第345話 古代都市
一人、暗闇の中を進む。
違う。
一人じゃない。
俺の右手にはマナが居る。
俺の左手には聖女が居る。
聖女?
その姿?
何かが違う。
そうだ。
ここは、俺の世界だ。
「やっと気が付いたね。」
「もっと時間かかると思ったけど。」
なんで二人がいるの?
「真っ暗で迷うと思ったから助けに来たのよ。」
「太郎なら大丈夫だと思ったんだけど、コイツが入ってイクからさ。」
俺の身体って何なの?
自由意志は?
「それより、歩ける?」
足を動かす以前に、指一本動かせないな。
「囚われてるわね。」
「だよねぇ。」
何の話か分からんのだが?
「負のマナが溢れてるのよ、ココ。」
「魔素が出てること自体は問題じゃないんだけど、濃度がね。」
負のマナの濃度が濃いとやばいんじゃないっけ?
「ベヒモスクラスの魔物が生まれる可能性が有るわ。」
じゃあ、たいしたことないか。
「・・・普通は大惨事になるんだけど、そうだった。村にベヒモスが住んでたわね。」
「そんな事より今の太郎をどうにか出来るんでしょうね?」
俺はどうなってるんだ?
「負のマナに飲み込まれてるわ。」
「囚われてるわ。」
身体が見えない。
自分の身体が。
視線をどこに向けても、右と左に二人の姿が見える。
「精神世界だからね。」
そんな簡単に精神に入られると困るんだけど。
「普通は入れないわよ。特に心が弱くなっている時だけ、私は入れるけど・・・。」
「無理矢理来た!」
なんか変なポーズが見えるけど、なにやってんすかマナさん。
「私達が見えるのならまだ負けてないわ。でも一人だったら心細いでしょ?」
少なくともマナが居るのは心が安らぐからね。
「私と太郎は身体で繋がってるからね!」
それはドヤ顔するところか?
可愛いけど。
「私の場合は心で繋がってる。」
あの記憶はもういらないと思ったけど・・・。
「まさか、こんな事になってるとはね?」
ああ、ココは絶望しかない。
「ってことは、アンタの死んだ場所?」
「そーそー。」
えらく軽く言うけど、どんだけ苦しんだのか知ってるぞ。
「まあ、原因は私だしねー・・・。」
「・・・あれ、なんか、明るくなってきた?」
二人が居てくれたから、俺の負の感情が作用しなくて済んだんじゃないかな。
「さーて、どっちのおかげかしらね?」
太郎の闇が晴れると。
現実の闇が見える。
今度は、確かな感触が有る。
右肩と左肩に僅かな重みを感じ、上を向くと二人の顔が覗き込む。
「「おかえり。」」
「ただいま。」
しかし、未だに真っ暗闇で、奇妙な音と、生温い風が流れているのが分かる。
「他のみんなは?」
「気配は感じるから大丈夫よ。」
「マナが言うなら安心かな。」
「ちゃんと使えるかな?」
腕を伸ばし、人差し指を前に向けた。
「あら、珍しいわね太郎の火魔法。」
「灯りになるかなって。」
「・・・なんでそんな爪の先に火を灯す程度の魔法なのに、魔力がダダ洩れしてるのよ。負の魔素が・・・正にならないわね?」
「太郎が中庸だからじゃない?」
「そう言われると、そんな設定あったね。」
「設定じゃなくて事実よ。ゲームみたいに言ってもダメー!」
「ダメかあ・・・面倒だなあ。」
マナと太郎の会話にもりそばは付いて行けない。
二人が笑っている事も、やっぱりわからない。
「それにしても凄い威力ね。魔素がどんどん性質を変えていくわ。」
「へー。」
「明るくなって・・・きてる?」
「元々暗いのよ。それに、ココで魔法が使えるのは太郎だけじゃない?」
「そうなの?」
マナは火の魔法が性質上得意ではない。
使えないんじゃなくて苦手なだけで、火の魔法は使える。
そんなマナでももりそばでも、魔法を発動すると直ぐに消えてしまう。
「じゃあなんか道具だすか。」
二人を肩から降ろし、袋の中から何かを取り出す。
予備で何個も買ったものだから、袋の奥に何個か同じモノが見つかった。
「ただの懐中電灯・・・電池使えるかな?」
「そんなのまだ持ってたの?」
「不要だったから存在を忘れてたよ・・・。」
久しぶりの文明の利器を手に持つと、懐かしさで溢れる。
単三電池を入れ、スイッチをON。
「なにこれ、魔法具?」
「ただの灯。魔法じゃないよ。」
それで周囲を照らすと、崩れた建物が沢山有るのが分かる。
何かの町だったのだろうか?
遠くまで続いているようだが、光源が弱くて見えない。
「アルカロスよ。」
「そういえば、さっきも言ってたね。」
「ここでは色々な事が有ったのよ・・・。」
分かってしまう太郎は両眼を閉じて大きく息を吐いた。
「そうだね。こんな悲劇を繰り返しちゃダメなんだ。」
太郎はさらに続ける。
「ただの話し合いのつもりだったけど、色々知る事が出来そうだ。」
「負の魔素の原因がココだとしたら、それをどうするつもりなの?」
質問されても、答えは無い。
負の魔素についてはイロイロと聞かされたが、正の魔素に変えれば良いという訳でもないらしい。少なくとも、プラスに対するマイナス、反物質的なモノが無いと困るのは何となく分かる気がする。
「すっごい魔力の持ち主が居るわ。」
「誰よ?」
「ガッパードってドラゴンじゃないのかな。」
「でしょうね。」
「他の魔力は?」
「辛うじてマリアが分かるくらいね・・・。だいぶ離れてるみたいだし、感知しにくいわ。」
「・・・戻っても仕方ないし、進もう。」
もりそばもマナも感じる魔力の元へ進む事にし、懐中電灯の明かりを頼りに、広くも狭くもない通路を進む。何かに近付くほどに、気分が悪くなる。
「太郎、大丈夫?」
心配してくれるマナを盛ると、顔が無い。
のっぺらぼうのようになっていた。
「あれ、顔が・・・。」
「魔素に乱れが有るわね。」
そう言うもりそばは崩れない。
「聖女の力で何とかなってるわ。トレントだけだったら樹に戻ってるかも。」
マナが顔を両手でグニグニしているが、そんな事しなくても戻ったでしょ。
結局、一番簡単な手段として太郎に抱き付く。
案の定、元に戻った。
「かなり不安定ね。でも負の魔素だけがこんなに濃いなんて異常だわ。」
「多分、この辺りに落ちてる奴が原因じゃないかな。」
明かりを向けると、崩れた建物の中では、半壊した椅子、割れた床、何かが置いてあった棚にも、骨がバラバラになって散らばっている。
僅かに生活感を感じられるような、ボロボロのベッドや食器類も散乱している。
「どうやったらこんな地下に町が出来るんだ?」
「元々地下じゃないからよ。」
「じゃあ、町が滅んでから、地殻変動で沈下したって事?」
「地殻変動ってよくわからないけど、世界が沈んだのは魔素の嵐が発生した頃だと思うわ。」
「聖女の力ってどのくらい強かったの?」
「なんでそんな質問が?」
「今はもりそばっていうより聖女っぽいから聞いてみたんだけど。」
「そうね、だーい好きな太郎ちゃんの為なら何とかしてあげるけど?」
腰をクネクネされても色気が無い。
見た目はただの少女だ。
いや、ただの美少女だ。
マナにベチッと叩かれる。
「どうせなんも出来ないでしょ。」
「・・・うん。」
「・・・知ってた。」
見た目は少女でも、中身は普通の大人より大人過ぎる。
とりあえず頭を撫でとく。
なんでマナが拗ねるの。
はい、ぐしゃー。
喜んだ。
場所がこんな寂れてるんじゃ無ければ少しは楽しいんだろうけど、歩いているだけで周囲の何かが崩れる音が聞こえる。
風きり音が強くなるが、風は感じない。
魔素が流れてくると、二人が俺の腕にしがみ付く。
・・・辛そうだ。
「休む?」
「変わらないわよ。」
「あとどのくらいで目的地に着くんだろうな?」
「そもそも、目的地が存在しているかどうか・・・。」
更に歩き続け、数分後。
もりそばの不安は的中せず、明らかな変化を視界に納めた。
そこは、神殿のような場所で、沢山の椅子と、沢山の骸骨が散乱していた。
その中心あたりに、誰かが居る。
「やっと来たか・・・。」
内臓が揺さぶられるような不思議な感覚と、巨大な何かが見えた。
「あなたが・・・ガッパード・・・さん?」
「そう呼ばれる事も有る。」
「俺を呼んだ・・・ですよね?」
「そうさな、どちらかと言えばお前の横に居る奴の方が必要かもしれん。」
「わたし?」
「・・・わたしも?」
「私達、こんなところで何してんのかしらねぇ・・・。」
「美味いだろ。」
「そういう問題じゃないんですけどねー・・・。」
「カエル肉が食えるなら我慢する。」
「カエル肉ばかり食い過ぎじゃぞ。」
なぜカレーを食べているのか?
それは太郎が消えてしまった後の事、何かできる事が無いか思案していたが、ファングールがどこから持ち出したのか、大きな鍋を崩れた家の中にある竈にのせて、スーに言ったのだ。
「薪の代わりになるモノは有るか?」
スーが身に着けている魔法袋は小さいが、基本的に容量が無限なのは変わらない。袋の口に入りさえすれば、だが。
無言で取り出したのは角材で、キャンプのテントの時に使う為に準備していたモノだから、燃やされてしまうのは困るが、また用意すればいい。
「カレー、持ってるだろ?」
「水が有りませんけどー・・・。」
「水ならお前が出せばいい。」
「あんまり美味しくないけど、文句言わないでくれる?」
「そもそも不味いモノを美味しくする為の料理法だ。気にしない。」
カレーにそんな理由が有ったとは知らないので、少し不機嫌になったのはスーである。そんなつもりで作っている訳ではないエカテリーナの代弁をする。
「太郎さんに美味しく食べてもらう為に作ってるんです!あなたなんかの為じゃありません!」
そうは言ったが、一睨みされただけで怯んでしまうスーである。
そして周りを見てもソッポを向くので、仕方なく準備を始めたのだ。
「どうせ暫く戻ってこない。生きているにしろ死んでいるにしろ。」
「太郎は戻ってくるゾ。」
「そうじゃな。」
「ええ。」
肉はすでにカットしてあり、ルーも有るし、マリアが水を用意してくれたので、いつもの調理時間の半分以下で済んでしまった。あまりにも早く出来たのでファングールがいぶかしげな眼で見ているが、既に匂いで負けている。
ただし、具は肉しかない。
袋から大皿とおたまを出すと、ファングールが要求する。
「パンは?」
「・・・ありますよ。」
溜息を吐きながら渋々とパンを出しているスーの代わりに、ナナハルが給仕をする。
テーブルは無いので床に皿を置き、カレーとパンを交互に食べ始めた。
「食欲・・・有りますか?」
こんな時である。無いのが普通だろう。
「ないわ。」
「なんな。」
「ある。」
ケルベロスとドラゴンを除いて。
ポチとファングールが食べ終わるのを、そわそわしながら待っている。
ただ、何も出来ない事も解っているので、本当に待つしかない。
「いつの間にか結界が張られてるわ。」
「食いながらやるとは器用じゃのう。」
「本当に凄い人なんですよねぇ・・・。」
カレーを食べながら周囲の浄化もしているし、魔素の流れも断ち切っていて、完全とは言わないが安全地帯となっていた。
「太郎さんは大丈夫でしょうか?」
「・・・美味かった。」
皿に残った僅かなカレーもパンで掬い取って完食した一言にスーの怒りゲージが上昇した。
何を暢気に・・・!
溜息まじりのナナハルに肩を叩かれてゲージが減少した。
勝てる訳が無いのだから。
「殺気を向けるだけの度胸が有るのならまだ強くなれるぞ。」
「負けるのは嫌いですから。」
「アイツも、先に進んだようだ。魔力の流れが変わった。」
マリアが首を横に振る。
「全く分からないんだけど?」
「結界に守られているからな。」
ファングールが結界を解除すると僅かに魔素の流れを感じた程度で、先ほどのような不快感はかなり減っている。ナナハルが有る事に気が付く。
「まさか利用したのではあるまいな?」
「・・・利用した?」
マリアも気が付いてファングールに視線を向ける。
だが、もっと別の事に気が付いたポチが呟く。
「そういや、マリナはどこだ?」
ずっとポチの背に乗っていた筈のマリナの姿が無い。
一体どこへ・・・?
「まさか結界をすり抜けて行ったのか・・・?」
「あのマリナは我らでも手が付けられんのじゃぞ。」
「そうさな、あんな優秀な娘が欲しかったな・・・。」
場違いな発言は、普段冷静なマリアやナナハルでも怒りを覚える。
最強種族かどうかという問題ではない。
本気でやっても勝てないまでも、爪を剥がして血を見せるくらいは出来る。
血の気が急上昇しつつあるとき、たった一言でその場を止める声が聞こえた。
「ただいまー!」
※一言
マリナは太郎の子供であり分身でもある
そして、パパ大好きなのである
ええ子やなあ・・・




