第113話 ナナハル帰る
「水田を作る前に知りたい事が有るんだけど。」
「なんじゃ?」
「稲作って今からでも間に合うの?」
「今年は無理じゃな・・・この辺りはあと数ヶ月で冬になる筈じゃ。」
「魔王国は一年中が何となく暖かかったけど、寒くなるんだ?」
「ここは土地が高いからの。」
「マナは知らないの?」
「山の上の方とか私の頭に雪が降るよ!」
以前は降らないって言ってなかったかな・・・。
山頂やマナの頭?
あぁ、世界樹は大きくなるから上の方だけ積もるのか。
なんか頭が寒そうだな。
そう思いつつ、目の前に居るマナの頭を撫でながら質問する。
「ここの標高とか海抜とか分かる?」
「わかんない!」
マナは凄く力強く答えてくれた。
今は何月なんだろう・・・?
水路はもう少しで川に繋がるくらいまでは作ったが、まだ機能していない。ナナハルが帰る前には完成したいところだ。
引っぺがした後の黒ずんだ土は子供達も運ぶのを手伝ってくれたし、剥がした後の土なら兵士達も楽々掘れたので、急ピッチで進んだ。
ただし、水路づくりに全力を注いでいたので、狩りの方はポチに活躍してもらっている。グリフォンも狩りをしようとするのだが、元の姿では大き過ぎて森を破壊してしまい、人の姿では逃げられてしまう。
しかし、黒い土を剥がせる戦力として、俺とグリフォンの二人しかおらず・・・マナも剥がしてた。
と、いう訳で更に急ピッチで進み、深さ50cmくらいで、幅が200cmくらいの溝が完成し、水の流れで両側の土が崩れてしまわない様にを板で補強しているところだ。
高低差の問題で溜め池に一気に水が流れ込む事は無く、川から水路を繋ぐ入口側には簡単な水門を作った。溜め池から川へ流れ出る方は板で塞いだだけで、水門が開けばその板よりも水位が上がって流れ出るはずだ。多分。
溜め池の水は溢れそうになる前に拡張していたが2体目のトレントが大量に水を吸い上げて、今はかなり余裕がある。
「溜め池の方の補強が終わりました。」
兵士が太郎へ報告に来る。後は水路だけだが、かなりの長さになったのでなかなか進まない。
「それにしてもこんなところに川なんて流れていた記憶がないんだけど。」
「地形が変わってるんだろうね。湿地帯だってなかったでしょ?」
「うん。」
「とにかく冬が来る前に完成させて、世界樹の育成具合も確認しないとね。」
「寒くなると人が来なくなるのがつまらないのよねぇ。」
何かを思い出したかのような言葉で、マナは空を見詰めている。世界樹の成長より、つまらない日常の方が気になるのも問題だと思う。
「さて、そろそろじゃな。」
「帰るんですか?」
「・・・そういう言い方をするな・・・帰りたくなくなるではないか。」
「帰らなければ良いじゃない。」
あっけらかんとマナが言う。
「そんな訳にもいかぬ。わらわが興した大事な土地じゃ。世界樹とてそうであろう?」
「確かにね。まぁ、私の場合はココから遠くへはもう行けないけど。」
「世界樹である以上、世界樹からは離れられぬか。魔素を蓄える核が有れば移動も出来そうなものなんじゃがの。」
「それが出来たら苦労しないわねー。」
「それもそうか、出来るのならわらわなんぞに言われなくとも可能か。」
妙に納得した表情で顎を撫でている。暫く何かを思案しているようだったが、諦めると子供達がナナハルの傍に集まる。だが、連れ帰るのは半分だけで、残りは太郎が預かる・・・いや、育てる事となる。
エカテリーナとグリフォンもやって来て、帰るナナハルにエカテリーナがお礼を言っていた。料理を教わっていたらしく、翌日の朝に味噌汁が出された。具がマンドラゴラなのが凄いのかどうかわからないが、兵士達が仰天していた事で何となく理解した。
ちなみに味噌は三日で無くなった。
「用がアレばいつでも呼んでくれて構わないが、冬前の支度をするのですぐにはこれんぞ。」
「当てにしないように頑張りますよ。」
「それはそれで寂しいのじゃが。」
「贅沢な悩みね。」
「子に名前を付けたら教えてくれ、わらわの方でもこの子らに名を付けるでの。」
「いつ頃までが良いですかね?」
「ここで言うなら雪が溶けた後じゃな。その頃には今よりもかなり背が大きくなっている筈じゃ。」
「では、その頃にシルバを使って連絡します。」
「そんな簡単に精霊を使うというのも贅沢じゃ。」
言いながら子供達を腕に抱えると、ふわりと身体が浮く。
「じゃあの。」
そう言った後は一度も振り向かず、青い空に消えていった。手を振っている俺の真似をしているマナに倣ってグリフォンとエカテリーナも手を振るが、俺が止めると同時にその動作を終えて、元の作業に戻る。
意外とあっさりした別れになったが、再会する予定なのでこんなもんだろう。
それからは、川でササガキ掬いをしてびちゃびちゃになり、苔の付いた石と水草を持ち帰ると、溜め池に入れた。水草はマナの能力であっという間に育ち、苔が水底を覆いそうになったので途中で止めた。
「やっとここまで来たなあ。」
開門する前に思いを振り返る・・・暇も無くマナがバカっと開けた。水路に水の流れを作ると、放ったササガキは直ぐに水草の陰に隠れて見えなくなったが、何匹かは下流に流されたようだった・・・大丈夫かな?
トイレを溜め池と水路の境に作った。分かり易く言うと水路の真上に作った。これで完璧な水洗トイレだ。手洗い用の水は少し離れているがうどんに・・・と思ったら、移植した大きなトレントも水を出せるので手洗用と食事用に分け・・・たいんだけど、俺以外は全く気にしていない。どっちも綺麗だし美味しいそうだ。
トイレットペーパーは存在しない。お尻を拭く専用の布を洗って何度も利用している。一応男性用と女性用と分けてあるが、実際に女性用を使うのはスーとエカテリーナだけだ。なので二人は自分で専用の布を持っている。残りの男性は・・・結果的に全員分専用の布を持つ事になった。最初は兵士達が使ったら洗うという方式で繰り返し使っていたのだが、俺が嫌なので一人一枚渡したのだ。衛生観念が低いのは仕方が無いのかな?
トイレは当然座式便器で、木の内側を繰り抜いて作ったモノにU字型の便座を付けているだけで、蓋は無い。常に水の流れが見えていて、せせらぎも聞こえるという、想定外なほど風流なトイレが完成した。
マナは排泄自体が無いので常に綺麗な・・・なんで子供と一緒に泥んこ遊びしてるの?!
あーあ、みんな泥だらけだ。どうせ泥だらけだし、引っぺがしてマンドラゴラ以外の畑も作るか!!
グリフォンと協力して、黒い土をべりべり剥がす。マンドラゴラの畑は乱雑に生えていて、畑と呼ぶには少し申し訳ない。米はまだ先だし、野菜が一つもない状況ではマンドラゴラに頼るしかない。手持ちの野菜も残りは少ないのだから。
「そういえば根菜類なら植えて成長させてもらえたよね?」
「出来るよー。」
「タマネギ、ジャガイモ、サツマイモ、ニンジン、ダイコンは有ったけどゴボウが何故かどこにも売ってないんだよなぁ・・・。」
球根みたいなものが売っていたけど食べ方を知らなかった。
ユリかな?
流石にチューリップじゃないと思うが。
苗木も全部置いてきちゃったから何も残っていない。フーリンさんの所にあるのを枝だけ持ってきてもらうのもアリかな。後でシルバに頼んでスーと連絡を取ってもらおう。
「太郎?」
「ああ、ごめんごめん。」
袋の中を確認し、エカテリーナに渡していない予備の植物を探していると・・・ホームセンターでよく売っている種の包みを見付けた。
トウモロコシ
トマト
赤カブ
レタス
キュウリ
スイカ
ナス
これはなかなかのラインナップだ・・・。というか、俺の袋の中身はどうなってるんだ。自分で買った物も把握できてない。これポピーじゃん。ガーデニングできるぐらいあるぞ。花なんぞ食べられんから今は育てる予定は無いが。
更に袋の中をガサゴソと探す。それにしても懐かしい、出発前に買ったものの使っていない帽子まで出てきた。これ野球帽でチーム名が入ってるけど、この世界じゃ誰にも理解されないだろうな。
「なにこれ?」
「出発前にホームセンターで買った種だよ。」
「この絵と同じモノが出来るの?」
マナが見ているのは種の包みに写真があり、それをまじまじと見詰めている。
「コレとコレは見た事あるわ。」
と、マナが示したのはトウモロコシとトマトだ。
「ここで育ててたのか。」
「そうなんじゃないかな。」
「8000年以上も居たのに覚えてないの?」
「いつでも食べてたわけじゃないからねぇ。」
「食べなくても畑ぐらいあっただろ。」
「あったかもねぇ。」
「マナの力で育てたりしなかったのか?」
「育てられたけど一族の方が拒否してたわね。」
「なんで?」
「さぁ?」
理由を考えればマナの事だから、やり過ぎて食糧を溢れさせてしまうという事ぐらいしか思いつかない。今はマナの力が必要だけど、安定供給が可能になれば育て過ぎても意味は無くなる。エルフの村では供給過多が問題にもなった事だし。
使い易いようで使いにくい能力だ。
「季節とか関係なく育つんだよね?」
「もちろんよ。」
「サツマイモとじゃがいもは沢山あっても困らないし、余ったら種にすればいいから、すぐに欲しいな。」
「種?」
「他の芋類は知らないけど、ジャガイモとサツマイモはそのまま植えておけば芽が出てまた増えるんだ。」
「増えたい放題じゃない。」
「うん。だから、薄暗くて少し肌寒いくらいの場所が有れば、そこに保管しとけば長持ちするんだけど・・・地下室作った方が良いかな。」
穴を掘るだけなら苦労しないが、屋根は欲しいし、拡張する事も考えれば深い方が良い。山は見えるけど保管場所にするには少し遠いので、横穴式の倉庫は無理そうだ。
「地下室が欲しいなら私の下にすれば簡単に作れるわよ。」
「私の?・・・あぁ、あっちの世界樹の下って事ね。確かに根っこが張っている近くなら崩れにくくて良いけど、成長の邪魔にならない?」
「それくらいなら避けてあげるわ。根っこである程度空間も作っておくから掘る手間も省けると思うし。」
「それは助かるな。じゃあその計画で行こう。」
こうして地下室を造る計画を兵士達と相談し、さっそくジャガイモとサツマイモの畑を作るべく、マンドラゴラの畑を拡張して細長くした。どちらの芋も残りは少なかったが、マナの力であっという間に成長し、地下倉庫が完成するまでは成長も控えめにしてもらって・・・その・・・マナさん、そろそろやめて。
こうして、その日から食事に芋が出される事となった。
「これから毎食芋は飽きるよ・・・。」
「やり過ぎちゃった。てへっ。」
雪が降るのか降らないのか・・・
山頂は積もります
スズキタ一族の村も雪が積もります
俺が忘れてた/(^o^)\スマン




