特別話 新春
「あけましておめでとうございます」
「「「おめでとうございます!!!」」」
日付が変わり、新年になった瞬間。
みんなで新年の挨拶をした。
カナデ、タニア、ソラ、ルナ、ニーナ、ティナ。
みんな新しい年を祝うかのように笑顔だ。
かくいう俺も笑顔になっている。
みんなで無事に新年を迎えることができた。
それはとても嬉しいことで、いつまで経ってもこの喜びは続いていくのだと思う。
「ねえねえ、レイン。私、お腹が空いてきちゃったなあ」
「あんた、さっき年越しそば食べたばかりじゃない」
「うにゃー……あれくらいじゃ私は満たされないんだよ」
「なら、ちょっと早い気もするけど、おせちを出そうか」
「「「おせち?」」」
ティナ以外のみんなが疑問顔になる。
そういえばおせちの準備はしていたが、その説明はしていなかった。
「おせちっていうのは、正月に食べる特別な料理のことだよ。正月って大事な節句だろう? そういう特別な日に食べる料理のことを、おせちって言うんだ」
「へぇ……じゅるり」
「カナデ、よだれが垂れていますよ」
「でも、気持ちはわかるのだ。そんな特別な料理……期待せずにはいられない!」
「楽……しみ」
「ウチとレインの旦那で腕によりをかけて作ったからなー。期待してええで」
そう言うと、ティナはくるっと指先を回した。
キッチンの方で光が放たれて……
ふわふわと重箱が飛んでくる。
重箱は常に水平を保っていて、傾くということが一切ない。
さすがティナだ。
ややあって重箱がテーブルの上に降りた。
「変わった入れ物ね」
「東大陸に伝わる伝統的なものらしいで」
「綺麗ですね。それに品もあります」
「良い……匂い」
ニーナがすんすんと鼻を鳴らして。
きゅるるる。
なにやら可愛らしい音が響いた。
「……」
真っ赤になるニーナ。
どうやらニーナのお腹の音らしい。
「あぅ……」
「気にすることないよ、ニーナ。私なんて、いつもお腹を鳴らしているもん!」
「カナデはもうちょっと気にしなさいよ」
「でも、ほんまに気にすることないで? お腹が鳴るっていうことは元気な証拠や。せっかくの正月やから、たくさんおいしいもの食べよな」
「……うん」
なんとかリカバリーに成功。
ニーナに笑顔が戻ったところで、みんなに箸を配る。
それから五段になっているおせちを開けた。
「「「おー」」」
四角の重箱の中に、色々な料理がぎっしりと詰められていた。
数え切れないほどの種類で、さながら料理の花畑だ。
良い匂いが漂い、みんな目をキラキラと輝かせる。
「これがおせち……にゃあ、幸せの香り」
「素敵ね。おいしそうなだけじゃなくて、見ても楽しめるわ」
「これが人間の料理……とても勉強になりますね」
「我が姉よ。頼むなら、妙な創作意欲は燃やさないでくれ?」
「おいしそう、だけど……知らない料理、いっぱい」
「どれもおいしいでー。ウチとレインの旦那の愛の結晶や!」
「言い方」
苦笑しつつ、みんなの様子を見守る。
知らない料理も多いらしく、おっかなびっくりという感じもある。
「よくわからない、見たことのない料理がたくさんだけど……」
「華やかというか、どれもおいしそうね」
「それに匂いもとてもいいです」
「うむ、お腹が減ってきたのだ!」
我慢できないといた様子でルナが箸を伸ばした。
彼女が最初に掴んだのは、紅白かまぼこだ。
「はむ……んぉ? これは魚のすり身を固めたもの?」
「正解。よくわかったな」
「ふふん、我にかかればこれくらい楽勝なのだ!」
「では、ソラはこのサーモンを……あむ」
ソラがスモークサーモンに箸を伸ばした。
「このサーモンは……! 深い香りがありますね。それに奥行きにある味になっていて……わかりました。味噌が隠し味になっているんですね!?」
「いや……木のチップでいぶしているんだけど」
「……本当はそう言おうとしていました」
思い切り答えを外してしまったソラは、顔を赤くしてぷるぷると震えつつ、明後日の方向を向いてしまう。
それを見てルナが笑い、ソラが逆ギレして……
うん。
最強種のケンカはおっかない。
「おぉ、これが海老!」
カナデは伊勢海老を食べて、その体と同じように尻尾をくねくねと揺らした。
「ぷりっとしてて、芳醇な旨味とちょっと甘味。うーん、これはいくらでも食べられちゃいそう!」
「カナデは海老も好きなんだな」
「うん! お魚と同じ海のものだからねー。海産物はなんでもおいしいよー。でもでも、この海老は見たことないかな? なんか派手というか、ごついね」
「伊勢海老って言って、高級な海老みたいだ。あまり取れないんだって」
「おぉ! なら、しっかり味わって食べないと♪」
カナデはもう一口伊勢海老を食べて、尻尾をふにゃりとくねらせた。
「あたしは、やっぱり肉ね! このローストビ―フはあたしのものよ!」
タニアは満面の笑みを浮かべつつ、ローストビーフを食べた。
それを見て、ティナが笑顔で問いかける。
「どや? それ、ウチが作ったんやけど」
「……」
「低温でじっくり調理して、いつも以上に手間暇かけたんやで? タレも普段とはちょっと変えて、甘め強めにしてみたんや」
「……」
「タニア? どうしたん? もしかして、まずかったん……?」
「う……」
「う?」
「うーーーまーーーいーーーわっ!!!」
ゴウッ!!! と、口からドラゴンブレスを吐き出す……
ような勢いで叫び、タニアは目をキラキラと輝かせる。
「なにこれ!? こんなローストビーフ食べたことないわ! いつも以上に柔らかくて舌触りがよくて、肉の旨味がねっとりと舌に絡みついてくるの。香りもよくて、噛めば噛むほど口の中に旨味と香りが広がって……あと、この香辛料もいいわね。ほんの少しの甘味がいいアクセントになっているわ!」
「なはは、気に入ってもらえたようでなによりや。おかわり、食べる?」
手間をかけただけに、おいしいと言ってもらえて嬉しいのだろう。
ティナも笑顔になり、おかわりのローストビーフをふわふわと飛ばしてきた。
「レイン」
ふと、ニーナがこちらを見る。
「レインも……食べよ?」
「ああ、そうだな。えっと……」
なにを食べようかな?
渋いと言われるかもしれないけど、黒豆かな?
「これ?」
俺の視線で食べたいものを察したらしく、ニーナが黒豆を箸で摘む。
「あーん」
「え」
「あーん……して?」
「えっと……」
少し迷い、
「……あーん」
「どうぞ」
ニーナに黒豆を口に運んでもらう。
「おい、しい?」
「あ、ああ……おいしいよ」
「よかった」
恥ずかしさもあって、味はちょっとわからなかった。
「あーっ、ニーナがうらやまけしからんことをしているのだ!?」
「そ、ソラもレインにあーんを……」
「わ、わた……」
「あたしもやるわ!」
「ウチも!」
「私も……」
ソラ、ルナ、タニア、ティナがぐいぐいと来て……
それらに埋もれるような感じで、カナデが後ろに押され、耳をしゅんとさせていた。
なんていうか……
「今年も賑やかな正月になりそうだな」
――――――――――
初日の出を見に行くことになり、まだ暗いうちに家を出た。
目的地は丘の上にある公園。
ホライズンの初日の出ポイントはその公園で、毎年、たくさんの人がやってくるらしい。
「にゃふー……さ、寒い……」
真冬の夜。
当たり前のように寒く、風が吹く度に震えてしまう。
みんな、コートやマフラーを身に着けているものの、それでも足りないようだ。
風邪を引いても困るし、どうしたらいいだろう?
「ねえねえ、ソラ、ルナ。温かくなる魔法とかない?」
「あるにはありますが、ちょっと燃費が悪い魔法なので……」
「ずっと使い続けることは難しいのだ。それに温かい風を作り出すだけなので、外で使ってもあまり意味ないのだ」
「ならいっそのこと、あたしのブレスで……」
「それは……ダメ」
「温まるどころやなくなるなー」
発想が過激というか、予想の上というか……
うーん。
タニアには、強さとかそれ以前に人間の常識を学んでもらうことを優先した方がいいのだろうか?
そんなことを考えていた時、
「ねえねえ、アルト。寒い?」
「そうだな。さすがにこの時期の夜は冷える」
「なら、とっておきの方法を教えてあげようか?」
「どうするんだ?」
「こうするの。ぎゅー♪」
「おい、ユスティーナ」
「えへへ、こうしてくっつけば温かいでしょ? ボクの温もりでアルトは温かくなって、アルトの温もりでボクも温かくなる。一石二鳥だね!」
「……単純にくっつきたいだけじゃないのか?」
「えへへ、バレた?」
「まあ……温かいのは確かだから、このまま行くか」
「うん!」
どこからともなく、そんな会話が聞こえてきた。
「「「……」」」
みんなの目がキラーンと光る。
「ねえ、レイン……私がぎゅーってしてあげようか?」
「というか、してもいいわよね?」
「温まるためですから、他意はありません。ええ、ありませんとも」
「寒さで震える我を温めてほしいのだ。抱きしめてほしいのだ」
「ぎゅ、って……しよう?」
「ウチは、レインの旦那の心を抱きしめるで?」
「いや、えっと……」
みんなの目が怖い。
肉食獣が獲物を目の前にしたような感じで、妙にギラついていた。
「あ……あそこで甘酒を配っているぞ!? 甘酒を飲んだら温まるだろうから、行ってみよう!」
「「「ちっ」」」
残念そうな、獲物を逃したというような、そんな舌打ちが聞こえてきたような……
でも、聞こえなかったフリをしておいた。
とにかく、甘酒を配っている場所に移動して、みんなの分をもらう。
「にゃち!?」
「外が寒いからなのか、けっこう熱いわね」
「でも、とても温まりそうなのだ!」
「とはいえ、飲むのが大変ですね……」
「熱い……ね」
「少し待てば冷めると思うけど、タイミングが難しいなー」
そんな話をしていると、
「はい、フェイト。甘酒ですよ」
「ありがとう、ソフィア」
「熱いから気をつけてくださいね。火傷に注意ですよ」
「大丈夫だよ。そこまで心配しなくても、僕は子供じゃないんだから」
「それはそうですが、心配なものは心配なんです。その……心配しすぎでうっとうしいでしょうか?」
「ううん、そんなことはないよ。僕のことを気にしてくれて、むしろ嬉しいよ」
「……フェイト……」
「いつもありがとう、ソフィア」
「こちらこそ。あ、そうです。こうすれば飲みやすくなりますよ? ふーっ、ふーっ」
「あ、確かに飲みやすくなったかも。ありがとう」
「ふふ、どういたしまして」
どこからともなく、そんな会話が聞こえてきた。
それを聞いたみんなが、再び目を光らせる。
「レイン、私がふーふーするよ!」
「いいえ、あたしよ!」
「いえ、ここはソラが!」
「我なのだ!」
「がん、ばる」
「ウチ、念動力でふーふーするでー?」
「えっと……」
想像してみる。
カナデがふーふーをしたら、甘酒を吹き飛ばしてしまいそうだ。
タニアは燃やしてしまう気がする。
ソラとルナは、なんだかんだ失敗して甘酒をかぶってしまうかも。
ニーナはがんばりすぎて息切れしてしまいそうで……
ティナがやると怪奇現象になってしまい、周囲を騒がせてしまいそう。
「……気持ちだけ受け取っておくよ」
「「「なんでおっかなびっくりな感じなの!?」」」
黙秘権を行使させてもらいます。
甘酒で体を冷えた温めて……
その後、高台へ移動する。
街を一望できる場所で、初日の出を見るには抜群のポイントだ。
ただ……
「人が多いな」
昼間と変わらないくらいの人がいた。
みんな初日の出を楽しみにしているらしく笑顔だ。
平和な光景で和むのだけど、気をつけないとはぐれてしまいそうだ。
こういう時は……
「あわわわ、ひ、人の波が……!?」
「大丈夫、アンジュ?」
「はぅ……ありがとうございます、ハルさん。助かりました……」
「アンジュ、気をつけないとダメよ。こんなところではぐれたら……そうね、もう二度と合流できないわ」
「えぇ!?」
「おまけに、この気温。アンジュは氷の彫像になって、誰にも見つけられることなくひっそりと一生を過ごすことに」
「ガクガクブルブル」
「なんて……そんなことになっても、あたしとハルはちゃんと見つけてあげるから安心して」
「アリスさん……ハルさん……」
「なんか、俺を出汁に使っているような?」
「ふふ、冗談よ。一年の初めくらい、ちょっとおちゃめになってもいいじゃない?」
「まあ、特別な日だからね。はしゃぐ気持ちはわかるよ」
「特になにかあるわけではないですけど、楽しいですからね」
「それじゃあ、はい」
「ハル? なに、この手は?」
「手を繋ごう。迷子になるといけないから」
「えっと……そうね。そうしましょうか」
「は、はい。えっと……失礼します」
「うん」
「ハルさんの手、温かいですね」
「アンジュも温かいよ」
「ふふ。それじゃあ、このまま手を繋いでいきましょうか」
どこからともなく、そんな声が聞こえてきた。
みんなに声をかける。
「みんな、手を繋ごうか」
「手?」
「はぐれないように、こうして」
「にゃ!?」
カナデの手を取ると、尻尾がピーンと立った。
驚かせてしまっただろうか?
「ちょっと、カナデずるいわよ!」
「わ、私から繋いだわけじゃないし!?」
「我と変わるのだ!」
「仕方ありませんね。もう片方の手はソラが……」
「こっそりと抜け駆けしようとする姉!」
「それも許さないわよ!」
「修羅場やなー」
大きな声をあげるみんな。
のんびり、ふわふわと浮かんでいるティナ。
うーん。
騒ぎを起こすつもりはなかったのだけど、どうしてこんなことに……?
「レイン」
くいくいと、ニーナが俺の服を引っ張る。
「……いい?」
「もちろん」
「ん♪」
ニーナが求めるところを察して、空いている方で手を繋ぐ。
三本の尻尾が嬉しそうにぴょこぴょこと揺れた。
「「「あーっ!?」」」
「このパターン、鉄板になりつつあるなー」
こういう流れが毎回繰り返されるのは大変だなあ、と他人事のように思ってしまう。
なにはともあれ、他のみんなも手を繋いで人混みを乗り越える。
手すりの前に移動することができて、最善のポイントを確保した。
あとは太陽が登ってくるのを待つだけだ。
「あとどれくらいかな?」
「時計がないからわからないわね」
「カナデの腹時計でわかるのではないか?」
「私、そんな便利な機能持ってないよ!?」
「「「えっ」」」
「ニーナまで驚いている!?」
「ほら、そろそろだぞ」
みんなを促して、遥か遠くにある山を見る。
空はまだ暗い。
星が輝いていて、穏やかな黒が一面に広がっている。
ただ、それがゆっくりと揺らいできた。
黒が薄くなり藍色に。
星の輝きも消えていく。
変わりに空が彼方から明るくなる。
ほどなくして山肌が輝く。
光がどんどん強くなり……
「「「……わぁ……」」」
ゆっくりとゆっくりと太陽が登る。
夜から朝へ。
その時を告げるかのように、優しい黄金色の光が世界に広がっていった。
「綺麗だね」
それ以上の言葉はいらない。
そんな感じで、みんな、初日の出に見入る。
やがて太陽が完全に姿を見せて、空が青に染まる。
今年初の朝はとても綺麗で、雲ひとつない。
なんだか良いことがあるような気がした。
「にゃー、今年はいいことがあるかな?」
「違うわよ、カナデ」
「にゃん?」
「今年『も』よ」
「あ……」
「うむ。去年は充実した一年を過ごすことができたからな。きっと、今年もそうなるに違いない」
「去年以上に充実した日々になるかもしれませんよ?」
「たい、へん」
「でも大変なのは、それはそれで嬉しいことやからな。忙しいっていうのは歓迎すべきことやで」
「そうだな、今年も色々あるかもしれないけど……うん」
みんなと一緒なら、なにも問題ない。
そう思い、自然と笑顔になる。
みんなも笑顔になって……
それから、なにやら合図を送る。
「せーの」
そして、にっこりと言う。
「「「今年もよろしくお願いします」」」
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。




