76話 後半戦・その3
納得いかないものの、カナデがファールをとられてしまった。
敵チームのフリーキックから試合が再開する。
再び誰かを狙うシュートを繰り出してくるのかと思えば、味方にパスをして、そこから小刻みなドリブルで攻めてきた。
堅実な攻めだ。
ただ……逆にそれが不気味だ。
「ふっ!」
ある程度、攻め込んできたところで敵がシュートを放つ。
ロングシュート。
ただ、軌道を見る限りゴール枠に収まらない。
途中でダイレクトをする選手もいないから、そのままコート外に出るだろう。
そう判断したのだけど……
それは油断だった。
「なっ」
驚きの声。
その理由は、敵がカナデ以上の加速力でフィールドを駆けて、ボールに追いついたからだ。
ありえない光景に敵の突破を許してしまう。
「くらえ」
敵は淡々とした声で言い、ダイレクトシュートを放つ。
今度はゴール枠内に向けられていた。
しかも……
「ニーナ!?」
狙いはニーナの頭部。
偶然、なんてことは考えづらい。
なぜなら、敵がニヤリと笑っていたから。
「この!」
ティナが吠えた。
念動力を使い、ボールの速度を落とそうとする。
しかし、完全に威力を殺すことはできない。
「……あ……」
あからさまな悪意をぶつけられたせいで、ニーナはわずかに対応が遅れていた。
もしかしたらエドガーのことを思い出したのかもしれない。
「ニーナ、がんばって!」
「大丈夫、ニーナならできるわ!」
「負けたらダメですよ!」
「大丈夫なのだ、いけるのだ!!!」
間に合わないのなら自分にできることを。
そう考えたのか、みんなの声援が飛ぶ。
「うん」
ニーナの表情から怯えの色が消えた。
落ち着いた様子で両手を前に出して、亜空間に繋がる扉を開く。
ティナの必死のがんばりのおかげで、ボールはかなり速度を落としていた。
それでも脅威は消えないのだけど……
でも、ニーナは亜空間を利用して、きちんとボールをキャッチすることに成功する。
「はふぅ」
「よっしゃ! 偉いで、ニーナ。よくがんばったな、ほんま偉いで!」
「えへへ」
ニーナの笑顔を見て、全身から力が抜けてしまいそうになった。
よかった……
大事にならなくて、本当によかった。
でも……
「お前……!」
敵に対する怒りが湧き上がり、反射的に相手を睨みつけてしまう。
それがどうした? という感じで、敵は涼しい笑みを浮かべる。
「なんだ? なぜ睨む?」
「今、わざとニーナの頭を狙っただろう!?」
「偶然だ」
「こいつ……!」
「そもそも、キーパーをやっているのだから、そういう危険はあって当然のことだろう? 俺はなにもしていない」
「ぐっ」
わざという証拠はない。
それに、敵の言うことも一理ある。
敵と話をする時間が惜しい。
俺はタイムを宣言して、ゴール前にみんなを集めた。
「キーパー交代だ。俺がやる」
「でも、わたし……」
「ごめん、ニーナ。ニーナの方がキーパーには向いているんだけど……でも、あんなことがあったからすごく心配なんだ。点を取られたとしても負けたとしても、ニーナを……みんなを危ない目に遭わせることはできない」
「……うん。がんばって、ね?」
「ああ、がんばるよ」
ニーナもまだまだがんばりたいだろうに、それでも、俺にキーパーを譲ってくれた。
感謝だ。
「みんなに危ない目に遭ってほしくないから、本当はもう、棄権したいくらいなんだけど……」
「それはダメだよ。私達、ホライズンのみんなの期待を背負っているんだから」
「みなさんの喜ぶ顔が見たいですね」
「というか、このまま引き下がるなんて無理やな」
「そうね。舐めた真似をしてくれて……ふ、ふふふ。このあたし達にケンカを売ったこと、徹底的に後悔させてやるわ」
「うむ。姉の料理を食べさせて……地獄を見せてやるのだ!」
「がくがく、ぶるぶる」
「どうして、そこでソラの料理の話になるのですか?」
うん。
色々とあったものの、みんなの戦意は高い。
まったく衰えていない。
むしろ、このまま黙ってやられるなんて無理、と士気が上がっていた。
「みんな、聞いてくれ」
俺は一つの策をみんなに授けた。




