剣刃乱舞・その2
Q・好きなトーストの食べ方を教えてください
大上「ベーコンエッグ乗せてソースかける。…だから何のアンケートだよ」
シャル「マーマレードたっぷり塗ったくる。あ、でもシンブルにバターだけも好き」
ウリ「私ご飯派なんですけど…しいて言うならマーガリンを塗るぐらいでしょうか」
マキナ「マスターが作ってくれたものならな」ブツッ (非回答)
モプシー「に、ニンジンジャムです…です。…え、あ、ありますよ…?」
『王都』。
この世界の首都の中央に存在する特別区画。ここでオルド中の政治経済が管理されており、各異世界の王族、重要人物が揃っている。簡単に言えば『超VIP専用区域』と言ったところか。
そしてここは5大世界の格代表者、通称『五大長』。それに最高権力者である『神姫』の住居も存在している。
その為当然の事ながらこの区域にはオルド随一の警備体制が敷かれており、区画を1つ移動するたびに厳重なチェックを受けるのも仕方の無い事だ。
「…だからっていい加減ウンザリしてきたけどな」
「だねぇ…。もうこれで何度目?」
「通算17回目でスね」
『神姫』センリから直接の呼び出しを受けてこうして『王都』にやってきた俺達だったが、流石にそろそろ心労が溜まってきた。
センリから『王都』に呼び出されたシャル。当然俺も付いていかなくてはならないのは仕方ないとして、何故か他の面子まで同行してる。センリが言うには「お友達も一緒で構わない」との事らしいが…。
「申し訳ありません。ですが場所が場所であります故、ご理解頂けないでしょうか」
「いえ、当然の措置だと思います。皆さん職務に忠実なだけですし責めている訳では…」
「俺はそろそろ責めたくなってきたが」
言った瞬間睨まれた。…って言うかどうしてウリまで付いて来たんだか…。
「あぅ…髪の毛がパリパリ言ってます…跳ねちゃいます…」
「区画移動するたびに車降りてスキャンかけられてるからねぇ。ほらモプシー、ブラシかけてあげる。おいでおいで」
「あ、あの、私もう23歳なんですけど…、あっ、あ…」
主張も途中にシャルに膝に抱えられブラッシングされ始めるモプシー。隣でマキナがブラシを片手にこちらの袖を引っ張りながら何かを期待するように瞳をキラキラさせているが、無視する。お前はデッキブラシでゴシゴシされるのがお似合いだろ。
「お疲れ様です。ここにセンリ様がお待ちしております」
迎えに来た瀬葉のジイさんが車を止め、ドアを開ける。着いた先は『王都』の中央に空高く聳え立つ超高層ビル。通称『神の塔』だ。
『魔術技巧専門学園』もちょっとした街レベルの規模があるが、流石は『王都』でも最重要人物達が住まう場所。桁が違う。警備体制なんか敷かなくても何も知らない侵入者なら一生迷子になりそうなデカさだ。
「うひゃあ~…初めて実物見たけど、すっごいね」
「社会見学で『王都』の中に入ったことはありましたが…ここまでは流石に来られませんでした。本当に、凄いですね」
呆気に取られているシャルとウリに対しマキナとモプシーはさほどリアクションを示さない。マキナに至っては目の前のオルドのトップ連中が巣食う建物を前にしてろくに興味を示さずこの日の為に卸したという新しい着物の感想をさっきからしつこく聞いてくる始末だ。だから綺麗だって言ってるだろうが。着物は。
「ささ、では中にどうぞ。あ、くれぐれも私からはぐれないように。うっかり迷子になってしまわれると捜索隊が出動してしまいますので」
瀬葉のジイさんのその言葉をジョークと捕らえて笑い声を漏らしたのはシャルとウリだけだった。普段こう言うとき誰よりも真っ先に、誰よりも激しくパニくりそうなウサギ娘はと言うと、辺りを軽くキョロキョロと見回すぐらいで特に普段どおり、ホケ~ッとした様子でいる。
「どうした、まるで久しぶりに来たって感じだな」
俺がちょっと意地悪く含みを込めて声を掛けるとモプシーは一瞬ビクッ、としてから、察したようにすぐにこちらを見上げて頬を膨らませて…。
「…忍さん、知ってるんですね。イジワルは駄目です、です」
「察しは着いてるだろうが、俺たちをここに呼んだ張本人の目的の半分は君だろうな」
「うぅ~…やっぱり、そうなんでしょうか」
「…そんな嫌がってやるなよ。オルドでの君の親代わりみたいなモンだろ、あの人は」
「それは、もちろん感謝してますし、好きですけど…けど、あの人はちょっと、何というか…です」
うん、まぁ分かるけど。
「おーいモプシー、凶暴ワンコー。置いてくよー、ハグレるよー?」
「気持ちは分からんでもないけど会いたく無い訳でもないんだろ?ま、覚悟しとくんだな」
「うぅ…」
エレベーター前でこちらを呼ぶシャル達に追い付いて、とりあえずシャルの鼻っ柱にアイアンクローすると目の前の巨大な扉が開く。
「さぁ、皆様がお待ちになっているエントレンスまでこのエレベーターで直通になっております。もうしばしのご辛抱お願い致します」
「エレベーターの中までだだっ広いね…ここで住めそうなぐらいだよ」
「どれだけ大型の種族でも平気なようにという配慮なのでしょうね」
「しかしこれだけ高いと上の方で住んでる連中は恐くないのかねぇ…」
俺達の言葉に瀬葉のジイさんは朗らかに笑い、ヒゲを指先で撫でつけてから人差し指をピッ、と突きたててこちらに向き直る。何だ、説明係かアンタは。
「ハッハッ、ご心配には及びません。特殊合金と神木を組み合わせて設計されておりますので。例えゾウがレールガンで射出されてもビクともしませんよ」
「何なんですか、その例え」
「そもそもレールガンで射出された時点でゾウは消し炭だと思うが」
「その上最上階に設置された結界装置で常時建物の表面には薄く防護結界が張られております。例えゾウが夕飯前のスーパーのセールタイムのご婦人方並みの勢いと密度で突進してきてもビクともしませぬよ」
「そのわけの分からない例え、『王都』で流行ってるのか?」
「…でも、強度は問題ないとして、もし高所恐怖症だったらここに住むの拷問だろうね」
「拷問どコロか、既に住ム時点で刑罰執行サレていまスね」
上昇を続けるエレベーターは背面部分が半分ガラス張りになっているので振り返れば外が見えるが…まだ半分ぐらいの高さしか上っていないにも関わらず下の街が豆粒みたいになっている高さだ。高所恐怖症で無くてもしばらく下を見下ろしているとおかしくなりそうな光景だな。
「あの…、今更こんな事を言うのも何なのですが、本当にシャルと大上さん以外の者もここに来て良かったのですか?」
本当に今更だ。この中で俺の次に常識人のウリはオルド中の権力が集結する『王都』にどうやら内心ビビりまくってるようだ。こう言うところは割りと歳相応なんだな。
「もちろんです。センリ様はお立場上仕方の無い事とは言え、同年代の友人はおろか満足に心を許せる相手も中々作れない環境下に幼少の頃からおりましたので」
失礼にならない程度にご機嫌取ってれば問題ないだろ。相手は世界の最高権力者。たまにはこうして下々の者というペットを相手にアニマルテラピーする必要もあるんだろ。
(…なんて、実物に会うまでは考えたんだろうけど)
「お、もう着きますぞ」
「よーしお前ら。粗相の無いようにな。どれだけいけ好かないヤツラだろうが相手は各世界の最高権力者共だ」
「忍より失礼なヤツなんて世界中探してもいるかどうかってレベルだよ」
エレベーターが停止し、扉が開く。エレベーターを降りるとそこは『王都』中枢『神の塔』最上階。『神姫』センリや「五大長」が暮らすエリアだ。
「さぁ、この奥で皆様がお待ちかねです」
瀬葉のジイさんに先導されるまま、床一面モプシー並にモフモフの絨毯が突き詰められたエリアを進む。正直もっと金ピカだったり彫刻や絵画だらけの金と権力をわざとらしくひけらかしているようなイメージをしていた分、大理石の大きな柱が等間隔に並ぶだけの、まるで神殿のような殺風景とも言える内装は拍子抜けだった。
エレベーターを降りて真っ直ぐ進むと直ぐに大きな扉が見え始め、扉の前に誰かが立っているのが視界に入る。
見覚えがある姿、と言うにはつい最近すぎるその知った顔は自分に気付いた俺達に穏やかに微笑みながらドレススカートの裾を摘んで小さく一礼した。
「皆さま、遠路はるばるようこそおいでくださいました」
この世界の最高権力者、神姫センリ・トライファー。たった数日でまたこの世界のお姫様と再会する事になるとは流石に思いもしなかった。
「お久しぶりですね、シャルトリューさん」
「シャルでいいってば。それに久しぶりって程でもないし」
「ふふ、そうですね。…では、シャルさん。それに…」
数日振りに再会したセンリは私の言葉にクスリと微笑み、すぐにその視線は私の後ろのほうに移る。
その視線を追いかけるように振り返ると、やっぱりと言うか何というか…。
「おおがみさんも先日は大変お世話になりました。…お怪我の程は如何ですか?」
「見ての通りだよ」
相変わらず愛想のかけらもない忍の物言いにもセンリは意外にも気を害したそぶりも見せず小首を傾げるだけ。…私がいない間にこの2人、何があったんだろ…。仲が悪いという風では無いんだけど、上手く言葉に出来ない…。
続いてセンリは私たちの後ろにいたウリ達の方へとテクテクと歩み寄り、ペコリと小さく一礼する。
「シャルさんのお友達の方々ですね。本日はようこそ『王都』へ。3代目神姫を勤めさせて頂いているセンリ・トライファーです」
センリの自己紹介に、数秒遅れで慌ててお辞儀を返すウリ、そしてモプシー。マキナさんだけはマイペースなままだけど。
「ご、ご丁寧なご挨拶痛み入ります…。魔術技巧専門学園現生徒会長を務めるウリエル・アクエリアスと申します」
「お、おおおお初にお目にかかりますっ、も、モプシー・ポターです…です」
「デウス・エクス・マキナでス。ワタシはシャコちゃンの友達と言ウより、マスターの所有物でス」
流石に世界最高権力者を眼前に緊張してる様子のウリとモプシー。マキナさんだけはいつもどおり茶目っ気全開で忍の腕を掴みながら自己紹介して、忍に叩かれてる。平常運行過ぎでしょこの2人。
「ふふ、良いですねシャルさん。お友達が沢山いらして」
「一部友達ですらない危険な番犬がいるけどね」
「そりゃ大変だ。生活習慣を改めないと喉笛噛み付かれかねないな」
私の皮肉に瞬時に切れ味抜群の返しが来る。ちなみにその横でマキナさんが髪と襟首を捲って「噛ムんでスか?」と忍に寄って…また叩かれた。
「では、こちらにどうぞ。皆さんもう揃っていますので」
「皆さんって?」
「ええ、何でも今回の一件、直接一言お礼が言いたいからと、皆さんが」
「だから、皆さんって?」
「…『神姫』様、まさか、この奥にいらっしゃるのは…」
ウリが益々緊張した声で…ってもう震えてるよ声。そんなウリの様子に、ようやく私も察しがついた。
「…もしかして?」
「はい」
首を傾げる私に、センリも同じように小首を傾けてニッコリと微笑む。あ、かわいい。
「『五大長』様、全員こちらのお部屋でお待ちかねですよ」
オルド全域の、あらゆる分野を統べる最高権力者達『五大長』…。センリはこういう娘だって分かったからもう、何となくアレな感じでもうアレだけど…うん、流石に私だって緊張してきた。
モプシーはもう私の後ろにくっついて小刻みに震えてマナーモードになっちゃってるし、ウリはウリでもっと激しく小刻みに震えてしまってる。忍に後ろから突かれてるのにも全然気づかないぐらい。
って何やってんのマイペース狼め。
私たち(2名除く)の緊張などお構いなしとばかりに扉を開けるセンリ。ゆっくりと開かれる大きな扉の向こうには大きな円卓と、その周りを囲むように並べられた5つの椅子。そしてそこに座る4人の人影…。
…うん?4人?
「モプシーっ!!」
扉が開かれた途端、中から飛び出してきた人物が的確にモプシーを捉えて抱えてそのまま持ち上げた。
アッサリつかまったモプシーは脇から高々と宙吊りにされワタワタしてる。
あ、あの、その娘をあんまり刺激するとヒャッハーしちゃうんですけど…。
「久しぶりやなぁモプシー。ちょっとは大きくなったんか?あーでもちっこいまんまやなぁ。ちゃんと飯食うとるんか?ニンジンばっかりなんやろどうせ。ああでもちっこいまんまの方が可愛いやんなぁ」
「あ、あぅ…『族長』…、降ろして、降ろしてください…っ」
「ええやん久しぶりなんやしー、モプシー全然コッチに顔見せてくれんやもん。お姉さんは寂しかってんねんで?」
「ご、ごめんなさい…あ、あの、とにかく、降ろして…」
「…程々にしとけよ。その他全員唖然としてるぞ」
「あん?ああ、そういやアンタもいたんか。モプシーの送迎ご苦労さん。帰ってええで」
「マジで?じゃあ帰るわ」
あ、おい本当に帰ろうとするな!慌てて私とウリが忍の袖を掴んで引き止めると、部屋の奥、円卓に座っている偉い人の露骨な咳払いが聞こえる。
「色々、積もる話もあるだろうが、とりあえずはこちらに来てほしいのな」
「…『族長』、いつも言っているが少しは貴女も自分の立場を弁えた言動を心がけてもらえるか?」
「へえへえ、アイツらがうっさいからとりあえず行こか。心配せんでも取って食われたりはせぇへんよ」
「は、はぁ…」
すっかり圧倒されてしまってる私達を尻目に『族長』と呼ばれた女性に先導され、円卓へと向かう私達。
「すっかり出鼻を挫かれてしまったのな。まずはようこそ『王都』、『神の塔』へ。歓迎するのな、魔術技巧専門学園の諸君」
「は、はぁ…どうもです」
「先日はそこにいる我らが姫が大変世話になったようでな。本来ならこちらから出向いて礼を言うべきなのだろうが…立場上中々ここを離れる訳にはいかんのでな」
一番奥に座っている、私たちから見てちょうど真正面に座っていた男性が立ち上がり、私達…と言うか私に向かってゆっくりと頭を下げた。
「姫様を守ってくれた事は感謝の言葉をいくら並べても足りない程だ。そんな君をわざわざここまで出向かせてしまった事をどうか許して欲しい」
「あ、紹介したろか?あの厳ついしかめっ面のオッサンが人間界の代表『総帥』や」
「オルド上の経済を統括している『オルド市場』の責任者だな」
『族長』さんと忍がそれぞれ横から説明を挟んでくれる。確かに言われたとおり、どこか怒っているような難しい顔をしてるけどたぶんああいう顔なんだろう、と勝手に判断する。グレーのスーツも白髪交じりのオールバックもキッチリと固められ、見るからに「堅物」感がハンパ無い。実際そうなんだろうけど。
「パッと見、堅苦しくて融通利かなくて鬱陶しいだけのオッサンやけどどんな形にせよこうして実際面合わせて礼言うたろってするぐらいの仁義はあるさかい、安心してな」
「…『族長』」
「へえへえ、程々にしときま」
肩をすくめる族長さん、…モプシーを抱き抱えたまんまなんだけどね。
すると今度は右手側に座っていた若い男のほうが立ち上がる。
「姫様の件もそうだが『TNN号』にあのような危険な装置を持ち込まれてしまったのはこちらの落ち度だ。機械族代表『鋼匠』として、深くお詫びする」
そう言ってまたもオルドでトップクラスに偉い人の謝罪その2が繰り出される。あの、リアクションに困るんですけど。とりあえず「あ、はいどうも」としか言えないんですけど。
「あの鉄面皮のムッツリニーチャンが機械族の代表『鋼匠』な」
「オルドの陸海空あらゆる交通機関を担う『マシーナリー・トラフィック』の技術責任者だ」
左右からのありがたい追加情報を聞きながら取りあえずこっちからもペコリと頭を下げておく。
『総帥』さんは見た感じ40代半ばって感じだったけど『鋼匠』さんは随分若く見える。見た感じだけなら私たちより10歳も違わないぐらいかな。機械族は見た目と年齢が全く違う場合があるから何とも言えないけど。…マキナさんにはホントに驚かされたしね。
スーツでビシッと固めてる『総帥』さんと違い『鋼匠』さんはレザー製のジャケットに身を包んでいるから街中で見かけてもバンドマンにしか見えないかもしれない。
「んで、そこでのへ~っとした顔してる陰気で訛ってるオッサンが精霊界の代表『局長』、んであっちの左側いる、うちの次に美人のお姉ちゃんが天界代表の『団長』や」
「オルド中のギルドを統括するギルド管理局の文字通り局長さんと騎士団、教会の最高責任者サマだな」
おおう、今度は残り2人纏めて紹介しちゃったよ。一括りにされたお2人はそれぞれ苦笑いを浮かべて小さく会釈してくれたので、こっちも似たようなリアクションを返してみる。…これでいいのかな。
「簡易ながら食事の用意もしてある。折角だ、もし予定が無いのならゆっくりしていくといい」
「ヨコハマ地区の名物、中華を用意しているのな。是非堪能していくと良いのな」
『総帥』さんと『局長』が誘いの言葉をかけてくれるけど流石にこの雲上人達に囲まれての食事がちゃんと喉を通るのか…割と不安なんですけど。ああほら、もうウリなんか視線が定まらず超挙動不審だし、モプシーは捕まったままだし、マキナさんは忍の袖を引っ張り続けてるし…。
「なっはっは、心配せんでも『総帥』と『鋼匠』はこの後案件があるさかい、同席はせんよ。残るのはうちらフレンドリーなメンツやけん、そうきばらんでええよって」
「…えっ、と…?」
気さくに話しかけてくれる『族長』さんだけど、この人はこの人で独特の訛りが強くて時々言っている意味が聞き取れないのが困る。
「愛想の無い2人は仕事でもういなくなるから、後は比較的ポンヤリしてる連中とだから気楽に飯食ってけ、ってさ」
「おーい!この人たちの目の前でも平常運転!?」
慌てて忍の口を塞ごうと思ったけど…嫌な汗が垂れるのを感じながら恐る恐る後ろを振り返る。
まずセンリは苦笑いしてる。『総帥』さんと『鋼匠』さんは特に表情を変えていないから分からないけど、怒ってはいないのかな?
『局長』さんは小さくプッと吹き出してるし、『族長』さんに至っては盛大に大笑いしてる。
「相変わらずの無礼者やねぇ、あのトラブル娘んトコのケダモノは」
「生憎、今はこのポンコツ娘の番犬だ」
「なははっ、あんたを繋げておける鎖があるとは思えんけど」
モプシーを両手で抱え込んだまま忍の軽口を笑い飛ばす『族長』さん。…もしかして、この2人って…?
「ま、ええわ。ほなついてき。取り敢えずみんなでご飯にしようや」
「そうするのな。私としても『孤狼』にはちと話があるのでな」
「では、参りましょうか。。『総帥』、『鋼匠』。後は我々が」
「では任せる。…実に申し訳ないシャルトリュー・コラット嬢。また改めて機会を作ることを約束する」
「すまないな、お三方後は頼む」
「え?いやちょっとちょっと」
何だか勝手にどんどん話が進んで唖然としていると、私のそんな間抜けな声にセンリが小首を傾げる。うん、可愛い。
「何か、不都合でしたか?またシャルさんとご飯をご一緒出来るのを楽しみにしていたのですが…」
うわぁそう言われたら断れないよ、ねぇ何あれ反則じゃない?ファウルだよ、流石お姫様無自覚にやり口が汚い!
「ま、タダ飯食えるならいいだろ」
「大上さん、そういう言い方は…!」
「あ、あう、あう…は、離してっ…」
「マスターに従ウだけでス」
ああもう、こっちはこっちでまとまりが無いというか何と言うか。正直こんなお偉いさん達相手だと流石に萎縮しちゃうから退散したいんだけどセンリもいるっていうのが何とも…ねぇ?
「さぁ、こちらです。参りましょう?」
「えっ、あのちょっと…!もちょっと心の準備をさせてほしっ…あれ聞いて?」
「あっ、ちょっとシャル!置いていかないで下さい」
「ほな、いこか?」
「あ、あの、あの…自分で歩きますから…降ろしてっ…」
「中華でスッテ、マスター。楽しミでスネ」
「…なぁんとなく嫌な予感がするけどな…」
「村雨霧斗は仕留めたようだな、関心関心」
「…これでターゲットは全て参加不能です。約束は守って頂けるのですよね」
「無論、同胞に嘘などつかぬよ」
その言葉自体が既に嘘では無いという保証はどこにもありませんが、今の私の立場としてはそんな何の保証も無い上辺だけの言葉を信じるしかありません。
「これで有力な出場者は粗方片付いた。後はお主が優勝すれば万事丸く収まる訳だ」
「約束は、くれぐも忘れないで下さいね」
「もちろんだ、お父上の件は事が済んだらちゃんと解決して進ぜよう」
「…お願いします」
「ふむ。そう恨めしそうな顔をせんでも良かろう?こちらとて、お主の味方のつもりなのだからな」
「そうあってくださる事を願います、スザク会長」
「儂としてもそうでありたいと願っておるよ。シキョウ殿」
あと少しの辛抱です…。もう少しだけ、あと少しだけ待っていてください。父さん…。
「では改めて自己紹介しておくのな」
部屋を移り、神姫や『五大長』が日ごろ食事を取っている大食堂へとやってきた俺達に、席に着くなりまずは『局長』がそう言って腰を上げた。
「一応、精霊界の代表を務めさせて貰っているオサフネ・備前なのな。ギルド管理局も取り仕切らせてもらっているのな」
オルド中の正規ギルドを管理するギルド管理局のトップ、局長オサフネ。ギルドに所属していた事のあるオレも一応面識はあるが相変わらずヒョロッとしているというか痛んだゴボウみたいなオッサンだと言うか…。
地味な渋茶色の作務衣の上から間逆に派手な羽織を肩掛けした40代後半といった風貌の、一見するだけでは人間種の普通の中年にしか見えないオッサン。覇気も無ければ生気も無い。精霊界というより死霊世界にでもいた方が違和感が無さそうだ。
「『団長』として天界代表をしています、ミカエル・レグルスと申します。騎士団と教会を纏めさせて貰ってります。どうぞ気軽にミカ、とお呼び下さい」
『局長』オサフネが腰を下ろすのと入れ替わるようにして今度はその隣に座っていた女性が立ち上がり自己紹介を始める。
目がチカチカするぐらいの金髪ロングの、見た目20代半ばか後半近くといった風だがこの世界で外見で年齢を判断するのは難しいので実年齢は分からん(正直興味もないし)。
カレーうどんとか食べられないだろうな、ってぐらい純白のレディーススーツにフレームレスの眼鏡という風貌は騎士団や教会騎士といった武闘派組織を一手に担う人物とは到底思えない。
一流企業の女性管理職って感じだろうか。『ファランクス財団』の社長さんのような腹黒さも感じないしな。
「ほんなら次はうちやなー」
そう言ってずっと抱えていたモプシーをようやく離してからコホン、と軽く咳払いして『族長』の番。
「うちが『族長』のツキノや。門の管理と警備も任されとるけど、メンドイから大体部下のモンにやらせとるわな」
ケタケタと笑い飛ばしてくれるが聞いているこちらとしては最高責任者がコレで治安は大丈夫なのかと甚だ心配なのだが。
俺とほぼ変わらないほどの背丈な上に浅黒い肌、モコモコとしたファーにまみれたジャケットを着込んだその風貌は権力者というより下町の飲み屋の女将と言われたほうが納得できるイメージだ。
とりあえず本人からは言うつもりが無いようなので僭越ながらこちらから補足説明をさせてもらおうか。
「ツキノ・グリース。何を隠そう我が『魔術技巧専門学園』の教官職を勤めるウルスの嫁さんだ」
親切心から自己紹介に細くしてやったのにギロリと当の本人に睨まれる。何だよ、こっちは親切心でやっただけじゃないか。嘘だけど。
「…は?」
案の定、十数秒間をおいてからようやく間の抜けたりアクションが同行者達から漏れ始めた。そりゃ初耳だろうな。本人達も隠してたことを勝手に言ったからな。
『族長』ツキノの驚愕の素性に一同盛大に驚愕したものの、その後は恙無く食事会が開かれた。
ヨコハマ地区の有名観光スポットであるチャイナタウンの名物料理、中華のフルコースが大きなターンテーブルの上に所狭しと並べられみんなそれぞれ多少の堅苦しさやぎこちなさはあったものの、談笑と食事を楽しんでいた。
「…で、どうしてお前までついて来るんだよ」
てっきりシャル達と駄弁ってるかと思ったら何故か俺の後ろからマキナがトコトコと後を付いてくるので無駄だとは思うものの、一応声を掛けてみる。
「マスターの行ク所が、ワタシの行く道デス」
「何それストーカーの発想だろ怖い」
まあ、仕方ない。どうせマキナなら同席しようが問題ないしな。話がある、と『局長』に呼ばれシャル達を置いて別室に移動していたところに思わぬ同行者の登場。『局長』も特に何も言わないので、まぁこのままでもいいんだろうな。
「手間をかけさせたのな。古馴染みはここなのな」
『局長』に連れてこられたのはセンリたちと食事をしていた大広間から随分離れた、フロアの隅の、とある一室。
正直、話の内容もこの中で「誰が」待っているかも何となく予想はつくが…。
「さ、もう向こうは中で待っているのな、入るのな『孤狼』」
「はいはい、お邪魔しますよ」
「お邪魔シマす」
わざわざ『局長』御自ら開けてくれた扉から室内に入る。こんな片隅にある遣われたことも無いかのような部屋ですら豪勢な絨毯にシャンデリアがぶら下がっている。こんなところに金使うぐらいなら消費税削減しろよ。
「やぁ、ご無沙汰だネ。センパイ」
「お邪魔しました」
案の定だった、中にいた人物の姿を視認したので踵を返す。返したところで『局長』に腕を捕まれたが。
「帰るな、のな。かつての同胞なのな?」
「同じギルドに居たってだけだ。所属が違ったら即刻ツブしてるわ」
「同感だネ。カタリナのお気に入りでなければスープのダシにしてるヨ。お前のことなんか」
おおぅ、相変わらずの減らず口だ。変わらず嫌なヤツで安心したよ。『星界の皇女』のNo3、今ならNo2か?昔の同僚であり後輩。虎前門。
「相変わらず細ぇ目だな。こじ開けて眼球確認してやろうか?」
「目つきに関してアンタにだけは言われたく無いヨ。そっちこそちっとも変わらないネ、その大魔王じみた目ハ」
「胡散臭さを掻き集めて煮詰めたような陰険ネクラが言うようになったじゃないか」
「ハハッ、悪いのは性格と目つきだけにしておきなヨ。口まで悪かったら三冠王じゃないカ。もう手遅れだろうケド」
懐かしいやり取りだ。ギルドにいた頃は毎日こんな感じだったな…。向こうもそんなことを思い出しているんだろう、感慨深そうに天を仰いでから…視線が交錯する。
「「よし、ぶっ飛ばす」」
「よすのな、やめるのな止めるのな!噂には聞いていたがここまで仲が悪いのな」
「いえいえ『局長』。あくまでちょっとソリが合わないというだけですヨ。仕事に関してはコレの事も反吐が出る思いですが信用はしていますヨ」
「そうだな、別に仲が悪い訳じゃあない。悪知恵が働くのは評価してるしな。やっていいなら今すぐでもヨコスカ港に沈めるが」
「『孤狼』と『剣虎』、NO1ギルドきっての武人と策士とは思えないやり取りなのな」
「お変ワり無イですネぇ、フウさン」
大げさに頭を抱える『局長』。そこにずっとおとなしくしていたマキナがトコトコと俺達の間に割り込むようにして近づいてくる。
「おやおやマキナも久しぶりだネ。相変わらずセンパイにべったりだネ、でも書置き残すだけで突然ギルドから居なくなるのは関心しないヨ?」
「ワタシ、メンバーでハありまセンでしタし、マスターが居なイノならバあそこニいル意味はあリマせんでシたから」
「人望の無さも変わらないな、フウ」
「キミの女たらしぶりも変わらないネ。カタリナの次は噂の『学園の魔女』さんに取り入るとはネ」
「女たらすぐらいなら目玉焼きにソースたらすわ。いいから、さっさと用件を言ってから消滅しろ。別に言わないでもいいけど」
「なに、至極簡単な事だヨ。センパイ」
そう言ってフウは袖からゴソゴソと紙切れを取り出し、こちらに差し出す。渡されたのは1枚のチラシ。そしてもう1枚は…参加用紙?
「来週の『剣舞祭』、キミに出場してもらいたいんダ」
オルドの中枢『王都』。そして最高権力者達『五大長』のお披露目会です。名前だけなら『族長』は前に出ていますが。
裏でまた何者かがコソコソ動き回っているようで…そして本格的に物語りに絡み始めたギルド『星界の皇女』。大上のある意味天敵であるフウも行動開始です。
ちなみに食事会で提供された中華料理は全てヨコハマ地区チャイナタウンの人気料理店『虎々飯店』からの提供です。本格中華の確かな味と女性ウェイトレスのドレスの丈の短さが人気を呼び連日大繁盛だとか。




