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第289話 復興

 ナナハルが悲しそうに扉を眺めている。その扉の向こうではマナと太郎が泣いているのを知っていて、音が外に漏れないように魔法で結界を作っている。


「ナナハルさん、気持ちは私も一緒ですよ。」

「じゃの・・・わらわ達では不足か。」

「俺も無理だ。」


 ポチも、その後ろにいるエカテリーナも、寂しそうに扉を眺めている。子供達が不思議そうにナナハルを見ていて、うどんともりそばも外されて気持ちを落としている。


「まあ、運命なのは私の一方的な思いだけど、フラれた事が無いから辛いわね。」

「暫くは・・・。」




 太郎が元の表情で戻って来たのは、それから2時間後で、いつもよりスッキリしているように見える。テーブルについてエカテリーナの手料理が用意されると、いつも通りに食べ始め、それだけで嬉しくて涙が流れる。


「そんなに泣くほど・・・だったんだよね。」


 頭を撫でると抱き付いて嗚咽を漏らす。

 暫く食事ができなかったが仕方がない。

 落ち着いたところでエカテリーナが離れたので食事を再開する。


「お元気になられたようで安心しました。」


 堂々と入って来たのは魔王で、立場で言えば一番偉い人なので周りは一応遠慮している。太郎が蔑ろな対応をしないからで、ダンダイルも一歩引く。それは重要な話し合いが始められるからだ。


「いや、そのままでいいですよ。」


 太郎が水を飲んで食事を中断しようとしたので、自分も食事をすることで、魔王は太郎と同等の立場である事を強調した。太郎には無意味ではあるが、周りには意味のある行動だ。


「村の復興ですか?」

「そうです。瓦礫は全て綺麗に片付けましたが、遺体は埋めるしか無くて。」

「この村の絶対に忘れてはいけない記憶ですし、墓碑を建てましょう。」

「ふむ・・・。」


 無名の人がたくさん死んだくらいで墓碑を立てる事はマズないが、記憶に残したいという気持ちは分かる。あのゴリテアの被害を一番に受けた村でもあるし、聖女や勇者とも戦っている。普通に考えれば過去のどの戦争よりも壮絶かもしれない。


「鉱山もあるし魔石で建てるのも有りか。グルもいますし、彼に任せましょう。」

「グルさんってそういう事もするんですか?」

「魔石に文字を刻むときの道具もそうですが、何万年も残るようにするには相当な技術が必要なんです。魔女クラスでも難しい専門技術ですから。」


 優秀であるのは魔王国のみならず、他国でも有名な男だ。


「資材に問題がないならそれでお願いします。」


 料理が美味しすぎて返事が遅れたので、魔王は頷いて見せた。他の者達にも順次料理が並べられ、特に広くもない食堂は賑わっている。まだ食事に手を付けていないオリビアは、先に言っておきたい事が有った。


「我々の方は資材が揃えば自分達で何とかします。」


 建築技術が優れているので、任せる気でいる太郎には何の問題もない。ただし資材は太郎が用意しないと、彼等には伐採が大変なのだ。


「木材だけじゃなくて鉱山で余った石とか使ってもいいんじゃないの?トロッコもあるし運び出すのはそんなに大変じゃないでしょ。」

「石で土台を?」

「そう、鉄を柱にしてもいいよ。」

「て、鉄を柱に・・・?!」

「支柱を地面に深く埋め込む事で、より倒れにくくなるしね。」

「太郎殿・・・さらっと言いますが、極秘レベルの技術ではないですか?」

「極秘・・・なのかな?」


 鉄を使った建築物など、王宮では使われるが、一般で使われる事は殆ど無い。材料費がかかりすぎる事も有るが、加工がとても大変なのだ。


「この周辺の木材だけでもかなり硬質で建材としては優秀ですし。」

「迷いの森の木はあんまり伐りたくないんだよなあ。」

「トレントじゃなければすぐに育ててあげるわよ?」


 マナが割り込んでくると、いつの間にか後ろに居るうどんがコクコクと頷く。もりそばはエカテリーナの作った料理を興味津々で食べていて話を聞いていない。


「まあ・・・あんまり良くないけど今は頼ろうかな。」


 太郎は畑の時もそうだが、森林についても、むやみに魔法で増やすのをあまり好ましく思っていない。しかし、必要なら、その限りではない。ある程度柔軟に考えて、肉が殆ど得られない今は仕方がないとも考える。


「カエル肉なら結構な量が確保できましたよー。ポチさん達が繁殖させているようです。」


 兵士達には簡単に狩れて量も増えやすいことから人気があるカエル肉。煮ても焼いてもあまり美味くはないが、カレーと合わせれば何でも絶品だ。

 エカテリーナはカレー以外にも美味しく調理してくれるので、兵士達はエカテリーナの料理を以前のように毎日食べられた頃に戻りたいとも思っている。禁止はしていないが遠慮するように命じられているので、今は開放された食堂を利用できる兵士が順番でエカテリーナの手料理を食べていた。


「休んでいる間にある程度は建築もさせてもらってます。」

「どのくらい建てたの?」

「説明するより回って見た方がいいでしょう。」


 確かに。

 と、思うとポチがのっそりやってきた。


「病み上がりなんだ、無理をするな。」

「じゃあ後で頼むよ。」


 ポチの尻尾がブンブン振られている。頼られるのも久しぶりなので大喜びなのを隠そうともしない。食事を済ませると散歩するような気分で外に出ていく。マナともりそばもポチに乗っている。太郎に抱き付いて左右を固めているので、太郎が乗れば二人も乗る事になるのだ。


「普通に考えると女連れで街を見回る上司を見ると腹が立つもんだが、太郎殿の場合はなんか違うんだよな。」

「あぁ・・・逆に凄いからな。」

「オリビア殿やナナハル殿・・・時にはミカエル殿まで引き連れるんだ・・・。」

「もりそば殿って・・・大人だったよな?また子供になってるんだが。」

「どんなに美女でも魔女二人に左右を挟まれて平然としている太郎殿が恐ろしい・・・。」


 兵士達の噂話は太郎の耳には届いていないが、届いたしても気にもしないだろう。

 ドーゴルの案内で見たのは、兵士達が建てたギルドと新たに造られた倉庫である。殆どが鉱山内部に保管されているのと、世界樹の袂にある倉庫は完全に農業用で、村としての財産を共有するスペースの確保が必要になる事を予想して建設している。どちらも太郎は納得できるのでそのまま建設を続け、数日後に不足していた資材の追加を行って完成した。

 倒壊や崩壊した建物は多く、村の中央部は殆ど無くなり、湧き出る温泉の水が虚しく流れている。果樹園も無くなってしまった事で、トレントと世界樹の苗木も無くなったと思っていたが、世界樹の苗木の方は折れ曲がりながらも逞しく生き残っていた。


「アンタ同族なんだから何とかなるでしょ。」

「根っこ迄焼け焦げてたら無理よ。」


 そう言ってからポロポロとスカートの中から出したのはトレントの根っこだ。その出し方やめてくれないかな。マナとうどんが真似を・・・もうしてたか。


「私の身体の一部だけどここから生やした方が早いわ。」

「あんたの影響は受けないの?」

「全くの別物だから大丈夫よ。それより、なんか飛んで来たわ。」

「キラービーね、蜂蜜は持ってないみたいだけど。」

「キラービーって何?」

「そっか、アンタはなんにも知らないのよね。」


 マナが腕組みドヤ顔で村のこれまでを説明する。


「へ~・・・。」

「ちょっと、せっかく話したのに感想はそれだけぇ?」


 植物組が集まってなんやかんやしているところへ、4人の男女が太郎の所にやってきた。傍にはドーゴルもいるが気にしない。


「太郎君も回復した事だし俺達は一度帰る事にするよ。そろそろあっちの王様にも説明しないとならないからな。」


 こっちの王様は目の前にいるので説明は不要だ。


「私も勇者の力を無くしてしまったのですけど、今まで通り使ってもらえるように修行してきます。」


 フレアリスはポチの首の毛がふわふわなところに顔を突っ込んで深呼吸してから、頭を撫でる。ポチの方も悪い気はしないらしく、そのまま受け入れている。


「俺はマリ・・・マチルダ様と戻るつもりだ。」

「ウルサイのが迎えに来たよ。」


 ピュールが空から降りて来て、太郎を睨み付けるが、マナとうどんともりそばに囲まれてふにゃふにゃになってしまった。カッコよく決めるつもりみたいだけどもう無理だから諦めた方がいい。

 合わせたように現れたのは魔女二人だ。何故かツクモもいる。

 神出鬼没過ぎるんだよ、この村の住人は。


「私は戻るつもりはないわ。」

「し、しかし一度戻りませんと・・・。」

「王様にだって魔女だってバレてるでしょうし、あの国に居場所はないわ。」

「太郎ちゃんなら受け入れてくれるもんね~。」

「ハナシは付いておる、あとはお前の好きにするがよいぞ。」


 そう言ったのがナナハルではなくツクモだったから、マチルダは突っぱねた。


「あの国に知り合いでもいるの?」

「コンラットの初めてを奪ったのが私だからな。」


 腕を組んで笑っているが、実にとんでもない事である。

 マギだけが頬を赤くしたが、ジェームスは耳を塞いでいた。

 知りたい情報ではない事と、知っていると利用される危険を考慮した結果の行動だが、ハッキリ言って無駄な抵抗である。


「凄い事するのね。」

「若い頃はせっせと庭仕事をする可愛い男であったぞ。思わず手が伸びて、色々と教えたくなるもんだ。」

「わかるぅ~~!」


 にゅるっと太郎の鼻からウンダンヌが姿を現す。

 やめてくれウンダンヌ、話がややこしくなる。


「それで、問題は片付いているの?」

「あの国の戦力として居てくれるだけでも構わないそうだ。公表しなくても殆どの者は知っておるしな。」

「ふ~ん・・・。」


 マチルダは少し不満だったが、グレッグに「戻りましょう」と言われては断る理由も無くなってしまった。その姿をマギは少し複雑な気持ちで見ている。彼氏が居た事はあったが、それと比べるとグレッグは逞しく、強い。行動を共にしていた時期が短かったとはいえ、その中身はとても濃かったと感じている。そして、その男は魔女が好きだという事も知っていた。

 ソッポを向いたマギに気が付いたフレアリスが肩を抱くと、笑いながら涙を流した。





 フレアリスとジェームスとマギはハンハルトへ、マチルダとグレッグとツクモはガーデンブルクへ、二組は旅立っていった。

 ドーゴルとダンダイルとフーリンも帰り、村は少し賑やかさを失ったが、これが普通である。マナはいつも通り騒がしく、特にもりそばが現れてからは二人で行動する事が多くなった。今日は孤児院で子供達と遊んでいるとの事で、太郎は久しぶりに兎獣人の棲み処へやってきた。自分の子供達と一緒なのでナナハルも同行している。


「ココは相変わらずじゃの。」


 子供の成長は早く、貴重な男の子は大切に保護?されているようだ。


「子供達に見せて良いモノなのかな・・・。」

「構わんというか、当り前の事じゃぞ。」


 家に入るとククルとルルクが待っていて、魔女の張った結界があるため、周辺は安全地帯になっている。もしも敵が現れても、簡単には侵入できないし、直ぐに分かるとの事。分かるのはマリアだけだが。


「ぱぱ~!」

「パパ~!」


 二人が嬉しそうに寄って来て、太郎の腕を掴むと4人が座れるくらいのベンチに座らされた。それを見てもナナハルの子供達が不満を示す事は無い。兎獣人の父親は太郎で、母親は寿命で死んでいるのだから、わがままを言ってもやっても多少は許される。

 もちろんナナハルの子供達の父親も太郎だ。


「それで太郎よ、わざわざここに来た理由は?」

「一応責任感は有るんだよ。」

「それだけかの?」

「それだけだけど?」


 ナナハルは溜息を吐いた。


「難儀な事じゃの。」


 太郎がそういう男であるのは承知しているが、そんな事でイチイチ責任を感じていたら関わるモノすべてを目で追って行かなければならない事になる。


「まあ、限度は有るからこの村以外は忘れるけどね。」

「それはそうじゃろ。」


 ニコニコしながら抱き付いている娘二人の頭を撫でながら部屋の中を見回すと、綺麗に片付けられていて、二人がしっかりとしている事が解る。

 ココに住む他の兎獣人で純潔で、あの時に賊から助け出さなければどうなっていたかの想像は簡単につく。ただ、純潔から外れることを特に気にしていないので、相手がいなければ人以外とでも子供を作るような種族である。

 そして娘の二人は太郎の子供を欲しがっているのだ。


「兎獣人の寿命の短さの理由は良く分からないけど、サキュバスみたいだよね?あの聖女の血筋とか有るのかな?」

「ない・・・とは言い切れんの。」

「ちょっとね、それも気になって確認したかったんだけど、あの聖女のような魔力って感じる?」

「全く無い。」

「サキュバスのような感じも?」

「それは・・・するのぅ・・・。」

「もしかすると、聖女の系統の中に兎獣人ッているのかな?」

「今の天使達の系統には含まれておるようだし・・・否定は出来ん。あの聖女は色々と種を蒔き過ぎじゃ。」

「そうすると今の世界って、聖女とトレントの子孫で構成されてるって事なのかな?」

「そうかもしれんが、太郎の気にする事ではなかろう。」


 親の真面目な会話に口を挟む事をせず、子供達は大人しく聞いているが、とてもつまらなさそうで、欠伸をしている。村を見て回る必要も無さそうで、長居するつもりもなかったが、子供二人にしがみ付かれては動けない。ココに来たらそうなることぐらい予想はしていたが、予定としては太郎が一人で来るつもりだったのだ。


「そういや、何で付いてきたの?」

「何かしようとするとまだ子供がするような事は無いよって兵士の人達に言われるんだ。」

「それは・・・いや、それもそうか。」

「わらわ達に気を使っておるのじゃろ。」

「だよね、建築と資材運びだもんな。せっかくだしみんなでご飯食べて帰ろっか。」


 結局ご飯を食べるだけで終わらず、一晩を過ごす事になった。






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