41.その前に
遡ることひと月ほど前、俺は村長に言われてある建物の前へと来ていた。
いま建設中の銭湯からしたら、中央広場を挟んで斜め向かいにあたる。
「この立派な建物がねえ・・そういえば隣は・・」
目の前の建物は、この村でも2番目くらいに立派な煉瓦造りの建物だ。
じゃあ1番目はというと、この建物の左隣にある建物で、3階建の石造りの重厚な建物だ。
そして、右隣には通い慣れたドリン精肉店・・。
つまり、石造りの重厚な建物が冒険者ギルドで、目の前の立派な煉瓦造りの建物が商業ギルドということになる。
「うん、異世界定番だ」
ご多分に漏れずこんな田舎の村では、魔獣を狩ってくれる冒険者のための冒険者ギルドの方が勢力が上で、商売のあまり活発でない商業ギルドの勢いがやや小さいのだった。
「だから冒険者ギルドの方が大きいと・・」
妙に納得してしまった。
「もし、そこの方」
俺が商業ギルドの入り口の前で、建物を見上げてそんなことを考えていると、不意に背後から声をかけられた。
「は、はい!」
慌てて振り返ると、結構立派な馬車が停まっていて、その前に30代半ばくらいの人の良さそうな男の人が立っていた。
「大変申し訳ないのですが、ギルドにご用事なのであれば入っていただいて、そうで無ければ道を開けていただければ大変助かるのですが?」
男の人は笑顔のままそう言って、首を少し傾けた。
「あ、あっ、すいません!邪魔でしたね!ど、どうぞ!!」
どうやら、めちゃくちゃ邪魔になっていたらしい。
俺はペコペコ頭を下げながら、扉の前からわきに避けた。
「いいのですか?ギルドに用事があったのでは?」
男の人は、再度首を傾ける。
「いいんです、いいんです!お先にどうぞ!」
「・・そうですか。では、お言葉に甘えて」
男の人は一礼すると、後ろの馬車の御者に目配せした。
そして、馬車が馬車停めの方に向かったのを確認すると、もう一度俺に礼をしてギルドへと入っていった。
「あの人が、領都から来ているという商人なんだろうな」
前に、ドリンさんに教えてもらった話を思い出す。
「俺も入るか」
改めて気を取り直し、俺の背丈でも余裕でくぐれる大きくて重厚な扉を押し開いた。
中に入ると天井の高い広い空間で、目の前には窓口のようなものが10個ほど並んでいる。
向かって右端の方には、個室らしき扉があり、さらに上階へと続く階段が見えた。
そして、窓口の前には待合のためと思われるベンチがいくつも並んでいる。
「ほぼ、銀行だな」
「イワン様、こちらへどうぞ」
ぼーっと中を見回していると、誰かを誘導する声が聞こえた。
声のした方を見ると、さっきの商人が個室に案内されるところだった。
「あの待遇って事は、やっぱり領都の商人なんだろうな」
案内してくれるギルドの職員にも一礼して、イワンと呼ばれた商人は、個室の中に消えていった。
「あれ?マモルさんじゃないですか?」
個室の方を見ていると、またも背後から声をかけられ、ポンと肩を叩かれた。
「あ、ドリンさん。こんにちは」
振り向くと、見慣れた顔がそこにはあった。
「どうも、こんにちは。どうされたんですか?ギルドに何か用事ですか?」
「え、ええ。村長にそろそろ商業ギルドに入った方がいいと言われまして」
「ああ~。いま、お向かいで工事中のアレですね。聞いてますよ、なんでもセントウとかいうのを始めるとか?」
さすがに、あれだけ大々的に工事してれば情報は広がるよな。
「そうなんですよ。一応あれも、料金を貰って営業するので、登録する必要があると・・」
「そうですね、規模が小さければまだしも、あの規模では必須でしょう」
「はい。ただ・・来てみたはいいんですけど、なにぶん初めてなものでどうすれば良いのか分からなくてですね・・」
そう言って、頭の後ろに手をやった。
「なるほど。では一番左の窓口に行けばいいですよ。そこが初回登録用の窓口ですから」
言われてそちらを見てみると、『登録』と表示してあり、ちょうど誰もその窓口には並んでいないようだった。
「ありがとうございます!じゃあ、ちょっと行ってみます」
「そうですか。では、私はこっちの窓口なんで」
ドリンさんが示した窓口にはよく見ると、『入金』と表示してあった。
ああ~、昨日の売り上げでも預け入れするのかな?
感じからすると、銀行みたいな機能もありそうだもんな。
「じゃあ、夕方にまた」
「ええ、お願いしますね」
お互いにそう言って、それぞれの窓口へと向かった。




