幕間 酒場での朝食
早朝、酒場にやってきたアングレカムとユリシーズは、店内の空気の綺麗さと静けさにやや面食らった。昨日まで店内を埋め尽くしていた荒くれ者たちの姿は無く、いくつもの丸テーブルが手持ち無沙汰で退屈している。ふたりがカウンターにつくと、暇そうに皿を拭いていた店主が、へっとどこか自嘲するように肩をすくめた。
「ほかの奴らはみんな行っちまったよ、昨夜の放送聞いただろ?」
「情けない奴らだ。どいつもこいつも、大の大人が子供の言うことを真に受けて」
アングレカムが鼻で笑い、スモークサーモンとクリームチーズのサンドイッチにかぶりつく。
「ミンチメイカーが居たからな。やつの知り合いも、敵も、この酒場にもたくさんいた」
「血なまぐさいことになるね」
ユリシーズがミルクをチビチビ舐めて言う。
「ラジオ局のある町で、スマイル派と、反スマイル派が争うことになるよ。この星を脱出したい人と、残りたい人だ。店主さんは残りたいから行かないんですか?」
すると店主は苦笑する。
「店があるからな。それに俺はこの星以外の惑星を知らねぇ。温かい太陽と綺麗な空気があると言われても、夢物語にしかきこえねぇよ」
「この星のお生まれなんですか?」
「4代前からこの星育ちだ。ひいじいさんがギャンブル狂いで、借金取りから逃げてきたのさ。この惑星はそういうクズの掃き溜めだ」
店主はカウンターに手をつき、物憂げにため息をつく。
「たしかにここは生きていくにはシンドイよ。土地も人も厳しすぎる。でもな、生まれちまったからには、この世界で生きていくしかないのさ。現実から目をそらしてあるかどうかもわからない楽園を探すなんて、許されるのはガキのころだけだ」
「楽園はあります。僕は知っている」
「ボウズから見れば、光があるのに手を伸ばさない俺たちはバカに見えるかもしれねぇが、人生ってのは他人に評価されるもんじゃねぇ。たとえみじめに見えても、本人が満足してりゃそれでいいんだ」
「……そういうものなのですか」
「そういうもんさ。現にボウズの相棒も、周りからさんざイイ男見つけろって言われてんのにまだ独り身だ。本人はそれで満足してる」
「私はまだ23だ」
アングレカムがむすっとしながら口元を拭って席をたつ。ユリシーズもあわててサンドイッチを口に押し込む。
「美味かったよ。ありがとう」
アングレカムがそう言うと、店主がきょとんと目を丸くし、やがて笑い出す。
「かれこれ20年やってるが、言われたのははじめてだ」
「本当に美味しかったです。また来ます」
ユリシーズも笑って言った。恥ずかしそうに頭をかく店主。
「……また来いよ。あんたたちがどっちかは知らねぇけど、また来いよ」
「ああ」
「はい!」
ふたりは元気に返事をし、店を出ていった。店主はふたりの姿が見えなくなるまで見送ると、気合いのかけ声をひとつあげ、皿洗いにとりかかった。




