第261話 歴然の戦歴
太郎が戦っている頃、ジェームスとフレアリスは、他の勇者達に邪魔される事なく、マギだけを相手に直接剣を交えていた。ジェームスが見ても、まだまだ格下で、スピードはそれほど上がっていないのだが、一撃が重く、剣で受けるのをやめて避けることに専念した。
受け止めて弾き返した方が反撃しやすいのだが、全てを避けると姿勢が悪くなり、反撃しにくい。そこにフレアリスの容赦のない一撃が叩き込まれる。
マギは吹き飛び、家を4軒貫通し、土煙が吹きあがる。
「お、おい。いまのはやり過ぎじゃないか?」
「大丈夫よ、ほらね。」
マギは壊れた鎧を脱ぎ捨て、一直線に突撃してきた。しかしフレアリスには何の効果も無く、拳撃の衝撃波だけでマギの身体は逆方向に吹き飛んだ。
「強さは変わってないわ。」
「少しは強くなっているだろ?」
「・・・そうね。」
フレアリスはドラゴンとも殴り合った経験があるが、あの闘いはフレアリスにとって自分の力を知る良い経験になっていた。
「それにしても・・・。」
マギが立ち上がるのを待っているので、会話する余裕が十分にある。
「なんだ?」
「タフというか、もうゾンビじゃない?」
マギがよろよろと立ち上がると、身体中に残る筈の傷が消えている。
「肋骨が折れるくらいのつもりでやってるんだけど。」
「それはやり過ぎ。」
「じゃあ手本を見せてくれるの?」
何度倒しても立ち上がってくるマギに異様な魔力を感じているが、何かに包み込まれるような別の感覚にも襲われ、マギに集まる魔力に気が付いていない。
「武器・・・は拙いな。」
土魔法で棒を出現させようとして失敗する。
「あれ・・・なんでこんな初歩の魔法で。」
マギが真っ直ぐ駆け込んでくる。仕方がなく素手で構え、流れるように懐に入り込むと、勢いよく背負い投げをして地面に叩きつけた。
「ぐはぁっ・・・。」
マギの表情が歪む。
ジェームスもやり過ぎたと思って渋顔になったが、マギの眼が真っ直ぐジェームスに向くと、マギの脛が股間にクリーンヒットした。
鎧を脱ぎ捨てたあとに、無理に掴んだ衣服が乱れて破れて胸が露わになっていた。
「それは、やりすぎ。」
股間にはプロテクターが有るので痛くはないが、状況を理解して逃げるように回避する。立ち上がったマギは恥ずかしくないのか、隠しもせずに攻撃姿勢になった。そこをフレアリスが後ろから羽交い絞めにする。
「ぐっ・・・はなせっ!」
バタバタと暴れるが戦歴も実力も、圧倒的な差がありすぎてマギに勝ち目はない。それなのに戦意は落ちず、むしろ殺意すら感じる。
「暴れるなら、ちょっとごめんね。」
そのまま無理矢理引っ張り背を左右に引っ張る。
「ぎゃあああぁぁ・・・・。」
痛みを通り過ぎて、声が出せない程に引っ張ると、気を失った。
「お、おい。」
「絶対変よ、こんなの。」
「確かにそうだが。」
気を失ってもバキバキに折れた筈の身体は元に戻っている。
「これが聖女の力なのか勇者の力なのか・・・。」
「それに、纏わり付くような変な魔力が気になるわね。」
「そ、そうだ。さっき魔法が使えなくなってな。」
「そうね。」
「気が付いていたのか?」
「そうね。」
フレアリスの魔法について、ジェームスなんかとは比べ物にならない程下手だが、魔力が感知できない訳では無い。この異様な感覚に気が付いたのも、ジェームスより冷静でいられたからだ。
「・・・雨?」
屋根の壊れた家の中で見上げると、青空から雨が落ちてきた。
「うっぐ・・・。」
「おい、血を吐いてるぞ。」
「そ、そうね。」
身体の内部のどこかが傷付いているのか、羽交い絞めの手を緩めると、マギは力なく床に崩れた。ジェームスが傍にあったベッドのシーツでマギの身体を包むと、フレアリスが抱きかかえた。
「なんか、この雨・・・気持ちいいな。」
「・・・そうね。」
スーは両手に握り拳を作って我慢している。直ぐに助けに入りたいが、今割り込めば勇者の大群が襲い掛かってくるだろう。どういう理由なのかは全く理解できないが、二人の邪魔をしてはいけないという事は理解できる。
「うどんが消えおった。」
「・・・。」
スーは軽口も叩けず、トヒラは周囲に気を使いながらも、逃げる道を模索していた。反対にマチルダとナナハル親子は逃げるという気が全くないが、理由は対照的で、マチルダは無気力にポチを背もたれにしているが、ナナハル達は太郎を見捨てる気など無い。
マナはそのポチの頭を意味もなく撫でていた。
「・・・。」
苗木だけになったうどんを拾いあげると、懐に入るほど小さい。
「そんな物を拾ってどうする・・・?!」
グレッグが睨む太郎の姿が僅かにブレた。霞むように透けたかと思うと、背中から渾身の一撃を喰らって吹き飛んだ。
「動けます。太郎様の予想通りでしたね。」
太郎は返事をしない。
ゆっくりと歩み寄ると、起き上がろうとするグレッグを待ってから、渾身の右ストレートを叩き込むと、もう一度倒れる。それでも立ち上がるグレッグを起き上がるたびに殴り倒した。
「あれは戦いでは無いぞ・・・。」
ナナハルの子供を守る尻尾に無駄な力が籠る。
「あの時の太郎だ。」
「・・・ですね。」
ポチとスーの会話はマナにも分からない。
「おとーさん・・・怖い。」
「よく見ておけ。」
「う、うん。」
ナナハルは太郎の異様な姿に感動すら覚える。
鈴木太郎の子を産めて良かったと。
ぽつぽつと降り始めた雨に気が付く前に、マナが気が付いた。
「あれ?」
「・・・魔法が・・・使える?!」
マチルダは立ち上がると、湧き上がる魔力に涙を流す。
「大袈裟ねぇ。」
「晴れてるのに雨が・・・?」
この世界では、晴れているのに雨が降る事を「狐の嫁入り」というモノはない。だが、雨に濡れているのに妙に心地良く、子供達は雨を喜んでいた。
「なぜじゃ・・・?いつもよりも強い魔力を感じるのぅ。」
「これなら出来るわ。」
すぐに回復して立ち上がる筈のグレッグが、今は足元をふらつかせている。
回復が間に合わないのだ。
「太郎が強化魔法を使ってるわ。」
「ほんとですね・・・使えたんですか?」
「実際に使って戦っているところを見るのは初めてだけど、あんなに上手かったの?」
「ああ、そういえば木を切ったり運んだりするのに都合が良いと言っておったな。」
「なるほど・・・。」
トヒラは太郎の背にあの人と同じ雰囲気を感じ、呆けるように見ていたがすぐに自分を取り戻す。
太郎は攻撃の手を休めつつ、とどめを刺すことなくただ殴り続けている。立ち上がろうとするグレッグがよろめいて倒れ込んだ時、マチルダは飛び出した。
「貰ったわ!」
グレッグの周囲が輝くと薄い障壁に包まれ、太郎を睨みつける眼に力が無くなると、血を吐いて倒れた。
「なにしたの?」
「グレッグを結界の内側に閉じ込めたわ。これで外部からの影響は消えるはず。」
「結界の・・・?あぁ、兎獣人の所みたいな?」
「そう、あれのもっと局所的に閉じ込める結界。」
結界に閉じ込めたままのグレッグを魔法で持ち上げる。気を失った上に全身があざだらけで、動けるような状況ではない。
「くるぞ!?」
トヒラが叫んだのは、待機していて動かなかった勇者の群れである。それはグレッグが負けたのを機に一斉に攻めてきたのだ。
「おぬしら魔法は使えるな?」
「うん。」
「よいか、まともに正面から相手にするな。」
「はい。」
「常に相手を誘い出し、横から全力で吹飛ばせ。」
「わかった!」
子供達には纏まって行動するように指示をしておいて、ナナハルはトヒラやスーと並んで個別に突撃した。
そこまでは覚悟しての行動だったのだが、近付く勇者達は雨に濡れると浮く事が出来ずにボトボトと落ちていく。
「太郎、この雨ってウンダンヌ?」
いつの間にか太郎の肩に座っているマナが頭を撫でながら問う。
「なんとも・・・異様な光景じゃ。」
雨は降っても、人が降るというのを見た経験はナナハルでもない。
「うどんが教えてくれたんだ。」
「うどんが?」
寄って来るポチの頭を撫でると尻尾が激しく動く。
太郎からはさっきの戦意が微塵にも感じられず、いつもの太郎だった。
「苗木になったけど戻るかな?」
「うどんなら太郎の中に居るよ。」
「俺の中?」
「うん、さっき太郎の身体に入り込んでたのが見えたから。」
それはマナにしか見えなかった事で、他の者達には感知できていない。魔力の質が違うのではなく、世界樹だから分かったのだ。
「・・・俺の魔力で作られた水の傍だと自由に動けたから、うどんが寄って来たんだと思う。そこから俺の神気魔法で雨を降らせれば、雨が降っている間は使えると思ったんだ。」
「それって太郎さん、とんでもない魔力量なんじゃ・・・?」
戦うつもりで飛び出したスーが相手の方から勝手に自滅する姿を見て戦意を萎ませている。そこで太郎の傍まで近寄ると、とんでもないことをやっていて驚いたのだ。
「多分・・・半分くらい減ったんじゃないかな。暫くは降っててもらうつもりだから、今のうちにジェームスさん達と合流して逃げよう。向こうの方が先に終わってるんじゃないかな。」
逃げるという言葉に、すんなりと受け入れられるのは太郎の言葉だからで、無意味に逃げる訳では無く、作戦終了、撤退開始。と、トヒラは言いたい。
「あれ、姉さんは?」
元気になったマチルダは気が付いたが、他の者達は気にも留めていなかったようで、存在すら忘れている。
「そういや居たんだな。」
「えっ、あ、うん・・・。」
「助けに行く必要ある?」
「・・・。」
無いと言いきれてしまうのが魔女の凄い所で、太郎一人でも辛い環境の中、あの魔女は一人でどこかへ行ってしまったのだ。
遠くから呼ぶ声が大きくなり、太郎達が気が付く。
「おーい。」
「あっ、ジェームスさん?」
「すまん、敵を連れてきた。」
ジェームスの横にはマギをお姫様抱っこしたフレアリスと、その後ろに装備の整った兵士の一団が見えた。
落ちた勇者達も立ち上がり、こちらに向かってくるようだ。
とてつもない危機的状況であるはずなのに、太郎以下全員が楽観的になっている。
「なんか雨のおかげなのか、凄く気分が良いわ。」
「そうだな。」
「一暴れしたい気分。」
「そ、そうだね?」
「ちょっと預かってて。」
「えっ、私ですかー?!」
お荷物と化したマギをスーに手渡すと、ドスンと地面を強く踏み、周囲が僅かに揺れる。やる気が漲っているようで、兵士達の方ではなく、勇者達の方へ突撃し、最初の拳圧だけで数人を吹き飛ばし、次々と一撃で殴り飛ばしていく。
ついでに建物も破壊されているが、これは仕方がない。
「いくら雑魚でも勇者達をあんなに・・・凄すぎですねー。」
いつもの口調に戻ったところで、スーが子供達を率いて兵士達に向かっていく。ある程度片付けた方がいいだろうけど、流石にそこまでやる必要があるのか謎だ。
「早く撤退しませんか?」
トヒラに言われて同意する。
「帰りたいけど、少し気になる事があってね。」
「気になる事・・・ですか?」
「なんでみんな聖女の言う事を聞いてるんだろうって。疑問に思わないのかな?」
「それは我々も調べていますが全く分かりません。ただ・・・太郎殿の雨の効果なのか、この周囲ではその力が弱まっているように感じます。感じたままなので確実ではないですが。」
のっそりとナナハルも寄って来る。
「ここでの長時間は危険じゃぞ。」
「この何かを何とかしないと解決しないんじゃないかな・・・。」
抽象的過ぎるがナナハルとトヒラは納得してくれたようだ。
「ここに集まった人達も何かに影響されてるんだろうけど、何ともない人は何ともないよね?」
ナナハルやトヒラも、近くまで来ているというのに心境に変化はない。聖女に会いたいという気持ちが無い訳では無いが、それはただの知的好奇心である。
「わらわに言わせれば、ただのお祭り騒ぎじゃ。」
「確かに似てるねぇ。」
二人の会話に入れないトヒラは別口からアプローチする。
「勇者達の影響力も有るんでしょうか?」
「グレッグよりも強いと思う勇者もいるんだろうけど、何故かいないよね?」
「言われてみれば・・・?」
「そこは太郎殿が強くなったのではないのですか?」
先ほどの戦いを見る限りではあるが、トヒラは太郎からダンダイルと似た雰囲気を感じている。
「一瞬でボコボコにされたけどね、うどんが居なかったら・・・。」
「うどんなら心配しなくても、魔力を戻すか、この苗木を枯らさずに育てれば元に戻るわよ。」
「戻し方が分からないんだ。」
「うどんが自分の意志で入り込んだからねぇ・・・。」
のんびりと会話している間に、スー達グルーブは兵士を面白いように翻弄しており、子供の玩具の如く吹飛ばされている。
フレアリスはジェームスと合流して戦っていて、少しは歯ごたえのありそうな勇者との対峙も、数秒後には周囲の建物ごと吹飛ばしている。
「絶好調みたいだね。」
「次は正規兵の他にも冒険者達が来ると思いますので。」
「そーだね、一人は仕方がないとして移動しようか。」
ウンダンヌを呼び戻すと、雨が弱くなり、それに気が付いたスーが子供達の襟首を掴んで引き戻す。ナナハルがスーに礼を言うと、自主的に戻ってきたジェームスとフレアリスは、ポチの背中に乗せられているマギを確認して安心する。
「帰ろう。」
次の瞬間、フーリンとミカエルの待つ場所に移動し、そして太郎は倒れた。
単純に魔力が枯渇したのである。
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なんかタイトルって考えるの辛くないですか?




