闇の精霊らしき何か
「じゃあ仮に、この遺跡の核が闇の精霊と同化していると仮定して考えてみよう。俺たちの目的は、ベニシアさんの仲間たちの救出。遺跡の核もなんとかしたいけど、1番は救出、ついでになんとか出来るものなら遺跡の核って感じだな。それは良いか?」
「うむ、良いぞ」
「うん、わかったよ!」
良い返事をしてくれるベニシアとライラに頷きつつ、続ける。
「個々に囚われてるメンバーを探し出すってのは大変だし、おそらく遺跡内というか、渓谷内にいるだろうから救出は邪魔されるだろう。遺跡の核本体をなんとか出来ればいいけど、全くどうなってるのかわからないんだよな。うーん、まずはこの渓谷内にいるかどうか確かめてみるべきかな。いや、まて、ライラかベニシアさん、闇の精霊が苦手なものってあるか?」
「うーん、やっぱり光の精霊なんじゃないかな?」
「それから、光の魔法も苦手だと本で読んだことがあるぞ」
「光の精霊は出せないけど、光の魔法なら出せるな。そういえば、竜と精霊は近いって言ってたよな」
「うん、あ。そっか、ルカのブレスなら」
「多少効くかもしれないよな。ちょっとやってみるか。熱は無くして光だけのブレスなら、渓谷の中が明るくなるだけで中のものには影響ないだろうし」
黄金竜は基本的に光属性なのだ。
闇落ちしてて見た目がちょっと威圧的だけど、技としては光のブレスを持っている。
前にライラといろいろ実験していた時にブレスもいろいろ試してみたから、問題なく使える。
「よし、早速やってみるか!」
「ちょっと待て、お主何を言っておる?ライラはともかくお主がブレスとはーーーはああぁぁぁ?!」
サクッと黄金竜モデルに変化したら、ベニシアが叫んでいる。俺を見上げて指差し、座り込んでしまった。
「な、な、なん……竜じゃと?しかも黄金の竜?見たことも聞いたこともないわ、いや、聞いたことがある、まるで、……ソトリアの始祖である神竜のような……」
「あ、言ってなかったね。ベニシアさん、ルカはね、竜になれるんだよ」
「お、おお、そうか、そうじゃの、竜になっておるようじゃの……」
呆然としているベニシア。
驚かせて悪いことしたな。そういえばまだ言ってなかったか……
「俺、ソトリアの王子なんだ。竜の血が濃く出たみたいで、竜になれるんだよ」
「………はあっ?!ソトリアにそんなに大きな王子はおらんじゃろう、確か一年ほど前に生まれたルカ王子が唯一の王子のはず……ルカ?」
「あ、それも言ってなかったね、ルカは今1歳なんだよ。歩けるようになって可愛いんだよね〜」
「な、何を言っておるのか……」
「魔法で、身体も変えられるんだよ〜」
「は、はあぁ?!姿を変える魔法を常時使用するなど正気か?!大魔法使いであるワシでも、多少の美容魔法は使っておるが、常時姿を変える……しかも大きさまでも変える魔法など使っておったら早々に魔力が枯渇して……ま、まさか、お主先ほどまでの姿が変化していたものだと言うつもりか?本体はまだ1歳だと?」
「お、さすが話が早いなぁ。その通りだよ」
「お、おぬし、この!このたわけが!1歳でそんな魔法を使う奴があるか!死ぬぞ!魔力の暴走を甘く見るでないぞ、幼いうちからその様な異常な魔法を使っておったらどうなるか……前例は無いが……どうなるんじゃ?いや、大人でも死ぬような魔法を、ぐぬぬ、お主……!この……!」
なんだか怒っているようだ。
心配してくれているようでもある。
「うん、ありがとう。あとで小さい本体の方でも挨拶するよ。じゃあとりあえず、やってみるな」
「頑張って〜」
「な、な、なにをする気じゃ、いやブレスか、光のブレスと言うておったか、お主そんな、1歳でそんな……」
「かなり眩しいから、目を閉じて伏せてたほうがいいよ、用意して」
「はーい!ベニシアさんもほらほら」
「あ、ああ、ああ……?」
「オッケーかな?じゃあ行くぞー!せーの」
ゴアアァァァァァァァアァァァァァァァ!!
ものすごい勢いで出た光のブレスは、渓谷の中に入り込み、暗かった渓谷の中全てを照らしだした。
全力でやってみたけど思った以上に眩しいな……
目の前が真っ白だ。
これは目が眩んでいるというより、本気で明るすぎて白いのだ。
「きゃあああぁぁぁぁぁーーーー!!!」
大きな、高い声で叫び声が渓谷の中から聞こえてきた。
「な、何するのよう!痛いじゃないのおおぉー!!」
そう言って渓谷の中から飛び出てきたのは。
黄金竜の俺と変わらないくらいの大きさの、黒いドレスを着て濃いめの化粧をした、黒い長い髪の……胸の大きい、しかし顔はどう見ても男の、闇の精霊?だった。
闇……闇の精霊……なのか?たしかに何か……こう、迫りくる闇っぽさは感じるが。
男なのか女なのか見た目ではわからないな。
いや顔は完全に男なんだが。彫りの深い顔にガッシリしたあご、喉仏もあるな。しかしまつげは長くなんか目の周りはキラキラしてるし紫だし、唇はどピンクだ。なんか、すごいな。
ものすごく露出の高い、漆黒のロングドレス……しかしその肩幅はやはり男に見えるが、だとするとその胸は一体……
「ルカ、見すぎだよ……ああいう感じのも好きなの?」
黒竜の姿になってサッと横に飛んできたライラに言われて焦る。
「えっ、いや待ってくれそれだけは絶対無いから、絶対にライラに取り入れないでくれよ!理解できなくて見てただけだから!ライラは今のままで最高だから!」
「そ、そうかな?うん、わかったよ」
「お主ら、イチャついておる場合か?!」
ベニシアに叱られた。驚きからは立ち直ったようだ。こちらを見上げて怒っている。
離れた場所にフヨフヨと漂う、巨大な闇の精霊?を見る。よく見ると透けてるな、実体じゃないようだ。
「闇の精霊、俺たちは渓谷に迷い込んだ仲間を探しに来た!話をする気はあるか?」
「仲間ぁ?あの竜達のことね!あんなに良い餌、絶対に手放すつもりは無いわよ、諦めてとっとと帰ってちょうだい!」
「餌だって?闇の精霊、俺の力なら遺跡の核だけを壊すことも可能だ、交渉しないか?」
「なぁんですってぇ?!絶対嫌よ!私この力気に入ってるの!壊したらタダじゃおかないわよぅ!」
ふうん、この闇の精霊は遺跡の核から解放されたがっているわけでは無いようだ。むしろ現状に満足しているのか。
「ふん、力づくで奪おうとしても無駄よ、渓谷の中は私の領域!入ってきたら容赦なく……追い出してやるからね!光属性のやつは嫌いなのよ!あ、もちろんそっちの黒竜ちゃんは歓迎してあげるわ!おほほ!もちろんこのまま帰ってくれても結構よぉ〜じゃあねぇ!」
いうだけ言って、巨大な闇の精霊の姿は消えた。
「な、なんじゃ今のは……あれが遺跡の核と合体しておる闇の精霊か?かなり珍妙な姿をしておったのう……」
「精霊は肉体を持たないから、あれが本体ってわけじゃないけど、なんか変だったね」
「かなり変だったぞ。肉体を持たないんだとすると、本体はなんなんだ?」
「精霊は、体は無いよ。だけど、生まれた場所から離れられないとか、例えばお花の精霊だったらその花が枯れるまでの間しか存在できないとか、泉の精霊だったら泉が汚れたり無くなったりしたら存在できないとかがあるから、そういう意味では精霊の生まれた根源が本体みたいなものかな?」
「なるほど……」
若者魔王の姿に戻って地面に降りる。ライラも人型になって降りてきた。
「闇の精霊に挑発されたけど、あの渓谷を出てまでこちらを襲ってくることはなさそうだよな、俺とベニシアが光属性で嫌われてるし」
「私は呼ばれてたけど……」
「うーんそうだな。俺やベニシアが渓谷に入っていっても弾きだすっていってたしな。だからと言ってライラ1人で行くのは無しだからな、取り込まれるのが確定してるようなもんだし」
「うん……どうしよう?」
「光のブレスも、痛がってはいたが、致命傷じゃなさそうだしな……いや、別に俺に負担はそんなに無いし、相手が降参するまで光のブレスを吐き続けるっていうのはどうだ?」
「そ、それは……確かに、ありかもしれんのう……渓谷の外からできる攻撃など他にあまり無いじゃろうしな、普通の魔法は吸収されてしまったしのう」
「なんで光のブレスは効くんだろう?」
「たぶん遺跡と同化してるから、吸収するときに光のブレスと接触する事になって、痛いんじゃない?」
「ふーん……じゃあ、やってみるか。別にこちらとしてはやって悪い事もないしな」
「お主に負担がさほど無いなら試してみるのが良かろう……そうじゃ、お主王子なんじゃったな?この言葉遣いでは不敬かのぅ?」
「いや、良いよ別に、公の場でもないし。じゃあ、やってみるな」
「がんばってー!」
再び、黄金竜の姿になり、光のブレスを吐いた。
今度は闇の精霊は出てこなかった。特に反応はない。
ふーむ、根比べかな?
そうして、小一時間ブレスを吐き続けたあと。
「も、も、もうやめてよぉ……」
と、闇の精霊の声が聞こえた。
しかし姿は見えない。
無視して引き続きブレスを吐き続ける。
するとまたしばらくして。
「やめてぇ……」
と哀れっぽい声が聞こえてきた。
大音量で。全然哀れっぽさが盛り上がらない。
引き続きブレスを吐き続けた。
「や、や、や、やめろっていってんだろおおぉおぉぉがああぁぁぁぁーーー!!!」
ものすごいドスの効いた大音声が渓谷に響き渡り、大きな渓谷を覆うほどの巨大な黒い影が立ち上って大きな竜の形になった。
「テメエこっちが大人しくしてりゃぁ調子に乗りやがって、どんだけブレス吐きやがるんだ、ふざけんなああぁ!」
とりあえず無視して引き続きブレスを放つ。
巨大サイズになった闇の精霊らしき竜と渓谷をまとめて真っ白にするくらいに明るさマシマシで。
「! ! ! ! !……!!」
影の竜がなにがしか動いている気もするが、光の中では影が見えない。
「………も、も、ほんと、やめてください、おちついて、話し合いましょう、ね……」
か弱げな声が大音量で聞こえてきたので、とりあえずブレスを止めてみた。
これで少しはまともに話し合えるだろうか?