65話 慰安旅行・その7
たくさん食べて。
たくさん遊んで。
気がつけば陽が傾いていた。
そろそろ宿に戻るとしよう。
宿でごはんを食べて、風呂に入って、寝て……
そして、明日で旅行は終わり。
ホライズンに戻らないといけない。
「……ちょっと寂しいな」
旅行が終わりとなると、なんともいえない気持ちになる。
それはそれで仕方ないのだけど……
できることならずっと、とか考えてしまう。
「でも、たまにだからこそ旅行は楽しいんだよ」
いつの間にか隣にやってきたカナデがそう言う。
「そうだな。たまにだからこそ、楽しいんだよな」
「そうそう。おいしい料理を毎日食べていたら、ちょっと飽きちゃうみたいな?」
「カナデだったら、魚を毎日食べるような?」
「うんうん。大好きなお魚でも毎日は……アリかも? うにゃー、お魚天国ぅ」
色々と台無しだった。
「まあ……機会を見て、また旅行に行こうか」
「うんうん、賛成! あ、その時は猫霊族の里に行こう?」
「え? 旅行の行き先として、それはアリなのか……?」
「海が近くで、今回みたいに遊べるし……あと、山も近くだから、ハイキングとかもピッタリ。色々遊べるよ」
「そっか……なら、いつか行ってみたいな」
「おいでおいでー」
「あら、そういう話ならあたしも参加するしかないわね」
片付けを終えたタニアが話に加わってきた。
「竜族の里も、色々あって楽しいわよ」
「にゃー……なんか、岩と荒れた大地しかないイメージなんだけど」
「あんた、竜族のことをなんだと思っているのよ?」
「のう……なんでもないよ♪」
「ちょっとこっち来なさい」
「にゃあああああ!?」
途中で言葉を止めたものの、言おうとしたことはバッチリ伝わってしまったらしい。
こめかみの辺りを引きつらせたタニアに、カナデは尻尾を掴まれて引きずられていってしまう。
「やれやれ、騒がしいですね」
「レイン、そろそろ撤収なのだ!」
「ごはん……の、時間」
「ウチ、風呂に入りたいなー」
他のみんなも戻ってきた。
タニアとカナデは……まあ、いいか。
子供じゃないから、そのうち戻ってくるだろう。
「なーなー、レインの旦那」
人形形態のティナが、ぴょんと俺の頭の上に乗る。
その状態で話しかけてきた。
「今回の旅行、ありがとな。みんな、めっちゃ楽しんでたで」
「うん。それならよかった」
「ただ……ちと、気になることがあってな」
「え?」
「レインの旦那は楽しめたん?」
気がつくと、ティナだけじゃなくてみんなも俺を見ていた。
俺の内心をうかがうような、探るような。
そんな感じの視線。
「俺は……」
「レインの旦那がウチらのことを考えてくれるのは、めっちゃ嬉しいねん。ただ、それだけじゃなくて、レインの旦那も楽しんでほしいって思うわけよ」
「……ティナ……」
「こういうのは、レインの旦那も含めて、みんな共有せんとなー」
にかっとティナが笑う。
みんなも、その通りとにっこり顔に。
そんなみんなを見て、俺は、改めて自分が一人じゃないことを実感した。
パーティーを追放されて、カナデと出会い、みんなと出会い……
そして今がある。
だから、俺の答えは……
「もちろん、楽しいよ」
その一択に尽きるのだった。