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第158話 度重なる問題

 暫くは平和な日々が続いて、村は太郎の想像よりも早く発展していった。住人と呼んでも過言ではないが、正確には駐屯しているだけで住人ではない兵士が大半を占めていて、次に多いのはエルフ達だ。どちらも太郎に対して丁寧で従順なのだが、エルフと兵士では一部でいざこざを起こしている。人が多くなればそういう問題が出るのは当たり前なので、いちいち気にはしていないが、仲が悪いのはあんまりよろしくない。カールとオリビアが仲良くしている様子は無いが、喧嘩をしている様子も無いのに、どこで影響が出ているのか、太郎を悩ませる。


「私の前で喧嘩しているところなんて見てないわね。」

「マナの前じゃそうだろうな。食堂でも大人しいし・・・スーは見てる?」

「たまに見ますねー。まあ、今建設している兵舎が完成してエルフと兵士の区分けが完成すればそんな事も無くなると思いますー。」

「それって接触する機会が減ったという理由でいざこざが減るって事だよね?」

「その通りですー。でも、理由はエルフと仲良くしている兵士がいて、"裏切るな"とか、"童貞の誓い"とか、悲しい話をしている男どもを見かける事も増えましたねー。」


 確かに悲しい事件だ。


「エカテリーナは太郎さんのツバ付きですしー。」

「それも理由なの?!」

「ご飯をくれる相手に敬意を示した延長に恋は有るモノですよー。」


 ポチは関係ないよね?


「エカテリーナに感謝を示してるのは見た事が有るな・・・まぁ、学食で働いている若い女性にみんなが惚れるというのは分からないでもないけど。」

「ガクショク?」

「いやなんでもない、こっちの話。でも配膳している女性達が・・・そうか、そうだよなあ。」


 太郎は自分で言いつつ納得してしまう。エルフは美男美女が多く、エカテリーナの手伝いをする女性陣は美人揃いだ。太郎に配膳するのは基本的にエカテリーナなので気にした事は無いが、必ず接触の機会がある身近な異性と言うのは魅力的なモノなのだ。

 性別どころか種族も違うのだが。


「ダンダイルさんが来たからって解決するもんじゃないしな。女性兵士は一人もいないし・・・。」


 トヒラは女性兵士と言えばそうなのだが、彼女の場合ダンダイルしか見ていないので問題が無い。しかも、この村に駐屯している訳では無いから、前回以来姿を見ていない。


「美男美女しかいないエルフがおかしいんですよー。」


 そういうスーだって美人だ。漫画みたいにモブまで美人しかいない世界なんてないので、もちろん普通の容姿の人もいる。


「美人ばっかりだな。」

「なんですかー、私を見詰めながら言うなんて口説き落とすつもりですかー?」

「アンタはもう落ちてるじゃない。」

「何度でも口説かれたいんですけどねー。」

「そういうもんなの?」

「そーいうもんですよー。」


 話が直ぐに脱線してしまう所為でまとまる事もまとまらない。


「考えても解決しないし、畑行こうかなー。」

「太郎さんはもう少し剣を握りませんかー?」

「俺の周りは強くて信頼できる人が沢山いるからなあ。」

「その返しはずるいですー・・・。」


 と、言いつつも、スーの頬は紅い。

 畑へ向かうと次の事件が待っていた。鳥が飛んできて俺の肩に座っているマナの肩にとまる。


「裸で人が倒れてます。」


 疑問その一。


「・・・なんで裸なの?」

「そんなこと知りませんよ。」


 疑問その二。


「死んでるの?」

「生きてます。」



 疑問その三。


「この村の人?」

「兵士です。」


 そのまま畑を素通りし、人が倒れている現場へ。森が近いというより、ハチの巣が近い所まで来てしまった。


「丸出しね。」

「そんな事よりも動かないんだけど?」


 寝ている横には服が丸められていて、剣や鎧も無造作に転がっていた。


「なんか凄い幸せな表情してるな。」


 土の上で寝ているのに、にっこりと微笑んでる。


「これって・・・ひょっとして?」

「あー、なるほどー・・・やっちゃいましたねー。」


 そこへ蜂がブンブンと飛んでくる。


「ちょーどいいところに!」


 通り過ぎて行く・・・。


『ちょっと待って。』

『なんですか?』

『この人なんで倒れてるの?』

『女王様が絞った痕です。』

『やっぱり・・・。』

『本人が絞って欲しいと懇願したので、女王様は渋々でしたが、嬉々として絞っていました。』

「ブンブンブン・・・。」


 スーが渋い表情をしている。


『一応ダメって事にしたよね?』

『本人が良いと言ったら良いんじゃないんですか?』


 そう言われると何とも言えない。


『この人は動けるの?』

『寝ているだけだと思いますけど、数日は起きないと思います。二度と()()()()なっても良いからとのご要望でしたので。』

『と言うか、気力も失われて働く意欲も無くならない?』

『申し訳ありませんがそこまで知りません。』


 暇になったマナが指先で兵士をツンツンしている。

 そこはツンツンしないで・・・。


「結局こいつは使えるの?」

「ダメじゃないですかねー?」

『もう宜しいですか?』

『ありがとう、もういいよ。』


 蜂は一礼して去って行った。


「とりあえず運ぼうか。ポチに乗せて良い?」

「太郎の頼みなら良いが、普通は嫌だぞ。」

「悪いね。」





 食堂の客室に運んでベッドに寝かせる。ついでに服や装備一式も置いておく。

 暫くするとカールがやって来た。


「済まない・・・。」


 平身低頭とはこの事だろう。


「他の者達には今後近付かないように強く言っておく。」

「それは俺が決める事ではないんですが、でも蜂蜜の生産量はこれで増えるんじゃないですかね。」

「まーそうなんだが・・・この男は左遷確定だろうな。いや・・・戦えなければクビか。」


 働けないのなら軍人以外だって駄目だろう。


「搾りカスのような状態になったという事で良いんだよな?」

「ここまで運ぶ間も寝たまま起きないんで、目を覚ましてもらわないと。」


 カールが兵士の頬を叩いた。

 少し強めなので痛そうだ。


「不気味な笑みを浮かべてるな。」

「むしろ恍惚じゃないですかね。」


 マナやポチは飽きてしまって外へ行ってしまい、スーも呆れている。


「目が覚めたら自分で部屋から出てくるだろうからそれまで放置しておこう。」

「ですよね。」


 こうして放置された兵士は三日後に目を覚ましたが、やる気も気力も全く無く、食事すらしないのでかなり危ない状態になってしまった。後日、強制送還されたこの男は、一ヶ月経たずに餓死してしまうのだが、これによって村の絶対遵守する禁止事項に成ったのは言うまでもない。




 入れ替わりでやって来たという訳では無いが、エカテリーナが要望していた香辛料が大量に運ばれてきた。その一団を指揮してやってきた隊長はカールの知っている人物で、もの凄く憮然とした表情と、大きなガタイで厳つい容姿をしていた。

 しかし、その男は届け先で待っていたエカテリーナを見るや否や、もの凄く赤面して硬直していて、エカテリーナが心配するほどだ。

 部下達も驚いているようで、カールに相談に来たぐらいだった。

 とは、後から聞いた話だが。


「あの人、変なんです。」


 と、エカテリーナが太郎に言いに来たとほぼ同時に、カールもやって来て、その事について報告した。


「あの男・・・俺の元上官で、あんな感じの男じゃ無かった筈なんだが・・・。」


 何故か考え込む。


「名前・・・知らないんだよな、元上官だけど。」

「今はどっちが上なんです?」

「部下から聞いた話だと、任務に失敗して降格されてからこの任務に就いたらしい。それでも階級は俺より上だったと思うが。」


 輸送任務なんてそんなに重要視される事ないもんな。特に最前線に運んでいる訳でもないし。


「見た感じで言うと一目惚れらしい。」


 言いながらも信じられないといった感じだ。


「すっごくまごまごしてて、大人しい熊ってイメージでした。」


 どんなイメージなんだそれ。


「大人しさとは無縁な男だと思ったが・・・そうか。」

「まぁ、好きになるのは自由だから問題はないけど。」


 エカテリーナが少しむっとしたが、太郎は気が付かない。


「こっちで受け取る荷物を積んだらすぐに帰る筈だが、この任務に就いたって事はまた来るんだろうな。」


 兵士達が荷台に積んでいる作業を眺めていると、積み込む荷物に街道を整備するのに使う硬い石も積んでいるのでかなり重そうだ。


「あの人が隊長ですかね?」

「あぁ、太郎殿はどういう印象を受けますかね?」

「確かに見た感じは熊ですね。とにかく強そうに見えます。」


 作業をしている時に重そうな石を軽々と持ち上げて積んでいる。チラチラとこちらを見ているが、エカテリーナの姿を確認すると、スッと向きを変えて作業に没頭しているようだった。


「まあ、我々は太郎殿の女性として認識しているから良いんですが。」

「んん~・・・。」


 即答しない太郎にエカテリーナは明らかに気分を害している。


「恋愛は自由だからね。俺はもう十分だけど・・・。」

「わ、わたしは・・・っ太郎様一筋なんです!」


 そう言うと大粒の涙を流して泣きだした。理由がいまいち良く分かっていない太郎は、困惑した表情で泣き止むように宥めようとすると、今度は少し怒りだした。


「なんで・・・なんで・・・。」


 そして再び泣く。


「太郎殿は女心が解らないタイプですかね?」

「いや、なんて言うか・・・俺にこだわって欲しくないだけなんだけど。」

「普人と恋をした獣人は先に普人が死ぬというのは常識ですからね。」

「それだよ。」

「太郎殿は常識が常識だという事を理解していないのでは?」

「へ?」

「先にどっちが死ぬかなんて考えて付き合う奴なんていませんよ。年齢差100歳あるカップルなんて普通にいますし。」

「え、え?」

「あの子だってそのくらい分かってるはずです。」


 そう言われてエカテリーナを見る・・・が、どこかへ行ってしまったようだ。


「食堂へ行きましたよ。ちゃんと太郎殿の言葉で説明してあげないと可哀想ですよ。」


 考え込んだ太郎は頭を掻きながらエカテリーナの後を追う。その後にやって来たスーが太郎の後姿を眺めてカールに話しかけた。


「何が有ったか事情は聞きましたけど、太郎さんとエカテリーナはどうして?」

「不器用だったという事さ。」


 スーはそれだけでは理解できなかったが、エカテリーナの涙を見ていたので、なんとなく二人の事情を推察し、それはほぼ正解に近かったのだった。






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