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第101話 新生活始めます?

 一部予定通り。

魔王国に到着した太郎達は、フーリンの家に来たのだが・・・。


「なんか商品減ってませんか?」

「あっちもこっちも掃除してませんねー。」

「い、色々あったのよ。」


 珍しくフーリンさんが問い詰められている。女性といえども、一人暮らしになるとだらしがなくなるというのはこの世界でも共通の様だ。なんで下着がこんなところに・・・。慌てて拾って隠している。

 当初の予定としてはダリスの町に少し滞在するつもりだったのだが、ダンダイルの方で呼び出しが有ったらしく、すぐに帰る事になった。

 鍛冶屋で修理してもらう予定も綺麗に消えて、陽の落ちる直前に到着してからの、今の状態である。


「そ、掃除しますね。」


 遠慮がちに言ったが、この子にしても汚いと思ったらしい。食事をするテーブルとイスは汚れていなかったが、洗い場には見事にそのまま洗っていない食器が山積みになっていた。フーリンさんってこんなにだらしがない人だったのか?


「こっちは私がやりますんで、エカテリーナは太郎さんと寝室を見てください。多分、出発した直後のままなので埃をかぶっていると思いますよー。」


 マナとポチを戦力外通告として中庭で遊ばせ、スーがテキパキと動き出す。スーにとっては自宅のような場所なので指示も的確だ。そしてスーの予想通り部屋に入ると埃が舞ったので窓を開ける。大きい屋敷に一人で住んでいるのだから、面倒な時も有るんだろうけど、流石にこれは・・・。


「ちょっと城に呼ばれてるからダンダイルちゃんと行って来るけど・・・。」


 フーリンはそう言ってダンダイルと一緒に城へ行ってしまったので、残された俺達は帰ってくるまでに大掃除を終わらせ、食事の準備どころか完成した頃にフーリンがダンダイルを連れて家に帰ってきた。

 マナはここに住んでいた時のように本体を中庭に出現させていて、初めて見たエカテリーナは驚いているが、どっちも本体のようなモノなので問題は無い事を教える。

 夕食は質素とも簡素とも言えない、微妙なラインナップになったのは、保存食を必要以上に買い過ぎた所為だ。あの時はこんなに早く帰ってくる予定ではなかったのだから、その事でスーを責めたりはしない。


「ダンダイルさんの仕事はよろしいんですか?」

「勇者が来るかもしれないという事だったが、どうやらこっちに来ることは無かったので今回は見送りだ。」


 無理して勇者に近づくと碌な事が無いので、別の方向へ向かったのならそのまま行かせてやればよい。フーリンは魔王と会って来たらしい。ドラゴンの件だろうが詳しくは聞かなかった。


「私の事よりも太郎君達はこれからどうするんだ?」

「やっぱあの場所しかないのかしらね?」

「海を渡って別の場所を探すのもアリだけど、どうせ魔女に見つけられるだろうし。」

「何処でも行きますよー!」

「私も行きます!」


 その時にエカテリーナに視線が集中した。だが、この子に話しかけたわけではない。


「あの場所ってどうなってるか知ってる?」

「あの日以来訪れていないのでどうなっているか分かりませんが、魔物の棲処になっているのは間違いないでしょう。」

「そうよねぇ。」

「この子が一人で襲われた時に自力でどうにかできると思う?」

「無理ですねー。」


 それはポチも同意し、ダンダイルとフーリンも連れて行かない方が良いと言った。そして、それは俺も同意している。危険な場所に連れて行く、もしくは危険になる可能性の高い場所に滞在するとなればエカテリーナを守る自信は無いのだ。

 ただ、それを告げるとどうなるかぐらい理解している。誰も何も言わなくなったことでエカテリーナは察した。

 グスグスと泣き出す。そして太郎に抱き付いた。こうなる事は誰でも予想できた事だ。しかし、予測は可能でも回避は不可能な事柄とは良く有る事だ。


「な、何でもしますっ。お掃除も、お洗濯も頑張ります!」


 あっちも頑張るって、そういう事じゃない事も理解している筈なのだが、理解出来ているだけに、自分の力の無さに悔しくて、流れる涙を止められない。


「何時迄も住めない訳じゃないだろうし、いずれ人も集めるんでしょ?」

「そうねぇ、昔みたいにそこそこの村ぐらいの規模は必要かもね。」

「当時は町として認識されてましたが、規模の大小で周囲にも影響は出るでしょう。」

「世界樹様が大きくなればそれだけで影響は起こりますし。」

「あんまり規模が大き過ぎますと魔女が紛れても分からなくなるのも困るでしょうし、厳しい環境であれば、昔のように面倒な旅人が往来しにくくなって、護るのは大変ですが管理は楽になるでしょう。」


 最終的な判断はマナ・・・ではなく、俺になった。


「そんな重要な事を俺が決めるんですか?!」

「ハッキリ言うと太郎次第なのよ。」

「なんで?」

「なんでって・・・何だっけ?」

「忘れたの?」

「なんか神様が言ってたような気がするんだけど、思い出せないのよねぇ。少なくとも私がある程度育つまで守ってくれる存在が必要なのは確かな事なんだけど。」

「元々育てて欲しいって話からだったから、俺が必要なのは問題ないけど、確かに強い人に守ってもらった方が・・・。」

「世界樹様が太郎君の事を好き過ぎるのにも理由が有るのではないですか?」

「うーん。」


 悩み顔のマナは何故か可愛いと感じる。


「大好きなのは間違いないんだけど、いつから?って言われると良く分からないのよねぇ・・・。」


 よくよく考えれば最初から不思議な話だった。今は自然と受け入れているが、スズキタ一族の子孫で、俺の元の世界に居たのは緊急避難的で、今いるこの世界が本道だという事。そして、俺は絶対に必要な存在なのかと問われると、マナでも悩む。


「俺が傍に居る所為で余計に狙われるというのならその方が問題な気もする。」


 素直にそう言うとマナは凄く悲しそうな表情をした。さっきのエカテリーナとよく似ている。まるで自分が捨てられてしまうのではないかという・・・。


「私は太郎と離れるなんて嫌よ。あのバカ女に捕まっていた時も早く太郎の所に行きたかったんだから。」


 見た目は少女と普通の少女の二人に左右からしがみ付かれている。

 二人を交互に眺めていたが、マナの方をじっと見詰める。

 俺はこの子の事が大好きなのか?

 好きなのは確かだが、容姿が変わったら?もしも男だったら?

 俺は伝説の勇者ではないし、特殊な使命を抱えて生まれたわけでもない。


 そう思うと、何故か、急に、恐くなった。


 俺は元の世界でも特に必要とされた事がない。

 今のこの世界での俺とは・・・。

 考えると怖くなる。

 俺は父親も母親も不在の世界で本当に一人になるのだから。

 ・・・あの両親ならいない方がマシか。


「時間的な余裕はまだありますよね?」

「早い方が良いに決まってるけど、少しぐらいなら問題ないんじゃない。」


 その少しって一体・・・いや、これは考えてもしょうがない。タイムリミットが有る訳でもなさそうだし、暫く此処での生活が始まる・・・俺は何をすればいいんだ?

 自然と二人の頭を撫でているが、視線はどこか遠くを見つめている。


「考えても分からない時は行動した方がいいか・・・。」

「じゃあ、とりあえず行ってみる?」

「うん。特に必要な準備と言えば当面の食糧だけど、今回は視察みたいなもんだから、往復分あればいいかな。」


 ダンダイルが何かを思いついたようで、テーブルを軽く叩いた。


「そうだ。兵士の訓練を兼ねて遠征しよう。あの場所なら良い訓練になる。太郎君も自分達だけでは不安が有るだろうし。」

「いいんですか?」

「膠着状態が続いている国境の町の兵士達は無理にしても、しばらく暇なのは変わりない。警備に人員を割いているから費用もそれなりにかかっているのに、兵士達が訓練する暇が無いとあっては今後も困る事になる。」

「ここからだとどのくらいで往復できるんですか?」

「以前に使われていた道は整備されていないが、まだ残っているだろうから・・・片道3週間前後、往復で6週間ぐらいか。ただし私は行かない。というか行けない。」


 事後処理やら編成やら、他にも国境の町の方へも顔を出さねばならず、実は結構忙しいダンダイルだった。


「出発日を決めてくれればそれに合わせよう。」

「分かりました。では決まりましたら俺が城へ行った方がいいですか?」

「そうしてくれると助かる。前の時の様に裏の通用口から入ってくれればいい。顔パスで通れるようにしておく。」

「じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます。あと、一つお願いが・・・。」




 太郎は直ぐに出発日を決めなかった。今回の冒険というか、旅は、見に行くだけといってもそれなりの準備が必要だからだ。魔物の出現が確認されているというのは当たり前の事だが、かなり強い魔物もいるらしく、ドラゴンと対峙した経験が有るのだから、それほど心配する必要も無いとスーは思っていたし、マナもポチも太郎の行動を煽ったりせず、太郎が次の予定を決めるまでのんびり過ごすつもりだった。


「え、良いんですか?」


 スーは店を手伝うつもり満々で準備していたのだが、それらをエカテリーナに任せ、今回はマナもポチも連れて行かず、二人だけで行こうと言ったのだから、望外の幸運のようにも思えた。

 ポチには番犬として待つのも必要だと説得し、マナには二人で行くと言ったらあっさり認めてくれた。背景にはフーリンが何やら言ったという事も有り、ここからなら何かあってもすぐに飛んで行けるからだ。

 エカテリーナは凄く寂しそうな表情で手を振って見送ってくれた。何故、心が痛いのだろう。


「それにしても私と二人で行きたいって太郎さんどうしたんですかー?」

「マナに頼り切った生活ってのも困るからさ。」

「それだけですか~?」


 凄く怪しい笑顔で太郎の顔を覗き込む。こういう時のスーは遠慮というモノを知らないので、腕にしがみ付いてべたべたしてくるのだから、股間が辛い。

 胸が当たってますよ。

 当ててるんですよー。


「まぁ、冗談はさておき、目的地に着いたからってすぐに用事が終わるとは限らないから()きは急いで行こう。」

「急いで行くってまさか・・・。」

「訓練も兼ねてるから。」


 ダリスの町は魔王国領内であるため、特に手続きは必要なく、太郎は身体をふわりと浮き上がらせた。


「あんなに飛んでいられるのは太郎さんだけですからね?!」

「ほら、行こう。」

「あ、待ってくださいよー!」


 歩けば何日も必要なみちのりを僅か一日で終わらせた太郎だった。






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