ミンチメイカー・アクション
町の中心にそびえ立ついびつな鉄塔のふもとから、衝撃波と地響きを伴う大きな土の柱がぶち上がった。原因は、鉄塔の下に掘られた深い穴の中で爆発した超小型指向性核爆弾だった。地響きがおさまり、土煙が落ちついたころ、ゴーグルをしたミンチメイカーたちが隠れていた土手の影から這い出して、目を凝らして大穴を覗く。彼を囲む男たちも、期待に目を輝かせて見た。
ミンチメイカーがケミカルライトを膝で曲げ、穴の中に放り込む。暗闇の中にぼんやりと照らし出されたのは、金属製の壁だった。
「あった……あれだ、間違いない」
ミンチメイカーがロープを伝って穴の中に降り、壁の表面を撫でる。核爆弾の衝撃を食らってもなお煤けた程度の被害しかない表面を見て、彼はひとりうなずいた。
「やはりこの町の鉄塔はグランドコアの一部を利用したものだったか」
遥か頭上で、穴の中を覗きこむ男たちに向かってさけんだ。
「入り口を見つけたぞ! あとは中に入って修理するだけだ!」
歓声が起こり、町の空気が再び大きく震えた。
穴の中から引き上げられたミンチメイカーは、盛大な拍手と熱狂的な歓声に迎えられた。人々は口々に彼に向かって感謝と賞賛の言葉を投げかけて、笑顔を見せる。ミンチメイカーも穴の前で彼らと次々に握手を交わし、肩を突き合わせながらお礼の言葉を一人ずつ伝えていく。
「おめでとうございます!」
熱線銃を背負った男が笑顔で片手を差し出す。
ミンチメイカーも笑顔で応え、握手しようと片手を差し出――す直前で引っ込めた。直後、男の手首から先が吹き飛ぶ。銃声があった。
「伏せろ!」
ミンチメイカーが怒鳴った直後、雄叫びと機関銃の音が人混みの向こう側から響いて、何人もの人間が倒れ、情けない悲鳴をあげてもだえ苦しむ。銃を持った人間たちが彼らを取り囲んでいた。
「襲撃だ!」
誰かが叫んだように、反スマイル派の襲撃だった。スマイル派も自前の武器を抜いて応戦し、鉄塔のふもとはあっという間に血と銃弾と悲鳴飛び交う戦場と化した。
地べたにうつ伏せになっていたミンチメイカーは、さっき握手を求めてきた男の手首を見た。断面からはおびただしい血が溢れ、地面の鉄錆と混じってタールのようになっている。(もう助からないな)と判断した彼は、男の背負っていた熱線銃を奪い取ると、ゴロンと仰向けになって発砲した。銃口から可視光を放つ熱線が飛び出して、土煙の切れ間に見えた男の胸を貫通する。ミンチメイカーは舌打ちした。
「撃った気がしないな」
彼は不満げにうつ伏せになると、熱線銃を適度に撃ちつつ、匍匐前進で近くの建物に向かう。死体の隙間をすり抜け、走り回る味方に二回ほど踏まれながらも
建物にたどり着いた彼は、中にすべりこむとひと息ついた。テーブルの下に置いてある鍵のかかった箱を蹴り出す。彼は熱線銃で鍵を壊すと、銃を捨てた。
箱の中に収まっていたのは、彼の黒いトレンチコートと散弾銃だった。彼は血で汚れた上着からコートに着替え、正確な手つきで散弾銃の弾倉と安全装置を確認した。建物の窓が割れて床にガラスがぶちまけられるが、彼は意に介さない。それからふぅとひと呼吸。彼は立ち上がった。
「乱戦は苦手だが、やるか」
彼は窓辺に張りつくと、素早く身を乗り出して一発撃った。顔を隠した反スマイル派の男の片腕が一気に細くなる。ミンチメイカーは窓枠を乗り越え、四方から次々と飛び出す敵を正確に撃ち抜いていく。彼が一回発砲するたび、銃声と悲鳴が重なる。
「やはりこれだな」
腕に感じる反動に、彼はひとり小さくうなずいた。彼は最後の一発を撃ち切ると無駄のない動きで物影に身を隠し、トレンチコートの内側に隠した銃弾を補充していく。その手際はあまりに正確すぎて、むしろゆったりとした余裕すら感じられた。
「うぎゃああ熱っ!? いでえッ! いでえよおぁっ!?」
彼の前に、肩が大きくえぐれた敵の男が倒れ込んできた。男はミンチメイカーを見ると青ざめ、今にも泣き出しそうな顔をする。
「や、やめてくれ、殺さないで……!」
ミンチメイカーは彼を見て眉をひそめ、ポケットの中から小さな包みを取り出して彼の胸の上に放った。
「止血道具が一式入ってる。自分でやれ」
「あ〜……あ? ありがとう、ありがとう! ありがとうありがとうありがとう〜! うぅう〜!」
男はむせび泣きながら包みを開け、応急処置を始めた。ミンチメイカーは彼から顔をそむけると再び銃撃の起こっている方向に走り出した。
疲れた様子で座り込むミンチメイカーの前に、ひとりの男が引きずり出された。彼の顔は殴られて倍に腫れ上がっている。ミンチメイカーの仲間たちは彼をとり囲み、殺気立った目で見下ろした。
「おまえが反対勢力のリーダーか」
ミンチメイカーは億劫そうに首を鳴らし、じろりと彼を睨みつける。彼の腫れた男はその目に射竦められ、ひっと小さな悲鳴をあげた。
「おまえのせいでたくさんの仲間が死んだぞ。おまえの仲間も大勢死んだ。どう落とし前つけるつもりだ?」
「お、お、お、おまえたちは悪魔だ!」
男が裏返った声でわめきだした。
「悪魔?」
「そ、そうだ! この星で暮らしているみんなを犠牲に、自分たちだけ逃げ出そうなんて、まともな人間のやることじゃない! おまえたちは人でなしだ! 悪魔め! 鬼め!」
「面と向かってそこまで罵倒されるのも久しぶりだ」
ミンチメイカーが笑った。周りの男たちも笑った。
「ならば訊くが」
笑顔から一転、ミンチメイカーは恐ろしい形相で彼をねめつける。
「本気で俺たちの計画を阻止しようというなら、なぜあのタイミング――俺たちがグランドコアを発見したあとに襲撃をかけた? あの最初の放送から5日間もあった。そのあいだおまえたちは何をしていた?」
男が言い返そうとして、言葉に詰まった。ミンチメイカーはますます眉間のシワを深くした。
「なんのことはない。おまえは俺たちの成果を横取りしようとしただけだ。グランドコアをものにできれば、この惑星全員の生殺与奪を握ったようなものだからな。おまえはそのために他の反対派を煽り、多くの命を無駄に犠牲にしたんだ」
ミンチメイカーがひとこと言うたび、男の震えは激しくなっていた。最後の言葉を終えると、男はとうとう嘔吐した。悪臭にミンチメイカーは鼻を鳴らし、大きなため息をつくと、すっくと立ち上がった。
「外道が。死ね」
彼はそう言い残して立ち去った。残された周りの男たちの中で、敵の悲鳴あがった。




