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第208話 従属

 あれから数日後、ボルドルト帝国からの交易船が来ないのは理解できるのだが、出港するべきなのか悩んでいる商船で溢れていた。もちろん、別の国に向かう船も有るので、ボルドルト以外の国に向かう船は出向している。


「出港の許可は出ているのに何故?」

「あれだけ戦争が起こるって言われて、次の日に何にもないから行って良いと言われましても・・・。」


 商人達の困惑は当然の事だろう。

 このような時にキンダース商会が役に立つ。

 彼らの商船が何事も無かったかのように出港していくのを見送った他の商人達が、追随するように慌てて出港していく。

 もちろん、ボルドルトに向かって。

 そのボルドルトでも似たように現象が起きていて、こちらの場合は全ての船が出港できずに悩んでいる。皇帝さえもどうして良いのか分からない。

 しかし、彼らは決断した。それは商人としての矜持がそうさせたのであって、特に確信的な理由は無い。


「あの日以来何もないですが、本当にシードラゴンだったのでしょうか・・・?」

「軍艦が一瞬にして沈んだのだぞ、あんなことが可能なのはドラゴンレベルの能力が無ければ天使か魔女、勇者の可能性もあるが・・・疑う理由でもあるのか?」

「あんなにタイミングよく現れたという事に違和感を感じます。」

「ふむ・・・しかし確証は無いな。」

「はい。おっしゃる通りで。」


 皇帝が将軍達を集めて会議している内容の一部だが、怒らせて何事もなく済む相手ではない。無駄死にこそやってはならない事で、戦って勝つ事にプライドを持っているのだから、負ける事が前提になるような戦は忌避されている。

 そんなわけで、なにも結論は出なかったのだった。





 村にある池のほとりでウンダンヌが太郎に巻き付いている。

 まるで蛇に絡まれているように身体の自由が利かない。

 どうしてこうなったのかと言うと、ほんの数分前である。


「ねぇ、これ本当に必要なの?」

「不要です。」

「だよねー。」

「えー、私の力貸してあげないよー?」

「太郎様がいなければ本来の力も発揮できないでしょう。」

「あー、なんでホントの事言うのー!」

「太郎様を困らせて主導権を握ろうとするつもりなら止めた方が良いですよ。」

「あんでよー?」

「私達の存在を忘れるくらい呼んでくれないので。」

「今のうちに吸えるだけ吸っておこうかなー・・・。」


 太郎の周囲を水が螺旋状に下から上へと登ってゆく・・・。


「なんか金縛りみたいに動けないな。」

「いただきまーす♪」


 こうして太郎は唇を奪われた。


「んっ?!」


 重ねた唇から太郎の口の中へ、ウンダンヌの身体が吸い込まれるように、傍から見た者は太郎が飲み込んでいるかのように、一瞬にして消えた。


「飲んじゃったー?!?!」


 太郎の叫びに周囲も困惑しているが、冷静に説明してくれたのはシルバだ。


「ただ体内に入っただけです。」

「そうなんだけど、飲み込んだ感覚は有るのに食べたという感覚は残らないんだな。」

「今体の隅々まで染み込まれていきます。」

「で、どうなるの?」

「いつでも自由に呼び出せます。」


 太郎は嫌な想像をしてしまった。


「・・・口から?」

「いえ、指の先からでも呼び出せるはずです。」


 太郎は自分の指先を見詰め、何かが染み出てくる僅かな感覚を得た。

 すると指先には小さなウンダンヌが上半身だけ現れた。


「ちっさすぎる。」


 呟くと、その水はうねうねと動き、大きさだけは太郎と同じくらいに成った。


「確かに元の大きさだけど近い近い。」


 伸びてきた両腕に抱きしめられ、ひんやりとした感覚に包まれる。意外と涼しいので夏のように暑い日なら便利かもしれないと考えてしまう。


「あ~~~~。やっと喋れたわ、これで魔素に関しては同じ性質を持つ事になったから、ちゃんと供給してね。」

「足りなかったら勝手に持って行けるようにする為じゃないのか、今のやつ。」


 音の出ない口笛を吹いて誤魔化そうとするウンダンヌは、どうしても精霊っぽくない。視線も明後日の方へ向けている。


「そういうシルバだって主ちゃんの魔力貰ってるじゃん。」

「そう言われればそうなんだよな、でもシルバは身体に入ったりしなかったぞ。」

「何言ってるの、シルバは基本的に触れる事が出来ないのよ。」

「あー・・・空気と同じって事か。」

「気付かないうちに主ちゃんの身体の中に入ってむしゃむしゃしてるんだから。」

「それはそれで嫌だな。でも、前から勝手に持って行ってたよな?」

「魔素の性質を主ちゃんと同じにするのに必要だったのー!」


 マナとフーリンとダンダイルが、精霊と会話する太郎を眺めながら、こちらは別の会話をしている。


「太郎もどんどん成長していくわね。」

「これを見るとさっきの話も嘘では無い事が理解できますな。」

「ちょっと、ウソだと思ってたの?」


 マナがダンダイルの頭をペチペチと叩いている。


「魔女二人が証人と言われれば信じない訳では無いですが・・・偽物のシードラゴンを出現させるだなんて大それたことを良く思い付きましたな。」


 と、そう言ってふと気が付く。


「太郎君はシードラゴンの姿を知っているので?」

「あー・・・そう言われれば知らないと思うけど、時化でぼんやりとしか見えないようにしてたし、殆どの人はちゃんとした姿知らないんじゃない?」

「私も全身は知りません。」

「私も知りませんが・・・たしかに、本当の姿を知らないのならいくらでも誤魔化せるという事か・・・。太郎君は大胆なのか無謀なのか、よくわからない事をするときも有るんですよね。」

「そうねぇ、多分、まだどこか現実感が無いんでしょうねぇ・・・。」


 マナの言葉は二人には理解できない。なぜならここは現実であり、現実であると認識しなければならなくなる理由なんでない。太郎の世界を知っているマナだからこそ言える言葉だ。


「あー、なんかめんどくさいなあ・・・。」


 そう言いながら太郎がこちらへやってくる。精霊を二人も従わせて面倒とは贅沢な話だと、ダンダイルは思う。そしてもう一つ思う事と言えば、彼こそが魔王国の魔王に相応しいとも思うのだ。

 もちろん、そんな事は言わない。


「太郎君は新しい技を使えるようになったとも聞いたが、どんな技で?」

「あー、瞬間移動の奴ですねー。」


 口調が少し感染っている。


「瞬間移動は・・・そんなに簡単に使えるのも羨ましい。」

「ダンダイルさんも使えるようになったんですよね?」

「今トヒラに教えようとしているのだが・・・真上に飛ぶようにさせたら急に夜になって怖くなったと言ってましたな。」

「それ宇宙目前まで飛んでいるような。」

「ウチュウ?」

「青い空の更に彼方です。」

「それをウチュウと?」

「そうなんですけど普通に生きていけないんで行かない方が良いです。」

「生きていけないとは・・・確かに空中で生活している者なんていないですなあ。」

「空と言えば天使ってどこに住んでいるんです?」


 話題が微妙に変わったので、返答に少し時間がかかった。


「空中・・・のどこかにある雲の上にある不思議な大地らしいです。」

「らしいって?」

「彼らがそう言っているだけでそんな場所は何処にもないというのがドラゴンの見解で、どこかの山頂に住んでいると思われます。」

「あー・・・吃驚するほど高い山ってありますもんね。」

「一年中雪が溶けずに残っている不思議な場所です。」

「万年雪かあ・・・マナも大きく成ったら天辺に雪が積もって残るんだろうな。」

「風で吹飛ばされるわ。」

「あ、そっか。」


 マナは太郎の肩に移動し、その太郎はシルヴァニードとウンダンヌの事をすっかり忘れて、みんなの集まる食堂へ向かった。フーリンとダンダイルは、そんな太郎を見て、ココは平和だと再確認するのだった。




 魔女二人は村に居るが、住んでいるのはマリアだけで、マチルダは元の家に帰る事になっている。現在の家はガーデンブルクにある彼女専用の将官級のみが使用できる執務室だ。だが、最近はずっと不在で、取り残されているグレッグとしてはただ待っている日々を送っている訳では無く、剣や魔法の訓練をして、いつ戻って来ても問題が無いように執務室をピカピカに掃除をしている。

 ベッドメイクも忘れずに行い、使用していなくても天気の良い日には布団を日に当てて干していた。

 いつも突然開かれるのを期待してドアを何度も見ているグレッグが、その日はその期待を裏切られなかった。

 ガチャっという音を鳴らして開かれると、そこには期待する姿が有ったのだ。


「あら、綺麗にしてるわね。」

「あ、おかえりなさいませ。」


 それしか言えなかった事に少し後悔もあるが、嬉しさで頬を緩めてしまう。


「そんなにニコニコして良い事でもあったのかしら?」

「たった今、良い事がありました。」


 そういう事である。


「色々あり過ぎて少し疲れたから今日は休ませてもらうわね。」

「それはかまいませんが、あすからのご予定は?」

「明日伝えるわ。」


 そう言って寝室へ入ってしまう。

 そこには綺麗でふかふかの布団が待っていて、マチルダはぐっすりと眠る事が出来たのだが、それを誰に感謝する事も無く良く朝を迎える事となった。




 翌日の朝礼で、久しぶりに上司の姿を見た部下達は整列と敬礼を完璧にして、その口から発せられる言葉を待っている。

 そして、その上司は何故かとてつもなく不機嫌な表情で壇上から部下達を睨んだ。


「緊急招集らしいわ。」


 部下達がざわつく。


「と、おっしゃいますと、また戦争を?」

「そのようね。前回の私達の戦果が気に入らなかったらしいわ。」

「他の司令官たちから不満でも?」

「そうね、そのようね。」


 実際、戦争はいつでも起こせるが、その戦争を起こす為の準備が一日で終わる訳では無い。計画を立てるところから始まり、動員する兵数、それに合わせた物資、それらを支払う資金。どれも不足している筈だった。


「どうやら地方の作物が大豊作で腐らせるほど余ってるらしいわ。」

「そんな理由で戦争を?」

「コルドーに送っても送り切れないほどでだいぶ稼げたという話だけど・・・。」


 バカバカしくて呆れている。


「一番の理由はそろそろ戦争をしないと将官達に活躍の場が無いかららしいのよ。」

「確かに、魔王国から直接攻めてきた例は殆ど無いですから。」

「・・・今回攻めるのはあの町じゃないの。」

「と、いうと?」

「誰が言ったのか知らないけど、世界樹の跡地にできた村を攻めるらしいわ。」

「え・・・しかし、どうやってあんなところまで?」

「コルドーが協力してくれるらしいわ。それて、相当数の戦力が集まっているという報告もあるらしいのだけど、あなた達何かしたのかしら?」


 グレッグを含めて、彼らは何も知らない。そして、何もしていない。もちろん訓練は日々の日課として行っていたが、その所為で情報には疎い。


「攻めるのは少数・・・それでも1000名前後らしいわ。そして、私達の部隊から24名ほど出すようにと。」

「という事はマリア様は行かないという事ですか?」

「そうなるわね。行きたい者はがいるのなら私は拒否しないのだけれど。」


 数名が手を挙げた。

 それは出兵するとなれば特別給金が貰えるという、お金に絡んだことだ。特に正義感が有る訳では無い。


「グレッグは希望者のリストを作っといて、私は少しギルドを問い詰めてくるから。」


 ココではマリアと呼ばれているマチルダは、部下達に解散を命じて、直ぐに立ち去った。なぜか、あの村を攻めると聞いて不機嫌になった自分にも苛立ちを覚える。もう、あの村に心を奪われていると自覚したのは、今だったのかもしれない。








 

 

 

 

 

ウンダンヌ「そっくりだったでしょ?」

太郎「なにが?」

ウンダンヌ「シードラゴン。」

太郎「知らないからそう言われても・・・。」

ウンダンヌ「えー・・・けっこう頑張ったのにー。」

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