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ガチャガチャ
ドサドサッ
ザリッ……
…
……
「おい!ポーションは何処だ!」
「各状態異常解除薬が……ひとつ、ふたつ……」
「粘土持ってきたぞ!」
「そんなもん、食えるか!」
「ポーションは治癒班に……」
「もういい!鍛冶班、錬金術班は行って仕事してろ!」
「ちげえ!Mじゃなくて、Hの方だ!配布用は!」
……ガヤガヤ
「状況は?」
「ほぼ陥落した第13防衛都市がどれだけ持つか次第ですね。死兵としてしまいましたが、身勝手ながらなるべく多くを道連れにしてくれと願うしかありません。一応、偵察は出していますが、少なくとも後半日の猶予は有るかと」
「ふ~む。魔物どもは13を落とした後バラけるだろうが……ここ、第7防衛都市にどれくらい来るか」
「情報が錯綜しておりますが、現れる魔物の種類は猛禽系の魔物、大型の獣です。総数は万に達すると。魔界で大規模な勢力争いでも起こりましたかね。こんな規模は想定外です。……風竜の目撃情報も有りましたが信憑性に欠けます」
「想定外でも何でも殺るしかない。スタンピードは縄張りから追われた魔物の群れだ。初めは必死に逃げるだけだが、都市にぶつかり勢いが止まれば13防衛都市の跡地に住み着くものや、更に魔物同士で争い数を減らすはず。とは言え一度逃げた魔物だ、争いは最小限になり散り散りになるだろう」
「とは言え……防衛都市の我々が魔物を黙って通す事は出来ません」
「分かっている。向こうから来なくても、こちらから魔物は全滅させるさ」
魔物は逃げるが、人間にも逃げる訳にはいかない、逃がす訳にはいかない事情が有った。
古くから住み着く魔物はそこで適度に人間に狩られ、安定した生態系を築くが、スタンピードで逃げ出した魔物はその生態系を壊し、強くなりやすい。魔物は何処ででも生きていける上に、移動力も高く、食べる事で強くなる性質を持つ。
そうでなくとも魔界の魔物は強いのだ……。
魔界で竜の子が巣立ちを迎える。
若くとも竜。魔界では大規模な争いが起こり、弱い魔物は成す術は無く逃げるのみ。竜の巣立ちは百歳と言われ、魔界でもかつてない程の混乱が起こったが、それは人間には関係ない話。
この時を以て、知られては居たが一般人には遠い話だった"魔王"が世界の脅威となる。
頭の固い学者は、ただの自然の摂理だと言う。しかし今回の、スタンピード、いや、魔物侵攻の被害は第13防衛都市及び第7防衛都市を含め4つの都市が壊滅。先行する猛禽と大型の獣に疲弊した所を鬼、樹魔、亀、ゴーレムといった動きは遅いが破壊力の大きい魔物にやられたのだ。
魔物同士の争いは、移動力の差で位置が被る事は無く。想定より多い魔物に都市は呑み込まれていった。
魔界は大きく広がり、膨大な数が死んでいった事に人間は分かりやすい理由をつけたがった。
魔王
人間はそれをはっきりと人間の敵を認識する。
"賢者"の事実は、神殿長と二百年以上続く大国の王以外に知るものは無い。
「世界は魔力で出来ている」
「キュー?」
「人間も魔物もボクも。それどころか、大地や大空だって、元は魔力だ」
「きゅきゅ」
「根拠?これだよ」
レイは3体のククルカンに掌の上に浮かばせた火を見せる。
「魔法。魔法は魔力を消費して現象を起こす事を言う。ほら、火も、水も、風も、土も。人間にすら魔力を消費するだけで創れる。さすがに世界と言う大きなものや、生き物と言う複雑過ぎるものは人間には無理だけどね」
そういうレイの後ろには人間に見紛う程の魔導人形が居る。魔導人形、生きたものと言う定義は難しいが、レイのそれは学習する。
「きゅ」
「キュー」
「……クゥ」
3体はミイとヨゥとイツだ。ヒイとフーの子である。
産まれたばかりの子らは勉強中である。
「魔物、ククルカンも魔力で出来ている。そして、魔力と魔力がぶつかった場合、大きい方が強い。土団子と同じ大きさの石をぶつけたら石がかつように密度が高い方が強い」
「……きゅ?」
「うんうん。ここで、物の質の問題になる。魔法の副産物である物体。その構成魔力量が多い程質が高い」
「キュー?」
「つまりね?ミイ、ヨゥ、イツの身体を錬成させてくれれば強く成れるよ?」
「クゥ!?」
「キュー?」
「きゅう」
レイは仲間を増やそうとしていた。
ヒイやフーは既に成体となって安定しているが、その子供達は成長の余地が有る。人間とは勝手が違う身体だが、失敗しても成長出来ると言う訳だ。
「クルルルル……」
「……分かってる。ヒイ。無理やりはやらない。最近また近辺の魔物が強くなった気がするから、子供達も強化しておいた方が良いかなって」
「シュー」
「うんうん。強化は必要だよね。だったら……」
「クルゥッ」
「む。仕方ない。……本来、人間も魔物も食べる事で魔力を得て強くなる生き物なんだ。魔物が人間と比べて強くなりやすいと言われるのは、生きたモノを食らうから。生き物は死んだ後魔力が抜けていくからね。
生き物を殺してから食べるまでの間が長い人間は魔力を多く取り込む事は難しい。その上しょっちゅう魔法で魔力を消費する。だから、人間の強化率は小さいんだ」
それは古代の知識。昔の人間は強かったから技術を開発する余裕が有った?違う。知識が有るから強かったのだ。レイにしてみれば、今の人間は知ろうともしない怠惰である。
魔力の取り組みは、錬金術の逆のような作業を行っている。
食べ物、と言う質の高いモノを体内に入れ、質を下げる。この時に質の差の分の魔力が得られる。質の高い食材を得られる高ランク冒険者や貴族が極端に強いのも魔力を多く得られるからだ。得られた魔力は魔法に使ったり、十分な量に足りれば身体の組織の質が上がる。
因みに、下がった質の物体を最低の土とか最低の水とか最低の風とか最低の火と言う。
「よって、強くなりたいなら強い魔物を狩って、その場で食べる事が一番の近道だ」
「きゅ」
「がっかりするなら錬成……逃げた」
レイは平和さに寂しく微笑む。自身を錬成しなければ生きていけなかった過去は、今に無いからこそ。
繰り返し。
繰り返し繰り返し繰り返し。
レイの身体は人工的に無理やり質を引き上げてある。
レイは自身の掌を見る。一瞬だけ、その手は紅く透き通って見えた。間違いなく世界で最も質が高く、火、水、風、土の全ての属性を兼ね備えた万能物質。レイの身体は"賢者の石"に置き換わって居た。
その気になれば、火人を消えない松明のように、水人を聖水に、風人を竜巻に、土人を黄金の像に、触れるだけで変えてしまえる。
レイは人間では無い。
ただ、生きているから生き続ける。
それでもレイは、今を穏やかに過ごしていた。
誰もが夢見る。永遠の平凡なる生活を。




