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第260話 再戦

「きたわね~。」


 返答を待たずに拳大程の火球を複数発生させ、放った。

 爆発が幾つも連鎖し、現れた二人を包み込む。


「当たってない・・・。」


 爆発が消えて魔力が中和されると、男一人、女一人が魔女と対峙している。見ての通り無傷だ。


「結界?防御魔法?浮いたまま使っても平然としているなんて・・・。」

「ああなって欲しいと望んだけど、敵として現れるなんて望んでいない。」


 二人は剣を抜いて確認するように呟く。


「聖女ソレ様の敵だな。」

「ええ。」


 反撃を恐れずに突進してくる二人に、土魔法で障壁を作り出したが構わず体当たりで破壊し、速度が僅かに遅くなっただけで、かつての上司に向けて剣を振り下ろす。


「殺さないようにするって大変ね。」


 左右に分かれて後退すると、マリアが小石を放って牽制する。その全てを身に受けて、防御することなくマリアに斬りかかる。


「まるでゾンビね。」

「私は・・・敵を倒すだけっ!」


 さらに接近してくる目の前の女性が、突如真横に吹き飛んで行く。


「こっちは貰ってくわ。」


 横から現れたのはフレアリスで、地上から飛び上がって蹴り飛ばしたのだ。今度は目の前をジェームスが横切っていく。


「済まんな、保護者は大変なんだ。」


 と、言葉を残して。


「なんなの、あの二人?」

「あの子の保護者という事で、私達はこちらを!」

「そう言われると私どっちの保護者でもないんだけど?」

「そ、そこは手伝ってくださ・・・え?」


 視線を向けた先に、マチルダの求める姿は消えていた。


「グレッグ?!」


 名を呼ばれても振り返る事なく、急降下して地上に着地すると、グレッグは自分の求める敵を見付けて走り出した。


「なんじゃ・・・あやつ、こっちに向かって来るぞ。飛べばよいモノを何故走っておるのじゃ?」

「まさかねー・・・。」


 そのまま止まることなく、真っ直ぐに向かって来るので、子供達とその母親が同時に障壁を作った。


「親子の息ぴったりですねー。」


 観戦者になってしまったスーが見詰める先には、障壁に囲まれて身動きができなったグレックが、内側から魔法を放った。


「あ奴はバカか?!」


 障壁は破壊されたが、本人にも被害がある至近距離で、地面をえぐる程の礫が周囲に飛び散った。


「目的は太郎殿のようですが?」


 トヒラの観察は的中していて、それを聞いた太郎はゲンナリした。


「多分あの時の所為なんだろうけど、俺は忘れたかったなあ。」


 ナナハルと子供達の知らない事実だが、スーとマナとポチは共有している。


「ねちっこい男は嫌われるわよ。」


 マナのセリフは何故か太郎にも突き刺さったが、意味がまるで違う。


「貴様は女子供に囲まれて戦わないのか?!」


 グレッグがそう叫ぶと、太郎は周囲を見回した。

 確かに女子供が多い。


「太郎さん、ちゃんと剣の修業してました?」

「・・・してない。」


 だが、こうなると太郎が剣を抜かなければならないような気にさせられてしまうが、まだその時ではないと期待していると、直ぐにその時がやってきた。


「うわー・・・凄い人の数ですよ。」


 うどんが見上げているので同じように上を見ると、勇者の大群が飛来してくるのが見えた。


「ざっと見ただけで200人くらいいるんですが。」


 トヒラが言うと現実味がある。それを全て相手するのは、無理というモノだろう。


「吹飛ばそう。」


 太郎がそう言うと、飛来する勇者達を次々と突風が襲った。しかし、半数以上が耐えているようだった。


「遠すぎて風が上手く操れません。」

「聖女の所為?」

「こんなに強い魔力、太郎様以外から受けるとは思いませんでした。」

「ゴリテアの影響じゃないよね?」

「ちがうけど、家の主ちゃんも厄介なの敵にしちゃったね。」


 精霊が厄介って言うと、真実味がある。


「囲んだままこっちに来ないという事は・・・太郎とのタイマンを望んでいるという事じゃな。」


 ナナハルが子供達を自分に寄せると、太郎の後ろに控えた。


「スズキタロウ!」


 はいはい。と、心の中で応じる。


「待ちなさい!」


 勇者の群れを半数ほど吹飛ばした結果、マチルダはその場に割り込む事が出来た。振り向きもしないグレッグに苛立ちを覚える。


「マナ、前みたいに草を伸ばして捕まえられる?」

「オッケー、やってみる。」


 マナが魔法を発動しようとしているのは何となく解るが、何も起きない。


「あれ?」

「えっ?」


 マチルダは何かの魔法を発動しようとして失敗しているようだ。周囲を見渡すと、何かに包まれるような感覚がある。


「普通は魔法が使えないはずなんだが・・・。」


 マチルダはいきなり落下した。


「ぽち!」


 命令であればかつての敵をも助ける。ポチは少し複雑だったが、太郎に言われたのなら全力を尽くす。人では不可能な加速力を発揮し、僅か数メートルで空中キャッチすると、そのまま着地して地面に降ろした。牙の所為で服が僅かに破れたが、気にするほどではない。


「あ、ありがと・・・。」


 予想外の言葉にポチは驚いた。感謝の言葉が出ると思っていなかったのだ。思わずその顔を見ると恐怖に震えている。


「なんだ魔女らしくもない。」

「魔法が使えない魔女はただの人なのよ・・・。」

「使えない・・・?」


 ポチにも魔力は有り、空を飛ぶ能力もあるが、移動するのなら地面を駆けた方が早い。だから太郎はポチに頼んだし、ポチはそれに応えられた。


「ちょっ・・・と、なに?!」


 ポチはもう一度魔女の身体をガブリと咥えると、そのまま太郎の所まで戻って来るまでの間、グレッグはその光景を無言で睨みつけていた。





「どうじゃ?」

「ん~~~・・・だめ、飛ばせない。」


 子供達は鬼火を発生させているが、飛ばそうとすると消えてしまう。ナナハルは多少飛ばせるが、かなり弱まってしまう。


「太郎より魔力が強いって変よねぇ。」

「それなら、私達も気が付きます。」

「だよね。」


 精霊とマナの会話は良く分からないが、俺より魔力が強いのなら精霊はそっちに行くハズ、という事だ。

 その間にも吹飛ばした勇者達とはまた別の勇者達が集まっていて、トヒラが計算したところでは300人以上の勇者が集結している事になる。


「勇者のバーゲンセールってか。」

「太郎さんは何を言ってるんです?」

「いや、何でもない。」

「仕方がないな・・・二人とも手伝ってよ?」


 精霊に命令できる太郎の特権を最大限行使して、あの男を倒さないようにしなければならない。防具は神様から貰った最高級品を身に着けているが、武器は使えない。


「安心しろ、俺以外は戦わない。」

「それは有り難い。」


 太郎は瞬間移動を使ってグレッグの背後に立ってから土魔法で創り出した硬石の棒で一撃を決めた・・・。


「・・・っ?!」


 グレッグは声も出せずに倒れたが、直ぐに立ち上がった。太郎は手加減した事が原因だと思っている。


「な、なにをした?」

「説明する必要ないよね。」


 太郎は立ち上がったグレッグの背後に瞬間移動し、再び棒を振り下ろした。


「させるか!」


 頭上ギリギリで剣で受けたグレッグだったが、姿勢が悪い。がら空きの背中に、太郎が蹴りを入れると、前に倒れ、右足を思いっきり叩いた。


「ぐぁっ・・・。」


 鈍い音と同時に骨が折れる。

 だが、グレッグはすぐに立ち上がると、折ったはずの骨が元に戻っていた。


「え、なんで?」


 驚いたのは太郎だけではない、観戦するマナ達も驚いている。

 グレッグは太郎に向かって真正面に突撃して来たので、瞬間移動で・・・。


「捉えたぞ!」


 太郎は足を動かす事なく移動しているが、それはシルバの魔法によるもので、常に数センチ浮いた状態だった。それが、地面に足が着くと、移動速度が半減どころか、動けなくなった。慌てて土魔法で物理障壁を作る。ナナハル達よりも更に硬い障壁は、グレッグの一撃には耐えたが、二撃目で太郎ごと吹飛ばす。


「太郎も魔法が?!」

「すみません、力が出ません。」


 何かに包まれる感覚は有るが、太郎は身を振って跳ね返す。


「なんか、気持ち悪いなぁ。」

「次はどうする?」


 有利と感じたグレッグが口端を釣り上げる。それはマチルダも見た事の無い悪意のたっぷり含まれた笑顔だった。


「こうするさ。」


 太郎が一番得意な魔法は水を操る事で、子供達ともよく遊んで使っている。それは威力が極限にまで弱められているが、今は極限まで高めた。

 太郎の目の前に、ほぼ太郎と同じサイズの水玉が出来る。それが一つ、二つ、三つと増えていく・・・。


「水ごと斬ってやる!」


 切っても水にダメージは無い、その水は人型に変化すると、手には太郎と同じ棒が握られ、グレッグに襲い掛かった。

 一体目の水人間を腕から切り裂いて横をすり抜けるが、二体目と三体目から同時に振り下ろされた棒を避けられず、顔面に喰らうと、太郎が腹に棒を突き立てる。


「ぐぉっ・・・。」


 吹き飛んで転がるが、またすぐに立ち上がった。服はところどころ汚れたり、破れたりしているが、傷はどこにも見当たらない。


「なんだ、これ・・・。」

「これは魔力が直接接続されているようですね。」


 そう言ったのはうどんだった。


「接続って何よ?」

「簡単に言うと太郎様と精霊の関係と同じです。」

「って事は、その接続先はあの聖女じゃな?」

「そうなりますね。」


 理解した時、マチルダにとって絶望的だった。魔法が使えず、戦う力も無くなり、ただの傍観者に成り下がってしまっていて、ただ祈るのみだ。


「・・・使えます、短距離ですが。」

「回り込んで。」


 太郎の周囲には先ほど使った水人間がただの水溜りになり、土魔法の棒は溶けて消えている。

 グレッグの背後に立つと、今度は容赦なく土魔法で剣に変えて斬りかかった。背は鎧ごと斬り裂いて、直後に血飛沫が舞うと、血だまりが出来た。だが、倒れずに振り返って、太郎を攻撃してくる。

 血で染まった鎧からはもう血が流れていない。


「ぐっ・・・!」


 後方に飛んで避けようとしたが、グレッグの方が早く、太郎は防ぎきれずに吹飛ばされた。修行をしていれば防げたであろう一撃を、太郎は受け止めて力負けしたのだ。


「・・・おまえ、どうやって回復した?」

「?」


 太郎は思ったよりも痛みを感じず、直ぐに立ち上がると、あの時の様に高ぶる気持ちを抑えつけた。


「痛くないぞ・・・?」

「勝手に接続させてもらいました。」


 太郎が立ち上がった後ろにはうどんがいる。


「おまえはまた女の力を借りるのか?」

「聖女の力に頼らなきゃ勝てないような奴に言われたくないね。」


 太郎は珍しく挑発に乗った。

 突進してグレッグに斬りかかると、今度は鈍い剣戟が繰り返される。上段攻撃を弾かれると、直ぐに下段へ。その下段も弾かれると、瞬間移動で回り込んでから横に薙ぎ払った。だが、回り込まれる事を予測したグレッグに回避されると、回し蹴りが飛んで、太郎は避けきれずにまた吹飛ばされた。

 痛みも無くスッと立ち上がる。


「あんな攻撃・・・いや、ちょっと早いかも。」

「太郎殿は瞬間移動をもっと使えれば攻撃なんて喰らわないでしょう?」

「何か抑え込まれてるのよね。」


 マナは自由に魔力を使えない事に苛立ちを覚えるのだが、それは同時に太郎からの魔力の供給を断ち切られるという事になる。


「マナも魔法が使えないのか?」

「そーなのよ、うどんが太郎に近付いているのは魔力を接続する為なんだろうけど、本当ならもっと離れてても平気なのよ。私が魔法を無理に使ったら姿を維持できないわ。」

「少し透けているぞ?」

「吸われてるからね、良く分からないけど。」

「これって結構ピンチじゃ・・・?」


 スーの問いに誰も答えない。ナナハルは暑くも無いのに額から汗を流し、子供達を膨らませた尻尾で包んだ。スーがピンチなどと言わなくても、ナナハルは状況を理解できていて、今すぐにでも逃げるべきだと思っているのだが、逃げ出せば約300人の勇者によって逃げ道を封じられるだろう。

 先が予測できるだけにナナハルは動けなかった。太郎の無尽蔵の魔力も使えなければ意味は無いのだから。

 だが、太郎には一つだけ気が付いた事があった。それは太郎が作った水溜りの周囲だけは瞬間移動が使えるのと、うどんがその水溜りから離れようとしない事だった。


「試す価値よりもやらないと意味ないよね。」

「何を言っている?」


 太郎は無視した。


「ウンダンヌ。」

「えっ・・・で、出来るけど、半分くらい減っちゃうわ。」

「頼りにしてるよ。」

「ウ、ウン。」


 珍しく頼られる事に緊張したウンダンヌは、太郎から離れて上空に消えた。同時に太郎からごっそりと魔力が減ると、軽い立ち眩みをする。当然の様にその隙を見逃してくれず、グレッグの連続攻撃を全て喰らい、今度は太郎の腕が折れてあり得ない方向に曲がった。


「「「おとーさん?!」」」


 子供達の悲鳴のような声の後に、太郎は立ち上がったが、異変が起きた。傷は綺麗に無くなったが、うどんの背丈が太郎より低くなっていたのだ。

 変わらずの笑顔で太郎に寄ると、太郎にしか聞こえない声で囁いた。


「太郎様、必ず・・・。」


 その後に続く言葉は無く、うどんは苗木の姿になると、その場に転がった。






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