と教えられましたけど、実際はススキダでした。僅かな変化ですけど、名称が変わる時って何かあるんですかね?」
「・・・しらん。昔はデュラハムと名乗っていた筈だが、今はデュラハーン。それで良いではないか。」
「・・・そう、ですか。」
「納得しとらんな?」
娘の方が不思議な視線を向けていて、その父親はデュラハーン達の喜びが一段落しているのを見詰めながら腕を組む。
「たった一文字間違えるだけで変わりますからね、そんな事も有ると思いますが、名称に意味が有っても良いんじゃないかと思うんですよ。」
「意味不明な事を言う奴だな。」
「ギンギールって有名なんですか?」
「本当に唐突ね。」
「・・・名称とか、言葉とか、なんか不思議な事が多いんだよなあ。」
「言語加護もそうだけど、詠唱魔法も不思議だし、名称なんか、ちょっと似てるようでちょっと違うし・・・。」
「色々あったんだねぇ。」
「色々有り過ぎなのよねー。」
「ねーっ。」
こういう時のマナとマリナは息がぴったりだ。
以心伝心。
「なるほど、言霊か。言葉に想いを籠めれば、時に祝福を与え、時に呪禍を生む。魔素が込められた言葉だが、呪文ではない。」
考え込む太郎を、もりそばが心配そうに覗き込む。
「あんまり言いたくは無いんだけどさ、俺の言葉だってみんなは聞いてくれる。そして考えてくれる。ガッパードさんもそうでしょう?」
娘の方が太郎の言葉をそのまま受け取ると、それは太郎と父親が同格と言っているように感じた。そして、父親は否定しない。
「しかし、どうしてそんな事を気にするのだ?」
ガッパードにとってどうでもよい話に聞こえるが、ガッパードの肩に座ったフィフスが太郎の真意に気が付いた。
「神様が言いたいのは、呪詛の言葉が有ったって事じゃないの。」
「有ったの?」
「恨み辛みの言葉だらけだったわ。特に殺意よりも子を殺された恨みの方が多かったわね。」
「数多の想いを言葉に込めた呪いか。」
「そーね。」
「魔素を含む呪い・・・。」
「これって言葉の内容によっては相手を思い通りに動かせるよね?」
「お主・・・エッグい事に気が付いたな。」
言葉に想いを籠める。
愛憎を籠めて魔素を含めた言葉を使えば、相手の立場に関係なく、心に変化を与え、どんな事でも言いなりにする事が可能になる。
聖女の記憶を持つもりそばも気が付いた。
「それって聖女と勇者の関係みたいな?」
「勇者は紋様に、デュラハーンは言葉に、念じる。」
「それは面白い話ね、今度の研究にするわ。」
「バカ女は転移の概念を変えた事をどうにかしなさい。」
こんな事を言うのは間違いなくマナだ。
マリアが分かり易く凹んでいる。
「そ、そんな事より、これはどうするのー?」
お祭り騒ぎかと思ったら、本当にいつの間にかお祭りが始まったかのように、広場には幾つものテーブルが並べられ、火が熾され、料理が始まっている。
デュラハーンの女性達が食器を運び、男性達が石を並べて何かの儀式を始めようとしている。太郎がガッパードを見て何かを告げると、気配を消してその場から離れた。
目の前で見ていた者にも一瞬のように消えたので、何事が起きたのか理解するのに時間がかかった。
彼らはガッパードとフィフスにお礼をするべく、準備していたのに。




