第一話 帝国到着
「......でっか」
エリューは馬車の窓に張り付き、目を見開いた。
外には地平線を埋めるように巨大な国が見える。
世界最大の帝国・ガーシュタルクだ。
「姫さま、わたし大きいって言ってもバルクシア5つぶんくらいかと思ってましたが……1000個分くらいでしたね……」
侍女のリーサが反対側の窓に張り付いて言う。
「バルクシア、1番ちっちゃいもんねー。でも......大丈夫だね。こんな大国、受かるわけない! 絶対落ちるから、大丈夫だ!」
エリューは現実が見えた気がして、パッと笑った。
帝国の巨大な城門がゆっくりと開く。
先導がつき、エリューたちの馬車は城内へ入っていく。
大小さまざまな建物が並び、見たこともないほど沢山の人が行き交っている。
露店で威勢の良い声をあげる人、道端で会話をする人など、ザワザワと賑やかだ。
「わぁーー凄い、 おおきな城下町!」
「あ、今のお店"レグラン菓子店"って書いてありました!」
「え、嘘でしょ、どこ!?」
「アレですアレ!」
話題の菓子店の看板を見ようと、エリューはキョロキョロする。
「……あーー、"レグ"だけ見えた。絶対いきたい!」
「絶対いきたいですね!」
城下町を抜けると、上品な建物が並ぶエリアへと入っていった。
貴族街である。
道のところどころに美しい彫刻が置かれている。
二人は顔を見合わせて同時に言った。
「……優雅ぁーー!」
「このエリアだけで、バルクシア入るんじゃない?」
「それはさすがに祖国を小さく見積り過ぎですよ〜」
「でもほら、外庭と池のところ抜かしたらさー」
「……あーー」
貴族街の先に、再び巨大な城壁が姿を現した。
「……え、ここからもう城なんだ。城でっか……掃除、大変そうじゃない?」
「考えたくないですね」
自分の知る城とはあまりに違い過ぎて、ワクワクというよりザワザワする。
(こんな巨大な城の王になるって、どんな気持ちなんだろう。同じ目線で話せると思えない)
(あんまり、会いたくないなぁ……)
庭園を抜けると、いくつかの建物が点々と建っている場所へやってきた。
手前の建物の前で馬車が止まる。
「姫さま、到着しました」
護衛騎士のカーツが声をかける。
「へぇー! 滞在中はここ使っていいんだ!?」
四角くて小さな離れの建物の前に立つ。
「そっかそっか、城内の部屋に泊まるのかと思ったけど、これなら気兼ねなく羽が伸ばせそうでいいね!」
馬車から玄関まで荷物を引っ張ってきた侍女のマルサが、荷物ごとバッタリと倒れ込んだ。
「マルサ! 大丈夫!?」
エリューは馬車から飛び降り、駆け寄って体を起こす。マルサの体が風呂のような熱さだ。
「す、すみません。手元が狂って……」
「違う違う、熱がある。ずっとしんどいの我慢してたんでしょ」
「いえ、動けます」
「無理しないで。カーツ、ベッドに運んであげて」
カーツはマルサを抱えて2階へ上がって行った。
「じゃ、私とリーサで荷下ろししちゃお!」
料理人のルトは買い出しへ行き、エリューとリーサがバタバタ動いていると、帝国の使者がやってきた。
「バルクシア王国の皆さま、ガーシュタルク帝国へようこそ」
使者が礼をする。
「この度はガーシュタルク帝国 皇妃選抜試験の最終選考に進まれたこと、お祝い申し上げます。試験官のスウィフトです。長旅お疲れ様でございました」
エリューが作業の手を止め、手首で額の汗を拭きながら応対する。
「ありがとうございます。大きくて華やかな街並みに驚きました」
「各国から皇妃候補のご一行が続々とお越しになり、いつもより活気付いているようです」
「市場を巡るのが楽しみです」
エリューはニコッと笑い、城下町の方向へ顔を向ける。
「さて、このあと王女殿下は皇帝陛下への謁見が予定されておりますが……」
「あぁ! それなのですが、申し訳ありません」
「長旅の疲れが出たのか、先ほど発熱して倒れてしまいまして...本日の謁見はとても出来そうにないのです。延期していただくことは可能でしょうか」
"誰が"という主語は敢えて使わなかった。
しかしスウィフトは"王女が"と思ってくれたようだ。
「それはそれは……お身体に障ってはいけません。お大事になさってください。後ほど薬師をよこします」
スウィフトは手元の紙にサッと走り書きをした。
「侍女どのもお疲れのことでしょう。どうぞご無理なさらず……」
そう言ってスウィフトは宮殿へ戻って行った。
(……よし! 皇帝陛下との謁見回避、成功!)
「さぁ〜、今日はゆっくりしよー!」
両手を広げ、くるりと家の方を向くと、玄関扉の内側から様子を伺っていたリーサと目が合った。
「……姫さま。マルサが知ったらよけい熱があがりますよ」




