本気になんて
「ただいま」
大きな黒竜から颯爽と飛び降りるとディーノは偶然庭に居た私たちに挨拶した。
「おかえりなさい。ディーノさん」
(聖女とのデートは楽しかったかよ。ディーノ)
あてこすりを言うようにセインは言った。
「…ちょっとお茶に付き合っただけだよ。もしかしてシャルロッテも見たのか?」
若草色の目が心配そうに私を見た。そんな気遣いいらないのに。
「ええ、楽しそうでしたので挨拶は遠慮しました」
にこっと微笑む。私に近づかないで。
「…それは誤解だ。シャルロッテ」
(よく言うよ。あんなに寄り添っていたら誰でも誤解するよ)
「ルクレツィアが近づいてくるんだから仕方ないだろう」
(そこを押し返すのが誠実な男だと思うけどな)
「…どうしたんだ、セイン。今日はいやに噛みつくな」
ふん、とセインは鼻を鳴らした。
(こっちはひっしでアシストしてやってんのに本人は何やってるんだよ。一度父さんの背中から落ちたら良いんだ)
「セイン。何のことだ?」
「いいえ。なんでもありません。行きましょう。セイン」
私は舌を出して挑発するちびドラゴンを伴って部屋へと帰った。
(正直に言って、お姉さんはディーノのこと、どう思っているの?)
「どうって…なんとも思ってないわ」
(…ほんとかなあ。カフェで2人を見た時、すごく傷ついた顔していたよ。すこしは気にしてるんじゃないの?)
ふうと息をついてセインを見た。
「堂々巡りになっちゃうけど、ディーノさんは私みたいな村娘よりルクレツィアさんみたいな聖女様がお似合いだと思う。…きっと周囲の人もそう思うと思うわ」
(それはディーノ自身が選ぶことだろう?お姉さんが決めちゃったら…ディーノが可哀想だよ。勇者という立場で全部判断されてしまうなんて…)
「セイン。人は立場で判断されるのよ。私みたいな村娘にはきっともっと地に足のついた生活が合っていると思う。あなたのおかげで今は贅沢な暮らしをさせてもらっているけれど…私はいつかあの村に帰らなければならないもの」
(お姉さん…)
ちびドラゴンはすこし泣きそうになって、しょんぼりと尻尾も垂れている。
きっと憎まれ口を叩きながらもあの黒衣の勇者のことが大好きなのね。
「大丈夫よ。私はあなたが巣立ちを済ませるまで、ここに居て。それであの村に帰るわ。ディーノさんの言葉は本気にしていないわ。大丈夫よ」
鱗の感触が気持ち良い頭を撫でてあげた。