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第262話 魔女vs聖女

 太郎達が戦っている最中、一人建物の中を歩いている。彼女は自分だけには強い結界を張って身を守っていて、聖女の影響は全く受けていない。


「ここね。」


 大きな扉を開くと、中に居る女性は一人ベッドに座っていて、男が二人斬りかかってきた。当然の様に歩を進めると、斬りかかった男二人は、何かに中って転んだ。


「何者かしら?」

「ただの馬鹿者よ。」

「馬鹿者さんが何の御用?」

「とりあえずこの二人を黙らせて頂戴。」


 そう言いながら相手の返答を待たずに、周囲の結界を切り取って投げつけた。二人の男は何も出来ずに持ち上げられ、部屋の外に放り投げられると、扉が閉まる。

 

「結界魔法ね。領域展開している魔法に対抗する為だけに、なかなか高度な魔法を使うわね。」

「他の方法をご教授願いたいわ。」

「外で実践している子がいるわ。」

「外で・・・?」


 マチルダでは無く太郎を予想したが、その方法が分からない。


「私以上の魔力で周囲を覆い尽くす事よ。無理だと思っていたけど可能な人が居るなんてね。」

「確かに・・・あの子しか出来ないわね。」

「へ~、知り合い?」

「ちょっとね。」

「紹介してくれる?」

「理由次第ね。」

「その人が男なら子供が欲しいわ。」


 マリアはそういう行為について離れすぎていて、直ぐに理解が及ばなかった。


「強い男との子作りなんて最高じゃない?」

「ほんとに聖女なの?」

「半分・・・いえ、6等分したうちの一人ってところかしら。」

「・・・目的は何なの?」

「帰る事。」


 あっさりと答えたのでウソだと思い込む。


「・・・あなたイイ女ね、どう?わたしと楽しまない?」

「はっ?!」


 とんでもない声が出た。

 と、自分でも思う。


「実力的にも申し分ないけど、その結界は邪魔ね。」

「簡単にはず・・・」


 簡単に外れると、周囲の魔力に違和感を感じる。何かに包まれるような・・・。


「なるほど、こっちの方が有効かしら。」


 小さく作った土台の上に立つと、正方形の石を発生させ、それに座る。


「創造魔法?凄いわねぇ・・・。」

「驚いているように見えないんだけど。」

「使い過ぎて崩壊した街が有るから禁止してるの。」

「この魔法を?」

「その魔法を。」


 そこからは周囲を流れる魔素の奪い合いが始まる。

 領域を自分のモノにするのに魔素を展開させている事には気が付いたが、それを行うにはとんでもない魔力が必要になる。それなら発生源の周囲を閉じ込めてしまえば、結果的に広範囲に広がらなくなる。

 その考えは正しかったと思うのだが、魔素のコントロールで互角どころか少し負けていた。


「私達以外でここまで魔力を操れるモノっているのね。私の世界に居たら私達なんか必要無くなったのに。」

「何の話かしら?」

「召喚される前の話。」

「コルドー一族は碌でもない事を考えていたのね。」

「あんなのに利用されるつもりはないけど、気が付かないうちに利用されていたわ。」

「なら、その魔法を使うのを止めたら?」

「大量の魔力が必要なのよ、帰る為にね。」

「召喚されたっていうのも半信半疑だったのだけれど?」

「転移させるにはモノのカタチだけじゃダメなのよ。」


 マリアの興味が湧いた。

 カマをかけるように問う。


「それだけでも転移は可能なはず。」

「もちろん可能よ。でもそれだけだと表面しか転移できない。立体的なモノを転移させるには時間の流れも考慮しないとカタチが崩れてしまうわ。」

「時間・・・?」

「ここにある転移の魔法陣を作った人は時間の流れを計算するのに3650文字も使っているわ。14文字で済むのに。」

「あなた、魔法陣を作れるの?」

「そりゃそうよ、私達が考案したものだから。」


 マリアは解りやすいほどに驚いた。

 彼女が調べ上げて創った言語魔法は、魔法陣の文字を言語化したものであり、言語自体が魔法文字として利用できる事まで調べたのだが、どうしてその方法で魔法を発生させることが可能なのかまでは理解していない。

 パソコンは動かせるが、作れないのと似ている。


「もしかして古代の魔法言語って・・・貴女が?」

「古代って言われると分からないけど、魔法言語ならもっと昔からあるわ。」

「貴女・・・もしかして魔女?」

「そう言われる事もあったわね。でも、それは私の子供達の事。」

「まさか、アナタが私達のルーツじゃないわよね?」

「調べ方なら有るわよ。」


 聖女が手を広げて魔女に向ける。


「な、何して・・・る・・・?」


 身体がほんのりと暑くなるのを感じる。創造魔法で自分の周囲だけは守っている筈なのに、自分の魔素が削られるような、溶けるような、不思議な感覚だった。


「貴女は私達の子供なのは確定したわ。何世代後かは知らないけどね。」

「もしかして、勇者も?」

「勇者と魔女は系統が違うわ。でも因子を植込んだのは私達。ギンギールを守る為に創った魔法因子だったけど、上手く行っているみたいね。」


 魔法因子?

 植込む?

 マリアには理解が遠く及ばない。

 理解できる地名について問う。


「ギンギールが崩壊したのってあなたの所為だったの?」

「原因はね。でも、利用したのは勇者達。そして、依頼したのはデリアス王国。」

「そんな国知らないわ。」

「100年と持たずに滅んだから記録にも残らなかったかもね。」


 デリアス王国とギンギール共和国は天変地異によって共に滅亡したのだが、その原因は創造魔法と勇者の乱用で魔素の嵐が発生しかけたのを、無理矢理抑え込んだ所為で局地的な天変地異が発生し、大地ごとひっくり返る程の崩壊を起こしたのである。


「共和国?あそこに国があったの?」

「あなた質問ばかりね。」

「き、気になるじゃない。」

「ここから先は有料にさせてもらうわ。」


 聖女が立ち上がって歩み寄ってくる。

 ただそれだけなのにその場から動けない。

 これと似たような魔力量と圧力を少し前に感じたことがある。

 あの、男と良く似ている。


「殴って戦うような事は勇者に任せるとして、私には私のやり方で戦わせてもらうわね。」


 マリアの作った石が溶けるように消える。

 障壁を作ってもすぐに消えるし、魔法攻撃の為に火球を作ろうとするところから消えていく。


「そんにいっぺんに寄こさなくても、直接貰うわね。」


 二人は目と鼻の距離まで近づくと、聖女がにっこりとほほ笑む。それは全てを魅了し、全ての心を和らげ、気持ちを穏やかにさせる。


「んっ・・・?!」


 突然重ねられた唇に、マリアは気を失いそうになるのを堪えた。両手で聖女の胸を押し退けると、荒々しく呼吸をする。


「魔力が似てると美味しいのね。」


 味なんてする訳が無いと言いたかったが、声が出せない。


「このまま私の傍に居れば、いろいろな魔法も教えてあげられるけど?」


 それだけなら、魅力的な提案だったのかもしれない。だが、彼女は危険だ。魔女としての本能ではなく、人として、彼女は存在してはいけない気がする。

 それは鈴木太郎にも言える事だったが、聖女ほどの危機感はない。


「残念だけど、お断りさせてもらうわ!」


 最後の魔力を絞り出して、創造魔法で真上に岩石を飛ばす。徐々に小さくなる前に天井を突き破り、ぽっかりと穴が開いた。


「なんのつもり?」

「次は覚悟してもらうわ。」


 その言葉の意味を理解した時、魔女は目の前から消えた。


「転移・・・?」


 転移魔法ならその前の行動の意味が理解できない。ぽっかりと空いた穴を見上げながら、しばらく考えていた。





 即席のベッドを作るだけの材料も道具も、太郎の持つ袋の中にあるので、ポチを背もたれにして太郎を寝かせている。周りを子供達が囲み、一番近くにはマナが太郎に抱き付いている。


「なにか来るぞ?」

「姉さん?!」


 瞬間移動の魔法の所為で一気に魔力が枯渇した所為で、制御を失って地面に激突した。ミカエルが直ぐに回復魔法をかけると、身体の傷は消えたが、起き上がる事は無く、マチルダがマリアを抱えて木陰に移動した。


「・・・この状況は?」


 その後に瞬間移動で現れたのはダンダイルで、約10分にわたってトヒラの報告と説明を受ける。


「ふむ。」


 ダンダイルはそう呟いたまま腕を組んで瞼を下ろし、動かなくなった。考えがまとまらないのである。

 残されて何も出来ずに待機していたトヒラの部下達は、周囲を警戒しているが、ココに居る者達は自分達よりも強い者が多く、警備している必要性を見いだせず、寄り添って休んでいる。それを咎めたりしないのは、トヒラ自身もそれを理解しているからで、正直、自分が役に立ったとは思えない。


「スーちゃん、マナのポーションは持っていないの?」


 言われてから思い出したのか、表情が微妙だ。大切な剣をしっかりと自分の魔法袋にしまってから、最高級品のポーションを取り出す。


「流石に一瓶しかぱくっ・・・いえ、手に入れられなかったですけど。」

「太郎君が回復すればその袋から出せるんじゃない?」

「そ、そうですね・・・。」


 残念な訳ではないが緊急事態だ。そう自分に言い聞かせるのに1分必要だった事は、フーリンは解っているので黙認している。

 スーが取り出した瓶は、子供に渡り、マナに届くと、口に含ませるのではなく、そのまま顔にかけた。


「・・・ぶふっ。」


 太郎が変な咳をしたが、目を覚まさない。


「今のって効果有るんですか?」

「ちゃんとあるわよ。」


 太郎はそこから2時間後に目を覚ますまで、誰一人、一言もしゃべらなかった。







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