75話 後半戦・その2
「レイン。がん、ばって」
ニーナからボールを受け取り、敵陣に切り込む。
サッカーを本格的に学んだことはない。
ただ、宿に居候していた頃、空いた時間にボールを使ってよく遊んでいた。
宿の女将がサッカー好きで、俺に色々と教えてくれたのだ。
敵のようなトリッキーな技を使うことはできないが、ボールをきちんとコントロールすることはできる。
守備の薄い右サイドから駆け上がる。
「カナデ!」
敵が進路を塞いだところで、同時に上がってきたカナデにパスを送る。
「タニア!」
カナデはボールを踵裏でちょんと触れて、軌道を変更。
そのまま後ろのタニアにボールを送る。
なに、その高等テクニック……?
「いただきぃっ!!!」
タニアのロングシュート。
ボールは正確無比にゴールに吸い込まれて……
ガシィ!
転移したかと疑うような速度でキーパーが高速移動して、ボールを掴んでいた。
あの速度、あの軌道のボールを止めるなんて……
改めて、敵の能力の高さを思い知る。
信じられないことだけど、敵は最強種と同じ……あるいはそれ以上の能力を持っている。
そして技術も上だ。
こうなると、まともに正面からぶつかっても勝てない。
連携を重視。
点を取られないように守備を固める。
そして、チャンスを逃すことなく、針の穴に糸を通すような正確さで攻撃をしていくしかない。
さっきのタニアのシュートが決まるか、あるいは惜しいところまでいけば、この方針を変えても良かったんだけど……
簡単に受け止められたところを見ると、がむしゃらに攻撃をしても意味はない。
亀のような守りに徹しよう。
「さあ、いくぞ」
「ここからが本番だ」
敵選手がニヤリと笑う。
悪意たっぷりの笑みを浮かべて、まだハーフラインにも達していないのにシュート体勢に入る。
まさか、あの位置からゴールを狙えるというのか?
そんなことが可能だとしたら……
ニーナとティナの鉄壁の守備も崩されてしまうかもしれない。
「させないよ!」
同じく危機感を覚えた様子で、カナデが前に飛び出した。
敵のシュートを防ぐべき、その前に立ちはだかる。
そして……
「ふっ」
再び敵選手がニヤリと笑う。
「カナデっ、逃げろ!」
「え」
本能的に危機感を察して、思い切り叫んだ。
カナデはキョトンとして、こちらの意図を察してくれない。
敵選手の悪意に気づいてくれない。
その間に、敵選手は強烈なシュートを放つ。
……カナデに向けて。
「にゃ!?」
周囲の空気を巻き込むかのような豪球は、カナデの顔に向かう。
「あいつ!!!」
ロングシュートを狙っていたんじゃない。
誰かが止めに入ることを予想して……
そして、その相手を潰すことを企んでいたんだ!
「こんっ……にゃあああああ!!!」
後ろに倒れ込むような勢いで、カナデは体を倒した。
同時に両手で顔をかばい、いざという時のダメージを減らそうとする。
そして……
ガッ!!!
カナデの腕にボールが当たり、真上に飛んでいく。
顔に直撃することは避けられたものの、完全に回避することはできなかったみたいだ。
審判の笛が鳴り、カナデのハンドが告げられる。
「おい、今のはアリなのか!? どう見ても、カナデを狙っていただろう!?」
「……そのような意図は?」
「ない。ただの偶然だ」
「なら、問題はないな」
「くっ……」
この審判……
もしかして、敵チームと通じているのだろうか?
でなければ、今のは危険行為として、逆に敵選手にイエローカードが出ないとおかしい。
敵はありえない力を持っていて、しかも、審判と通じている可能性が高い。
その上、悪質なプレイを迷うことなく実行する。
この試合……相当厳しいものになるかもしれない。




