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第291話 ジェームス達の帰還

 帰路の道中、最初にジェームス達を迎えたのは訓練所の大佐で、コンロッソだった。色々な事情を聴きたがったが、意外にもゴリテアの事を知っていて、二度の大爆発を知っていた。


「山が一瞬でなくなったんだぞ、この目で見ていなければ信じられん・・・。」

「もしかして情報収集していたのか?」

「そりゃそうだろ。実戦さえなければ訓練にもなるし、あのバカでかい浮遊物はココからも見えたしな。」

「何か俺の知らない情報を持っている自信は?」

「ないな。」


 酢を飲み込んだような笑い方をして話題を終えると、ハンハルト迄の馬車を用意してくれた。もちろん訓練の一環である。


「それとな、あの村までの街道を整備するようにも命じられているから、数年は掛かるだろうが行き易くなるぞ。」

「それじゃあこの辺りの魔物の討伐依頼も増えそうだな。」

「ああ、お前を指名してギルドにいくつか出すから覚悟しとけよ。」

「お手柔らかに頼む。」


 ジェームスが苦い汁を飲み込んだような笑顔で応じる。

 ハンハルト迄は護衛付きになるので、歩く必要がなくなるのは有り難い。何しろ最近は色々な事が有り過ぎて疲れが取れた気がしないのだ。道中、ジェームスとフレアリスは食糧などの荷物と一緒に荷馬車で暫く過ごしていたが、マギは馬車の横で歩く事を選択し、護衛の兵士達が笑顔になっていたので大佐に拳骨を喰らっていた。




 ハンハルトに到着すると、護衛をしてくれた兵士達と丁寧に挨拶をしてから別れる。兵士達が、特にマギに丁寧だったのは言うまでもない。

 無駄な時間を浪費し、そこからはいつものようにギルドへ向かう。奥の部屋で飲んだくれているお忍びの国王の姿はなく、いつも通りの活気で賑わっていた。


「いつもより賑やかじゃない?」

「何か有ったのか・・・?」


 そしてコンロッソの言った事を思い出す。


「街道整備関連で依頼が増えてるな。」

「私にも出来そうな依頼も沢山ありますね。」


 マギが少しやる気を出しているのがジェームスには不思議だったが、フレアリスは僅かに微笑んでいた。


「良いじゃない、どうせ暫くは修行になるんだから、実戦も有りよ。」

「まあ、あれだけの力が出せたという事は、可能性は有るってことだからな。」


 勇者だった時の戦い方は出来ない。死を恐れずに戦うなどやってはいけないのだ。それはもう人としての戦い方ではない。マギに悪い癖があるとすれば、肉を切らせる覚悟で骨を叩こうとするからで、肉体的ダメージを無視するなどジェームスは教えない。


「マギは今まで以上に慎重に戦う癖を付けないと、危なっかしいからな。」

「そーゆ―のはアナタが教える事よ。」

「そのくらいは今までも教えていたつもりだけどな。」

「そう・・・ねぇ・・・。」


 マギをチラッと見ると、赤くして俯いた。どうしても無茶をしてしまうのは何度も指摘された事だ。


「ところでバカ国王に会いに行くの?」

「ば・・・なんか世界樹の口調が感染(うつ)ってないか?」

「そんな事は無いけど、バカなのは間違いないじゃない。」

「無能であるくらいは本人も自覚しているが、バカは流石にな。」


 突然、オロオロするマギがフレアリスの肩を指先で突いた。


「あら、居たの?」

「居て悪いか。」

「悪くないけど、ジェームスが面倒くさそうにしているわ。」

「報告するのが面倒なのか?」

「そっちじゃないが、半分はそうだな。」

「どっちだよ。」


 奥の部屋に三人を引っ張り込むと、ワインと肉を注文する。


「さて、バカな俺でも分かりやすく丁寧に報告してもらおうか。」


 面倒が4倍になった瞬間である。





 

 説明が終わると、フレアリスとマギは既に退席していて、二人で依頼の選別をしているトコロだった。ワインをほとんど飲まなかった国王は、説明ばかりしてこちらも飲めなかったジェームスを驚かせる言葉を発する。


「やはりコルドーは危険な国だったという訳か。俺の提案も受け入れられるかもしれんな。」

「提案?」

「ああ、会議で決まった事だが、三国で同盟を組むのならコルドーに一度くらい攻め込んで立場を解らせて置くというな。」

「・・・は?」


 とんでもない驚き方をしたので国王は怒るどころか笑ってしまった。


「そんな表情をするとは思わなかったな。」

「と、当然だ、あの国はもう終わっている。」

「いや、終わってはいない。」

「どういうことだ?」


 ハンハルト国内におけるコルドー教は扱いきれなくなった奴隷たちの最後のよりどころとしての立場を確立していて、キンダース商会よりも信頼感がある。

 戦いには一切参加しないし、寄付金を求めてくる事も有るが、あまり悪さをしているというイメージはない。魔王国内では孤児院を経営しているところがコルドー教という事もあったが、ハンハルトでは全ての孤児院がコルドー教で運営されている。


「ゴリテアの報告は受けているが、我が国に被害は一切なかったし、宣戦布告したまま撤回していない。しかも弱っているのなら攻め時だろう?」

「確かにそうだが・・・。」


 太郎君が怒ると言いかけてやめた。それはこの国で危険人物に指定されている名前である事をジェームスは知っているからだ。


「しかし、攻めるにしても資金が必要だろう?」

「勝てば手に入るモノも有る。」

「・・・あんな国に何もないぞ?」

「戦勝国なら有利な条件で金を絞れるだろ。」


 ジェームスはあの村で手に入れた情報によって、キンダース商会もコルドー新教国も大元が魔女だという事を知っている。知っているが報告はしていないのだが、この場合は教えた方が良いのか悩む。知る事で手を出せないようになると、今後の関係にも取引にも、ハンハルトが不利になってしまう。

 知らない方が良いという事も有るのだ。


「というか、その提案に対する返事はもう受けているのか?」

「ギルドを通じては出来ないからな、今使者を送っているところだ。」

「同意を得られると?」


 魔女がハンハルトに居る事を知っていると、更に言い難い。


「少なくともハンハルトは受けると思っている。隣国だし、旅人大移動の被害を受けている。攻め込むに十分な理由を持っている筈だ。」

「知らなければそうだろうな。」


 国王は少し不思議な表情をした。ジェームスの態度が変なのだ。諫めるなり同意するなり、もっと真っ直ぐに言う男だったと認識している。それなのに、何か言い淀んでいる雰囲気を感じたのだ。

 

「おまえ・・・何を隠している?」

「隠しているというか・・・言うと俺の立場が危ういというか・・・。」

「お前ほどの男が危険だと言うような何かがあるのか。」

「・・・有る。」

「そうね。」


 タイミング良く戻って来たフレアリスとマギが、会話に参加しながら席に着く。ずかずかと入って来ても、ココでは普通だ。


「お前達も知っているのか?」

「あの村の住人ならみんな知ってるんじゃないかしらね?」

「そう・・・だと思います。」

「なんでそんな重要な情報が俺の耳に届かないんだ?」

「俺が言い難くしているのが理由だ。」

「そうか・・・魔王国の兵士が駐屯している村で広まらないなら、それなりに理由があるって訳か。」

「そうね。」

 

 考えて絞り出しても、その理由が正しいかどうか解らない国王は、それが国攻めを中止する理由に直結するのか、考えていた。それを見たジェームスが諦めて溜息を吐いた後に答えを教えた。


「魔女がいるんだ。」

「・・・そのくらい知っているぞ。」

「今の世界に確認されている魔女は二人しかいない。」


 国王の顔が歪んだ。


「ちょっと待て、まさかコルドーに居たのが魔女じゃないよな?」

「今も居るぞ。」

「魔王国やガーデンブルクにもいるのか?」

「魔王国に・・・は住んでないなかったはず。」

「ガーデンブルクに居る・・・そうか・・・。」


 以前に知っていた情報が確定した時、それは不安に直結した。


「我が国にも・・・いるのか?」

「居るわ。それもとんでもない所にね。」

「なんだと・・・。どこだ?!」


 ジェームスが腕を組んで黙った。

 フレアリスが言いたそうだったからだ。


「キンダース商会のトップを裏で操ってるわ。」

「それ・・・とんでもない事だな?!」

「そんなに驚く事なんですか?」

「キンダース商会に国の財政を支えてもらってるくらい立場が弱いのよ。」

「あの村の住人はほとんど知ってるのか・・・?」

「知ってても役に立たないわ、あの村から離れたい住人なんていないから。」

「そんなに良い村か・・・?」


 情報でしか知らない国王は、とんでもない人物が集まる村という情報は得ていて、ダンダイルがあの村に入り浸っているのも伝わっている。そんな所に住みたいのは何故か?

 何故なのか?

 どうして?


「むしろそんなトコロに平然としていられる鈴木太郎とはどんな人物だ?」

「ああ・・・太郎君は謎過ぎる。」

「それで納得する訳ないだろ、ジェームスの感じた事で良いぞ。」


 答え難くて考える時間が欲しいジェームスは二人に視線を向けた。


「凄い人ですよね。なんていうか、度量が広いです。」

「あれだけ受け入れられる心の広さは凄いとしか言えないわね。」


 結果「凄い」しか伝わらない。

 国王はジェームスに視線を向けて目を細めた。


「・・・。」

「何かないのか?」

「とにかく何を考えているのか・・・見通せる時と見通せない時の差が凄い。もの凄い単純な奴だと思っていたのは最初の頃だが、今はその行動全てに深慮遠謀があるんじゃないかと疑っている。」

「・・・そんなにか?」

「考え過ぎだと思う。でも、あの鈴木太郎に対しては考え過ぎても足りない。」


 魔女二人に文句を言われても跳ね除け、嫌われ者のエルフから信頼され、天使達に好かれ、元魔王と現魔王が意見を聞きに来る。そんな村に駐屯する兵士達は任地を離れたがらない。過酷な労働条件であるはずの鉱山は快適で、トロッコ路線の延長計画も有るらしい。しかも、農業に凶作が無い。


「それがあの村の普通・・・なのか?」


 ただの村がハンハルトの首都よりも優秀に見える。海が無いから漁業をしないだけで、有ればきっと大量に捕獲する方法を知っているだろう。


「魚を養殖できれば困らないとか言っていたのをほんのちょっとだけ聴いた事がある。養殖というのがどんなものか俺には理解できないが、牛や豚の様に増やせるんだろう。」

「とんでもない話だな。」

「太郎君から貰った綿花も有るしな。」

「あれならもう収穫して今は加工している。」

「順調なのか?」

「恐ろしいくらいにな。いずれ海を渡る事になるだろうよ。」

「海産物を欲しがっていたから・・・街道さえ整備すればこの国でも取引材料はあるかもしれんな。」

「それは調査させよう。」

「太郎君・・・いや、キンダース商会に直接要求すれば教えてくれるだろう。」

「どうやってだ?」


 キンダース商会は秘密を多く抱えているが、ハンハルトがその情報の開示を求めても企業秘密として回答を得られる事の方が少ない。


「トップを呼びつけるのに魔女を知っているかって書きくわればいい。」


 後日、実行したら本当に直接キンダース商会のキンダースがやって来て、情報の一部、特に鈴木太郎が欲しがるであろう物品などは直ぐに教えてもらえる事になった。


「今迄お前が言いたがらなかった理由は解った。納得もした。それで得られる事より危険が多いのも・・・仕方がないがこれは国家機密になるな。」

「いつバレるか分からないけど、知られない限りは機密情報には違いないな。」


 ジェームスが苦笑いすると、つられて国王も笑った。

 おさまった笑いの後には、真面目過ぎる一言が残される。


「侵攻は同意が得られればやるぞ。」


 ジェームスは苦渋に満ちて口を一文字にした。






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