第126話 キラービー襲来 (2)
『アレは・・・グリフォンがなぜこんなところに・・・?』
『女王様、仲間が囚われています。』
『魔法を左右から交互に放って攻め続けるのよ!』
その命令が伝わると、最前線の蜂達の動きが変わる。見事に統率の取れた動きで、太郎達に襲いかかろうと集団を二つに分け、右翼群が周りの木よりも高い位置に飛ぶと、見下ろした位置に居る太郎に魔法を放つ。
左翼群は魔法を放った右翼群より低い位置から森を飛び出すと、一気に突撃してくる。魔法を魔法で防いだのはエルフ達で、太郎が反撃しないようにお願いした事を忠実に守っている。本来ならグリフォンが最大火力の炎で焼き尽くすつもりだったのだ。
「太郎殿はどうするおつもりだ?」
「数は多いがそれ程強くなさそうだし、反撃するのも無理じゃないのに。」
「あれが攻撃の全てとは限らない。雄殺しと呼ばれるキラービーなのだから、何か仕掛けてくるはずだ。」
エルフ達はただ耐えているだけで、別に動くもう一つの集団に対処することは出来ない。蜂から放たれる魔法が途切れると、低空を突撃する集団がグリフォンに襲いかからず、更に左右に散って太郎へ直接攻撃を仕掛ける。
「水魔法はダメだから・・・シルバ!」
するっとポン!
「私の魔法ですか?」
「あいつらを傷付けない様に捕まえてくれないか。」
「太郎様の魔素を頂きます。」
透き通るシルヴァニードの身体が太郎の身体に重なると、周囲に小さなつむじ風が無数に発生し、その一つ一つがまるで意思を持っているかのように蜂に襲いかかった。それに気付いた蜂が集団を更に拡散させて逃げようとしたが、両手に包めるほどの小さなつむじ風は蜂の腹部を持ち上げるように移動し、逃げようとする全ての蜂がその場から動けなくなった。
「タローすげー・・・。」
グリフォンが目を丸くしている。これほどの大群に対して、一匹ずつ魔法で対処し、全てを意思の有るか如く動かしているのだから、どれほどの魔力と正確なコントロールが必要なのか判らない。
ただし、操作しているのはシルバなので太郎は何の苦労もしていない。見ている光景に傷付く姿が無ければそれでよかったのだ。
「どうすんの?」
頭から肩に移動したマナが、太郎の耳を引っ張りながら問う。
「一纏めにして森に送り返す前に、話せる奴がどれか判らないかな?」
「あっちはどうするの?」
マナが指で示したのはもう一つの集団だが、そちらも既に捕まっていた。
「あらら、シルバの魔法って凄いのね。」
「常に魔力を消費しますので、太郎様の魔力がどんどん減っている筈なのですが・・・変化ありませんね?」
「魔素が抜ける感覚は有るけど、特に変化は無いな。そのままコントロール頼むよ。」
「お任せください。」
「太郎殿!」
「あぁ、助かったよ。」
「そう言っていただけるのは有り難いのですが、この光景が異様過ぎて・・・。」
エルフ達もグリフォンも、役に立ちたかったチーズも、結局何も出来なかったような気がしてならない。100匹以上はいるであろう蜂の群が浮いたままその場から動かないなんて、理解をも超えている。
足元で飛べない蜂が何かを訴えようと太郎の足にしがみ付く。オリビアが吃驚して引き剥がそうとするのを太郎が止めた。
『何か良い方法が有るの?』
「な、耳が・・・。」
「ミミガー。」
『じょ、女王様が居ますので、その、お願いします、滅ぼさないで・・・。』
完全に怯える声で太郎に訴えている。
他の者達には変な音波が耳を突いているようで、チーズなんかは転がって耳を地面に擦り付けている。チーズの子供はポチの所に置いてきているのでここにはいない。
『守りたかっただけなら追い出したりはしないよ。でも、女王様か・・・。ちゃんと俺の話を聞いてくれるかな?』
『女王様は基本的に動きはしませんけど、もの凄く強いお方ですので・・・。』
『巣から動かないって事はこっちから行くしかないのか。ところで女王様ってやっぱり大きいの?』
『大きいです。』
『そうかー、それはある程度覚悟しないとなあ・・・。』
蜂の女王はといえば、大きいというのは想像できるが、普通の蜂で太郎の頭ほどの大きさなのだから、女王と言えばコレが更に巨大化したモノだと思っている。
「太郎殿は不思議を通り越して少し不気味だな、キラービーと何やら話をしているなどとは。」
「常識は投げ棄てるモノですからー。」
「タローは行くのか?」
「うん。」
「なら我もついてく。タローに何かしたら滅ぼしてやるから。」
「そうならないようにするつもりだから。」
「ダメでもついて行くからな。」
「ん、分かった。じゃあ行こうか。」
先ほどまでの敵を持ち上げて、グリフォンに渡す。
「我が持つのか?」
「恐くないでしょ?」
「恐くは無いが、蜂の方が怖がっているぞ。」
「大人しくしてくれるなら、その方が楽だからね。」
『アガガガ・・・。』
ハチは震えているだけで逃げようともしなかった。
巣の近くではずんずんと歩いて来る敵に対応しようと攻撃を指示しているのだが、誰も対象に近づけない。それどころか空中で止まっていて身動きも出来ないのだから、命令する方としてはイライラするばかりだ。
『おい!命令を無視するな!』
『無視しているつもりはありません・・・。』
『なんだあの人間は!』
『そんなのわかりませんよ。』
『森に入ってくるぞ!』
森に入った太郎達がしばらく進む。周囲は普通の森とそれほど変化は無いが、その時、一番不思議に感じているのはマナだった。
「なんでこんなに離れたのに平気なんだろ?」
ついてきたのはマナとグリフォンとスーとオリビアだ。
「平気とは?」
既にここに居る事が平常ではないと訴えたがっているオリビアの声だ。
「世界樹(本体)とあんまり離れると身体の維持が出来なくなるはずなんだけど、全然平気なのよねぇ。」
「あー、そう言えばそんな事言ってたね。」
木と木の間から見え隠れして、良く見えなかったが、最初に気が付いたのはグリフォンだ。歩みを緩めて確認する。
「タロー、アレじゃないか?」
「これは、どう見ても巣だね。でもこれ小さ過ぎない?」
「周囲に発見されないように巣の殆どは地中に埋まっているのだ。」
「あー、なるほどね。」
小さい人型に似た何かが巣から出てきた。
『親衛隊です。』
「亜人種ですかね。透き通るような羽根の所為で妖精みたいですねー。」
挿し込む光に反射して、羽根がキラキラと輝いている。その姿は蜂の様な人の様な、人の姿に蜂の部位を付けたような姿だった。当り前だけど裸だ。しかも、顔も姿も女性なんだけど。
「妖精なんているんだ?」
「私は噂でしか。」
「何を悠長に話をしている、あいつらやる気満々だぞ。」
グリフォンが威圧感を発揮すると、親衛隊と呼ばれた蜂はいきなり土下座して泣いて謝りだした。空中土下座って珍しいな。
「会話にならないからやめてくれないか。」
「ん、あぁ、すまん。ツイな。」
『殺す気も滅ぼす気も無いから女王と話をさせてくれないか?』
泣いていた親衛隊が顔を上げたが、その表情は驚きに満ちている。
『お前・・・なんで我らの言葉が?』
「ミミガァー。」
『これが竜血樹?』
異様に太いだけで背の低い木が生えていて、その根元あたりに巣は有った。巣の入り口はそれほど大きくなく、太郎の身長では身を屈ませないと入れそうにない。
『そ、そうです。』
「グリフォン殿の威圧で、中に居る何かが震えているぞ。」
『女王様・・・。』
『その女王様は出てきてもらえるかな?』
『巣が破壊されない限り出る事は有りません。』
勘が良いのか、鋭いのか、グリフォンは太郎を見て言った。
「壊すか?」
「蜂蜜も吹き飛ばしそうだな。」
「そ、それはヤメテ欲しいですねー。」
スーの狙いはやっぱりそっちか。
『どうしたら出てきてもらえる?』
『入ればよいのです。女王様は蜜を食べ、子を育てていますから。』
「入るしかないみたいだ。」
「危険すぎませんかー?」
『入って良いのかな?』
「太郎さん、蜂が集まってきます!」
スーがそう言うと、どこからともなく羽音が聞こえると、太郎の身体から出てきたシルバが冷静に説明する。
「太郎様、これはここのキラービーとは別の蜂です。」
「え、敵対勢力がいるって事?」
「巣分けなのでは?」
『敵ではありません。』
『安心していい?』
「太郎様、森の外で捕獲している蜂は開放しても宜しいですか?」
「ちょっと待って。」
『安心と言うか、敵ではないのですがライバルみたいな・・・。』
『競争相手みたいな感じ?』
『そ、そんな感じです。』
近づいて来た蜂は3匹で、俺を見て驚いている。そりゃそーだ、蜂の言葉を喋っているのだから。
『お前は何者だ?』
『少なくとも敵になるつもりはないよ。』
『あぁ、新しい種付け用の生贄か。』
シルバがつむじ風を作ってその3匹も捕まえた。
なんで怒ってるんだ?
『なにをす・・・シルヴァニード様だ・・・。』
『おぉ、蜂にも知られてるんだね。』
『えぇ・・・まぁ。』
あれ?
『シルバって加護ないのに、蜂の言葉が解るの?』
『一応、すべての言語が理解できます。以前も言いませんでしたっけ?』
そう言われればケルベロスと会話してたな。
スーとグリフォンとオリビアは、何も言えず耳を塞いでいる。むしろ、なんでここに居るのか考えているようだ。
じーっと黙って待っていたマナが、太郎の頭をぺちっと叩く。
「あんた達で話を進めないでくれる?」
「あぁ、ゴメンゴメン。」
別の所からやって来た蜂も、この周辺に居る蜂も、きっと中で待っている女王様も、とても緊張していただろう。グリフォンとシルヴァニードがそこに居るだけで、少しでも気分を損なわせてしまったら滅亡するしかないのだ。
生きている心地がしないとはこの事だろう。
「戦闘はナシで、話ぐらいはしたいんだけど・・・。」
「何らかの交渉をするのでしたら、彼らを縛り続けている魔法は解かない方が宜しいですね。」
「それだと一方的にならない?」
「タロー、ちょっと見ててくれ。」
そう言うと、グリフォンの身体から何かが飛び出たような感覚を受けた。身体がビリビリする。目の前に居る親衛隊と呼んでいた蜂が・・・身体を震わせて、完全な泣き顔になって、墜落した。
「ちょ、殺したの?」
「タローが居るのにそんな事しない。」
墜落した蜂を支えるように寄り添う他の蜂達が、泣き顔を並べて俺を見詰めた。
『い、命だけは・・・なんでもしますから・・・。』
「なんて言ってるんだ?」
「助けて欲しいみたいよ。」
「だろうね。」
グリフォンがドヤ顔をする。
「威圧しなくても威嚇だけで十分じゃないの。」
珍しくマナがまともな事を言う。
グリフォンは我が居るから雑魚なんかほっといても大丈夫だと言いたかったのを、行動で示した。集団で襲われると面倒な相手だが、これだけ恐怖心を植え込んでしまえば何もしてこないという事だ。ちょっと可哀想だけど、グリフォンにしてみれば太郎が傷付く方が嫌なのだから、当然の選択ともいえる。むしろ森と一緒に破壊されないだけありがたく思えって事なのだから・・・。
毎週日曜日午前0時に更新中!!
ブクマしてくれたら泣いて喜びます!!
1ptでも嬉しいです\(^o^)/




