姉と弟の再会、それから
「リ、リックウウゥゥゥゥー!うあああぁぁぁあー!リックーー!!」
「お、お姉ちゃん、ぐっ、いたいいたい、おねえちゃ、くるし……」
「あっ、ごめ、ごめんねえ、リック、リックウウゥゥゥゥー!!」
「な、泣かないでよお姉ちゃん、うう、うああああーん!」
冒険者ギルドの奥の部屋で、ヴィヴィアンと待ち合わせて、リックと引き合わせた。
2人とも大号泣だ。
「……とりあえず、良かったな」
「そうだねえ〜」
俺とライラ、ギルドマスターとその秘書さんが見守る中の感動の再会だ。
興奮したヴィヴィアンにきつく抱きしめられたリック少年が若干苦しそうだが。
「ルカ様、リックは結局どこにいたんですか?やはり王弟殿下が……?」
ギルドマスターから質問される。
まぁ、気になるよな。張本人であるリック少年や、姉であるヴィヴィアンには説明しなければならないだろうし。
……しかし。
「悪いんだけど、まだ王弟が主犯だという証拠はない」
……んだよなぁ。
「王弟の指示で遺跡の調査が行われていたのは確かだ。それに、高い魔力を持った人員が募集されて調査に当たっていたことも。ただ、遺跡の調査や、そのために人を雇うこと自体は別に悪いことじゃない」
自分の領地にある遺跡を調査するのは、まぁ普通のこととも言える。
「リックを攫って、遺跡に送り込んだやつが誰なのか、まだわかっていない。リック曰く、仮面の男が遺跡に送り込んだようだけど、そいつのことはリック以外誰も見ていない」
リックを救出した後、王弟の領地にある調査本部にも話をして、さらにもう一度、話を聞かせてくれたコナーさんや、他の調査員にも話を聞こうと思ったが、体調を崩しているということで、すぐには面会できなかった。
そっちも気になるが、リック少年を放っておくわけにもいかないし、一旦調査本部の担当者に任せて、俺たちだけ戻ってきたのだ。
疲れて寝落ちしたリック少年を抱えてサクッと転移して戻ってきた。リック少年には竜の魔法だと説明してある。便利だな竜の魔法。
「もう少し取り調べが進んだら、正確なことがわかるかもしれないが、今は王弟の仕業だとは言い切れない。犯人を懲らしめてやれなくてごめんな」
「あ、あのっ、ぼく、助けてもらっただけでも、ありがとうございます!」
「うう、ぐす、そうね、生きて帰ってきてくれたんだもん、ううーリックー良かったー本当に良かったよおおーもう怖かったんだよー死んじゃったかと思って、もう、ううう……」
ヴィヴィアンが復活するまでにはまだしばらくかかりそうだな。
「リックは、遺跡に囚われていたんですか?」
「うーん、なんていうか……遺跡の魔力供給源として捕まっていたのかもしれない」
ギルドマスターの質問に答えながら、考える。
遺跡の魔力供給源として、魔力の高いリックが捕まっている……そう、思っていたんだけどな。
リックが、あの不思議な本や、ましてや遺跡ブロックなんてものを操っていると知るまでは。
リック少年と同化していた遺跡の核が無くなった後、軽く遺跡を調べてみた。
その結果、トラップなどは全く機能しておらず、遺跡は単なる古い建築物になっていた。
確かに、あの遺跡の核という生きた魔石が、遺跡のトラップ、魔力を吸い上げたりする仕掛けを動かしていたんだろう。仕掛けそのものの働きは、描かれた魔法陣が稼働していたんだろう。
だけど、もしかすると。
あの遺跡ブロックや、不思議な本……
それを受け入れ使うことのできる人物である必要があったんじゃないか?
だから、リック少年でなければならなかったのかもしれない……魔力の高いコナーさんなどの大人の調査員ではなく。魔力の高い子供である必要があったんじゃないか?
この世界には、魔法使いや魔法陣はあるが、魔法は誰でも使えるものではない。魔力の高さの他にも、魔法を学んだ結果、使えるようになるのだ。
だが、大なり小なり、生活に必要な魔法くらいは、大人なら学んで覚える。
だが、まだ5歳くらいの子供には、魔法の知識はない。魔法を使う練習を始めるのは、地域の学校に行きはじめる7〜8歳らしい。
まだはっきり言葉に出来ないが、何か、何かがある感じがする。
俺のこの謎の、デバッグモードまで使える力と。
少し似たところがあるように感じる、遺跡の本と遺跡ブロック。
「ルカ様?」
「ああ、少し考えてて……とにかくまだ、調査中なんだ。遺跡も、もしかすると調査のためならリックをそのままにして色々試した方が良かったのかもしれないけど……嫌だよな?」
「ええっ、いやだよ!……です!」
「うん。まぁあのまま放っておいて、魔力不足で干からびるのも、魔力供給し続けてライラが動けなくなったりするのも困るしなぁ……」
「ひ、ひからびるっ?!リックが?!ダメダメダメダメー、駄目だから!それもう口に出すのも駄目だからヤメテね!」
ヴィヴィアンがものすごい勢いで言いつのる。
「わかってる、つまり、リックの人命第一に救出したから、まだいろいろ調査が必要なんだ。一応、帰って来る前にリックに回復魔法もかけておいたし、本人は元気だと言っているけど……」
「うん、ぼくは元気だよ、とくに変な感じがするところもないし」
「ほんと、良かったよぅ……グス……」
再びリックをぎゅうぎゅう抱きしめるヴィヴィアン。やや苦しそうながらも姉の背をポンポンたたいて慰めるリック。
「まぁ、ほんとリックが無事で良かっ……ぐふっ?!」
なぜかライラが後ろからドーンとぶつかってきた。と思ったらぎゅうぎゅう抱きついてくる。
「び、びっくりした、なんだライラ?」
「なんとなく。ルカ好き!」
ぎゅう。
「そ、そっか、ありがとう……」
「ヴィヴィアンさんとリックくんは仕方ないとして、なんですかねあのルカ殿下とライラさんのイチャつきは……」
「どうやらアレが彼らの普通らしいぞ」
「絶世の美少女とイケメン王子……嫉妬する気力すら削られていくこの感じ……」
「こんど合コンでもセッティングするか?」
「マスターの連れてくるのはみんな冒険者じゃないですか、もう知り合いですよ……」
ギルドマスターと秘書さんのボソボソ話す声が聞こえてくる。い、いやべつにイチャついているわけでは……
「えーと、ヴィヴィアン、リック。犯人はわからないけど、王弟の可能性が高いし、何にしろここまで関わったわけだし、何かこの件で困ったことがあったら連絡してくれ。リックは仮面の男についてや犯人について、遺跡について、また話を聞かせてもらいたい。それに何か思い出したら連絡してくれ。俺は移動していることも多いから、王城のルカ宛でもいいけど、ギルドマスターに連絡を頼んでもいい……かな?」
「ええ、構いませんよ。元々、冒険者同士の連絡も業務として行っていますからね」
「というわけだから、またよろしくな」
「うん!」
あとは、何か慰謝料がわりというか、生活の足しになる何かをあげたい気がするんだが。
リック少年とヴィヴィアンが奪われた時間の代わりにはならないかもしれないが。
しかしデバッグモードで出したアイテムやお金を渡して、もしも時間経過で消えたりしたらまずいしな……だからと言って俺の私物なんて無いし、いや城にはあるけどあれは王子としての私物というか、国民の税金で必要だから買ってるんだろうし、勝手にあげてしまうのは違う気がするな……
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「いや、リックもヴィヴィアンも、大変だっただろ?なにか助けになるものをあげられたらいいんだけど、良いものが思いつかなくて……」
「ハーイ!ハイハイ!ワタシに良い考えがあります!ワタシがルカ君とライラちゃんのことを記事にすることを許可してっ!そうしたらバカ売れ間違いなしだし、あっ、検閲しても良いからぁ!」
「き、記事……」
どこから出したのかメモとペンを出しているヴィヴィアン。
「情報屋はリックの情報を得るためじゃなかったのか?」
「もちろんそれがメインだけど、元々ワタシのお仕事でもあるのよ!」
「そ、そうかー……」
「ねえねえ、良いでしょ?ね!」
……まぁ、隠してるわけじゃないし……いいか?いいのか?
「……王城の広報担当者の、検閲を通ったら、いい……かな……」
「ありがとうルカ君!いやっほー!」
だめだ、許可した途端に不安になってきた……
「早まったかな……」
「あのね、ルカのこと書くのはいいけど、あんまり素敵に書き過ぎると人気者になっちゃうから、ほどほどにしてね!」
「うんうん、そーかぁ心配だよね〜イケメン王子様な上に強いしねえ、こりゃモテモテになっちゃうよね〜」
「なんでニヤニヤしてんだよ……」
「だーいじょうぶよぉ、ライラちゃんも見たことないくらい超絶美少女だしぃ、むしろルカ君が心配しなきゃな所だよね〜!あっ任せて、ワタシ絵も超うまいから!そうだ今描いとこう、うわー美形って描いてて楽しいいぃ」
ヴィヴィアンが怒涛のごとく喋りながらガリガリペンを動かしている。不安しかないな。
「……王城の広報担当者が上手くやってくれますように……」
「王城で働いてる人たち、みんなルカのこと好きみたいだし、きっと大丈夫だよ!」
この時の俺は知らない。
この後、俺が王都を離れている間に、俺を神格化している広報担当とヴィヴィアンの悪ノリが相乗効果を発揮し、もう神なのか?という偶像化された存在として、ソトリア王都周辺に王子ルカとそのパートナー、ライラの名が広まってしまう事を。