冒険者ギルドで、鍛錬してみた
冒険者ギルドで絡んできた6人のうち、残り3人。
「……素手で剣が壊れる訳あるかぁ!お前何か魔法使っただろ!」
「そ、そうだ!自分で魔法使わないとか言って油断させてたのか!」
「いや……本当に魔法は使ってないけど……補助系の魔法も使ってないんだけど……」
「ひきょうな奴め!それならこっちも本気でやるからな!」
うわぁ話聞いてくれないな……
残る3人のうち一人が呪文を唱えた。
あ、どうやら魔法剣を使うらしい。
攻撃魔法を使うほどの魔力がなくても、魔剣の力を借りて発動できるアイテムだな。
炎をまとう剣をふりかざし、俺に向かってくる。
俺は攻撃を回避しようかと思い、ふと思いついてやめてみた。
城で手合わせしても、俺に本気でかかってくるやついないんだよな。自国の王太子、しかも神竜の化身とか言われ始めている俺に全力で向かってこいってのは無茶な話だけれども。ヴィクターやアレンが稽古に付き合ってはくれるが、あくまでも稽古って感じだしな。ライラとは魔法の練習で打ち合ったりもしたが、剣をまともに受けたことはない。
つまり、俺は実戦経験が圧倒的に足りない。
それはこれから増やしていくしかないけれども……つまり、あまり他人の全力の攻撃を受けたことがない。
ちょっとした興味が湧いてきた。
つまり……この攻撃、受けてみたらどうなるんだろうか?
俺のステータスはカンストしているが、炎の剣に斬りかかられたら怪我するんだろうか?
ここは冒険者ギルドの鍛錬場だし、俺は回復魔法を使えるし、最近回復魔法をかなり鍛えているライラもいるし、試してみるにはいいかも。
と、ふと思って……
無防備に、攻撃を受けてみた。
全く防御せずに攻撃受けるって結構こわいな!
なんてことを思い、しかし何が起きるかを見守るためにしっかり目を開いたまま、炎の剣が肩に入ったーー当たったーーん?
攻撃してきた冒険者が、全く避けずに攻撃を受けて、微動だにしない俺を変な顔で見てーーそれから自分の剣が俺に触れた肩から全く動かないことに驚愕して離れた。
「な、なんだお前!なんだその硬さ!異常に硬くて剣が入らねえ!しかも炎も効いてない……?」
なるほど、硬いんだ。
妙に他人事のような感想を抱いてしまった。
俺の体感的には、攻撃されたとは感じなかったーー肩をトンと叩かれたかな?という感じだ。
炎についても、ちょっと暖かいかな?という程度だ。カイロをあてたみたいな……あ、でも服は焦げてるな。
自分のステータスを開いて体力を確認してみるが、全く減っていない。
「なるほど、ありがとう」
面白い実験だった。
「なっ、何がだよ、何言ってやがる!お前、その硬さは魔法か?」
「うん、まぁ、そういう事でもいいかな」
「はぁ?!おま……」
「その剣はちょっとレアアイテムっぽいから、剣は壊さないでおく」
「ちょっ、な……」
サッと近づいて、出来るだけ優しく、ソッと肩を押した。
「っぎゃああぁぁぁー!」
なんだか叫んで壁まで飛んで行ったが、剣は無事だし、回復魔法をかければ肩も大丈夫だろう。
残り2人をちらりと見る。
「まて!わかった!認める!お前は強い、わかりました!」
「俺も認める!お前が強いことはわかりました!もう試合終了で良いから!俺たちの負けってことで良いよな、な?!」
「ああ、終わりだ終わり!」
残り2人は棄権するらしい。
「じゃあ、もう俺たちに絡んでくるなよ」
「わかった!もう絶対に関わらない、いや絡まない!」
「コイツらにも言っとくから!」
「じゃあ、よろしく。この倒れてる彼らは任せて良いかな?」
「あ、ああ、こいつらの仲間に引き渡しとく」
「じゃあ、よろしく。また俺たちの邪魔したら……次は容赦しないから」
「(今の容赦してたか?)」
「(俺には全く容赦なく見えたけど、あれで手加減してたんだったら、あいつマジで何なんだよ?)」
「とりあえず終わったかな。これでもう絡まれないと良いんだけど」
「ルカ、お疲れ様〜!」
ライラが駆け寄ってきて抱きついてくるり
それを受け止めると、横から甲高い声がキンキンしてきた。
「うわぁ圧勝〜!すごい!さっきの技はなあに、なんで炎の魔法剣を受けて無傷なのぉ?!それに目にも留まらぬ速さで移動して、剣を素手で砕いて、もう絶対に普通の魔法使いじゃないよねえ?本当に魔法なの?それにやっぱり、ライラちゃんとは恋人同士なのかな?」
質問しながらも何かをガリガリメモしている。
何なんだほんと、この人。
「行こう、ライラ」
「うん、じゃあさよなら」
「あっ待って、まだ質問に答えてもらってないわ!ワタシ絶対答えてもらえるまでついて行くから!まずは……あらっ?」
しつこいので、外につながる通路に出た時にライラの手を引いて一緒に屋根の上に飛び移った。
「用は済んだし、城に戻るか、久しぶりに魔の森にでも行って遊ぼうか?」
「そーだね、まだはやいし……遊んでから帰ろう!」
そうして、俺はすっかり冒険者ギルドでの用事を片付け、ついでに厄介な相手から逃げた気でいたのだが。
翌日、約束の日時にギルドを訪ねて、人と共にいる竜の噂を知る人物として、ヴィヴィアンと再会したのだった。