第127話 キラービー襲来 (3)
巣の中から新たな親衛隊が現れると、浮いて移動していたのに、途中から歩いて太郎の前までやって来た。小さいので思わず屈んでしまう。
『女王様がお待ちしておりますので・・・。』
『入って良いの?』
親衛隊がぷるぷると震えながら左右に分かれて入り口を開く。
巣の入り口はそれほど大きいとは思えず、中に入るには少し身を屈まないとならない。マナには降りて歩いてもらう事になるのだが、良く考えなくてもそれが当たり前なのだから問題はない。
スーが最初に入り最後尾にグリフォン。内部はホンノリと暖かく、壁を触ると柔らかい。階段ではなく、下り坂で螺旋状に通路が続く。暫くという程でもないが、少しずつ通路が広がり、屈む必要が無くなるほど広くなったかと思うと、さらに広い部屋に出た。そこは周囲の壁がキラキラと輝き、光がどこから照らされているのか分からないが、とても明るく、見事なハニカム構造が見える。
親衛隊と呼ばれた妖精のようにも見える蜂が沢山いて、部屋の中央にはウォーターベッドのような大きな物体があり、そこに大きな女性が鎮座している。
「よくぞいらした。」
「ミミガー・・・あれ?」
「ワルジャウ語だな。」
「ねー。」
俺の目の前を蜂の子を抱えて飛んで行く親衛隊。
「ここでは子の世話をしているので少し目障りがもしれんが諦めてくれ。」
「俺達の方がお邪魔しているんでそれは気にしないですけど・・・。」
「どうした?」
女王蜂の姿はほぼほぼ人に近い。それも今まで何人も美しい女性を見た筈なのだが、その誰よりも美しく見える。身体はフィギュアのように美しく、肌の表面は艶々としている。
そして、なにより、全裸なのだ。
「この周りにある艶々した丸い物って全部蜂蜜なんですかねー?」
スーらしい観察眼だ。
そこへ親衛隊の一人がその丸くて艶々した金色の丸い物を持って近付いてきた。初見で言うとグミの様にも見える。
なんで嬉々としてスーが受け取ってるの。
「これって蜂蜜ですよね?」
「そうだ。」
表面はプルプルとしていて・・・スーが引っ張って千切っている。そしてパクッと一口。凄い笑顔だ。
飲み込んだ後に俺達にの分も千切って渡してくれたので食べてみる。
なんて甘さだ。それでいてスッキリとした味わい。これは癖になるな。
「高級品と言われるワケだな。」
オリビアが何故かテレながら蜂蜜を飲み込んでいる。
「こんな大事なモノ貰って良かったの?」
「別に構わない。」
そう言うと他にもぽよよんとした物体が沢山あり、親衛隊達があちこちに運んでいる。と、言う事は。
「子育て用のモノだったんだ?」
「今はまだ余裕が有るのでな。」
「ともかく、これだけは確認したいけど、俺にとっては敵にしたくないし敵対関係が続くのも嫌だから、中立的友好ぐらいで納得してもらいたいんだけど、どうなのかな?」
「中立的友好?」
「俺達に襲いかかったり集落を攻撃しないなら、このままの関係で良いよって事。」
「しかし、我々の領域にいきなり入ってこられては敵だと思われても仕方のない事。」
「アンタたちが攻めて来たんじゃないの?」
「・・・武器を持った男が数人侵入したと報告を受けている。」
「そうだったのか・・・。」
「しかし違うというのならそれでよい。なにしろ、そのまま戦っていたら間違いなく全滅しただろう。こうして話が出来るというのなら、我々も助かる。竜血樹という最高の花が咲いている土地を棄てろと言われては・・・。」
グリフォンが天敵と言うより、勝てる筈の無い存在だろう。
「竜血樹から採れる花の蜜は次世代の女王の力になるという訳だな。」
「その通り、と言うか詳しい者がおるな。」
「私ではないが、蜜を奪うのに相当な戦力を注ぎ込んだ過去が有るからな。」
「そうか、お主は銀髪の志士であったか。」
俺、邪魔かな。
「個人的には森を拓くのに戦ったという話しか知らない。蜜の方はあくまで噂だ。」
「そうか。それで、そっちの娘にも何か曰くがあるのか?」
「わ、わたしは何もありませんよー。」
「そのわりにはキョロキョロしているではないか。」
「スーは蜂蜜が欲しいだけだもんね?」
「えへへー。」
「では、我々の蜂蜜を渡すという事で我らも守ってもらえんか?」
「やりましょう!」フンスー
スーが分かり易い程の鼻息を出している。
「勝手に決めるなと言いたいところだけど、悪い話ではないな。」
「キラービーの蜂蜜と言うだけでハンハルトに勝てますよー。」
何でどこを勝つつもりだろう?
「ハンハルトは嫌いだ。」
と、少し機嫌の悪い口調で女王が言う。
「我々で商売するつもりだったらしく、何度か戦った事が有るんでな。」
「そっか、あちこち移動してここまで来たって事ね。」
「その通り。なぜ我らの蜜が奪われようとするのか理由を知らなかった頃はとにかく憎くてたまらんかったが、今は・・・少し違う。」
「うん?」
「人が人を助けるのに我らの蜜を欲しているという事情を知る事になってな・・・まぁ、その所為でワルジャウ語が話せるようになったのだ。」
「あぁ、ちゃんと話せる人がいたって事ね。」
「それはどっちにしてもあまり良い話じゃないね。」
女王が太郎の言葉に艶っぽい笑い声を出した。
「お主は人だというのに少し変わった思考をしているな。」
「そうかな?」
「太郎は変わってるもんねー!」
そんなに力強く言わなくても。
「同感だな。我々が人との交流を持ったのを良い事と捉えないという事は、少なくとも我らの立場で考えたという事だしな。」
「お互いに交わる必要の無い世界だからね、お互いがお互いを知らなければ、その後の不幸も無いから。」
「太郎殿の言っている意味が分かり難いな。」
オリビアが首をひねる。グリフォンは興味なさそうだし、つまらなさそうだから頭撫でておくか。
「そのままの意味だよ。人だって出会わない人を不幸にすることはないでしょ。出会うから不幸せになるし、倖せにもなれる。」
「太郎殿は時々キツイ正論を言いますね。」
「私もその男の言葉は正しいと思う。人と交流を持った過去の女王は利用されたり利用したりで、とにかく苦労が絶えなかった。だからこそ、我々はここでひっそりと暮らすつもりだったのだ。」
「世界樹が無くなって人も来なくなった森だもんね。」
「うむ。」
悲しい過去の話は気にするような事ではない。知り合った以上はお互いが不幸にならないように、選択肢を間違えないようにするだけだ。
それは自分で自分に言い聞かせるように、腕を組み、静かに思考に沈む。
無言の時間が妙な緊張感を作ったが、太郎が決断した。
「蜂蜜が貰えるのは悪い話じゃないし、俺達も無理に横取りしたい訳じゃない。だけど、なにから守ってほしいの?」
「取りあえずグリフォンだな。」
太郎が再びグリフォンの頭に手を乗せる。
「世界樹の傍に居れば大人しいから問題ないよ。」
「タローの傍でも我は大人しくするぞ!」
「・・・凄い男だ。」
感嘆の声が漏れると、周囲の蜂達にも広がったらしい。流石女王様だ。
「後は花が咲くのであれば蜜を採らせてほしい。トレントがいれば最高なのだが贅沢も言えんか。」
「トレントならいるよ。でも花なんて咲くの?」
「トレントが生き残っていたのか・・・。ぜ、ぜひにもあの花の蜜が欲しい。」
「良いよ。ただ歩きまわってるけど。」
「歩くトレント???」
「何でも昔の姿らしいよ、人型に成ったトレントって。」
「私も知らないのよね。実は作れるし花も咲かせられるだろうけど、人型に成るなんてねー。」
「・・・改めて訊くが、お主は何者だ?」
「ふ、フツーのスズキタ一族の子孫・・・だよね?」
太郎は違う意味で自信を失っていて、マナに頭を撫でられていた。
太郎達に渡す分も採るために巣を大きくしたいとの申し出があったのはついさっきの事。その申し出に問題ないと答えたのは太郎だが、竜血樹がもう少し大きくないと渡すほどは採れないという問題を解決するために、数十年ぶりに女王は巣の外に出た。
本来は女王が巣の外に出るという事はとても大変かつ重要な事なのだ。
「直ぐ、大きく成るわよ。」
「この娘は一体?」
「本体と離れてる所為かな?アンタ達なら言わなくても気が付くと思ったけど。」
太郎からびょんっと飛び降りる。
「じゃあやるわよー!」
「手加減してよ。」
「善処するわ。」
「・・・誰だこんな言葉教えた奴は。」
既に緊縛状態から解放された蜂が周囲に集まっていて、女王の後ろで整列している。浮いているのでホバリング状態だ。
そして見詰められている中でマナが竜血樹の幹に手を触れて何かをしている。
見ている者達全員の視線が上に向かった。
「相変わらず凄いな・・・。」
ニョキニョキと伸びると、枝から花が音を立てて咲き乱れる。
「まるで、はなさかじいさんだな。」
「す、凄い・・・。」
女王の空いた口が閉じられることなく、ちょっとアホっぽい表情のまま、上を向いている。おっぱいは隠さない。最初から隠してないけども。
「数百年は咲きっぱなしだから安心すると良いわ。」
「え?」
「困らないでしょ?」
「あ、ああ・・・あなたは・・・もしかして、世界樹様ですか?」
「そうよー。」
なんでふわっと髪の毛を掻き上げて大人っぽさを演出したんですか、マナさん。
「全員着地、頭を地面に擦り付けろ!」
イキナリなに言ってんの、この女王様。
「なにとぞ我らを宜しくお願いします。」
そうだよね、そうなっても不思議じゃないよね。
完全に忘れてた。
蜂が地面にひれ伏すというすごく不思議な光景を見ている。
多分、二度と見れないんじゃないかな。
「宜しくって言われてもねぇ・・・。」
口をへの字にして困り顔のマナ。
「世界樹の許に在ればドラゴン以外に恐れるモノは有りませんし、我々も安心して仲間を増やせます。」
「とりあえずマナが困ってるから元の姿勢に戻ってくれないかな。」
「え、あ、はい。」
頭をあげて立ち上がったが、列は崩さないし飛びもしない。それは、他の巣から遠征してきた蜂も同じだった。
そして気になった言葉を質問する。
「仲間を増やすって、どうやって?」
「我々は雄が存在しませんので他種族から精子を頂きます。」
「それが雄殺しか。」
オリビアがいつもよりも低く小さい声で呟いた。
「殺すとは?」
「男としての機能を失わせると聞いている。」
「殺した事は有りませんが?」
「どゆこと?」
王女様の説明によると、ここに居る女性の姿をしている蜂はメスで、蜂そのものの姿をしているのはメスとしての機能を持たないそうだ。正確に言うとどちらもメスで、人の姿をしているのは将来の女王候補として生まれたからだと言う。
「精子であれば種族は問いませんが、哺乳類に限ります。」
哺乳類か・・・そういう分類がこの世界にも有るんだな。
「精子を搾り取る時にかなりの快楽を与えます。あまりの気持ちよさに気を失う事は有りますが死にはしません。ただし・・・。」
「二度と搾れなくなると。」
「はい。」
雄殺しの所以が解ったところで、対策は無い。何しろ精子が無ければ仲間を増やせないのだから、この問題を解決するとしても太郎達を含む男もオスも協力はしないだろう。
「搾り取る方法も気になるけどね。」
「実際にされてみますか?」
「ダメだ。」
「ダメですー。」
「ダメだろうな。」
「ダメに決まってるじゃない。」
「太郎様なら大丈夫の様な気もしますけど。」
「そ、そうなの?」
「太郎さん!」
何故かスーに一番怒られた。
「一応人体に影響のない程度でしたら・・・。」
「調節できるんだ?」
「そのように考えた事は無いので分かりません。」
「太郎殿は少し女王の誘惑か魅了にかかっているのではないか?」
「え?」
「そう言われれば・・・なんでしたくならないのですか?」
「少し悶々としてる。」
太郎の股間を撫でるように触るのはマナだ。ものの見事に膨らんでいる。
「ボロンする?」
「流石にやめてくれる?」
「私達が抜いて精子だけ渡すというのは?」
スーの提案だ。
「新鮮でない精子は死んでしまうので意味はありません。直接注いでいただきます。」
「直接注ぐ?!」
べちっ。
「目が危なくなってた。」
「あ、ありがとうマナ。」
「魔法障壁張ったら防げるかな?」
「無駄だと思います。」
「そうか・・・あんまり女王の近くに居ると大変な事になりそうだ。とりあえずその問題は後日という事で、解散しようか。」
「そうしましょう。それに女性であれば問題ない訳ですから、今後は私達で話を進めます。」
最初はオリビアに交渉役を任せようとしたが断られた。仲間の所へ戻る必要が有り、暫く不在となるからだ。戻ってきて以降であれば、という事なので、それまではスーにやってもらう事となった。
女王は深々と頭を下げ、巣に戻ると、他の蜂達もあちこちに散っていく。働き蜂は働くから働き蜂と呼ばれているのだけど、この世界ではどうなのだろう?
騒動が終わったその日の夜は、子供達が寝た後に悶々とした気持ちを払拭させるために励んでしまった。もの凄く致したくなってしまったので、仕方が無いのだが、女王に会うたびにこうなってしまうと思うとなかなか会いにくい気もするのだった。




