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第119話 更にやって来た。

「たろーーーさーーーん!」


 スーの声が聞こえたかと思うと、農作業をしている俺に飛び込んできた。なんで飛び込んでくるの?子供が真似をするからやめて欲しいんだけど。

 スーが満面の笑顔で頬をすり合わせている。子供達も寄って来た。


「はいはい、おしまいおしまい。」


 子供に混ざってサラッと現れるマナにスーは引っぺがされた。


「色々と言う事も有るでしょ?」

「あははー、流石はマナ様ですー。」


 遅れてやってきた一団は兵士達の姿と、どこかで見たような人達の姿も有ったが、カールの姿はない。


「こちらの代表者はどなたかな?」

「隊長、こちらが太郎殿です。」


 その男は太郎を好奇と興味と、僅かな嫉妬の目で見詰めた。


「・・・初めまして、カール・チャライドンの代理できたルカ・デッチ・チャチーノと申します。」


 先程の不思議な感じはすでに消えていて、女子供に囲まれて地面に仰向けに倒れている太郎に対して丁寧な物腰で挨拶をする。


「ど、どうも、鈴木太郎です。」

「早速なのですが、可能な限りの食糧とどうしてもこちらに来たいと言う連中を連れてきました。」

「へ?」


 近づいてくる姿には確かな見覚えがある。


「オリビアさん?!」

「お久しぶりです、太郎殿。」


 彼女の後ろには10名ほどの男女と・・・兎獣人が。


「あー、あの時の天然万年発情期!」


 マナは遠慮というモノを教えてもすぐに忘れるから困る。


「タローさまー。」


 片言のようなワルジャウ語で話しかけられた。

 その女性は子供を二人連れている。

 どう見ても兎獣人だ。兎の様な耳が伸びているからまず間違い様がない。


「シルヴァニード様に直接頼まれました。こんな光栄な事は無いのですが、我々は兎獣人と会話が出来ないので。」


 そのシルバがいない。


「シルバー!」


 するするっ・・・ぽん!


「お呼びですよね。」

「なんか現れるたびに、どんどんゾンザイになってない?」

「そんな事は・・・ありません。」


 その間は何だ。

 説明を求むぞ。


「最近こちらにばかりに滞在していましたので久しぶりにこの子達の所へ行くと、子供が生まれていまして。ご承知でしょう?」


 ぽくぽくぽく・・・チーン。


「あの時俺を襲った片割れ?!」

「ウルクです。」


 太郎は驚いている。

 そして事情を知らない兵士達もエルフ達も驚いている。

 スーとマナは・・・何かを悟ったような表情なんだけど、ちょっと?!

 ウルクが一歩前に出て俺に話しかける。

 もちろんワルジャウ語ではない。


『ワルジャウ語が解らないので、言葉が通じなくて困ってました。』

『あ、うん。』


 ウルクがにっこり笑う。そういえば今日はちゃんと服を着ている。


『子育中は発情しませんので。』

『あぁ、なるほど・・・って、その子が俺の?』


 ウルクの後ろに隠れるように立っている子供がモジモジしながら太郎を見ている。

 どちらも九尾の子供達より少し大きく、そして女の子だ。


『太郎様の子供です。』

『だよね・・・って事はココに住む為に来たんだよね?』

『ダメでしたか?』


 そんな寂しそうな表情で見るなんてずるい。


『え、いや、住むのは構わないけど、家が足りないよ。』

『それでしたらこの子達だけでも太郎様の傍に居させてもらえれば良いです。』

『子育て期間中なんだから母親がいないと困るんじゃないの?』

『父親の匂いを覚えさせたくて。』

『あー、なるほどって、そうなんだけど、なんか急に来られて困るって言うか、いや、別にいいんだけど!』


 太郎は混乱している。

 この二人の会話が解るのはシルバしかおらず、不思議な風の様な存在に驚いている人達を無視して二人の会話を要約して説明していて、そのついでの様に質問した。


「太郎様は何故あちこちで子供を作ったのですか?」

「一応、不可抗力なんですけどねー。」

「望んでいないと?」

「そういう訳じゃないわ。ただ、兎獣人の場合は太郎が襲われているのをシルバも見たでしょ?」

「それは見てました。この九尾達は知りませんけど。」

「あー、それはもう、なんていうか、あのときの流れですねー。」


 流れで子供を作ると言うと凄く不誠実な悪い印象しかない。

 兵士やエルフの男性からは羨ましそうな、妬んでいそうな視線を、エルフの女性からは冷ややかな目で見られた太郎だったが・・・一人だけ少し違う目で見ている人が居た。


「見た感じだから何とも言えないが、太郎殿の魔力が格段に上がっている。これほどの男の子種ならだれでも欲しがるのではないか?」


 そう言ったのがオリビアさんだったから、周りからは更に変な目で見られた。俺の所為じゃないと力一杯叫びたい。


「これは何の騒ぎ?」


 欠伸をしながらやってきたグリフォン。いつも通りの扇情的な姿はしていない。マナと同じワンピース姿だが、溢れ出る巨乳は隠せない。


「こちらの女性は?」

「我はグリフォンだ!」


 怪しい光を湛えた瞳と、迫りくる威圧感。


「やめなさい。」


 と、マナが頭を叩く。しかしすでに手遅れで、半数が泡を吹いて倒れた。


「この威圧感・・・ただの子供じゃない。」


 ルカと名乗った男も腰を抜かして冷や汗を流しながら地面に座り込んでいて、ここに来た事を少し後悔したようでもあった。

 ともかく、グリフォンのおかげとは言いたくないが、場が止まってしまった事を利用して、全員を集めての合同説明会を開催する事になった。

 このままだと、色々と面倒だから。






 ペンションの周りに集合するとそれなりの人数で、テラスに配置したイスやテーブルは既に足りない。

 

 魔王国兵士31名。

 エルフ11名。

 兎獣人3名。

 九尾の子供5名。

 ケルベロス4匹。

 太郎達とマナ、スー、エカテリーナ、グリフォンの5名。

 トレントが2・・・これも含めるのか。

 シルヴァニードは数に含めない。


「けっこうな人数になったわね。」

「じゃあ、色々と聞きたい事は有るだろうけど、とりあえず俺の話から・・・。」


 ウルクにはちゃんと通訳するようにシルバを付けて、説明の後に質問が飛ぶ。質問するのは代表者となる者がしているので、ルカとオリビア以外は質問してこない。


「そういえば、ウンダンヌは最近見ないね?」

「それでしたら海へ行っていると思います。呼びますか?」

「いないなら良いよ、ほっといてもそのうち勝手に来るだろうし。」


 シルヴァニードとウンダンヌの説明を聞いた後の会話だったから、エルフ達は特に驚いていて、ここに定住したいという気持ちを強くしたきっかけを作ったのだが、太郎は全くと言っていいほど気が付いていない。


「住みたいという希望は断るつもりはないけど、とにかく家が足りないから。」

「それならご安心ください、我らが建築します。」


 ボロ小屋をちらっと見ている者が数名。

 気に成るんだろうな。


「エルフの建築技術がこの目で見られるなんてそうはない好機だぞ。」


 勉強できる事は良い事だと言わんばかりにルカが言う。


「材木はココで調達していただく事になりますが・・・この黒い土と言うのは全て剥がすのですか?」

「最終的にはね。それに最近寒くなってきたし、夜に外で寝させるわけにもいかない。後の問題は食糧関係だけど・・・。」

「調味料なら山盛り買ってきましたよー!」

「デカシタっ!」

「えへへ。」


 スーの頭をなでなで。


「楽しそうなところ悪いのだが、この辺りの魔物はかなり凶悪な奴もいると聞くが?」

「ルカさんが言うほど凶悪な奴っていたの?」

「あの時の巨大蛇以外は見ていません。」

「あの強さの蛇が何匹もいるとは思えないが、周辺の森はもう少しちゃんと調査した方が良いな。」


 ポチが言った事は兵士達も重々承知しているが、越冬に向けての食糧確保を優先するという事で落ち着いた。


「狩りならば私も同行しよう。正直言うと建築は苦手なのでな。」


 ポチはライバル視しないで。

 グリフォンは対抗しないで、獲物が消滅するから。


「あと・・・言いにくいのだが・・・。」


 なんだろう?


「その・・・子供の事なんだが・・・。」


 え・・・まさか・・・?


「ワルジャウ語が話せないと困るのだから、ちゃんと勉強させた方が良いのではないか?」


 想像と違ったけどそんなに頬を染めて言わなくても。


「うん?」

「兎獣人の子らもそうだが、そちらの子らも読み書きはした方が良いと思う。」

「なんで恥ずかしそうにいうの?」

「そ、それは・・・本来他人の子の事に口を出すのは、アレだからな。太郎殿の妻と言うのなら問題は無いが・・・。」


 俺の正妻って誰だ・・・?


 マナとスーとエカテリーナがお互いを見ている。そこにウルクも加わるのか・・・?

 あ・・・ナナハルもいたんだ。

 と、言うかナナハルとの子供が一番多いからなあ・・・。


「太郎さんの子供を産んでここに居るのはアイツだけなんですけど・・・。」


 可哀想だから名前で呼んであげて。


『名前と言えば子供の名前は有るの?』

『ククルとルルクです。』

『双子に見えるんだけど、どっちがどっち?』


 子供の方が反応した。

 右手をあげた子が。


『ククルー!』


 左手をあげた子が。


『ルルクー!』


 なんで名前までややこしくしたんだ・・・。

 服装も同じだし、髪型まで揃えなくても。

 しかも、ワンピースだ。

 子供はみんなワンピース・・・じゃないな。

 九尾の子供は着るのにちょっと苦労しそうな着物だ。

 風呂に入る時はちゃんと自分で脱いでいるし、着替えも有るが。


「ククルとルルク?」

「そうみたいだね。」


 スーにはちゃんと聞こえたようだ。

 ああ、みんなもちゃんと聞こえるんだ。

 そうだよね、音として捉えるんなら何語でも関係ないからなあ。


「スーみたいに兎獣人の名前にも意味が有るのかな?」

「太郎さんが解らなければ無いのでは?」

「くくるるるくるくるくるくるくくるる・・・。」


 太郎は混乱している。

 よし、諦めよう。


「とりあえず太郎が教えればいいんじゃないの?」

「読み書きはなんとか教えられるけど、言語は無理だぞ。」

「カールなら他人にモノを教えるのが上手いぞ。」

「ここにいない人なんだけど、勝手に決めて良いの?」

「俺はカールが来る迄の間、とりあえず居るだけだしな。」


 この人は何の目的でここに来たの?


「ちゃんとした教師の出来る人も呼んでもらえば良かったかな・・・。」

「それは贅沢だな。なにも無い所から始めてるんだろ?」


 それはその通りなんだけど、なんでこの人に言われてるんだろう・・・。


「一番長生きしていて一番知識が豊富そうな人って誰?」


 複数人の視線が一ヵ所に向いた。


「あ、8万年生きてるんだっけ?」

「教わる事が出来ないですねー。」


 流石に移動が出来ないばかりか字も書けないのでは意味がない。

 結果、子供達への一時的な教師はスーが行う事になった。

 それはチーズとその子供も教わりたいと言い出したからで、カールが来るまでの間だけ引き受けてくれる事になった。


「まぁ、立場的にも順当でしょ。」

「そうなんですかねー。マナ様だって出来るんじゃないんですか?」

「めんどくさいのはヤダ。」


 言うと思った。

 実際問題としては、これからのやる事が一気に増えてしまい、子供達に構ってばかりもいられなくなったという事情も働いている。


「とりあえずあのボロ小屋を解体しましょう。」


 兵士達がショックを受けていたが見なかった事にした。






マナが、


 「天然万年発情期!」


って叫んでますが、そんな事は無いのでご安心を。

まぁ、そんな状態の時も有るって事です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最新に追い付いた~♪ 気がついたらコメントの半分くらいが自分のコメントで「そんなにコメントしてたのか」とビックリしている。
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