31話 ソラのお手軽クッキング
「こんにちは、ソラです」
ソラがぺこりと頭を下げた。
「暑い日が続いていますが、大丈夫でしょうか? 熱中症などになっていないでしょうか? 熱中症は本当に怖いので、魔力切れを気にすることなく、冷却魔法を使ってくださいね」
そう言いつつ、ソラはエプロンを取り出して身につけた。
「こんなに暑い日が続いてしまうと、夏バテも心配です。なので今日は、夏バテ予防と、元気が出る夏の料理を紹介したいと思います」
キッチンへ移動すると、肉、魚、野菜、果物……色々な食材が用意されていた。
調味料も完備。
調理器具もフルセットで抜かりはない。
「今日は、豚肉の生姜焼きを作りたいと思います。ありふれた料理ですけど、夏バテにはわりと有効です。豚肉は栄養たっぷりで、生姜も、元気が出るだけではなくて、さっぱりとしておいしいですからね」
ソラは保冷庫を開けて、中から豚肉を取り出した。
豚肉はカチコチに凍り、冷えている。
「まずは解凍です。自然解凍が一番ですが……今日は時間がないので、魔法で解凍します」
豚肉を前に、ソラは魔法陣を展開する。
そして……
「イフリートディザスター!」
豚肉は消し炭になった。
「……」
ソラは、数秒硬直して、
「こほん。ちょっと失敗してしまいました。猿も木から落ちる、というやつですね」
何事もなかったかのように、再び豚肉を取り出した。
今度は魔力を調整して、豚肉を適度に解凍する。
「豚肉は薄いものを使いますが、ステーキで使うような厚いものでも大丈夫です。ここは好みの問題ですね」
説明をしつつ、ソラはフライパンを手に取る。
油を適量注いで、火にかける。
そうやってほどよく温まったところで、豚肉を焼き始めた。
「まずは、片面をじっくりと焼きます。中火ですね。豚肉は生だと危険なので、しっかりと焼きましょう」
ジューと、肉が焼ける音が響く。
それに合わせて、香ばしい匂いも漂い始めた。
「ある程度焼き目がついたところで、ひっくり返しましょう。ほいっ」
ソラは箸を使わず、フライパンを揺することで豚肉をひっくり返そうとした。
しかし、思っていた以上に力が入ってしまったらしく、ぽーんと豚肉が飛ぶ。
「っ!?」
ビクンと震えるソラ。
ただ、幸いにも豚肉はいい軌道を描いて、再びフライパンの中へ。
「ど、どどど、どうですか? こ、これがソラの実力です」
言葉が震えるほど焦るソラだった。
「ひっくり返した後は、生姜、砂糖、醤油、お酒を入れて、もう片面を焼きつつタレを絡めていきましょう。厚切り肉を使っている時は、焼き時間をしっかり調整して、中まで焼いていかないとダメですよ」
生姜と醤油の絡んだ良い匂いが漂う。
それと、豚肉が焼けるジュージューという音。
嗅覚と聴覚で食欲を刺激されて、よだれが垂れてしまいそうだ。
ただ……
ソラの料理は、ここからが真骨頂だ。
「これで、豚肉の生姜焼きは完成ですが……ふむ。夏バテ対策を考えると、ちょっと物足りない気がしますね」
少し考えて……
閃いた、という様子で、ソラは手の平をぽんと打つ。
「夏バテ対策のために、うなぎを入れましょう。あと、かまぼことレバーも入れましょう。どちらも栄養たっぷりですからね」
細かく刻むことはなくて。
そのまま、どばっと、うなぎとかまぼことレバーが投入された。
「それと……そう、野菜も必要ですね! 野菜の栄養は、夏バテ対策には必須です。なので、きゅうりと人参。かぼちゃとトマト。さつまいもに、レンコン、じゃがいも……あと、ゴーヤも入れましょう。これで栄養たっぷりです!」
ソラはにっこりと笑い、どんどん野菜を入れていく。
こちらもカットすることなく、まるごとだ。
なぜ、まるごとなのか?
無用なカットをすることで、断面から旨味が逃げ出してしまう。
故に、まるごとが一番なのだ。
……と、ソラは思い込んでいた。
「えっと……材料を追加しすぎたので、ちょっと味が薄くなってそうですね。タレを追加して……ついでに、酸っぱいものを入れましょう。夏といえば、酸っぱいものですからね」
ソラは、これで間違いない! という表情をして、追加の材料を入れる。
ちなみに、それは……
梅、オレンジ、レモン、酢、というものだった。
フライパンの中がどんどんカオスになっていく。
しかし、ソラは上機嫌だ。
これで、きっとおいしい料理ができるに違いない。
夏バテ対策バッチリだ。
そう思い込んで、欠片も疑っていない様子だ。
「とても良い感じではないでしょうか? これなら、みんなもおかわりを求めるくらい、たくさん食べてくれるに違いありません……あっ」
うっかりしていた、という様子で、ソラは声をあげる。
「大変です、危うく、とんでもない失敗をするところでした……」
そう言って、ソラはとあるものを取り出した。
「夏といえば……スイカですね! これは欠かせません!」
ゴトン!
スイカがまるごと投入されて、鈍い音が響いた。
ありとあらゆる食材が、ありとあらゆる調味料で煮込まれていく。
その上に、でーんと乗っかるスイカ。
それはもはや、料理というよりは、魔王降臨の儀式と言った方が正しいかもしれない。
「よし、これで、ソラ特製夏バテ対策料理の完成です!」
ドヤ顔を披露するソラ。
完璧な料理ができたと信じて疑っていない。
「みんな、早く帰ってこないでしょうか? それと……レインも。これをレインに食べてもらい、元気になってほしいです。それで、褒めてもらって、なでなでしてもらって……ふふふ」
妄想を繰り広げるソラは、ニヤニヤと笑い……
その時、家の扉が開く音がした。
「あっ! おかえりなさい、レイン。ソラがごはんを作って……って、レイン? どうして逃げるんですか? みんなも……ちょっと、どういうことですか!?」
その日……
謎の物体を手にしつつ、レイン達を追いかけるソラの姿が街中で目撃されたという。
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