39.出来上がり!
「完成だ!」
2日後の夕方、夕焼けで西の空が染まる頃、ドンクさんが俺の方を叩いて言った。
中央広場に面した入り口には、ザイル婆さんの雑貨屋に発注した暖簾が静かにたなびいている。
『ふじの湯』
いい感じじゃないか!
「ありがとうございます!」
俺が勢いよく頭を下げると、ドンクさんたちが笑顔でうなずく。
「さ、いつまでここにいるつもりだ?中を確認してみろ」
暖簾を眺めながら、感動して固まっている俺にドンクさんが声をかける。
「そ、そうですね!」
工事中に個々の箇所については、その都度確認したりはしていたが、全体を通して完成形を見るのは初めてだ。
滅茶苦茶ワクワクするなあ。
俺は、改めて建物を見あげた。
入り口は元々、建物の正面に対して真ん中にあったが、今はやや右に寄っている。
これは、左側に浴室を並べて配置したためだ。
目線を戻すと、ドキドキしながら暖簾をくぐった。
目の前には、幅3mほどの広めの廊下が奥へと伸びていて、突き当りに上階へと続く階段が見える。
廊下の右側は壁になっていて、上方に窓が連なり、オレンジ色の外の明かりが柔らかく差し込んでいる。
こちら側は東向きなので、今は反対側にある夕日の明かりが関節的に入ってきているのだ。
その窓の下には、数メートルおきにベンチが置かれてる。
そして、廊下の左側には引き戸の入り口が、2つ並んでいる。
引き戸はこの世界には無かったのだが、扉では銭湯のイメージに合わないので、ドンクさんにお願いして作ってもらった。
当然、入り口のところには、『男湯』と『女湯』の暖簾がかかっている。
ただ、これだけだとこの世界の人たちには分からないと思うので、戸の横っちょに、こっちの文字で同じように、男湯、女湯と書いた札を吊るしてある。
「ま、その内みんな慣れるだろ」
俺はとりあえず、『男湯』と書かれた暖簾の戸を開いて中に入った。
入ってすぐの右側に番台がある。
「うん、女湯は見えないな」
そして目の前が脱衣所。
壁には棚が作りつけられていて、脱衣カゴが置いてある。
部屋の真ん中には、ベンチが3つ。
ほぼ完ぺきだけど・・・足りないのもあるなあ。
体重計も無いし、扇風機もない・・マッサージチェアもあればなあ・・。
「あ!コーヒー牛乳も無い!!」
「なんだって?」
しまった、心の声が・・。
「い、いえ。なんでもありません!い、いい感じで仕上がってますね!」
「だろう!」
探せばあるのかなあ・・。
「よし、いよいよ・・」
俺は、浴室へと向かった。
ガラスをはめ込んだ引き戸(これも作ってもらった)を開けて、中へと入る。
すると、タイル張りの床の向こうに大きな浴槽がデーンと横たわり、目線の先には隣の女湯まで続く壁一面に、富士山の絵が大迫力で描かれていた。
「す、素晴らしい!」
思わず感嘆の声を漏らした。
何度も見ているはずなのに、この感動はちょっと来るものがあるな・・。
「ほれ、例の奴も見てくれ」
感動で固まっていると、ダンクさんに背中を叩かれる。
「え?ああ、そうでした」
言われて、浴室壁の方を確認する。
壁側には、ダンクさん渾身の蛇口が並んだ、洗い場がある。
それぞれの蛇口の前には、小さな木製の椅子と手桶が置いてある。
そして・・。
「あれが完成形ですか?!」
蛇口の上の方には、追加でお願いした例のものが設置されていた。
蛇口の途中から生えた、ホースの先に、無数の小さな穴が開いた持ち手のような物・・・。
「出してみていいですか?あ、でも上にお湯溜めてないか」
「だいじょうぶだ、試験用に水は溜めてある」
「そうですか!ありがとうございます!」
俺はダンクさんにお礼を言って、蛇口のハンドルを操作した。
『シャーー!』
すると、見事に無数の小さな穴から水が噴き出した。
そう、俺が追加でお願いしていたのは、シャワーだったのだ。
「凄いです!これはどうやって作ったんですか?」
俺はホースの部分を、クネクネ折り曲げながら聞いた。
「おう、そこか!坊主に言われた感じの管は、さすがに普通じゃ作れないんでな、ためしに魔獣の腸で作ってみたらうまくいった!」
「なるほど!」
これが、魔獣の腸ねえ・・・すげえな。
「よし、浴室も完璧ですね!」
「「あたりまえだ!」」
「じゃあ、女湯も一応確認してから、2階のお休み処を確認しますか!」
「「おう!」」




