第139話 驚く三人組
森を抜け、どす黒い地面の上を歩く。
ここはドラゴンの炎によって焼かれた場所なのだという事を、3人は肌で感じながら進む。橋の架けられていない川に辿り着くと、その向こうには幾つかの建物が見えた。きっと苦労しているのだと、勝手に思い込んでいた・・・のだが。
「もっと悲壮感が漂っていると思ったんだがなぁ・・・。」
「俺が来た時はもっと絶望的でしたよ。」
そう言う太郎だが、ジェームスの視界には大きな建物が見える。
畑と溜め池。
煙が立ち昇り、長閑な風景が広がる。
「それにしても、良くココだと分かりましたね?」
とは、太郎の疑問であるが、ジェームスにしてみれば、他の場所だとは思わない。ジェームスが応じるよりも早く、太郎がもう一つの質問を投げる。
「ハンハルトから直接ここに向かうルートは残ってたんですか?」
「記憶の欠片の様なレベルで、一応は残ってたな。」
獣道って事かな?
・・・獣人道・・・なんてあるのか?
「ここってドラゴンに燃やされた土地ですよね?」
太郎に質問した彼女はマギ・エンボス。
勇者の紋章を持っている。今回は修行の為にジェームスと行動を共にしていて、その隣に立つのが鬼人族のフレアリスだ。
身長が高く、筋肉質の身体に、吃驚するほどではないが、かなりの巨乳だ。
あれほど大きいと戦闘時に邪魔になるんじゃないかと思うが、一回り小さいだけで、十分な巨乳を持つスーは、とても素早いし、剣の捌きも速い。
「恐くなった?」
「ドラゴンは怖いです。」
「ドラゴンもそうだけど、アンタ何者なの?」
アンタと言われた事に、相手は意に介する事も無く、普通に応じた。
「我はグリフォンだぞ。」
ジェームスとフレアリスの表情がものの見事に変わった。変わらないのはマギだけである。
「グリフォンって変わった名前ですね。」
「そりゃそーよ。世界でただ一人の合成魔物よ。」
「へっ?!」
目の前の幼女・・・いや、女性?
「てっきり男だと思ってました。」
「それは同意する。」
「そうね。」
グリフォンの性別について語られる事は無いだろうから、それが普通なのだろうか?やはり、強者は男と相場が決まっているのだろうか?
そんな筈は無いんだけどなぁ。
「なに、私の顔に何かツイてるの?」
見事な角だなあ。・・・とは、関係ない。
「強いからって男とは限らないでしょ。」
「あー、それはそうね。」
多分、同じ想像をしたと思われる。
「フーリン様はかなり強いですけど、ドラゴンの中だと弱い方らしいですー。」
とても参考にならない評価だ。川を渡ったので、びしょ濡れになった足を乾いた布で拭くためにいつもの集会所へ入る。
「あ、おかえりなさーい。」
笑顔でエカテリーナが出迎えてくれたのだが、背後の影に気が付いて戦闘態勢に入った直後、即時ツッコミが入る。二つの頭をぺちんと叩いたのは当然の様にマナだった。
「こんな所に敵がいるわけないでしょ!」
「アレはキラービーだぞ?!」
「あー、先に説明すれば良かった。」
「ですねー。」
「で、どういう事?」
強い殺気を感知した蜂が、恐がってエカテリーナにしがみ付いている。それを見たらどう考えても敵意は感じない。そうでなくとも鬼人族の殺気を感知したら驚く人もいるだろう・・・、ほらね。
「何事ですか?!」
武器を持って駆けつけて来たのは周囲を警備巡回していたエルフ達だ。四方から一気に集まってきた。
「あ、ああ。お客さんだから。」
「凄い殺気を感じたんですけど?!」
「あー、私が悪かったわ。」
「き、鬼人族がなんでこんなところに???」
「別に攻めて来た訳じゃないから、ただの旅だから気にしないでくれる?」
「え、あ・・・太郎殿お知り合いで?」
なに、このドタバタ感。
「そうだよ。」
エルフ達はお互いの顔を見て呼吸を整えている。
「し、失礼しました。太郎殿のお客人でしたらごゆっくりしてください。」
フレアリスがジェームスに問う。
「・・・ごゆっくりするの?」
今度はジェームスが太郎に問う。
「少しくらい厄介になっても問題ないだろう?」
「もちろんですよ。」
「と、いう訳で、帰りの旅の準備をしながら少し世話に成る。」
姿勢を正してからジェームスが太郎に頭を下げたので、マギとフレアリスもそれに倣った。
マギとエカテリーナは久しぶりの再会ではあったが、双方ともそれほど深い関係があった訳では無いので、変に儀礼的な会釈をして終わらせていて、それとは別の理由があるらしく二人で話をしている。
「ここってなにも無かったよな?」
食堂の椅子に座ってジェームスが窓から外を眺める。旅の道中はとても寒かったが、ここに来てからそれほど寒く無い事に違和感を覚えていた。だが、他にも違和感があり過ぎて妙な不安感もある。その一つがウロウロ歩いている巨乳の女性だ。
「あれはなんだ?」
「トレントが人の姿になったんですよ。」
「・・・本当に?」
信じられないのは凄く理解できるので、気にしない。
「それより、ここに俺達がいなかったらどうするつもりだったんですか?」
「そのまま魔王国を目指す予定だった。まぁ、あの木が見えたから絶対に居ると思ったがな。」
「あー、なるほど。」
大きな木はかなり遠くからでも見える。それが世界樹なのだから。
「荷物も凄いですね。」
二階の客室に運び込まれた荷物の殆どはフレアリスが運んでいる。その部屋では偶然子供達が遊んでいて、客なんて来る予定ではなかったので子供達を叱ったりはしない。
「ぱぱー、あのひとたちだーれー?」
「ぱっ・・パパ?!」
驚いたフレアリスが俺を見る。
「俺の子供達です。」
「は~・・・7人もいるのか。」
「まぁ・・・色々ありましてね。」
説明を求められはしなかったが、子供の姿を見ていたジェームスが目を丸くしていた。揺れる尻尾と耳が凄く気になるようだ。
「なあ・・・まさか九尾か?」
なぜか応じたのはスーだ。
「そーですよー。」
腕組みして椅子から動かないジェームスと、荷物整理をするフレアリス。マギとエカテリーナが料理を始めたらしく、包丁がまな板をリズミカルに叩く音が聞こえはじめる。
「まぁ、夕食の時に色々と話しましょうか。」
太郎の提案はすんなり受け入れられた。
一同が集まった夕食で、食事をしながら太郎が三人に説明する。エカテリーナの料理はとてもおいしいようで、会話が始まるまでに少し時間が必要だった。
「・・・と、言う訳でして。」
「なかなか苦労の多い生活してるな。」
「そうなんですけど、何かやってるのは意外と楽しいですよ。旅をすると不安の方が多いけど、土地に住んじゃえば一つずつ対処できますし。」
「おめーらも、よーめんどくせーことしたな。」
「まさかグルさんまでいるなんて思いませんよ。」
「知り合いだったんですねー。」
「むしろ知らない方が不思議だぞ。」
「私は知りませんでしたけどー?」
「そりゃあ・・・武器や防具に金をかけるのは男の浪漫だからな。」
「あー、それは解る気がします。」
太郎が同意を示すと、ジェームスとグルが満足して頷く。
「今は専属だからな、おめーらの武器も手入れしてやろうか?」
「見てもらうほど良いのは持ってませんよ。この前の戦いで無くなってしまいましたし。」
「まさかドラゴンじゃねーよな?」
「何で知ってるんですか?」
グルが顎をクイっと動かして太郎を示す。
「こいつらドラゴンと戦ったからって俺のところに来たんだぞ。初めて来た奴からフーリン様だのダンダイル様の名前出されてみろ、忘れたくても忘れられんわ。」
「言われて思い出したが、魔王軍の兵士が駐在しなかったのか。」
「それは・・・。」
太郎が再び説明する。
「なるほどなぁ。確かに存在しなくても500年以上変わらなかったのなら重要性も考えるか。」
ジェームスは太郎とは別の理由を見付け出して納得する。いなくても変わらないのなら守る必要も関わる必要も無いという事だ。
「それでも魔王国迄のルートは確保するんだろ?」
「すると思いますねー。今はその為にキラービーの蜂蜜を持って交渉の材料にするつもりらしいですけどー。」
「あんな高級品を毎日食べてるなんてなぁ。」
「目の前にあるじゃないですかー。」
フレアリスとマギは緊張した表情で口に運び、口に含むと頬をほころばせる。
「これで酒を作ったらたまらない味になりそうね。」
「キラービーと仲良くするなんて、俺には想像もしない事だ。昔は戦った事も有ったからな。」
「雄殺しを退治するなんて、男なのによく引き受けましたねー?」
「その時は知らなかったんだ。ただの駆除だと思っててな。まぁ、単体ならたいして強くないから、追い込んで一匹ずつ斬り刻んだんだ。」
「もうここではやらないでくださいね!」
と、エカテリーナの声だ。
「やらない、やらない。戦わなくて良いならその方が良い。」
「そうね。」
食事が終わり、日も落ちて夜になった為、みんなで風呂に入る事になった。もちろん、男女別だ。なので、久しぶりに男だけで湯船に浸かる。
・・・子供に女の子がいるからだよ?
浴場のお湯は当然ながら太郎が用意するが、見る見るうちに溜まっていくお湯の量に、ジェームスはやっぱり驚いている。
「神気魔法か・・・。」
「準備出来ましたよ?」
「あ、ああ。」
軽く身体を洗ってから湯船に浸かると、思わず声が漏れる。身体に沁み込んでくるような感覚を楽しんでいる男達とはちがって、壁の向こうの女達は楽しそうに会話していた。子供達も全員あっちに行ってしまっているので、こちら側はとても静かだ。
「ハンハルトは復興しましたか?」
「元通りには成ってないが、心配するほどでもない。」
本気で心配した訳では無く、静か過ぎたので訊いてみただけの感覚である。
「こっちの方が大変だろう。なにもない所からこれだけのモノが出来ているんだからな。」
「最初は手伝ってもらいましたから。」
「あぁ、そうだったな。」
風呂に入っている所為か、向こう側が賑やか過ぎる所為か、原因は不明だが、会話が続かない。だが、今はそれでよかった。疲れた身体を癒す最後の手段を実行する為に、一人が立ち上がると、次々と立ち上がり、男どもはベッドへ向かうのだった。




