第157話 緊急ではないが重要な談話
村の名称を考えるが、いい名前は思いつかない。御大層な名前を付けても、どうせ後で後悔する事になるのだから、もっとシンプルで簡単で・・・と、それが一番悩ましい。
「それにしも、あんなに美味しい蜂蜜がしばらく食べれないと思うと悲しいな。」
これは人が増えた所為ではなく、取引としての問題だ。
「まあ、少し我慢すれば。そんなに食べたいものなの?」
「タローはそんなに食べようとしないな。」
「まぁ・・・高級ではあるけど特段珍しい訳でも無いからね・・・と、食べるって言えば、最近は蛇肉や蛙肉って料理に使ってないね?」
「かなりの数の魔獣を倒したからな、警戒して近寄ってこなくなっている。その分、普通の動物が良く現れるな。」
答えたのは隊長のカールだ。
「まぁ、魔獣だろうがそうじゃなかろうが、肉には変わりないからな、狩るのが楽になっただけでいつもと変わらない。美味しさで言えば血肉を喰らっている分、魔獣の方がかなり不味い。」
草食動物の肉が美味しいのはこちらでも常識のようだ。
「肉が美味しいのは彼女だけの功績では無いぞ。」
カールが腕を組んで少し自慢気に言う。エカテリーナに対抗意識が有るのだろうか?
「肉や野菜もそうですけど、スパイスの調合が絶妙なんですよねー。私じゃあんなに美味しくなりませんよー。」
遠回しに褒めたカールと、直接褒めたスーによって、エカテリーナはモジモジと照れている。彼女にしてみればスパイスの調合は太郎の本を参考にしているので、あまり褒められると恥ずかしく感じてしまうのだ。
「蜂蜜・食材・肉や調味料、色々と運ばねばなるまい。」
「そろそろお酒が有っても良いと思いますー。」
その意見を否定する者がいなかったとだけ記憶しておく。
「やっぱり定期便は必要になるんですよね。」
「太郎君の所から色々と買う事になるだろうが、金の管理は誰がやっているんだね?」
「スーです。」
「ですよねー・・・まぁ、かまいませんよー。ダンダイル様からマウントを取るチャンスですしー。」
「価格の方はお手柔らかに頼むよ。」
「蜂蜜は無償なんですよー?」
最初からダンダイルに勝ち目のない戦いであったことを、いまさらながらに再確認したのだった。
食材という事で、生産量を特に増やす必要はない。今でも十分に増やし過ぎてくれる存在がいるからだ。
「マンドラゴラの塩漬けが人気なんですよ。」
エカテリーナが毎日のように漬けていて、専用の壺が10個もある。太郎自身も漬物を好んで食べるので、塩の方が不足しないか心配になる。
「漬物の塩は何回も使えるのでそんなに減ってはいないんですけど、せっかくスーさんに買ってきてもらった調味料はもう半分くらい減りました。」
「早いですねー。」
だいたい兵士達の所為である。
「それにしても、薬味とか調味料になる植物とか育てても良いよね。」
「種が有るんですか?」
「ないけど、野生で自生してるんじゃないかな。」
「ガーデンブルクに行けば簡単に手に入るんですけどねー。」
「農業大国って事か。」
「そんな事は無いと思いますけど、あの国は昔から色々な物を育てているんですよ。最近はだいぶ生産量が落ち込んでいると言う噂ならありましたけど。」
「それは噂じゃなくて事実ね。」
割って入って来たのはトヒラだ。
「戦争さえなければ農耕だけで国を支えられるくらい作っていたから。今でも戦争が無くなれば商人が売りに来るんだけど、魔王国に運び込む量が減っている最大の理由はコルドーだと思うわ。」
「コルドーって宗教国ですよね?」
「そうよ。」
「祭ってる神って何ですか?」
トヒラがダンダイルを見たのは何の合図だろう?
「何かを祭っているようだけど神の存在は知らないわね。コルドー神っていう訳でもないし、経典は神殿に一冊しかなくて、司教級じゃないと見れないらしいのだけど、見たという話も情報も得られていないわ。」
ひょっとして結構重要な事を聞いてしまったのかな?
「・・・関わらない方が良い話ですよね?」
「知りたいのなら教えても良いけど、ハッキリ言って秘密が多過ぎて良い噂も悪い噂も無いわ。」
「よくそれで人が集まるなぁ・・・何かよっぽど良い事が有るんだろうなぁ。」
トヒラが何かを思いついたような表情をしたが、すぐに隠した。宗教というモノをそのままの意味として捉えて調査をしていたからなのかもしれない。
「他の国の事より今はこの村の心配をした方が良いかな。」
「村なのは認めちゃうんですねー?」
「・・・まぁ、それは仕方がないでしょ。」
「話が脱線したが、もっと種類を増やしたいのかね?」
「食べられそうなものとか生えてるんじゃないかな。」
「野草ですかー?」
「そうそう。キノコとかも有ると嬉しいな。」
スーが吃驚して太郎を見る。
「あれって食べられるモノを見分けられるんですか?」
「・・・無理かな。一応本が有るから何とかなるけど。」
袋の中の本。食べられる野草とか載っていた図鑑のような本で、もちろんカラー写真付きだ。全部を翻訳して書き直すのは面倒なので何にも触っていないし、買っただけで開いてもいない。サバイバル入門とかいう本も買った記憶がおぼろげにある。
「そんな便利な物があるのかね?」
ダンダイルが興味津々だ。
当然かもしれない。
なにしろ、食べられるモノを見分けるのは、熟練の冒険者にとっての知識と言う財宝と同レベルなのだ。誰とでも知識を共有するというのは現代社会のような情報化していないと無理だろう。
「入れてある袋が部屋に有るんでまた次の機会にでも。」
「・・・ふむ。」
少し残念そうな表情のダンダイルと、何かを気にしているトヒラが印象的過ぎて、フーリンが暇そうにしているのに気が付かなかった。
もう一人、暇そうに聞いていた者が口を開いた。
「おめー、あの鉱山はどーすんだ?」
「あー、そうですね、ダンダイルさんがいるうちに確認しておきますか。」
「なんだね?」
「鉱山で従事してもらえる人が欲しいんです。」
「鉱山か・・・事故が多くていつも困っているが、何か珍しい物が採れるのかね?」
「魔鉄鋼が取れます。」
「私はやりませんからね!」
掃除をした記憶が甦るフーリンだ。
「かなり純度の高い魔鉄鋼が、多分・・・かなりの、量が眠っている、と思います。」
グルさんが喋りにくそうだ。
「良いだろう。別に人員を確保して派遣する。数百人規模かね?」
「100人程・・・。」
「ふむ。その件は了承した。責任者としては別の部門の者が担当する事になるがかまわんかね?」
それは村に住む兵士が増えるという事だ。
いや、ちょっと違うか。
「あの・・・洞窟と言うか、坑道の奥には居住スペースが有って、しっかり用意すれば数十人は住めると思います。」
「それなら、確認の為に見に行ってもいいかね?」
「構わないですけど・・・。」
フーリンが溜息を吐いた。
「そのくらいなら私が案内するわ。」
「フーリン様に案内していただけるので?」
「あの坑道は、私も関わっていたのよ。・・・忘れてたけどね。」
「フーリンも忘れっぽいから。」
マナが言うと真実味がある。
「じゃあ、俺は仕事に戻るぞ。」
グルは言いたい事が言えたので満足したのではなく、とても居難い場所から早くはなれたかったのだ。
「そうですね、終わりますか?」
太郎の言葉に一同が頷いて席を立つ。フーリンとダンダイルはさっそくとばかりに鉱山へ向かって、スーとマナとポチは残った。
「明日、用事ある?」
スーとポチが不思議そうにして首を横に振った。
「ちょっと森とか探索に出かけない?」
「急にどうしたんですかー?」
「いや、急でもないだろ。さっき太郎が野草が有るとか無いとか言ってただろ。」
「あー、そういう事ですかー。」
「最近同じ事ばかりしてるからさ、ちょっと歩きたくなったというか、冒険したくなってね。でもあんまり遠くにも行けないし、食材探しに歩くぐらいなら良いかなって。」
「良いんじゃない?私は太郎がいないと遠出できないし。」
「森もだいぶ安全になったしな。」
太郎は少しだけワクワクとした気分になったのは久しぶりの事で、知らない街を訪れた時とは違う感じを覚えた。
翌日の為に少しだけ準備をして、その日は何故か早く寝る事が出来た。
翌日の朝は、予想以上に大人数に成った事で少し後悔した太郎がいる。子供達とチーズ達も付いてきたのだ。ダンダイルが兵士達を護衛に付けようとしたから流石に断った。
「パパたちだけなんてずるいよー!」
そう言われると壊れない。チーズ達もポチが行くのだからと言って勝手に付いてきたのだ。グリフォンが寝ていてくれて助かる。
「そう言えば太郎さんの言う本ってどんなのですかー?」
「これ。」
袋から取り出したのは分厚い本で、綺麗な写真の横には説明が書かれている。もちろんスーには読めない。難しい漢字が多い所為でマナが辛うじて読める程度だ。
「もっと便利な物が有ったけど、アレは使えないもんね。」
「ああ、パソコンとか携帯を持ち込んでもネットと接続できないからなあ。電気もないし。」
二人の会話を聞いた子供達が頭の上に?マークを沢山浮かべている。そりゃそうだ、俺の居た世界でしか通用しない言葉ばかり並べているからだろう。
「字は読めませんけど、赤字で書いてあるのが危険って事ですかねー?」
「それは毒だね。食べたら数分以内に死ぬのも有るよ。」
「ひぇー・・・。」
子供達にも勝手に採らないように強く言い聞かせ、エカテリーナに作って貰った弁当をもって10人と4匹は森へ入った。特に珍しい物は発見できなかったが、シイタケ、しめじ、えのき、エリンギを見付けられた事は大発見に近いかもしれない。何しろ市場で見る事も無く、食べられている様子が無かったからだ。ゴボウを根気強く探したけど見付けることが出来ず、魔物は全く現れず、平和な一日は平和に終わったのだった。




