渓谷の遺跡について
「いや、はぐれたといえど、おかしかったんじゃ。おかしな霧に包まれて、手元すら見えないほどでのぅ。ほんの一瞬で仲間を見失ってしもうたんしゃ。普段はそんなことは起きん、あれは普通の霧では無かった」
「……それで、はぐれたのはこの谷の中なのか?」
「そうじゃな、この下の、陽の当たらぬあたりに入ってから急に霧が出たんじゃ」
目の前の地面には大きな亀裂。
その先には巨大な渓谷がある。
この大陸随一の大渓谷、イントキャノだ。
ベニシアは、パーティの仲間である竜のシャーリー、エルフ、ドワーフとともにこの渓谷に調査に来て、はぐれたらしい。
この渓谷は、、画面内では見慣れた場所だ。
ゲームではこの奥に遺跡があった。
クリアすると精霊の祝福が貰える。
この世界の精霊というのはなんなんだろうか。
ベニシアも精霊眼を持っているし、そういえばサミュエルも精霊の祝福を持っていた。
だが、どちらも精霊については詳しく知らないようだし、その効果そのものについては知っていても、なぜそうなるのか、祝福とは、精霊とは何なのかということに対しては明確な答えはないようだった。おとぎ話のように精霊の存在をとらえているくらいで。
「……ベニシア、精霊って何だ?」
「何じゃ突然!ワシの精霊眼のことならもう話したじゃろう!子供の頃高熱で倒れ、失明しそうになったらしいんじゃがな。親が一縷の望みをかけて行った精霊召喚の儀式で、ワシの眼に精霊が宿ったという訳じゃ。その頃からワシの魔力は多く、魔法の素質があったからのぅ。精霊は魔力が多い人間を好むというからな」
「魔力を好む精霊ねえ……」
この世界の人物が認識している精霊というのは、どうも半分神様のような、またはおとぎ話のような、いまいち現実味のないものだ。
しかし、ゲームでの精霊は、わりとキャラクター化していたんだよな。人間に近い姿だったり、植物だったり、竜だったり。
本当のところはどうなんだろうか……
「今は精霊の話は良いじゃろう。どうやって仲間たちを探すかという話じゃ!」
「そうだな、悪い。うーん、この辺に人の気配は……わからないなぁ」
「ワシの精霊眼にもおかしなところは見えんのじゃ」」
俺はマップ表示を開き、人物の位置表示をオンにしているのだが、渓谷の周辺には何も出ない。いや、パラパラと魔物はいるようだが、これは普通だ。
「はぐれたのは2日前だって?」
「そうじゃ、はぐれたついでに財布も落としてしまったようでの、無一文でどうしようもなく、近くの町のギルドか神殿に金の無心をしようかと思って町に戻ったんじゃ。そうしたら明らかにおかしな魔力の持ち主がおるではないか!これは絶対に怪しいと……悪かったのう。空腹で気が立っておってな……」
「それはもう良いけど……どうやって探したら良いんだろうな。このまま渓谷に入っていくと、また同じように今度は俺たちが行方不明になるかも知れないよな」
「まだこの渓谷にいるのかなぁ?」
「おそらく、まだなかにおるじゃろう。ワシもはぐれてからしばらくは、この辺りを探しておったがまるで見つからんかった。しかし、ここから出ておるなら同じように町に行くはずじゃ」
「うーん。そもそもなんでベニシアだけ外に出てこれたんだ?」
「それは、わからんのう……」
俺とライラ、ベニシアで渓谷を眺めながらしばし考える。
「なあ、ベニシア。俺は、ここもおかしな遺跡と同じなんじゃないかと思ってるんだけど」
「そうじゃな、確かに、ここにもおかしな遺跡がある可能性が高いと銀竜殿が言っておった」
「そうだよな。それで、遺跡って、変な魔石が核になってるんだろ?魔力を吸い込むやつ」
「そうじゃが、それがどうしたんじゃ?」
俺は少し考え、この間から遺跡について感じていたことを口にした。
「遺跡について考えていたんだけど……
遺跡の核は、魔力吸い取って、遺跡を稼働させる。そこまでは、まぁそうかなって感じなんだけど。それ以上に気になるところがあるんだ。
遺跡の核はそのままでは起動しなくて、何か……その遺跡の核と同化したモノの意図通りの遺跡を作っていくというか、そういう感じじゃないか?」
「確かに、そうじゃな。核となる魔石が何と同化したかによって、遺跡はかなり違うものになるようじゃ。ワシが初めに見た、植物と同化した遺跡は、周囲の魔草を枯らしておったし、その後に見たエルフの森の遺跡は森の魔物と同化して周辺の魔物をどんどん変質させておったし、ドワーフの地の遺跡では、ドワーフの職人と同化してしまって、鉱山の魔鉄素材をどんどん取り込んでおったのう」
「職人と同化してたのかよ!大変だな……まさか燃やしたのか……?」
「そのあとで最大の回復魔法をかけてやったら何とかなったぞ」
「そうか……痛そうすぎるな……まぁ、とにかく、この渓谷の遺跡も何かに同化して稼働してるんだろ?しかも多分、遺跡っていう建物の中だけじゃなくて、渓谷全体に影響が出てるんだよな。それって、何と同化してるんだと思う?」
「確かに、そうじゃな……」
「あと、魔力の多いベニシアを追い出すような何かだよな?」
「ふむ……」
「はーい!」
「おお、はい、ライラさん何ですか?」
「もしかして、精霊じゃないかな?」
「精霊と同化してるってことか?」
「うん、えっとね、精霊って色々いて、たまに我の強い精霊もいるって、父さんが言ってたことがあるよ」
「我の強い精霊……」
「だから、そういう精霊が遺跡の核と同化したら……なんかね、精霊同士だと相性が悪いタイプもいるらしくって。火の精霊は水の精霊が苦手だったりするし」
「なるほど……つまり?」
「ベニシアさんの眼には精霊が宿ってるんでしょ?それがたまたま相性が悪いタイプの精霊で、取り込もうとしたけどペッて出したとか……」
「そうか、ベニシア、その精霊眼に宿っている精霊のタイプってわかってるのか?」
「なるほどのう……ワシの眼には、珍しい光の精霊が宿っていると言われたのう。ワシは自分ではわからんのじゃが、そういうものがわかる神官が見てくれたことがあってな。光の精霊でなければ、視力は戻らなかっただろうと言われたが……」
「光の精霊か、たしかに珍しいな。じゃあ、もしかすると闇の精霊が核と同化しているのかもしれないな……」
「おお、そう言われれば、陽の光の届かない影に入った途端、霧に包まれたと思ったが、もしかするとあれは闇そのものだったのかもしれん」
ふむ。
もしも、この渓谷の遺跡の核が闇の精霊と同化していたとすると、ベニシアさんがもう一度入っても、またぺっと吐き出されるのかもしれないな。
「他のメンバーは今どうなっているんだろうな。特に竜のシャーリーなんて、魔法抵抗高そうだし、竜だから飛んで逃げたりも出来るのに」
「うーん、竜は精霊の力には弱いから」
「そうなのか?!」
「もちろん、小さい精霊の力なんかはなんともないんだけど。もし強い闇の精霊だとすると、眠らされたりしちゃうかも。
母さんは体色も黒に近い紺色で、割と闇属性っていうか……実は私の方がもっとそうなんだけど。同じような力なんだよね、闇の精霊と。だけど精霊は形を持たない分、もっと力の根源に近くて、私たちは巻き込まれやすいの」
「じゃあ、ライラも危ないってことか」
「うん、そうかもしれない」
危なかった、迂闊に踏み入らなくてよかった。
しかし、どうしようか。




