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第203話 開戦寸前

 海底に潜る太郎の周りでは、マナが海底をウロウロしている。暗すぎるので魔法で少し明るくしているが、明る過ぎると出てこないらしい。

ナナハルの周りで子供達がウロウロしている。休み休みでやっているので効率は悪いが人手が多い方が見つけるのは早いと思う。

ナナハルの水泡に逃げ込んできたハルオは魔力が枯渇寸前のように疲労している。


「無理はしてならぬぞ。」

「・・・はーい。」


 あちこちに海藻が生えているが、どれも見た事は無い。

 たぶん深過ぎるからだろう。

 ボコボコと泡が噴き出ている小さな山が有り、その周りには魚もいるのだが、食べたいとは思えない形容しがたい姿をした生物ばかり・・・蟹だ!


「太郎は何をしておるのじゃ?」


 ナナハルが太郎に近づいて水泡を接触させると声が届くようになる。子供達が逃げ込んできたので空気の範囲が大きく成る。マギとエカテリーナは残念ながら戦力外として、最初から太郎の作る泡の中に一緒に居る。

 マギは、少しでも太郎から離れると真っ暗闇の水の中に吸い込まれそうな気分になり、太郎にくっつくのは恥ずかしいので、エカテリーナの肩に抱き付くような姿勢で周囲を見渡していた。


「ほら、アンナに大きな蟹は初めて見たよ!」


 少し子供っぽく興奮する太郎を見てナナハルが宥めた。


「あんまり興奮すると魔法が安定せぬぞ。」

「あ、ああ。ちょっと珍しかったからツイ。」

「パパー、あれ捕まえたら喜ぶー?」

「喜ぶけど、ナナハルより大きいし、こんな海底じゃどうやって捕まえたらいいか・・・。」


 少し考えると、不思議な事に気が付く。


「そう言えば息苦しくないな。」

「あー、それは私が居るからじゃない?」

「そっか、マナは植物だもんな。」


 二人以外はさっぱり意味の分からない会話である。

 しかも、太郎の傍に常に居た訳ではなく、太郎から離れてあっちこっちに移動しているのだから、少しぐらい息苦しくなる筈なのだが。


「ああ、二人が言うのは洞窟とかで言うところの空気の毒じゃな?」

「そうそう。」

「うんうん。」

「息苦しくなる訳も無いぞ、お主の身体から空気が漏れるように出ておる。」

「え?」


 俺の身体どうなってるの・・・。


「というか、じゃな。この水泡自体がそういう魔法じゃぞ。知ってて使っておったのではないのか?」


 良かった、まだ植物になってなくて。

 ナナハルが不思議そうに太郎を眺める。


「そんな事より、本気で捕まえるのか?」

「そーなんだよね・・・あっ!」


 太郎は普段水を出す右手から空気をイメージして出してみると、見事に小さな泡がボコボコと音を立てて水中を登っていく。


「よし、これなら・・・。」


 強くイメージを作ると、蟹の周囲の水が突然消えて、空間が出来た。


「マナ!」

「ほいほい。」


 蟹の足元にある海藻が凄い勢いで伸びると、蟹を一瞬にして包んだ。

 ナナハルは手際の良さに関心はしたが、当り前の疑問が残る。


「空間を作った意味は?」

「水中だと逃げられそうだけど、これなら動きも鈍るでしょ。」

「蟹は元々鈍いが。」

「・・・。」


 子供達が包まれた蟹に近づいて、海藻ごと持ち上げると、包みきれなかった長い手足がぴくぴくと動く。


「おもーい。」

「海藻の方が重いじゃろうな。」

「海藻も持って帰って今夜食べてみようか。」

「調理できるのか?」


 そう言って、何故か視線をエカテリーナに向けたナナハル。

 自分で作る気はないんだな。


「は、はい。頑張ります。」

「俺もやるから大丈夫だよ。」

「そういえば秘密の料理レシピが有るという噂じゃったな。」

「ひっ、秘密です・・・よね?」


 太郎が笑う。


「特に秘密にしている訳じゃないけど、俺に教える技術が無いだけだよ。」

「ではわらわも作るところを見るかの。」

「え、そんなに興味あったの?」

「これでも料理は得意な方じゃぞ。」

「あー、確かに美味しかったもんなあ・・・。」


 懐かしい味を思い出させてくれたナナハルの料理は貴重な思い出だ。


「うん?」


 もぞもぞと動く物体がナナハルの後ろに現れる。

 海底の中から大きな蓋が開くような動きが僅かに見える。


「それ、でっかい貝かな?」

「そうみたいね。」


 みんなの視線が向けられると蓋が閉じる。

 ・・・これこっちの動きに反応するのか?


「ボスクラムじゃな。」

「大きくても貝なら、水から出しちゃえばいいよね。」

「それはそうじゃが。」


 太郎はイメージを強く持って、土の中に隠れているつもりの貝の周囲の水を移動させて大きな空間を作ると、貝が動いてキッチリと閉まった。


「潮干狩りする感覚で掘りだして大丈夫かな?」

「シオヒガリとは?」

「貝を集める作業の事だけど、そっか、こっちじゃそんな事する人いないのかな?」

「貝と言ってもあまり小さいモノを集めてものう。」

「たくさん集めれば良いんだよ。子供でも出来る作業だし、いや、それより貝を掘りだそっか。」


 水が無ければ動く事も出来ない貝の周囲に集まって、太郎は袋からスコップを取り出して土を掘る。

 子供達が黙って見ているがやりたそうな顔で父親を見ている。

 熱い視線だ・・・わ、分かったよ。

 袋から小さい手持ちのシャベルを・・・3個しかないな。

 頼むからケンカしないで仲良く使ってくれよ。

 あー、無理だよなあ。


「魔法で掘れば良いのじゃろ。」


 ナナハルが土魔法を使ったようで、貝が地中から浮き上がるように出てきた。なるほど、そうすれば良かったのか。


「デカいな。」


 出てきた貝は太郎の予想よりずっと大きい。

 普通に大きいなんてもんじゃないぞ、家で使っていた座布団より大きい。

 いや、もっと大きいな。

 俺のベッドに乗せたらギリギリはみ出るくらいだ。


「全然動かなーい。」

「・・・。」

「おとーさん?」

「確かに貝だけど、ここまで大きいと、中に人が入ってそうだな。」

「入って居る筈は無いが、捕食される事も有るだろうな。」

「気味の悪いこと言わないで下さいよ。」


(最近なにも食ってないんだ、なんか食わせろ~!!)


「え?」

「なんじゃ、どうした?」

「コイツ喋ったんだけど・・・。」

「ボスクラムって喋るんですか?」


 子供達が面白がって殻をノックするように叩いている。


(叩くな、音が響く!)


「そうだよな、会話が可能という事はその音を聞くために耳のような器官が有るんだよな。」

「何の話じゃ・・・?」

「太郎は何言ってるか分かるんだよね?」

「あ、あー、うん。」


 コン☆コン☆


(叩くなー!)

(痛くはないよね?)

(痛くないがうるさ・・・は?なんでお前俺の言葉が解るんだ?!)

(分かっちゃうから仕方がないんだけど・・・。)


「ぐぬぬ・・・なんじゃ、耳が・・・。」


 子供達は平気な顔をしているが、それでも耳が痒くはなっているようで、ポリポリと掻いている。


「太郎よ、言葉が解るのならパールをよこせと言ってくれんか、嫌なら食べると。」

「え・・・あ、うん。」


(止めろー、俺を食べないでくれー・・・。)

(ワルジャウ語も解るんだ?)

(お前俺の言葉が解るんなら止めろよ!食べられたい奴なんている訳ないだろ!!)

(それはそう。じゃあ・・・パールくれるんなら見逃そうか。)

(パール???)

(身体の中に硬い物あるでしょ?)

(ん、ああ、あるな。しかし、こんなもん欲しいのか?)

(俺達には必要になるモノなんでね。)

(出す方法は知っているのか?)

(え?)

(俺達は長年この異物を自力で出す方法を知りたくて悩んでいるのだ。以前はシードラゴンの子供達が吸い出してくれたんだが、最近は子供の数が少なくてな。)

(あー、シードラゴンがこの辺りの海域に居座った理由って、子育てだったんだ?)

(知らなかったのか?)

(知らないよ。)


「シードラゴンってここで子育てしてたらしいけど、マギは知ってた?」

「・・・知らないです。」

「ほう、シードラゴンとはその貝を食うのか。」


(石を食ってたんだよ!)

(パールを食べるんだ・・・じゃあ魔石でも良かったのかな?)

(水中洞窟にある魔石が無くなったからココに来て俺達の身体の中の石を食べさせたかったらしい。)

(なるほどねー・・・。)


 そういえばパールって貝にとって邪魔なモノだったよな・・・排泄物?

 なんか嫌だなー・・・。


「どうじゃ、なんと言っておる?」


 手で耳を整えながらナナハルが寄って来る。


「シードラゴンの子供達がパールを吸い出して食べていたらしいよ。」

「吸い出す?丸ごと食うてたのじゃないのか。」

「太郎さんと居ると色んな謎がトロトロに溶けていきますね。」

「解ける違いじゃないですか?」

「そうとも言います。」


(取り出せるなら良いんだよね?)

(・・・まあいいだろう。)


「貝を殺さないでパールを取り出せるんなら良いみたいだよ。」

「殺さない方法を知らんな。」

「たべよー!」


 子供達も食べたそうなんだけど、会話が出来るって面倒だな。

 貝がなんで俺に訴えて来るの、目が無いのに視線を感じる。

 あ、目が合った。

 有るんかい。


(ここ、ここに吸い出すところが有るんだが自力でだせないんだ。)


 ここってどこだ・・・?

 貝の蓋が開くと、分かりやすいスリットが有る。


(閉じないでよ?)

(・・・。)


「マギ、悪いけどちょっと閉じないように抑えてて。」

「わかりました。」


 太郎が貝の淵に足を乗せて頭を奥に入れる。両手でスリットを左右に開くと、中には輝く何かが。どう見てもパールだ。握り拳ほどの歪な形をしたパールが6個ほど。

 丁寧に一つずつ取り出して、ナナハルが受け取る。


「カタチは悪いが質は良いのう。」

「このまま生きていればまたパールが作られるはずなんだけど、どうなんだろう?」


 何故かすっきりした顔をしている。

 この貝の顔ってどこだろう?


(何個も出来るが別に作りたくて作っている訳じゃないからな。勝手に出来るんだ。)

(なるほどねぇ・・・。)

(もう食べる必要ないだろ、この海域もそろそろ危なくなるから移動したいんだよ。)

(危なくなる?)

(ああ、向こうの海岸付近で船が沢山あるだろ。)


 向こう???


(あるんじゃないかな。)

(お前何にも知らないな、仕方が無いから教えてやる。)


 なんかエラそうな貝だな、やっぱり食べようかな?


(仲間から聞いた話だが、シードラゴンがいなくなった事で戦争準備をしているんだ。あいつらバカだからすぐ戦争をしたがる。)

(戦争?!)

(戦争が始まると海が汚れるんでな、あっちにある小さな島の近くに避難するつもりだ。)


 あっちってどっちだよ。


「・・・戦争が始まるって言うらしいんだけど、ボル・・・何とか帝国?」

「その貝がそう言うておるのか?」

「そう。」

「ボルドルト帝国じゃろうな。確かにあの国は好戦的ではあるが、貿易が再開されてすぐに戦争を始めるほどバカとは思えんがな。」


(バカに決まってるだろ。)


「バカに決まってるって。」

「それが事実なら大変な事じゃぞ。ハンハルトがこの時期に戦争をしたらほぼ確実に負ける。戦力なんて有るのか?」

「私を海兵にしたいという話があったくらいですから無いでしょうね。」

「では緊急事態じゃ。わらわ達も村に帰るとするか。」

「助けてくれないんですか?!」

「義理も無いのに助ける訳なかろう。ハンハルトが滅んでは何の影響も・・・無い訳でもないが、わらわ達が苦労する理由はないぞ。」


 ナナハルの言う事は尤もだ。

 だが無責任にも聞こえるのはナナハルがとても強いからで、ナナハル一人いるだけで相手を恐怖に陥れるだけの効果がある。


「子供達もいるからなあ・・・。」

「それに戦争する理由は身勝手なモノじゃからな。」


(おい、俺の事を忘れんな。)

(え、まあいいか・・・。)


 子供達を自分の傍に寄せ、貝から離れる。

 さっきまで空間が有ったところに水が戻ると、貝が泳いで離れていく。

 速いな・・・。


(お前変な奴だから、他の仲間にも教えといてやるよ。仲間を食わないんならいつでも石をくれてやるから、じゃーなー。)


 すると一気にスピードを上げて、暗い海の底に消えて行った。


「変な貝じゃの・・・。」

「・・・まあ、パールは手に入ったし、蟹も有るから帰ろっか。」

「そうですね・・・。」


 マギは複雑な表情のまま、太郎の魔法で海岸まで戻り、戦利品と呼ぶには簡単に捕獲した蟹をココで調理せずに持ち帰る事にした。せっかく用意したキャンプセットは片付けて、袋にしまうのに少し時間がかかったが、もう少し滞在する予定を変更してフレアリスの家に戻ると、そこには客が来ていた。

 いや、知っている人だ。


「あら、もっと遅くなるって今話していたところだけど。」

「なんで魔女の二人が?」

「タローさん、タローさん、大変ですー。」

「ん、戦争が始まるって?」


 スーどころか魔女二人も吃驚している。


「なんでしってるの~?」

「貝から聞きました。」


 それは正しい回答なのだが、魔女の二人も、太郎を良く知っているスーですら、何を言っているのか理解は出来なかった。






 

 

 

 

会話が多いのはいつもの事ですが、ちょっと長くなりましたね。


2023/09/12 追記

スーがいないはずなのに参加してたんで、すこし変更しました(フレアリスの家に居ます)

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