30話 ステラの悩み・その7
夕暮れ。
太陽がゆっくりと沈み、空が暗くなっていく。
街の至るところで明かりが点いて、暗闇を払う。
夜。
広場に戻ってきた俺とステラは、周囲を見回した。
「こんな時間だから、そろそろデートは終わりだけど……ステラの両親は、最後まで見届けてくれたのかな? 認めてくれたのかな?」
「なんともいえないのが困るところだな……」
ステラは苦い表情に。
その反応から察するに、途中で両親が乱入してくると思っていたんだろう。
そこで話をつけるつもりだったのかもしれない。
でも、実際はそんなことはない。
最後まで、平穏にデートをすることができた。
「このまま解散してもいいのかな?」
「そうだな。もうこんな時間だから、これ以上は……あっ」
なにかに気づいた様子で、ステラが小さな声をこぼす。
「もしかして……いや、まさか……」
「どうしたんだ?」
「その……可能性の一つ、なのだが」
ステラは頬を染めて言う。
「両親はまだどこかで私達のことを見ていて、この後のことを期待している……とか」
「この後? ……あっ」
もう日は暮れた。
普通に考えればデートは終わり。
でも……俺達は大人だ。
大人のデートというものがあって、二人で宿へ行くとか……
「「……」」
ステラも同じことを考えていたらしく、耳まで赤くなっていた。
「さ、さすがにそれは……」
「う、うむ。私も、そこまでさせてしまうのは……あ、いや。レインが嫌というわけではなくて、むしろ好ましいというか……」
「え?」
「あああ! い、いやいやいや、なんでもない! 私はなにを言っているんだ……」
思わぬ展開に混乱しているのかもしれない。
ステラはあたふたと慌てて、顔を隠すように両手で押さえてしまう。
こんなステラは見たことがない。
なんだかおかしくなって、笑いがこぼれてしまう。
「あはは」
「むう……笑うなんてひどいではないか」
「ごめん。でも……」
ふと思う。
今のステラはとても生き生きとしていた。
普段は見ることができない、とてもレアな表情だろう。
それはたぶん……
ステラの両親も見たことがないのだろう。
だから、お見合いを勧めるなどして心配したんだろう。
「ステラは、両親と一緒にいる時、どんな風に過ごしているんだ? 今みたいにしたりする?」
「いや……そんなことはしない。私は騎士だからな。どのような時であっても、らしくあらねばならない。それに、両親を失望させたくないから、いついかなる時も騎士らしく……」
「それがダメなんじゃないか?」
「なに?」
ステラがキョトンとした顔に。
まったく思いつかなかった様子だ。
「家族の前くらい気を抜いてもいいじゃないか。らしくなくてもいいじゃないか」
「しかし……」
「気を張ってばかりだと疲れるし……それに、両親はもっと甘えてほしいと思っているんじゃないか?」
「あ……」
「でも、そういうのがぜんぜんないから心配したんだと思う。で、今回のようなことに……当たり前だよな。ステラだって女の子なんだから、心配して当然だよ」
「そう……なのだろうか? いや、そうだな……」
ステラはやや後悔するような表情になった。
「レインの言う通りだな。私は肩肘張りすぎていたみたいだ。だから両親も心配して……やれやれ、まだまだ未熟だな」
「遅いなんてことはないから、今度、ゆっくり話をしてみたらいいんじゃないか?」
「そうだな……ああ、そうするよ」
ステラは静かに微笑む。
そして、手を差し出してきた。
「ありがとう、レイン」
「どういたしまして」
その手を握り、友情を確認する。
「ひとまず、私は両親を探して話をしてみる。レインは、ここまでで大丈夫だ」
「平気か?」
「ああ、問題ない」
「そっか……うん、大丈夫そうだな」
ステラはいつもの凛とした表情で……
でも、それだけじゃなくて、優しさと温もりもあった。
この様子なら問題ないだろう。
「じゃあ、俺はこれで……」
「待ってくれ」
家に帰ろうとしたら引き止められた。
何事かと振り返ると、
「……ん……」
頬に触れる柔らかい感触。
「え?」
それがなんなのか、確かめるより先にステラが離れてしまう。
「こ、これはなんていうか、その……今日の礼のようなもので、き、気にしないでくれ。深く考えないでくれ」
「でも……」
「た、頼む!」
「あ、ああ……わかった」
別れの挨拶をして、その場を去る。
途中、振り返ると、
「……」
ステラはずっとこちらを見て、優しく微笑んでいた。
その笑みは月のように優しくて……
妙に引き寄せられてしまい……
これは、そんな夜の話。
いつかまた思い返して、その度に色々なことを思うのだろう。
そうやって、思い出が一つ、増えるのだった。
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