第346話 騙された者達
「マリナか?」
「そーだよ?」
「おヌシは平気なのか?」
「パパが大丈夫なら、大丈夫!」
元気いっぱいモリモリな可愛いポーズを見せると、ナナハルもマリアも深い息を吐き出した。太郎さんが特別扱いするのも分かるぐらい可愛いんですよねー。
「おじーちゃんも変な事しないの!」
「お、おじー・・・いや、うむ。」
なぜかファングールも従わせてしまうマリナをスーが抱き寄せる。
本当に怖いもの知らずなんですよねー・・・。
この子。
「どしたの?」
「ちょっと落ち着かせてください。」
「しょーがないなー、よしよし。」
本当に落ち着くから困る。
スーが手放すとマリナはポチの背に乗った。
「パパねぇ・・・たぶん戦うんじゃないかなあ?」
ファングールは、あまりにものんびりとした口調で言うモノだから、聞き逃すところだった。
「どこまで知っているのだ?」
「初めて来た場所だけど、パパの事なら分かるよ!」
「本当に不思議な子ねぇ・・・。」
マリアやナナハルも理解できないでいると、ポチの頭を撫でているマリナから異様な魔力が発せられる。ファングールが感じた魔力は、明らかに負の魔素であり、久しぶりに恐ろしいと本気で思ったくらいである。
「パパが魔素を取り込んじゃったからこっちにまで届いてるの。」
「助けられるのか?」
「わかんないけど場所は判るよ!」
「よし、案内せい。」
ポチの頭をポンポンと軽く叩くと、その身体から魔力が溢れる。
ポチの身体が膨れ上がり、二倍どころか三倍四倍と膨らんでいく・・・。
「力が漲る・・・なんだこれは?!」
「ごめんねぇ、そのままじゃ無理かもしんないからムリヤリ魔力を解放しちゃった。」
テヘペロってしている。
可愛いんですけどー、なんか怖いんですよねー。
ムリヤリ解放って何ですか、ホントに。
「大丈夫、ちゃんと調整してるし、ポチはもっと力が出せる筈だから。」
「そうなのか、これが俺の・・・。」
「とんでもない事をするのう。」
「それには同意するわ。」
「じゃが、これからもっととんでもない事をしている所へ行くというのだから、この程度で驚いてはいられん。」
周囲が少し明るくなった感じがした。それは魔素の濃度が下がったからで、周囲から聞こえた異様な音も消えていた。
「みんな乗っていいよ。」
マリナの言葉に素直に従った者達は、広すぎる背に乗り込むと、ポチの激しい咆哮の後、天井に向かって火球を吐き出し、その光が周囲を照らした。
「なんだこれは・・・?!」
スーもナナハルもマリアも吃驚したのは、光によって照らされた広大な空洞が、上下も左右も関係なく、びっしりと密集した建物の瓦礫で埋まっていたからだ。とても人が住んでいた環境には見えない。
ちゃっかりと一緒に乗っているファングールが説明した。
「ココは取り残されたのだ。本来であれば全てが穴に吸い込まれ、影も形も失っていただろう。密集しているのはその所為だ。広大な空洞とはいえ、広さには限界が有るからな。」
走りだしたポチから振り落とされないように毛をしっかり掴むと、加速を続ける。瓦礫を踏み、家屋を破壊しながら、真っ直ぐに最深部へと向かって・・・。
負の魔素に耐えただけでなく、その魔素を取り込み、自分のモノへとした太郎に深い興味を抱いたが、それとは別にもっと興味深い存在がいる。
「まさか、生きてここに来るとはな。世界樹よ!」
「あんたの所為で色々大変だったんだからねっ!」
「そのわりには楽しそうに見えるが?」
「今は楽しいわよ、魔女に騙されたアンタとは違ってね。」
マナが皮肉たっぷりの笑顔を作った。
うむ。可愛いぞ!
「・・・で、なんでもりそばも同じことしてるんだ?」
「べっつにぃ・・・。」
不貞腐れる理由がわからん。
「ここから出られぬ理由が出来てしまったのだ。」
その理由とは魔女との会話を経て、全てを信じたワケではないが、世界樹の放つ波動が悪影響を及ぼす事には同意していた。負の魔素を追いやれば、一箇所に固まった魔素が悪意ある魔物へと姿を変える。それを人が討伐するには、途方もない血が流れる事は想像に易いのである。
「あのままほっといても駄目になるって神様は言ってたけどね。」
何かの言葉に引っかかったのだろう。巨大な体躯を僅かに動かし、強い魔素が押し寄せてくる。魔法ではない何かに吹飛ばされそうだ。
「神だと・・・?バカな事を言うな!もし本当に存在するのであれば、このような世界を作る筈がないではないかっ!」
同時に怒りまじりの咆哮が鼓膜を叩く。
だが、直ぐに何も感じなくなった。
「聖女の秘術で強力な結界を張ったつもりだけど、あと少ししか耐えられないわよ。」
もりそばの能力なのか・・・目の前にうっすらと半透明の壁が見える。
「お前たちがやって見せろ。俺だけが苦労するのは疲れた。」
黒い物体が目の前の結界に張り付いた。
「なんだこれ・・・。」
「これは悪意の塊。つまり純粋悪。」
「剣で斬れるか?」
「斬れるとは思うけど、倒せるかは保証しないわ。」
太郎はひさしぶりのに袋から純白の剣を取り出した。
それは神様から貰った無名の剣で、基本的に斬れないモノはない。
「また物騒なモノを・・・。」
「これが一番確実だから仕方がない。」
いつもよりも少し強く握って、構えをとる。
音も無くひびが入った結界を、太郎は黒い物体ごと斬った。
「スパッと切れるもんだな。」
「結界も壊れたんですけど。」
「後ろに隠れて、全部斬るから。」
マナともりそばが太郎の後ろへ数歩へ離れる。
ふわっと太郎の周囲に風が流れたかと思うと、飛び掛かってくる黒い物体に向かって行く太郎は、空中を走るように移動し、次々と斬り裂いた。
「いつ見てもバケモノじみた動きするわねぇ。」
「本気の太郎はあんなもんじゃないわよ。」
宣言通り、現れた黒い物体は全て斬った。
それを無言で眺めていたガッパードは、翼を広げた。その翼から何かが迫ってくる。慌てて避けると、それは小さなドラゴンだった。
「なんで・・・?!」
「これは眷属でも仲間でもない。ただの呪いだ。」
魔素が流れてくる翼は一部が傷付き、も骨がむき出しになっていた。
「喰われたの?」
「質問はあとだ。さっさと倒せ。」
怒るのはマナともりそばに任せ、太郎は宙を自在に移動し、囲んで来ようとする動きにも即応した。確実に真っ二つして行く太郎に、何かが下から飛び掛かってきた。
「こいつ、ベヒモスと同じ個体?!」
見た目はあのベヒモスと同じだが、大きさで言うと普段のポチぐらいしかない。
次々と、地面から沸いてくるように現れ、それらをも全て真っ二つにした太郎は、数の多さに少し疲れていた。
「なかなかやるではないか。」
そうは言ったが、ガッパードでも一撃は辛い個体をスパスパと斬る姿に恐怖と警戒心が警鐘を鳴らしている。
「何のつもりだ?」
足元には死体が血だまりを作り、周囲に瘴気を放つ。
「ココが負の魔素に溢れているのは分かっておろう。」
ガッパードの意思とは関係なく魔物が現れるという事か?
そもそもこの魔素は何処から溢れているんだ?
そして、なんであれほどの強さを誇っている筈のドラゴンが傷付いているんだ?
「なんだ・・・?!」
洞窟内に鳴り響く啼き声と、上空に火球が現れると巨大な何かが降ってきた。
「ポチ?!」
ポチには間違いないのだが、大きい。
デカすぎて当社比3倍は軽く超える。
「パパー!大丈夫ー?」
飛び降りてくる姿に慌てて剣を落として抱きとめる。
「ああ、大丈夫だぞー。」
無邪気な笑顔で頬をすりすりしてくるマリナはやはり可愛い。
ぞろぞろとスー、ナナハル、マリアが降りて来て、なんでファングールさんも?
「うぇ・・・なんです、これ。全部太郎さんが・・・?」
「アイツが何かやっているのかと思ったんだけど、違うみたいだ。」
「ガッパード様、お久しぶりでございます。」
久しぶり?
「・・・お主は魔女か?」
「そう・・・だけど、私は初めましてね。」
「魔女は世界樹と対立していると聞いていたが?」
「説明すると面倒だけど、私はその話題に関係ないわ。」
簡単でしょ。
袋に閉じ込められて出られなかったとは言わないか。
「アンタ・・・その身体、ずっと一人で戦っていたの?」
「そうだ。いまさら後悔か?」
「するワケナイデショ。私には私なりの目的が有って、アンタたちが魔女にタブらかされてバカな事しただけでしょう。」
目がギラリと鈍く光る。
ファングールが吃驚した上に硬直しているようだ。
・・・ソンナニコワクナイヨ?
「太郎ちゃんはなんで平気なのよ・・・。」
「パパは魔素に抵抗してるんじゃなくて、受け入れちゃってるからね。」
「あー、なるほどっ・・・って分からないわよ、それ。そんなことしたら心が蝕まれて精神が崩壊しちゃうじゃない。」
「俺の身体どうなってん・・・?」
「世界樹の能力も恐ろしいが、お主もタイガイだな。」
タイガイって何だ。
「どうせ私が居ると良くない事が有るって言われたんでしょ。」
「事実だ。」
「こっちはアンタが邪魔しなければ、魔素の発生をコントロールできるようになったかもしれないんだけど?」
「そんな事出来たの?」
「出来ないよ。」
そもそもマナの能力は不明ではなく、多くの人が知っている。
それは波動によって世界を覆い、魔素を安定させる事だ。
ただし、実行される前にドラゴン達によって燃やされて俺の住んでいた世界に逃げ込んでいる。
「それで、アンタは何をしてるの?」
「見てわからんのか?」
「分かって欲しいの?」
マナとガッパードの睨み合いが始まると、余波でマリアとナナハルが倒れた。それもひどい倒れ方で、顔から地面に突っ込んでいる。
ポチはマリナのおかげで耐えているが、スーはもりそばに抱き付いてガチガチ震えていた。逃げるの上手くなったな。
「負の魔素が溢れるのを抑えているのだ。」
「始まりの地でもあり、終りの地でもあるモノね。」
もりそばの身体が白い輝きを僅かに放つ。
ジョジョに強くなる輝きに、震えていたスーが耐えられなくなって離れると、フワッと浮き上がり、そのままスーの肩に座って足を組んでみせた。
「聖女アル・・・か?」
「正確には違うけどね。」
様子を見るかのように睨み合う二人に、巻き込まれたスーが涙目になっていた。
「なんで私が巻き込まれたんですかー?!」
※ おまけ
敵を結界まとめて斬るとか、どういう腕しとるんだ?
腕じゃなくて剣のおかげだけどね
そもそも、そんな剣を見た事もない
あー、たしかに




