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後宮の華は暁に咲く  作者: 麗明
第弐夜:散るは過去の想い
20/23

01

 梁麗は柳麗帝が后妃・奏鈴。


 たった今、目の前で自分の異母兄の后として紹介された異国の女は、梁麗の皇女たる自分が戦主義として知られている莉宇国と言う野蛮で脳の無い国に嫁したことによりその御位に就いたらしい。

 本来なれば、自分こそが異母兄の后になり得るはずであったものを......。


「お兄様、これは何かのご冗談ですわよね。お兄様の后は私でしょう?」


 こんなどこの馬の骨とも知らない蛮族の他国のお下がりなんて、私のお兄様には相応しくないわ。きっとお兄様は私の愛を疑ってらっしゃるからこんな不器用なことをなさるのよね。


 と、白銀色の長い髪を流したままの、未だ幼さを残した少女は微笑みを真っ赤な唇へ浮かべる。


 この少女の名は華香かか

 齢は14で、少女の母妃は静覇の母たる前皇后の腹違いの姉であり、穏和な梁麗の人なりには珍しく、己が欲の為ならば人を簡単に陥れる野心の塊のような存在であった。


 例を挙げるとするならば、彼女は甥にあたる静覇が次代の皇帝と目されていると知るや否や、彼の寝所に裸体で忍び込み寝こみを襲ったり、後宮の料理人を買収し、皇后である己の妹の命さえも奪おうとしたのだ。

 当然、それらを赦しておく皇帝ではなく、前皇帝は全ての証拠を掴み、彼女が言い逃れができなくなったところで、全民衆の前で彼女を自らの手で斬首に処したのである。


 釉妃はそれらをよくよく調べ上げた上で、わざと目の前の愚かな少女の怒りを煽り上げるような言葉を何気なく、優雅に音にした。


「まぁ、陛下の御前で、よくぞ赦しもなく皇后である私を貶める事がおできになるわね?厄介払いされた側室の分際で」


 至高の身分を現す飛燕色の上衣に、皇后だけが着ける事が許される宝玉の簪。

 それらを見事に引き立て役とした釉妃は、さも愉快気にころころと鈴の音の如き笑い声をその場に響かせた。


 今、彼女らがいる場は非公式とは言え《政殿の間》。

 ここは国家の賓客を招き、皇帝と顔を合わせることが出来る限られた場であり、他国からの使者を見極める場でもある。


 如何にもとは自国の皇女であろうとも、他国に嫁した身であれば、この国の民ではない。

 又、如何に停戦したとはいえ敵国の者であったとしても、この国の至上の人の后となり得たのなら、その身分は皇女よりも上となる。


 その証拠に。


「ねえ、ご覧になって?」


 ――あなたを敬う人が誰か一人でもいて?


 猛毒とはいえど、確かに毒と破滅への誘いたる針を含ませた言の葉が、皇后に据えたばかりの女性の口唇から放たれる様は、静覇から見ても気のいいものではなかった。

 故に、彼は他国に嫁した(押し付けたともいう)妹よりも、己が后の心を優先した。


 きゅっと、氷のように冷たい后の指先に自分の温もりを分け与えるように手と手を握り合わせ、一人ではないと言う事を理解させる。

 時折り、手の甲を撫でては細い背を撫でる様は、皇帝が心の底から奏鈴皇后を寵愛しているように窺えた。


 よって。


 (ころしてやる、私のお兄様を、私の居場所を返してもらうんだから!!)


 歪んだ皇女の心に復讐と怨嗟の焔が宿るのも簡単だった。


 ギリギリと、皇女が唇を噛み締めている中、釉妃が己と戦っていたことは、彼女の傍で手を握っていた若き皇帝たる静覇しか知る由もなかった。


 

 

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